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初心者妖精の願い  作者: ゆきのいつき
3/21

---3---

今日はここまでです。

「……ううん……」


「り……な……ちゃん……」


「…………」


「むにゅ……」



 ふぁ……?


 な、なんだろ……、なんだかとってもふわふわした気分……。


 とっても気持ちいい。


 って僕、いつの間に寝ちゃってたんだろ?


 あれ?


 っていうか、僕さっきまで理菜の病院に向けて歩いてて、それで……、


 横断歩道を渡って……、



 ぼ、ぼく、く、車にはねられて!


 そうだ、僕、車にはねられて、し、死んじゃったんじゃ?


 ぼーっとしてた頭がだんだんはっきりしてきて、あの時の、あの車にはねられた時の感触がじわじわと僕の頭の中でよみがえってきた。

 僕は思わず自分の体を抱え、身をくるめる。


「あ、あれ?」


 口からこぼれたその言葉。

 

 なに? この違和感――。


 だんだん感覚がはっきりしてきてどんどんなんとも言えない違和感が、僕を包んで来る。


 抱きしめた体の感触。耳に入って来た声。そしてこの体全体で感じるなんとも言えない心地の良い感覚。すべてがさっきまで自分が感じていたモノとは違ってるように思える。


「て、天国とか?」


 あははっ。

 なんか自分で言っててバカみたいだ。そんなのあるわけないよね。落ち着こう、落ち着いて状況を見てみよう、うん。


 僕はまあるくくるまるようにしていた体をうーんと伸ばし、自分の体を見下ろした。

 は、はだかだった。


 な、なんで僕はだかなの?


 はわっ! っていうか!


 なに? ぼ、僕の体。なんか、お、お、女の子みたいになってる!

 小ぶりながらも、む、胸も出てるし、恐る恐る股間に手を当ててみたら、な、何にもついてないし!

 さっきの声もやたら高いトーンだったし。抱きしめた時の感触もすっごく柔らかかったし。

 そんでもって、その、さっきから気になってるんだけど……、頭からなんかやたら長い髪が生えてるみたいで、俯くとさらさらと垂れてきて頬に当たってくる。しかもその髪の色がなんとも言えない色で……、銀色と金色の間みたいな色をしててキラキラしてて……なんかとってもキレイ。



 な、なんなのこれ!


 僕、いったいぜんたいどうしちゃったの?


「もーわけわかんない~!」


 つい大きな声を出してわめいちゃった僕。

 でも、そんなのはまだ序の口だった。

 

 自分の変わり果てた姿と恥ずかしいかっこに一通り驚いたあと、はだかでいる恥ずかしさに改めて気付き、顔を赤くしながらも自然内股になり、手は大事なところを隠すようにあてがってしまった。


 で、そうなると当然気になるのは周囲の状況なわけで。

 こんなカッコ、人に見られたらヘンタイかと思われちゃう。


「こ、ここどこ?」


 僕は今更ながら自分の居場所に疑問を持って、辺りをキョロキョロと見回す。

 そしてふと足元を見る。


「ふぇ?」


 な、なんにもない?


「う、浮いて……る?」


 そう足元にはなんにもなかった。


 ううん、ないっていうか、ちょっと離れたところにあるにはあった。す、水面だけど。


 「う、うっそー!」


 ぼ、僕がいたのはおっきな泉のようなところ。その水面上に浮かんでた!

 水面には淡い緑色っぽい光が映り込んでてまるで僕自身が発光してるかのようにも見える。


「な、なにそれ! それになんで? なんで僕浮いてるの? なんで落ちないの~?」


 もう僕は次から次へと湧き起こる訳の分からない事態にパニクって意味もなくあたふたしてしまう。



 そんなときだった。



 僕の目の前に小さな優しい光がふたつ、ふわっと現れた。その光の色はなんか僕自身が出してる光? と似てる気がする。

 そしてその光は、まるで意思があるかのように明滅したり大きさを変えながら僕の周りをゆっくりと、くるくると回り出した。


 それはどこか楽しそうに見え……、不思議と怖いとか思わなかった。

 それどころか気持ちが落ち着いてきて、すっごく穏やかな気分にさえなってきた。


「ねぇ……。君たちは何? ここどこ? 僕はどうなっちゃったの?」


 僕はなぜだか、そう問いかけてしまった。だたの光の塊になんでそんなこと聞いたのか僕にもわかんない。でもごく自然にその言葉が出てしまった。


「ほぇ?」


 頭の中に何かが直接響いてきた。

 

「せ、背中? 僕の?」


 僕はなぜだか光の塊と意思が通じるみたいで、その子が背中を見ろって言ったような気がした。

 素直に見た。


 はうっ、見れない。そりゃそうか。

 だから手で探ってみた。


「へっ?」


 なんかある。薄っぺらくて、つるっとしてて、筋っぽいのがあって……、でもどこかやわらかい。


「は、ね?」


「はねぇ~?」



 僕は驚いてしまった。

 ぼ、僕の背中、羽みたいなものが生えてる~!


 そうと思って、改めて背中を右へ左へと見返して見れば、ほとんど透明に近くて淡く発光してる四枚の羽が伸びてるのが確認出来てしまった。

 羽ってつい言ったけど、鳥の羽というよりは虫の翅に近い感じ? とはいってもどんな虫かって言われると思い当たるものもないんだけど……。細長くちょっといびつな輪郭をした翅で、僕の体とおんなじくらいの大きさっていうか、長さがあるように見える。


 なんだかとっても幻想的で、これが自分から生えてるってのがなんか不思議な感じがする。


 その羽は時折ふるふると震えてて、僕ってこれのおかげで今こうして浮いていられるのかな? 普通に考えると羽ばたきもしないで浮いてるなんてありえないはずだけど……。無意識に動いてる翅を見てそんなことを考えたり……。

 でも、そんなの今更って気もする。こんな体になってること自体がそもそもありえないんだもん……。


 ほんと、一体僕どうなっちゃったんだろ?



 それから僕はそんな疑問を少しでも解決したくって、二つの光の塊と色々意思の疎通を試みてみた。 僕自身それにだんだん慣れて来て思った以上に色々なやり取りをすることが出来ちゃった。


 自分のこともだいぶわかってきた。



 ぼ、僕はどうやら、その……、



 よ、妖精……っていうの?



 そ、そんな感じのに、



 生まれ変わってしまったらしい――。


読んでいただきありがとうございます!

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