---Re:7---
「それじゃ理菜、ママちょっと下の売店で飲み物買ってくるから……、リィンちゃんと大人しく待っててね」
ママがりなちゃんにちょっとイタズラっぽい表情を浮かべながらそう言うと、ベット脇のイスから立ち上がり、お部屋から出ていこうとしてる。
「もうママったら、すぐそうやって子供扱いして~! 私はいつも大人しくしてるでしょ? ちゃんと待ってるからつぶつぶ入りのオレンジジュース、忘れないでよねー」
りなちゃんったらほっぺをぷっくりふくらませてママに文句をいいつつも、ちゃっかり自分の欲しいものアピールしてる。
くすっ、そんなとこが子供だってのにさ? かわいいな。
ママが出ていくのを見送るりなちゃんとぼく。
もちろんぼくのことはママは未だに妖精のお人形だと思ってる。
「あーあ、早く満月の夜にならないかなー?
そしたらさ、そしたらさ、リィンちゃんと一緒に外に出てさ、いっぱい遊べるのに。
それに他にもいっぱいやりたいこともあるのになー」
ぼくからユニコーン、オーサーの角のお話聞いてからのりなちゃんは毎日、ことあるごとにそうつぶやくようになった。
ぼくの言ったこと信じてくれたのはうれしいんだけど……、毎日毎日おなじこと聞かされると……、ちょっとうざい。
でも、そんなりなちゃんも……、かわいいんだけどね、えへへ。
「もうりなちゃんったら、毎日おなじことばっか言ってさー。
いよいよ明日がその満月の夜なんだから、もうちょっとがまんしなよ。ずっと入院生活続けてたんだし……それに比べたらあっという間でしょー?」
満月の夜まであと一日。そう、たった一日でとうとうりなちゃんの病気を治すことができる。
ぼくはそう思うともう……、ほんとはりなちゃん以上にうれしくってたまらないんだけど……。そんなそぶりは絶対みせない。元お兄ちゃんとしては、くーるでかっこいいとこ見せなきゃダメだからね。
うん、冷静にならなきゃね、冷静に。
「むぅ、リィンちゃんがつめたい。
だって、だって、明日で私、元気になれるんでしょ? こうやってずっとベッドで寝て暮らさなくてもよくなるんでしょー?
もうほんと、待ち遠しくって待ち遠しくって……、落ち着いてなんて……いられない、よぉ……」
元気だったはずのりなちゃんが急に肩をおとしてしょんぼりしてしまった。
うう……、やっぱ、心配なのかな? うまくいくって信じられない……のかな。
ぼくはしょんぼりしてうなだれてしまったりなちゃんをなぐさめようと、ママがいない今ならって思い、ふわっと飛び上がってりなちゃんのお顔をなでようとした。そしたら――、
「わっ!」
「きゃい~っ!」
りなちゃんが急に顔をあげ、バンザイしながらぼくにむかっておっきな声を出した。
あまりにいきなりなできごとに驚いちゃったぼく。なんともなさけない声を出しついでに全身の毛やはねまで逆立った気がした。
「り、りな、ちゃーん?」
まだおぞ気がする体を両手で抱くようにしながらも、ちょっとふるえた声で、ふらふら飛びながら言いよるぼく。ほんとなんてことするのさ、この妹さんは。
「あははっ、その、ごめんなさーい。まさかそんなに驚くとは思わなくって。
ほんとごめーん、ゆるしてー?」
「ったくもう、ひとが心配してるのをそんなふうにするのなんて、ダメなんだからね? わかってる? もー」
りなちゃんのほっぺを小さな手でぽかぽかたたくぼく。りなちゃんはそれを生暖かい目で見て来て……、そしてまた笑った。
むぅ、ぜんぜん効いてない……。つか、なんかばかにされてる気がする。
「もーーーー! りなちゃんったらー、ぜんぜん反省してなーい」
ぼくはぽかぽかアタックから、全身タックルに切りかえた。
「わー、ちょっとリィンちゃん、わかった、わかったよー、反省した、反省しましたー」
りなちゃんのおでこに抱き付くようにタックルしたぼくを両手であっさり捕まえながら、りなちゃんはそれでもようやく反省してくれたのか、その笑いをおさめて、ぼくをそのまま手のひらにのせてくれた。
「ほんとに? ほんとのほんとに反省した?」
ぼくは若葉色した目を半目にし、そう問いただした。ちょっと笑い出しそうでこらえるのに苦労した。
「もっちろん! ふかーく反省した。
きっとどの海よりも深ーく反省したよ? だから、もうゆるし……、はぅ――」
え?
「く、くる……し……」
り、りな……、りな……ちゃん?
「いた、いたい。り、りぃ……ん、ちゃん……」
り、りなちゃん! こ、これって、発作? う、うそ。
急に苦しみだしたりなちゃん。
むねをおさえるようにしたかと思ったら、ベッドに横だおしになって、体をちぢめ……まるくなって痛みに耐えてる。
最初赤かった顔が、こんどはみるみる青白くなってく、りなちゃん。
な、なんとかしなきゃ。
そ、そうだ、看護師さん、看護師さん呼ばなきゃ!
ぼくはベッドの枕元近くに置いてある呼び出しボタンに飛びついた。
そしてボタンを思いっきり押した。おし、た。押したのに!
「も、もう! なにさ、この重いボタン。早く看護師さん呼ばなきゃいけないのに、りなちゃんが、りなちゃんが苦しんでるのに!」
ボタンが重すぎて押せなかった……。
「ああん、もう、今は落ち込んでるひまないっ!
そ、そうだ、ママ。ママがきっと近くまで来てるはず。ジュース買いに行ってからけっこうたつもん。呼びに行こう」
そう思い立ったのが早いか、飛び出したのが早いか?
それくらいすばやく、ぼくはりなちゃんのベッドから飛び立った。ドアは閉まってるから窓からでるしかない。カラスがこわいけど……そんなことかまってられない!
ぼくは病室から今まで出したこともないような速さで飛び出し、ママのところへと心に念じながら飛ぶ。テルとメイにはもしものときの連絡役に残ってもらった。
力のセーブなんてしてらんないっ!
ぼくの体は今やまばゆいばかりに光りまくってる。
人の目についちゃったって、かもうもんか!
りなちゃん、待っててね、ママを連れてすぐ戻るから。
ぼくは自分とママのつながりを信じ……、感覚のおもむくままに任せてひたすら飛んだ。
途中、何人ものおどろく人たちの間をすり抜け、ママに向かって飛び続けた。
追っかけてくる子供までいたけど、無視。
そして、ついに見つけた。
ママはエレベーターに乗ろうとしてて、そのドアは今にも閉まりそう。
ぼくはそこに向かって目一杯飛ばす。もうぼく限界に近い……。
「ま、まってー!」
閉まるドア。
そこをすり抜ける淡い緑色に輝く一筋の光。
かんいっぱつだった。
「はー」
飛び込みに成功したぼく。思わずほっとしてしまう……。
って安心してちゃだめ、早くママに――、
そう思ってエレベーターの中に乗り込んだはずのママのほうに目を向ける。
「な、!!!」
そこにはぼくを見てぼう然とした表情、言葉にならない言葉を発しながらたたずんでるママが居た。
「あは、あはは……」
ぼくはとりあえず苦笑いするしかなかった。
リィン、余裕ゼロ。驚きのあまり周りが全然見えてませんです。
読んでいただきありがとうございます。




