---Re:5---
念願かなって、ぼくはようやくりなちゃんの元に帰ってこれた。
りなちゃんの病室に飛び込んでからもう一週間が過ぎた。
ぼくはりなちゃんといっしょに病室で過ごしてる。もちろんまわりの人にばれないようこっそりとだけど。とは言ってもぼくの存在自体はみんなすでに知ってる。
もちろんそれは"おにんぎょーさん"としてな訳だけど――。
「理菜、とっても可愛らしいお人形さんね? でもそんな人形あったかしら?」
ママがりなちゃんのお世話しに来た時、ソッコウでぼくは見つかっちゃって……看護師さんのときみたいにごまかそうと、人形のふりをした。ママと会うのも久しぶりで……ぼくは内心うれしさで泣けてきちゃいそう。でも今はがまん、がまんなの。
これ、案外たいへんだった。
ママったらぼくの定位置、ベッドの上で体起こしてるりなちゃんの膝の上――に居たぼくを目ざとく見つけて、むぞうさに手に取ったかと思うと、笑顔でほっぺツンツンしたり、うでや足をフリフリしたり伸ばしたり。ワンピースのすそをピラってまくられた時は、どうしようかと思っちゃった。
「ま、ママ。そのあんまり乱暴に扱っちゃだめなんだからね。リィンちゃん壊れちゃう」
りなちゃんが慌ててフォローしてくれた。ぼくは、はずかしくってお顔を真っ赤にしながらも、なんとか動かないようにしてるのに必死。
「そう、リィンちゃんって名前付けたのね……。ど、どなたのお見舞い品かしら? ほんと可愛らしいけど、随分リアルなお人形さんね、まるで生きてるみたい。
でも……、お洋服がちょっと寂しいわね。良かったらママがお人形さん用のお衣裳買って来てあげましょうか? 昔はママもお人形さんで遊んだから懐かしいわ」
ママがぼくの名前を聞いて、一瞬まゆを寄せたような気がした。
きっとぼくのこと気にしたんだ……りんって……生前のぼくの名前に似てるから。まぁ元々そこから来てるんだから当たり前だけど……。
そ、それはともかく、ママったらもしかしてぼくのパンツ見てお洋服買う……なんて言ったんじゃないよね?
ふーんだ、ひもでくくったパンツで悪かったですー。
どうせぼくがつくり出したものなんだからそんな大したものじゃないですよーだ、べー。
でも精霊さんの力こめて作った品なんだからね。きしょう価値ばっちりなんだから、たぶん。
「ほんと? それじゃフワフワふりふりの可愛らしいのとか、お姫様みたいなのお願いー」
はうっ、りなったら何言ってるの? ああ、なにそんないたずらっぽい表情うかべてぼくのこと見てるの?
その後しばらくぼくに着せるお洋服のことでりなちゃんとママは大いにもりあがってた。
ふん、もういいよ。好きにして。
そんな感じでぼくのことは、ママや周囲の人たちにはリアルな妖精風の人形として知られることとなった。
正直、人形のふりするのめんどくさい。
りなちゃんには、「私のときみたいにママやパパにほんとのこと言えないの?」って不思議そうな顔で言われた。
「出来るけど……、今はむり。あれ力すっごく使うから……」
そう答えたぼくにりなちゃんは少し残念そうな表情うかべてたけど、
「そうなんだ……わかった。今はお人形さんってことで誤魔化しとこう。……でも、いつかは絶対ママには教えようね? 絶対だよ」
顔色が悪いながらも、そう言って笑みを浮かべるりなちゃん。かわいい!
だからよけい、ママへの正体ばらしはあとまわしなんだ。
ずっと入院してるりなちゃん。
心臓の病気で、小三のときからずっと病院ぐらし。
ぼくがここに来てからだって時々胸を押さえて苦しそうにしてて、そのたびにお薬を飲まされたり、看護師さんがなにか注射したりしてる。
かわいそうなりなちゃん。
だから使う。
幻獣ユニコーン、オーサーの角。
こっちに戻ってくるとき、せんべつだって言ってくれた、何にでも効くお薬になるんだっていう……。
それを使うには力が必要。
だから次の満月を待たなきゃいけない。
記憶を人に見せるにも、オーサーの角をここで実体化させるのにも……精霊の力が体に満ちる、満月の夜じゃなきゃ無理。
残念だけど、今のぼくの力じゃ自分の体を維持するだけでいっぱいいっぱい。
だからママとのことは後まわし。
さみしいけど……りなちゃんの体の方がさき――。
「リィンちゃん? ……どうしたの?」
みょうに近くで聞こえるその声に顔を上げると、すぐそばにりなちゃんのお顔。
「みゃー!」
文字通り飛び上がっておどろいちゃうぼく。
「も、もう、りなちゃん、おどかさないでよー!」
りなちゃんの顔を前に飛びながら思わず文句言うけど、
「だって、さっきから散々話しかけてるのにリィンちゃん難しいお顔しちゃってさ、全然私のお話聞いてないんだもん。どーせ、私のお話なんかつまんないですよーだ」
ほっぺをぷっくりさせ、唇をつんととがらせてそう文句言ってくるりなちゃん。
かわいすぎー!
「あ、その、ごめん。ちょっと考えごとしちゃってた。
ムシしたわけじゃないよー、だからそんなに怒らないでー」
ぼくはパタパタ飛んで小さな手でりなちゃんのふくらんだほっぺをなでた。
とたんにっこりとほほ笑む、りなちゃん。
「あはっ、うそだよー。それくらいのことで怒んないよ。慌ててるリィンちゃんも、かわいいー」
そう言いながら飛んでるぼくの足元に、手のひらを差し伸べてくる。
ぼくはその上に足をおろし、更には内股でぺたんとすわりこむ。この体になってからは自然とそんな座り方になっちゃった。男の子の体だったらこんなときはあぐらかいてたもんだけど……、ってそんなの今更言ってもしかたないや。
ちなみにぼくの大きさはここに飛び込んだばっかのときより更に小さくなって、せいぜい二十センチを少し越えるくらいってとこ。これくらいのサイズまで小っちゃくならないと満足に飛ぶこともできない。
ほんとこの世界は妖精にきびしい。
「ふふっ、リィンちゃん、まじ天使! かわいすぎるよー。
あ、でも天使じゃなくて妖精かー。……うん、ま、どっちでもいいよね」
そう言いながらぼくを自分のほっぺに寄せ、いつものようにスリスリしだするりなちゃん。
「はわっ、ちょ、りなちゃん。や、やさしく、やさしくねー?」
そんなりなちゃんの行動に照れ隠しもかね、注意しながらポカポカと両手でそのほっぺをたたく。もちろん本気じゃない。これも(もと)兄妹のスキンシップだよ、うん。
それをなぜか喜び、さらにスリスリ度がますりなちゃん。
そんなりなちゃんを見て思った。
ぜったい元気にしてみせるって。
だからオーサー。
力貸してね。
そう思いながら、ぼくはりなちゃんとのじゃれ合いに気合を入れなおしていどんだ!
読んでいただきありがとうございます。




