最終話:全財産を賭けた一撃と、ゼロからの再出発
**ドゴォォォォォォン!!**
聖都の上空で、黄金の光と隕石が衝突した。
世界が白く染まる。
私の50億ゴールドが、光となって消えていく。
やがて、光が収まると、空には塵一つ残っていなかった。
隕石は消滅したのだ。
世界は救われた。
「……終わったわね」
私はその場にへたり込んだ。
手元の端末を確認する。
口座残高:0ゴールド。
見事なまでのスッカラカンだ。
「あーあ。無一文になっちゃった」
「お疲れ様です、お嬢様」
クラウスがハンカチを差し出してくれる。
いつもの冷静な顔だ。
「……あんた、悔しくないの? 給料も払えないわよ」
「構いませんよ。私には、まだ『資産』が残っていますから」
クラウスは懐から、古びた羊皮紙を取り出した。
それは、十年前に彼を雇った時の「雇用契約書」だ。
「ご覧ください。第108条」
クラウスが指差した箇所を、私は目で追った。
『第108条:乙は、甲に対し、生涯に一度だけ「婚姻の申し込み」を行う権利を有する。なお、甲は正当な理由なくこれを拒否することはできない』
「……お嬢様。この条文、よく見ると……」
クラウスが目を細める。
契約書の各行の頭文字。それを繋げると、ある言葉が浮かび上がる。
**『私・を・攫・っ・て』**
「……っ!?」
私は顔から火が出るかと思った。
忘れていたわけじゃない。
あの日、家出する直前に、私が悪戯心で仕込んだ隠しメッセージだ。
「いつか私にプロポーズするくらいの気概を見せなさいよ」という、子供じみた挑発。
まさか、彼が気づいていたなんて。
「……気づくのが遅いのよ、バカ」
「申し訳ありません。難解な暗号でしたので」
クラウスは悪戯っぽく、しかし熱のこもった瞳で私を見上げた。
そして、瓦礫の中から見つけた小さな花で作った指輪を差し出した。
「権利を行使します。
金はありませんが、愛ならあります。
私と、結婚してください」
……完敗だ。
商売でも、悪巧みでも、誰にも負けたことのない私が。
一番近くにいたこの男に、最後の最後で出し抜かれるなんて。
「……ずるいわよ、あんた」
私は涙をこらえながら、左手を差し出した。
「契約なら……仕方ないわね。
謹んで、お受けいたします」
クラウスが私の指に花の指輪をはめる。
ダイヤモンドよりも、オリハルコンよりも輝いて見えた。
「契約成立です。……死ぬまで、いえ、死んでも離しませんよ」
「ええ。覚悟しなさい。
ここからが本当の戦いよ! ゼロから稼いで、また世界を買収してやるんだから!」
私たちは手を取り合い、新たな戦場(市場)へと歩き出した。
悪役令嬢と性悪執事。
二人の愛と欲望の物語は、これからも永遠に続いていく。
――タダより高いものはない。
だが、この愛だけは、どんな金貨よりも重く、価値あるものだ。
その時、瓦礫の中から通信機が鳴った。
S.G.からの祝電だ。
『おめでとう。君たちの新しい門出に乾杯。
だが忘れるな。光あるところに闇はある。
S.G.はこれから始動する。……次のゲームで会おう』
「……ふん。懲りない奴ね」
私は通信機を握り潰した。
部下になったのはフェイクだったか。あるいは、最初からこの展開を読んでいたのか。
どちらにせよ、望むところだ。
遠くの空で、赤い流れ星が流れた。
それは、新たな戦乱の予兆か、それともS.G.からの宣戦布告か。
「行くわよ、クラウス!
世界中のカモと、あの詐欺師が待っているんだから!」
(完)
***
**【最終営業報告】**
**文責:クラウス(夫)**
* **総資産:** 0ゴールド(ただし、無限の可能性あり)
* **家族構成:** 妻(強欲)、夫(私)、居候多数
* **幸福度:** 測定不能
**【クラウスの最後の一言メモ】**
10年間、このカードを切るタイミングを伺っておりました。
……最高の相場で売り抜けることができ、商売人として感無量です。




