第四十九話:パスワードは不正解、正解は現物支給
オリハルコン・ゴーレムを解体し、私たちは最深部のコントロールルームに到達した。
そこには、巨大な魔導コンピュータが鎮座していた。
モニターには、不吉なカウントダウンが表示されている。
**『システム完全再起動まで、あと300秒』**
「……止めなきゃ」
「どうやって? スイッチが見当たらないわ」
ルナが操作盤を調べるが、反応がない。
その時、空中に半透明の男の姿が浮かび上がった。
「星の代弁者」のホログラムだ。
『おめでとう、侵入者たちよ。
だが、システムは止まらない。止めるには、**「管理者パスワード」**が必要だ』
「パスワード?」
「そうだ。ヒントをやろう。
**「この世界で最も価値ある言葉」**だ』
男はニヤリと笑って消えた。
残り時間は4分。
「最も価値ある言葉……?」
ソフィアが首を傾げる。
「『愛(LOVE)』でしょうか?」
「いや、『希望(HOPE)』か?」
レオナルドが提案する。
「『力(POWER)』だろ」
賢者が即答する。
みんな、思い思いの言葉を入力するが、全てエラー。
残り2分。
「……くそっ! わからない!」
「お嬢様、どうしますか?」
クラウスが私を見る。
私は腕を組み、考えた。
このシステムを作ったのは、古代の賢者たちだ。
彼らが最も価値があると考えたもの。
それは、愛でも希望でもない。もっと普遍的で、もっと残酷な力。
「……わかったわ。答えは一つよ」
私はキーボードを叩いた。
迷いはない。
**『G・O・L・D』**
エンターキーを押す。
一瞬の静寂。
そして――。
**『パスワード認証……エラー。不正な入力を検知しました』**
**『自爆シーケンスを加速します』**
「おい! んなわけあるかー!」
賢者が叫んだ。
私も叫んだ。
「嘘でしょ!? 古代人、金好きじゃなかったの!?」
「お嬢様! パスワードではありません! エネルギーです!」
クラウスが叫ぶ。
モニターには『エネルギー不足』の警告が表示されている。
そうだ。このシステムは、言葉ではなく**「現物(金属)」**を求めているのだ。
聖都の『黄金の盾』と同じ。金を燃やして力に変えるシステムだ。
「……なるほどね。言葉じゃなくて、現物よこせってことか!」
私は懐から、全財産が入った魔法のカードを取り出した。
50億ゴールド。
S.G.との戦争で稼いだ、血と汗と涙の結晶だ。
「いいわよ。くれてやるわ!」
私は通信機を取り出し、聖都の『黄金の盾』管理室へ繋いだ。
「総員、緊急コード発令!
私の個人資産、商会の内部留保、へそくり、全部まとめて『黄金の盾』に投入しなさい!
一ゴールドたりとも残すな! 全力で隕石を弾き返すのよ!」
**ゴゴゴゴゴ……!**
通信機の向こうで、黄金の塔が唸りを上げる音が聞こえる。
50億ゴールド分のエネルギーが、物理的な防御力へと変換されていく。
「持ってけドロボー! その代わり、仕事はきっちりしなさいよ!」
光が溢れる。
私の全財産が、世界を救う光となって空へ昇っていく。
さようなら、私の50億。
こんにちは、無一文の私。
***
**【本日の営業報告】**
**文責:クラウス**
* **売上:** 0ゴールド
* **経費:** 50億ゴールド(全財産)
* **成果:** システム停止、および隕石迎撃エネルギーの充填
* **所感:** パスワードが「GOLD」でなかったことは遺憾ですが、結果的に金で解決しました。
**【クラウスの一言メモ】**
お嬢様がカードを差し込む際、一瞬だけ手が震えていたのを私は見逃しませんでした。
……その勇気に、敬意を表します。
(第四十九話 完)




