第四十六話:都市という名の魔法陣と、究極の損切り
青の島の遺跡。
私たちは「星の代弁者」を拘束し、魔法陣を破壊した。
だが、空の赤みは消えない。
隕石の気配は、まだそこにある。
「……どういうこと? 魔法陣は壊したはずよ」
「無駄だと言っただろう」
拘束された男が、血を吐きながら笑う。
「ここはただの『実験場』だ。本命は別にある」
「本命?」
「気づかないか? お前たちが守ってきた街、支配してきた街……それこそが、星を呼ぶための巨大な魔法陣なのだよ」
男の言葉に、クラウスがハッとして地図を広げた。
聖都エリュシオンの地図。そして、暗黒帝国の首都「闇の揺り籠」の地図。
「……お嬢様。ご覧ください」
クラウスが震える指で、街路の形をなぞる。
「聖都の大通りと広場の配置。そして闇の揺り籠の城壁と水路。
これらは、今私たちが破壊した魔法陣と、全く同じ幾何学模様を描いています」
「……嘘でしょ」
私は絶句した。
聖都(光)と、闇の揺り籠(闇)。
対立しているはずの二つの都市は、実は**「巨大な召喚システムの両輪」**だったのだ。
人々が住み、祈り、欲望を抱くことで、そのエネルギーが都市(魔法陣)に蓄積され、隕石を呼ぶビーコンになっていた。
「要するに、街全体が巨大な『電池』だったということです」
クラウスが簡潔にまとめる。
私たちが街を守れば守るほど、経済を回せば回すほど……滅びを早めていたってこと?
S.G.が顔面蒼白になる。
彼もまた、システムの一部として利用されていたのだ。
いや、それだけではない。
「……まさか。あの『星の代弁者』は、いにしえから存続する我が組織がかつて開発した、そして廃棄したはずの『自動防衛プログラム』の成れの果てか……?」
S.G.が震える声で呟く。
古代のシステムを解析し、利用しようとして失敗した「負の遺産」。
それが今、創造主である彼すらも巻き込んで暴走しているのだ。
「私の責任だ。……クソッ、こんな不良債権、私が処理するしかない!」
S.G.が叫ぶ。
珍しく熱くなっている。自分のミスで損をするのが許せないらしい。
「だが、二つだけでは起動しないはずだ」
賢者が冷静に指摘する。
「魔法陣は『三点』で安定する。聖都と闇の揺り籠。あと一つ、頂点が必要だ」
クラウスが地図に線を引く。
聖都と闇の揺り籠を結ぶ線を底辺とし、正三角形を描く。
頂点の候補は二つ。
一つは、今私たちがいる南の孤島「青の島」。だが、ここはサブシステムだった。
ならば、もう一つは――北の極点。
「……そこだ」
ルナが通信機で情報を照会し、顔をしかめた。
「北の極点『氷の果て』。そこには、古代から存在する**『絶対要塞』**があるわ」
「要塞?」
「ええ。物理攻撃も魔法も一切通じない、鉄壁の防御システム。
正面から攻め込めば、私たちの戦力でも全滅は必至よ」
誰も言葉を発せない、鉛のように重い静寂が落ちる。
本命の場所はわかった。だが、手が出せない。
隕石は刻一刻と近づいている。
「……方法はある」
S.G.が重い口を開いた。
「魔法陣は三点で安定している。ならば、その一点を崩せばいい」
「一点を崩す?」
「要塞は壊せない。ならば……**『聖都』か『闇の揺り籠』のどちらかを、完全に破壊(消滅)させるしかない**」
私は息を呑んだ。
街を壊す?
私が守り、育て、愛してきた(搾取してきた)街を?
「聖都を壊せば、ソフィアや民衆が路頭に迷う。
闇の揺り籠を壊せば、S.G.やリリスとの同盟が崩れ、裏社会の秩序が崩壊する」
どちらを選んでも、莫大な損失と痛みを伴う。
商人として、これほど辛い選択はない。
**「究極の損切り」**だ。
「……選べないわ」
私は拳を握りしめた。
金ならいくらでも払う。でも、これは金では解決できない。
私の「居場所」を、自らの手で壊さなければならないなんて。
空が赤く燃えている。
決断の時は、残酷なほど早く迫っていた。
***
**【本日の営業報告】**
**文責:クラウス**
* **売上:** 0ゴールド
* **発見:** 世界の構造的欠陥、および絶対要塞の存在
* **選択肢:** 聖都の破壊 or 闇の揺り籠の破壊
* **所感:** どちらを選んでも地獄。……ですが、選ばなければ世界が終わります。
**【クラウスの一言メモ】**
お嬢様の手が震えていました。
初めて見る、本当の恐怖。
失うことへの恐怖ではなく、自らの手で「大切なもの」を壊さねばならないという、業への恐怖です。
(第四十六話 完)




