第四十四話:バルコニーの問答と、誘導されたハネムーン
結婚式の喧騒を離れ、私は王宮のバルコニーで夜風に当たっていた。
隣には、いつものようにクラウスが控えている。
「……いい式だったわね(売上的に)」
「ええ。ご祝儀の集計が終わりました。過去最高益です」
私たちが悪だくみをしていると、背後から声がかかった。
「素晴らしい式でしたね」
振り返ると、そこには吟遊詩人のキースが立っていた。
彼はグラスを片手に、私を真っ直ぐに見つめている。
「……で、なぜあそこに『魔女』がいるのですか?」
単刀直入な問い。
彼は気づいている。新婦の正体が、暗黒帝国の支配者リリスであることを。
「貴女は光の皇女だ。なぜ闇の魔女と手を組む? 世界をどうするつもりだ?」
「世界? どうでもいいわ」
私は即答した。
「私が欲しいのは『市場』よ。光も闇も、私にとってはただの『客層』に過ぎないの」
「……なるほど」
キースは苦笑し、クラウスを一瞥した。
「貴女には『最強の番犬』がついているわけだ。……受け入れがたいが、仕方ないか。清廉潔白な正義だけでは、この世界は救えないのかもしれない」
彼は納得したように頷いた。
だが、その表情はすぐに険しいものに変わった。
「だが、そんな悠長なことを言っていられるのも今のうちだ」
「どういうこと?」
「世界は終わる。……あと三日で、空から『星』が降ってくる」
隕石。
あまりにも突飛な話に、私は鼻で笑った。
「バカバカしい。三流小説のネタ?」
「信じられないでしょう。なら、自分の目で確かめてください」
キースは懐から一枚の古地図を取り出した。
そこには、大陸から遠く離れた絶海の孤島が記されていた。
「この島へ来てください。そこに『証拠』があります」
「……面倒くさいわね」
私は地図を弾いた。
だが、商人の勘が告げている。こいつは嘘をついていない。
もし本当に世界が終わるなら、私の資産もパーだ。確認する価値はある。
「いいわ。付き合ってあげる。ただし、移動手段がないわね」
その時、披露宴会場からジェラール王子が出てきた。
新婦のリリスと腕を組んで、幸せオーラ全開だ。
「やあシャル! ここにいたのかい!」
「あらジェラール。……ねえ、新婚旅行はどこに行くの?」
「え? まだ決めてないけど……」
カモ発見。
私はニッコリと笑い、キースから奪った地図をジェラールに見せた。
「なら、ここなんてどう? 地図にも載っていない絶海の孤島よ」
「孤島?」
「そう。誰にも邪魔されない、二人だけの愛の巣。断崖絶壁に囲まれた、秘密の楽園……クールだと思わない?」
ジェラールの目が輝いた。
「クールだ! さすがシャル、僕の理解者! リリス、ここに行こう!」
「……(また騙されてる)」
リリスが呆れた顔をしているが、拒否権はない。
こうして、私たちはジェラールのワイバーン(王室専用機)に便乗し、疑惑の孤島へと向かうことになった。
名目は「王子のハネムーン」。
実態は「世界滅亡の真偽を確かめる調査旅行」。
……相変わらず、私の周りは騒がしい。
***
**【本日の営業報告】**
**文責:クラウス**
* **売上:** 0ゴールド
* **経費:** 0ゴールド(移動費は王子持ち)
* **目的地:** 絶海の孤島(通称:青の島)
* **同行者:** ジェラール王子夫妻、吟遊詩人キース
* **懸念事項:** キース氏の予言。もし真実なら、商会の存続に関わる重大なリスクです。
**【クラウスの一言メモ】**
ジェラール王子が「無人島で愛を叫ぶ!」と張り切っておられます。
……リリス様が海に突き落とさないか、それだけが心配です。
(第四十四話 完)




