第四十話:魔女の弟子たちと、光と闇の不可侵条約
一触即発の空気の中、魔女リリスが静かに口を開いた。
「……お待ちなさい。ここは『闇の揺り籠』。私の庭で、野暮な争いは許さないわ」
彼女はS.G.たちの前に立ち、彼らを庇うように両手を広げた。
「あなたは闇の中で安心したことはなくて?
夜の静寂、影の安らぎ。光が強すぎれば目は眩む。
憎しみも、悲しみも、闇も、世界には必要なものよ。それを認めてほしいわ」
リリスの言葉は、優しく、そして哀しげだった。
私は彼女の背後にいるS.G.たちを見た。
彼らの表情から、さっきまでの狂気が消え、迷子のような不安が浮かんでいる。
「……なるほどね」
私は武器(電卓)を下ろした。
「私は、あなた達の世界を認めることにするわ。それじゃダメなの?」
「……え?」
S.G.(サミュエル)が目を見開いた。
「意外だな。光の皇女である君が、闇を裁かないと?」
「そうよ。だって、闇がなくなったら『光の価値』も下がるでしょ?
それに、あんたたちみたいな悪党がいるから、私の商売(護衛や結界)が繁盛するのよ」
私は肩をすくめた。
正義の味方なんてやるつもりはない。私は商人だ。
利益が出るなら、悪魔とだって手を組む。
「……ふっ。呆れた女だ」
S.G.たちは力が抜けたように笑った。
そして、懐から電卓を取り出し、高速で叩き始めた。
「……計算終了だ。
君と戦い続けるコストは、世界征服の利益を上回る。
ならば、手を組んで利益を最大化するのが、商人として合理的だ」
「我々も……追い詰められていたのかもしれない」
「追い詰められていた?」
「ああ。世界は光に偏りすぎていた。清廉潔白な社会では、我々のような『影』は生きられない。
だから、戦争を起こして闇を作り出し、自分たちの居場所を確保しようとしたのだ」
生存本能。そして損得勘定。
彼らもまた、生きるために必死だったのだ。
私と同じように。
「……まったく、手のかかる弟子たちね」
リリスが溜息をつき、S.G.たちの頭を小突いた。
「弟子?」
「ええ。この子たちは私の弟子よ。不出来だけどね」
リリスは苦笑した。
なるほど。だから彼らはこの街を拠点にしていたのか。
世界を敵に回した大悪党も、師匠の前ではただの子供というわけだ。
「なら、話は早いわ」
私はリリスに向き直った。
「リリス、あんたが責任を持ってこいつらを監督しなさい。
その代わり、私はこいつらの『商売』を認めてあげる。
光は表を、闇は裏を。それぞれの領分で稼ぎましょう」
私は手を差し出した。
「これが私の提案する『光と闇の不可侵条約(ビジネスパートナー契約)』よ。どう?」
リリスは私の手を見つめ、そして妖艶に微笑んだ。
「いいわ。乗ったわよ、強欲な皇女様」
ガッチリと握手が交わされる。
その瞬間、世界を揺るがした大戦は、秘密裏に終結した。
勝者なし。敗者なし。
あるのは、莫大な利益を分け合う「共犯者」たちだけだ。
「……やれやれ。結局、お嬢様の掌の上ですか」
クラウスが眼鏡を拭きながら苦笑する。
S.G.たちも、憑き物が落ちたような顔で私を見ている。
その中で、賢者の姿をした三男だけが、ニカっと笑った。
「俺はこの姿のままでいいぜ。スーツは肩が凝るからな」
「好きにしなさい。ただし、食費は自分で稼ぐのよ」
「シャルロット。君は本当に……恐ろしい女だ」
「最高の褒め言葉ね」
私は胸を張った。
これで、世界は私のものだ。
表も裏も、光も闇も。全てが私の市場だ。
「さあ、帰るわよ! 聖都に戻って、新しい商売の準備をしなきゃ!」
「へいへい」
「お供します!」
私たちは「闇の揺り籠」を後にした。
背後で、魔女と弟子が手を振っている。
敵だった彼らも、今では頼もしい(そして金づるの)パートナーだ。
悪役令嬢シャルロット。
彼女の冒険は、まだ終わらない。
世界中に「カモ」がいる限り、私の商魂が尽きることはないのだから!
***
**【本日の営業報告】**
**文責:クラウス**
* **売上:** プライスレス(世界の均衡と平和)
* **契約:** 光と闇の不可侵条約(永久契約)
* **新規パートナー:** 魔女リリス、S.G.
* **総評:** お嬢様は、世界を救いました。……金のために。
**【クラウスの一言メモ】**
S.G.が去り際に「今度ポーカーで勝負しよう」と言ってきました。
……受けて立ちましょう。師匠越えを果たす、良い機会です。
(第四十話 完)




