第三十七話:増殖する絶望と、分裂する欲望
正体を現したS.G.(元賢者)との戦闘が始まった。
強い。
魔法障壁で攻撃を防ぎ、指先一つで衝撃波を放つ。
賢者の時の「野生の力」とは違う、洗練された暴力だ。
「くっ……! 手も足も出ないわ!」
「お嬢様、下がってください!」
クラウスがナイフを投げるが、S.G.はあくびをしながら弾き返す。
「無駄だよ。私は『システム』だと言っただろう? 個人の力では勝てない」
その時。
城の奥から、全く同じ顔をした男たちが現れた。
一人、二人ではない。三人、四人……。
「ふふふ、驚いたかな? 私はどこにでもいて、どこにもいない」
複数のS.G.が同時に喋る。
分身魔法ではない。全員が実体を持った、別々の人間だ。
整形か、あるいは魔導による複製か。
「……ねえ、ルナ」
「なに?」
「あいつら、見て」
私はS.G.たちを指差した。
彼らは同じ顔をしているが、身につけている時計や靴のブランドが微妙に違う。
そして何より……。
「あいつら、財布が別々よ!」
ルナが叫んだ。
怪盗の目は誤魔化せない。彼らの懐には、それぞれ別の財布(口座)が入っている。
「なるほどね。システムとか言ってるけど、結局は『S.G.という看板を共有する』商人の集まりってわけか」
私はニヤリと笑った。
組織なら、必ず派閥がある。
「ねえ、S.G.たち!」
私は声を張り上げた。
「あんたたち、私を『後継者』にしたいんでしょ? でも、私は一人しかいないわ。
……どっちが私を『買う』の? 一番高い値をつけた人を、私の『オーナー』と認めてあげるわ」
S.G.たちの動きが止まった。
互いに顔を見合わせる。その瞳に、ギラリと欲の色が宿る。
「……私が育てた素材だ。私が頂く」
「いや、発見したのは私だ。所有権は私にある」
「待てよ。一番投資したのは私だぞ?」
空気が変わった。
さっきまでの鉄壁の連携が崩れ、互いを牽制し合う空気になる。
「……かかった」
私はクラウスに目配せした。
今だ。奴らが内輪揉めをしている隙に、最大の「商談(攻撃)」を仕掛ける。
「さあ、オークション開始よ! 私の値段、どこまで吊り上げられるかしら!?」
私は自らを商品として提示した。
これは賭けだ。
私の価値が、彼らの結束を上回るかどうかの、大博打だ。
***
**【本日の営業報告】**
**文責:クラウス**
* **売上:** 0ゴールド
* **出品:** シャルロット(自身)
* **入札者:** S.G.(高速分身による複数表示)
* **状況:** 敵対的買収の競合発生中
**【クラウスの一言メモ】**
「S.G.」という巨大な看板も、個人の欲の前では無力です。
組織の論理よりも個人の利益。……商人の性ですね。
(第三十七話 完)




