第三十三話:戦場のウェディングと、ビジネスライクな誓いのキス
戦火に包まれるローゼンバーグ王国。
その最前線に、私たちは巨大な特設ステージを設営していた。
「いい? 今回の作戦名は『オペレーション・ハッピーエンド』よ!」
私が指示を飛ばすと、ルナが照明を調整し、賢者が背景の書き割りをセットする。
主役の二人は、控え室で準備中だ。
「えーー、結婚ですかぁ……」
ウェディングドレスに着替えさせられたソフィアが、困り顔で呟く。
「私、まだ心の準備が……それに、ジェラール様のこと、よく知りませんし……」
「嫌なの?」
「それはそのぉ……結婚って、もっとこう、運命的なものだと思ってたので……」
乙女だ。
数百歳のお婆ちゃん(初代聖女)のくせに、中身はピュアな少女のままだ。
私は彼女の肩を抱き、悪魔の囁きを吹き込んだ。
「大丈夫よ、ソフィア。これは『期間限定イベント』だと思って」
「イベント?」
「そう。戦争が終わったら、王子の方から離婚を切り出させるわ。『僕のような無能な男に、君は勿体無い』ってね」
「えっ?」
「そうすれば、王子は『身を引く悲劇のヒーロー』として人気が出るし、あんたは『バツイチ聖女』として箔がつく。ウィンウィンよ」
私の完璧なシナリオに、ソフィアは目を丸くした。
「なるほど! 最初から別れる予定なんですね! それなら安心です!」
「でしょ? さあ、行ってらっしゃい。世界中が泣くような『愛の奇跡』を見せてやるのよ」
***
そして、本番。
世界中に映像が配信される中、ジェラール王子がステージに現れた。
泥メイクを施し、包帯を巻いた「傷ついた王子」スタイルだ。
「民よ! 聞いてくれ! 僕は……僕は無能だった!」
ジェラールが涙ながらに叫ぶ。
演技ではない。私が事前に「あんたの国、借金で詰んでるわよ」と真実を告げたので、ガチで凹んでいるのだ。
「僕が愚かだったせいで、国は焼かれ、民は苦しんでいる……! 僕は王になる資格なんてないんだ!」
悲痛な叫び。
視聴者(主に女性ファン)のコメントが弾幕のように流れる。
『王子様かわいそう!』『責めないで!』『私が守ってあげる!』
そこへ、ソフィアが登場する。
後光(照明効果)を背負い、天使のように微笑む。
「いいえ、ジェラール様。過ちを認めることができる人こそ、真の王です」
「ソフィア……!」
「私が支えます。貴方の罪も、悲しみも、全て背負って……共に歩みましょう」
ソフィアが手を差し伸べる。
ジェラールがその手を取り、跪く。
「ああ、女神よ……! 愛しています! 結婚してください!」
「はい、喜んで(棒読み)」
**カァァァァン!!**
鐘が鳴り響き、二人は誓いのキスを交わした(フリをした)。
その瞬間、背景で賢者が花火魔法を打ち上げる。
**ドォォォォン!!**
『うおおおおお!』
『おめでとう!』
『愛は戦争に勝つ!』
世界中が感動の渦に包まれた。
同時に、私の手元の端末には、凄まじい勢いで「ご祝儀(投げ銭)」が振り込まれていく。
「……チョロい。チョロすぎるわ」
私は笑いが止まらなかった。
戦争? 悲劇?
そんなもの、演出次第で最高のエンターテインメントになるのだ。
その時、遠くでドォォォン! と砲撃音が響いた。
敵陣から、無数の砲弾が飛んでくる。
「……あら、始まったわね」
私はニヤリと笑った。
図星だったらしい。
感動の結婚式を見せつけられて、向こうの指揮官は顔を真っ赤にして「撃てー! あのふざけたステージを吹き飛ばせ!」とか叫んでいるに違いない。
想像するだけで笑えるわ。無粋な連中ね。
「来たわね。……レオナルド、出番よ!」
「任せてください! 新郎新婦の門出を邪魔する無粋者には、正義の鉄槌を!」
レオナルドが飛び出し、飛んでくる砲弾を次々と切り落とす。
その姿もまた、カメラにバッチリ映り込み、「あのかっこいい騎士は誰!?」と新たなファンを獲得していく。
S.G.よ、見ているかしら?
あんたが描いた「絶望のシナリオ」は、私が「愛と感動のハッピーエンド」に書き換えてやったわ。
悔しかったら、もっと面白い脚本を持ってきなさい。
***
**【本日の営業報告】**
**文責:クラウス**
* **売上:** 50億ゴールド(ご祝儀、放映権料、グッズ売上)
* **経費:** ステージ設営費、サクラ(魔物)への出演料
* **特記事項:** ジェラール王子の好感度がストップ高。ソフィア様の「棒読み」が逆に「清楚で奥ゆかしい」と高評価です。
**【クラウスの一言メモ】**
「離婚までがセットの興行」。
お嬢様の発想は、もはや商人の域を超えて、神(脚本家)の領域に達していますね。
……S.G.がこの屈辱にどう反応するか、楽しみでもあり、恐ろしくもあります。
(第三十三話 完)




