第三十二話:開戦の狼煙と、泣きついてきた元婚約者
暗黒大陸の港湾都市「デッド・エンド」。
船を降りた私たちは、号外を配る少年の声に足を止めた。
「号外! 号外だ! 戦争だぞ!」
「……戦争?」
私が新聞を受け取ると、一面にデカデカと見出しが躍っていた。
**『暗黒帝国、ローゼンバーグ王国へ侵攻開始!』**
**『平和の国、滅亡の危機!』**
「……始まったわね」
私は舌打ちをした。
暗黒帝国。S.G.が裏で操る軍事国家だ。
奴は戦争を起こし、武器と魔石の需要を吊り上げるつもりだ。典型的な「死の商人」の手口。
「お嬢様。ローゼンバーグ王国といえば……」
「ええ。あのバカ王子の国よ」
その時だった。
港の隅にあるゴミ捨て場から、ボロボロの男が這い出してきた。
「しゃ、シャル……!」
「……ジェラール?」
そこにいたのは、かつての煌びやかな王子様ではなかった。
服は破れ、顔は煤まみれ。見る影もない。
彼は私の足元に這いつくばり、泣き叫んだ。
「助けてくれ! 僕の国が! 美しい僕の国が、野蛮な帝国に焼かれてしまう!」
「……あんた、生きてたのね」
「なんとかね! 魔王軍の輸送船に密航して戻ってきたんだ! ……頼む、シャル! 君の力で国を救ってくれ! お礼なら、僕の体で……」
ジェラールが服を脱ごうとする。
私は冷めた目で彼を見下ろし、そして――
「……ふふっ」
にっこりと笑った。
「いいわよ、ジェラール。協力してあげる」
「ほ、本当かい!?」
「ええ。だって……**『亡国の悲劇の王子』って、人気出るのよ**」
私の言葉に、ジェラールが固まる。
「……え?」
「国が滅びかけの王子。傷つき、泥にまみれながらも民のために戦う王子。……最高の商品じゃない!」
私は電卓を弾いた。
「あんたの涙、今なら一本一万ゴールドで売れるわ。写真集も出しましょう。『亡国の憂い』ってタイトルで」
「き、君は悪魔か!?」
「商人よ。……それに」
私は新聞を握り潰した。
「S.G.の思い通りにさせるのは癪だわ。奴が戦争で儲けようとしてるなら、私はその戦争を『エンターテインメント』に変えて、奴のシナリオをぶち壊してやる」
私は仲間たちに指示を出した。
「総員、作戦開始!
クラウスは物資の買い占め! 戦争特需を先取りするわよ!
賢者とレオナルドは前線へ! 暗黒帝国の軍隊を『演出(物理)』で足止めして!
ルナとソフィアは広報活動! 『可哀想なジェラール王子』を全世界に配信するのよ!」
「「「了解!」」」
ジェラールが呆然としている。
「ぼ、僕は……?」
「あんたは主役よ。泥まみれで泣いてなさい。それが一番売れるから」
こうして、私たちは戦争に介入した。
正義のためではない。
S.G.への嫌がらせと、莫大な興行収入のために。
***
**【本日の営業報告】**
**文責:クラウス**
* **売上:** 0ゴールド(先行投資中)
* **契約:** ローゼンバーグ王国救済(興行)契約
* **主演男優:** ジェラール王子(役作り不要、素で悲劇的)
* **敵対勢力:** 暗黒帝国(S.G.傀儡)
**【クラウスの一言メモ】**
お嬢様の「戦争をエンタメにする」という発想。
不謹慎極まりないですが、S.G.の「戦争をビジネスにする」という手口への、強烈なアンチテーゼになっています。
……毒を以て毒を制す、ですね。
(第三十二話 完)




