第三十一話:豪華客船の恋と、ソフィアの悪徳修行
暗黒大陸へ向かう豪華客船「クイーン・マリー号」。
この船はただの移動手段ではない。船全体が巨大なカジノになっている、海上の不夜城だ。
「賭けるわよ! S.G.との決戦前に、軍資金を倍にするのよ!」
「お嬢様、ほどほどになさいませ」
私はルーレット台にチップを積み上げた。
隣では、ソフィアが目を輝かせている。
「お姉様! 私もやってみたいです! 『悪徳聖女』の修行を!」
「あら、いい心がけね。じゃあ、あそこにいる男をカモにしてきなさい」
私が指差したのは、ポーカーで負け続けて青ざめている貴族の男だ。
ソフィアは「はいっ!」と元気よく返事をすると、男の元へ向かった。
***
「あのぉ、お兄さん……」
ソフィアが上目遣いで男に話しかける。
男はギョッとして顔を上げた。
「な、なんだ君は。俺はもう金なんてないぞ……」
「可哀想に……。負けてしまったんですね」
ソフィアは慈愛に満ちた微笑みを浮かべ、男の手を優しく包み込んだ。
その瞬間、男の目から涙が溢れ出す。
「ううっ……! そうなんだ、全財産スッちまって……! 君は、女神様か?」
「いいえ。通りすがりの聖女です」
ソフィアは男の頭を撫でながら、甘い声で囁いた。
「元気を出してください。お金なんて、また稼げばいいんです。……でも、その前に」
「その前に?」
「手元に残っているそのチップ……私にいただけませんか?♡」
男は一瞬呆気にとられたが、ソフィアの輝く笑顔を見て、憑き物が落ちたような顔になった。
「……ああ、いいよ。どうせこれだけじゃ何もできない。君のような美しい人に使ってもらえるなら、本望だ」
男は残りのチップ(数百万ゴールド相当)を全てソフィアに渡した。
そして、「ありがとう、女神様!」と感謝しながら去っていった。
……搾取完了。
しかも、相手に感謝されながら。
「お姉様! 見てください!」
ソフィアがチップの山を抱えて戻ってきた。
「やりました! 慈悲を与えて、対価として全財産を頂きました! これぞ『悪徳聖女』ですよね!?」
「……」
私は口を開けたまま固まった。
凄い。
私は「欲望」や「恐怖」を利用して金を稼ぐが、この子は「善意」と「信仰心」を利用して金を巻き上げている。
ある意味、私よりタチが悪い。
「ねぇお姉様、わたくし、悪徳……聖女になれたでしょうか?」
「……ええ。合格よ。あんた、天然の才能あるわね」
私はソフィアの頭を撫でた。
恐ろしい子だ。
この調子なら、魔王相手でも「可哀想な魔王様、世界征服なんてやめて私に貢ぎませんか?」とか言って全財産巻き上げかねない。
「ふふっ、胸がいっぱいです! もっと頑張ります!」
ソフィアが頬を紅潮させて笑う。
その背後で、クラウスが「……末恐ろしい」と呟きながら十字を切っていた。
船は進む。
欲望と波飛沫を上げて、決戦の地・暗黒大陸へ。
***
**【本日の営業報告】**
**文責:クラウス**
* **売上:** 500万ゴールド(ソフィア様の托鉢……もとい、カツアゲ)
* **経費:** 0ゴールド
* **獲得スキル:** 女神の微笑み(効果:相手の財布の紐を緩める)
* **懸念事項:** ソフィア様の倫理観が、お嬢様の影響で急速に崩壊しつつあります。
**【クラウスの一言メモ】**
「悪徳聖女」。
矛盾した言葉ですが、彼女を見ていると、それがこの世で最も強力な職業である気がしてなりません。
(第三十一話 完)




