第三十話:決戦前夜のホストクラブ(経費で落ちますか?)
S.G.との全面対決が決まった。
普通なら、作戦会議を開いたり、武器を調達したりするところだ。
だが、私は違った。
「さて、ではまず英気を養わないとね」
私は真紅のドレスの裾を翻し、夜の街を見下ろした。
「『女傑、色を好む』よ」
「どういう意味なのです?」
純白のドレスを着たソフィアが、きょとんとして首を傾げる。
ルナが彼女の肩に手を回し、ニヤリと笑った。
「ふふ、ソフィアちゃんには早かったかな? 大人の遊びよ♡」
「お嬢様。まさか……」
クラウスが嫌な予感を察知して眉をひそめる。
私は高らかに宣言した。
「行くわよ! この街で一番高いホストクラブへ! 今夜は朝まで飲み明かすわよ!」
***
最高級ホストクラブ「クラブ・エデン」。
シャンデリアが輝く店内には、選りすぐりの美男子たちが揃っていた。
「いらっしゃいませ、プリンセス」
現れたのは、この店のNo.1ホスト、ヒカル。
金髪碧眼、甘いマスク。ジェラール王子を少しマシにしたような男だ。
「君のような美しい花が、この店に咲くのを待っていたんだ」
「あら、お上手ね」
私はVIP席に座り、ドンペリ(最高級シャンパン)を注文した。
ポン! と景気のいい音が鳴る。
「君の瞳に乾杯」
「君のためなら、世界を敵に回せるよ」
ヒカルの甘い言葉攻め。
ソフィアは「ひゃあ……!」と顔を真っ赤にして固まっている。
ルナは「へえ、悪くないわね」と別のホストを侍らせて楽しんでいる。
だが、私は冷静だった。
グラスを揺らしながら、ヒカルを見つめる。
「……ふーん。で、年収は?」
「え?」
「資産運用はどうしてるの? 老後の計画は? まさか、その顔だけで一生食っていけると思ってるわけじゃないわよね?」
私の現実的な質問に、ヒカルの笑顔が引きつる。
「い、いや、僕は今を生きる男だから……」
「ダメね。将来設計が甘すぎる。顔面偏差値はAだけど、信用格付けはDよ」
私はダメ出しをした。
その時、店の奥から怒号が聞こえてきた。
「おいヒカル! 今月の利息、まだ払ってねえだろうが!」
強面の男たちが乱入してきた。借金取りだ。
ヒカルが青ざめる。
「ま、待ってください! 今夜の売上で払いますから!」
「うるせえ! 今すぐ払え! さもなくばその綺麗な顔を……」
借金取りがヒカルの胸ぐらを掴む。
……興醒めだ。
せっかくの「大人の遊び」が台無しじゃない。
「……いくら?」
「あ?」
「こいつの借金、いくらなのよ」
私が聞くと、借金取りは「五千万ゴールドだ」と答えた。
「……ふん。安いものね」
私は懐から、魔法の巾着袋を取り出した。
そして、袋の紐を解き、逆さまにする。
**ジャララララララッ!!**
黄金の滝が、ヒカルの足元に降り注いだ。
五千万ゴールド分の金貨が、床に散らばり、光を反射して輝く。
「ほら。拾って払ってきなさい」
私は扇子で口元を隠し、冷ややかに見下ろした。
「まるで鳥にパン屑をやるみたいで、いい気分だわ」
「なっ……!?」
ヒカルは顔を真っ赤にし、唇を噛み締めた。
プライドがズタズタに引き裂かれる音が聞こえるようだ。
だが、彼は震える手で、床の金貨を拾い始めた。
生きるために。
借金取りたちは、その異様な光景と金額に圧倒され、金貨を受け取ると逃げるように去っていった。
「あ、貴女は……女神様ですか?」
「いいえ。悪徳商人よ」
私はヒカルの顎をクイっと持ち上げた。
「勘違いしないで。これは『投資』よ。あんた、顔と接客スキルは悪くないわ。今日から私の商会で働きなさい。借金分、きっちりこき使ってあげるから」
「は、はい! 一生ついていきます!」
ヒカルが私の足元に跪く。
また下僕が増えた。
……はあ。結局、私は「選ぶ側」にはなれても、「愛される側」にはなれない運命なのかしら。
「お嬢様。そろそろお時間です」
クラウスが時計を見る。
遊びは終わりだ。
「ええ。行きましょうか」
私は立ち上がった。
英気は養った(主にストレス発散で)。
次はいよいよ、本番だ。
「待ってなさい、S.G.。あんたの『死の商人』としてのプライド、私がへし折ってやるわ」
私たちはホストクラブを後にし、暗黒大陸行きの船へと向かった。
背後には、新たな下僕(元No.1ホスト)を引き連れて。
***
**【本日の営業報告】**
**文責:クラウス**
* **売上:** 0ゴールド
* **経費:** シャンパン代、ヒカルの借金肩代わり(計6000万ゴールド)
* **獲得人材:** ヒカル(接客スキルA、金銭感覚E)
* **所感:** お嬢様の「男を見る目」が厳しすぎて、婚期が遠のく音が聞こえます。
**【クラウスの一言メモ】**
ソフィア様がホストの甘い言葉を真に受けて、「私、お嫁に行きます!」と言い出さないかヒヤヒヤしました。
彼女には早急に「男の嘘を見抜く講座」を開講する必要があります。
(第三十話 完)




