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悪役令嬢は性悪執事とお金に溺愛される ~皇女の身分を捨てて商売を始めたら、国家予算レベルの資産と最強の夫が手に入りました~  作者: 蒼山りと


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第二話:愛と欲望のデューデリジェンス(資産査定)

 監禁生活三日目。

 私たちの「花嫁修業」は順調に進んでいた。


「お嬢様、本日のランチは『若鶏のコンフィ・トリュフソース添え』でございます」

「あら、悪くないわね。でも昨日のフォアグラの方が原価は高かったわ。厨房に伝えておいて。『ケチるな、在庫を吐き出せ』って」

「畏まりました」


 ピギー男爵家の客室にて。

 私は最高級のソファに寝そべり、優雅に食後の紅茶を楽しんでいた。

 監禁? 悲劇のヒロイン?

 冗談じゃない。タダで衣食住が保証されているなら、それは「監禁」ではなく「バカンス」だ。


 御曹司のピギー(仮名)は、私たちが大人しくしているのを見て、すっかり油断しているらしい。

 「ふふふ、やはり女はドレスと宝石と美味い飯を与えておけばイチコロだ」などと廊下で笑っているのが聞こえる。

 甘い。砂糖菓子より甘い。

 私たちが大人しいのは、**「資産査定デューデリジェンス」**の最中だからだ。


***


 その日の深夜。

 寝静まった屋敷の中を、黒い影が動いていた。

 クラウスだ。

 彼は「中からは絶対に開かない」と御曹司が豪語していた扉の鍵を、ヘアピン一本で三秒で解錠し、音もなく廊下へと滑り出した。


 彼の任務は三つ。

 一、屋敷の構造と逃走ルートの確保。

 二、金目のもの(美術品・宝石)の保管場所の特定。

 三、そして最も重要な――**「裏帳簿」**の確保だ。


 私はベッドの中で、彼が戻るのを待った。

 一時間後。

 窓の外からフクロウの鳴き声が聞こえたかと思うと、クラウスが音もなく部屋に戻ってきた。その手には、分厚い革表紙のノートが握られている。


「……成果は?」

「大漁です、お嬢様」


 クラウスは眼鏡の位置を直し、ニヤリと笑った。

 いつもの温厚な執事の顔ではない。獲物の喉笛に食らいつく、冷徹な番頭の顔だ。


「まず、屋敷の警備体制ですが、ザルです。金庫室の鍵は、御曹司が枕の下に入れて寝ていました」

「バカね。で、中身は?」

「表面上の資産は二十億ゴールド。ですが……この『裏帳簿』を確認したところ、違法薬物の密輸と脱税による隠し資産が、その倍。約四十億ゴールド存在します」


「四十億……!」


 私は思わずベッドから飛び起きた。

 四十億ゴールド。

 うちの商会の年商の、何百年分だろうか。


「特に注目すべきは、彼が隠し持っている『東の港の独占貿易権』の権利書です。これを押さえれば、我が商会は一気に王都のトップに躍り出ます」

「なるほど。じゃあ、狙いは決まりね。結婚式のドサクサに紛れて、その権利書を頂くわよ」


 私が舌なめずりをすると、クラウスは静かに、けれど熱のこもった声で言った。


「……お嬢様。ご報告がもう一点」


 彼がノートの最後のページを開く。

 そこには、今回の結婚に関する費用と、私への「持参金(結納金)」の金額が記されていた。


「あいつは、お嬢様にたったこれだけの持参金しか用意しておりません」


 彼が指差したのは、リストの端に書かれた、雀の涙ほどの金額だった。

 市場価格(私の自己評価額)の十分の一以下だ。


「……はあ? 舐めてるの?」

「ええ。笑わせてくれますよね」


 クラウスの声が、低く沈んだ。


「お金は美しいですよ。嘘をつきませんから」

「クラウス?」

「言葉でどれだけ『愛している』『大切にする』と言っても、提示された金額がこれです。これが、あいつの中での『お嬢様の価値』なのです」


 彼の瞳の奥で、暗い炎が燃えていた。

 それは私への忠誠心であり、同時に、商人のプライドを傷つけられた激しい怒りでもあった。


「殺しますか?」

「バカね。死んだら金にならないわ。生かして、骨の髄まで搾り取るのよ」


「この持参金の多寡たかで、私は誓いました。必ず、あいつにもっと支払わせると。お嬢様の価値を理解しなかった代償を、骨の髄まで払わせると」


 私は息を呑んだ。

 普段は冷静な彼が、これほどまでに感情を露わにするなんて。

 ……ああ、やっぱり。

 この男は、誰よりも「お金」を愛し、そして誰よりも「私」を高く評価してくれているのだ。


「……ふふ。あんたって本当に、頼りになる金の亡者だわ」

「お嬢様こそ。そのドレスの下に隠したナイフ、素晴らしい殺意です」


 私たちは暗闇の中で、共犯者の笑みを交わした。

 ターゲットは確定した。

 罪状は「お嬢様の過小評価罪」。

 求刑は「全財産没収」。


「決行は明後日。結婚式当日よ」

「はい。最高のショー(解体劇)にしましょう」


 こうして、私たちの「敵対的買収」の準備は整った。

 あとは、あの豚野郎が用意した最高の舞台で、主役の座を奪い取るだけだ。


 ……まさかその舞台に、脚本にない「野獣イレギュラー」が乱入してくるなんて、この時の私たちは知る由もなかったけれど。


***


**【本日の営業報告】**

**文責:クラウス**


* **売上:** 0ゴールド

* **経費:** 0ゴールド(ヘアピン一本で解錠したため消耗品費なし)

* **獲得情報:** ピギー男爵家の裏帳簿(評価額:プライスレス)

* **現在のステータス:** 潜伏中(バカンス中)


**【クラウスの一言メモ】**

御曹司の寝室に忍び込んだ際、彼が「ママ……」と寝言を言っているのを聞きました。

マザコンの気があるようです。精神的揺さぶり(恐喝)の材料として記録しておきます。


(第二話 完)


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