第二十八話:カジノの敗北者と、死の商人の影
ゴールド・パラダイスの中心にそびえ立つ、巨大カジノ「ロイヤル・フラッシュ」。
私たちはドレスアップした姿で、VIPルームに乗り込んでいた。
「賭けるわよ! 全財産(さっき稼いだ30億)!」
「お嬢様、分散投資をお勧めします」
「うるさい! 勝負は度胸よ!」
ルーレット、ポーカー、ブラックジャック。
ルナのイカサマ(超高速すり替え)と、賢者の動体視力(玉の動きを予知)を駆使し、私たちは勝ちに勝ちまくっていた。
そんな時。
奥のテーブルから、悲痛な叫び声が聞こえてきた。
「ま、待ってくれ! あと一回! あと一回だけ勝負してくれ!」
声の主は、立派な角を生やした大男だった。
魔族だ。しかも、身なりからしてかなりの高位貴族……いや、魔王軍の幹部クラスだろう。
彼はテーブルに突っ伏し、震えていた。
対面に座っているのは、黒いスーツを着た細身の男だ。
感情のない氷のような瞳。手元には、山のようなチップが積まれている。
「……残念ですが、貴方にはもう賭けるものがありません」
男は静かに言った。
「期限は過ぎました。契約通り、担保として『魔王城の権利書』を頂きます」
「そ、それだけは! あれを失ったら、俺は魔王様に殺される!」
「知ったことではありません。ビジネスですので」
男が権利書に手を伸ばす。
魔族の男が泣き崩れる。
……面白い。
「ちょっと待ちなさい」
私はチップの山をかき分け、二人の間に割って入った。
「その権利書、私が買い取るわ」
「……ほう?」
黒スーツの男が、私を見上げた。
値踏みするような視線。不快だが、同時にゾクリとするようなプレッシャーを感じる。
「貴女は?」
「通りすがりの悪徳商人よ。……ねえ、そこの角の人。私が借金を肩代わりしてあげる。その代わり、あんたは私に一生仕えること。どう?」
「ほ、本当か!? 悪魔に魂を売ってでも払うつもりだったが、商人に売るなら安いもんだ!」
魔族の男が私の足にすがりつく。
交渉成立だ。
「……ふっ。面白いお嬢さんだ」
黒スーツの男は、口元をわずかに歪めた。
彼は権利書から手を離し、立ち上がった。
「いいでしょう。その不良債権、貴女にお譲りします。……どうせ、すぐに回収することになるでしょうから」
男は意味深な言葉を残し、チップを換金もせずに去っていった。
テーブルの上には、彼が使っていたトランプが一枚、裏返しで残されている。
「……なんなの、あいつ。感じ悪いわね」
私はトランプをひっくり返した。
そこには、金色の箔押しで、見慣れないイニシャルが刻まれていた。
**『S.G.』**
「……ッ!?」
背後で、クラウスが息を呑む音がした。
振り返ると、彼は顔面蒼白になり、眼鏡がずり落ちるのも構わずにカードを凝視していた。
「クラウス? どうしたの?」
「……ありえない。彼は、死んだはずだ」
クラウスの手が震えている。
普段の冷静沈着な彼からは想像もできない姿だ。
「お嬢様。……ただちにこの街を出ましょう。いえ、大陸を出るべきかもしれません」
「はあ? 何言ってるの。これから稼ぎ時じゃない」
「違います! 奴は……『S.G.』は、ただのギャンブラーではありません!」
クラウスは叫んだ。
「奴は『死の商人』。戦争を操り、国を滅ぼし、人の命を数字に変える……私のかつての師であり、そして私が殺したはずの男です!」
カジノの喧騒が、遠のいていくようだった。
死の商人。
クラウスの師匠。
そして、魔王軍すら借金漬けにする黒幕。
私の「運命の相手(最悪の出会い)」とは、もしかして……。
「……面白くなってきたじゃない」
私は震えるクラウスの肩を叩き、ニヤリと笑った。
「逃げないわよ。商売敵がいるなら、叩き潰して市場を独占する。それがゴールドバーグ商会の流儀でしょ?」
私はカードを握り潰した。
S.G.。
あんたがどれだけ大物か知らないけど、私の「カモリスト」に名前を載せてあげるわ。
***
**【本日の営業報告】**
**文責:クラウス**
* **売上:** 30億ゴールド(カジノでの勝利金)
* **仕入:** 魔王軍幹部(借金奴隷)、魔王城の権利書(担保)
* **遭遇:** S.G.(死の商人)
* **精神状態:** 極めて不安定。……お嬢様、今回ばかりは勝算が見えません。
**【クラウスの一言メモ】**
奴が生きていたということは、あの時の爆発も、私の裏切りも、すべて計算通りだったということでしょうか。
……恐怖よりも、かつての血が騒いでしまう自分が憎い。
(第二十八話 完)




