第二十六話:恋する乙女の占いと、返金要求
大陸随一の歓楽都市、ゴールド・パラダイス。
ネオンが輝く不夜城に、私たちは降り立った。
「うわぁ……! キラキラしてます!」
ソフィアが目を輝かせる。
「ふふ、カジノの匂いがするわね」
ルナが舌なめずりをする。
だが、私の目的はギャンブルではない。
**「恋活」**だ。
皇女の身分を捨て、自由になった今こそ、最高のパートナーを見つけるのだ。
「まずは基本からよ。クラウス、この街で一番当たる占い師のところへ案内して」
「……承知いたしました。ですがお嬢様、占いは統計学と心理学の応用であり……」
「うるさい! 乙女にはロマンが必要なの!」
***
路地裏にある怪しげなテント。
そこには「的中率120%・運命の相手教えます」という看板が出ていた。
中に入ると、水晶玉を前にした老婆が座っていた。
「……いらっしゃい。迷える子羊よ」
「迷ってないわ。獲物を探しに来たの。私の運命の相手はどこ?」
私は金貨を一枚、テーブルに叩きつけた。
老婆はニヤリと笑い、水晶玉に手をかざした。
「むむむ……見えます……見えますぞ……」
「どんな人!? 大富豪? それともイケメン騎士?」
私は身を乗り出した。
老婆はカッと目を見開き、厳かに告げた。
「貴女の運命の相手は……**すぐ近くにいます**」
「え?」
「灯台下暗し。貴女が気づいていないだけで、運命の糸は既に繋がっているのです」
近く?
私はテントの外で待っている仲間たちを思い浮かべた。
**エントリーNo.1:賢者**
(鼻をほじりながら)「腹減った。肉食わせろ」
→ 論外。ペット枠。
**エントリーNo.2:レオナルド**
(剣を磨きながら)「おお、この刃こぼれすら愛おしい……」
→ 論外。装備と結婚すればいい。
**エントリーNo.3:クラウス**
(電卓を叩きながら)「……今月の赤字は……」
→ 論外。ただの性悪執事。
**エントリーNo.4:ジェラール王子(行方不明)**
→ 論外以前の問題。
「……ないわね」
私は真顔で老婆に向き直った。
「絶対にない。ありえない。天地がひっくり返ってもない」
「い、いや、水晶玉にはそう出て……」
「インチキよ! 返金しなさい! さもなくばこのテントを『不当表示』で訴えるわよ!」
私が机をバンバン叩くと、老婆は慌てふためいた。
「ま、待ちなされ! もう一つ見えます! その相手とは……**『最悪の出会い』**を経て、**『最高のパートナー』**になるでしょう!」
「最悪の出会い?」
私は首を傾げた。
ピギー男爵? いや、あいつはただの踏み台だ。
ジェラール? あいつは空の彼方だ。
賢者? 出会いは壁をぶち破ってきた時だ。最悪と言えば最悪だが……。
「……ふん。まあいいわ。参考程度にしておく」
私はテントを出た。
外では、仲間たちが退屈そうに待っていた。
「終わったか? シャル」
「ええ。インチキだったわ」
「そうか。じゃあ飯行こうぜ」
賢者が私の肩に手を回してくる。
自然な動作だ。あまりにも自然すぎて、ドキリともしない。
……運命の相手? こいつが?
ないない。
「行きましょう。今日は私が奢るわ。……恋活の前祝いよ!」
私は賢者の手を振り払い、ネオンの海へと歩き出した。
背後でクラウスが、老婆にこっそりと追加の金貨を渡しているのには気づかずに。
(……ご苦労様でした。お嬢様に『可能性』を示唆していただき、感謝します)
(ヒヒヒ、旦那様も隅に置けませんねえ)
運命の歯車は、カジノのルーレットのように回り始めていた。
***
**【本日の営業報告】**
**文責:クラウス**
* **売上:** 0ゴールド
* **経費:** 占い料(および口止め料)
* **獲得情報:** お嬢様の「運命の相手」に関する予言
* **所感:** 「灯台下暗し」。古人の言葉は含蓄がありますね。
**【クラウスの一言メモ】**
お嬢様は「ない」と断言されていましたが、否定すればするほどフラグが立つのが物語の常です。
……もっとも、その相手が私である可能性は、計算上限りなくゼロに近いですが(謙遜)。
(第二十六話 完)




