第二十三話:変人だらけの開発合宿(デスマーチ)
聖都の危機は去ったが、結界がないままでは安心して眠れない。
そこで私は、ある壮大なプロジェクトを立ち上げた。
「聞け、野郎ども! 今回のミッションは『新しい結界システムの開発』よ!」
私が集めたのは、世界中から選りすぐりの魔導技術者たちだ。
ただし、まともな奴は一人もいない。
「ヒャッハー! 爆発か!? 爆発で解決するのか!?」
全身火薬まみれの**爆発狂錬金術師、ボマー**。
「……外に出たくない。絶対防御の殻に引きこもりたい……」
布団にくるまったままの**引きこもり魔女、ネム**。
「魔力? 軟弱な! 結界など筋肉で回せばよい!」
上半身裸の**筋肉魔導士、マッスル**。
どいつもこいつも、技術は超一流だが、人格が破綻している。
クラウスが頭を抱えている。
「お嬢様。この動物園をどう統率するおつもりで?」
「簡単よ。餌(金)と鞭(納期)よ」
私は黒板に、今回のシステムのコンセプトを書き殴った。
**『金をエネルギーに変換する結界』**
「はあ? 金を?」
技術者たちがざわめく。
「そう。魔石やマナなんて不安定なものはいらない。この世で最も信用できるエネルギー、すなわち『金貨』を直接燃焼させて、防御力に変えるのよ!」
錬金術の逆転の発想。
通常、魔力を使って金を生成しようとするが、これはその逆。金を魔力(防御エネルギー)に戻すのだ。
「理論上は可能です……が、コストが天文学的になりますよ?」
ネムが布団から顔を出して指摘する。
「構わないわ。金ならある。それに、このシステムなら『市民が金を払えば払うほど安全になる』。つまり、防衛費を市民から直接徴収できるのよ!」
私の説明に、変人たちの目が輝き始めた。
「なるほど! 金貨の純度を爆発力に変換すれば……!」
「課金すればするほど硬くなる殻……素敵……」
「金の重みこそがパワー! 筋肉と同じだ!」
「よし、採用! 開発開始! 納期は三日後よ!」
「「「イエッサー!」」」
***
そこからは地獄のデスマーチだった。
研究所(大聖堂の地下)からは、昼夜を問わず爆発音と奇声が響き渡った。
「出力不足だ! もっと金を突っ込め! 俺の爆発欲求が満たされねえ!」
ボマーが金貨を鷲掴みにして炉に放り込む。
「冷却装置が追いつかない! ……むにゃ、あと五分寝かせて……」
ネムが寝言を言いながら、無意識に冷却魔法を連射する。
「魔力が足りないだと!? ならば俺が回す!」
マッスルが巨大な手回し発電機に取り付き、音速で回転させ始めた。
「プロテインパワーォォォォ!!」
「ああっ! 私の布団が燃えたぁぁぁ!」
私は陣頭指揮を執り、差し入れ(栄養ドリンクと札束)を配り歩いた。
クラウスは経費計算で電卓を叩き続け、指から煙が出ている。
ルナは徹夜で精密部品を組み立て、賢者は暴走した試作機を物理的に止める係だ。
そして、三日目の朝。
ついに、それは完成した。
聖都の中央広場に設置された、巨大な黄金の塔。
その名も**『黄金の盾』**。
「起動実験、開始!」
私がスイッチを押すと、塔の投入口が開いた。
そこに、用意した金貨一万枚を流し込む。
**ゴゴゴゴゴ……!**
塔が唸りを上げ、金貨を瞬時に消滅させる。
次の瞬間、聖都の上空に、黄金色に輝く半透明のドームが出現した。
「おおおっ!」
「美しい……!」
市民たちが歓声を上げる。
私はマイクを握り、高らかに宣言した。
「聖都の諸君! これが新しい守り神よ! この結界は、あなたたちの『浄財』で動く! 命が惜しければ、財布の中身をここに投げ込みなさい!」
試しに、賢者に結界を殴らせてみた。
**ガギィィィン!!**
賢者の拳が弾かれる。傷一つない。
その代わり、投入口のカウンターが『残高:5000』に減った。
「防御するたびに金が減る! これぞ完全従量課金制!」
素晴らしい。
これなら、魔物が来ても安心だ。市民がパニックになって金を投げ込めば投げ込むほど、結界は無敵になるのだから。
「……お嬢様。悪魔的ですね」
「褒め言葉として受け取っておくわ」
こうして、聖都は「世界一金のかかる安全地帯」として生まれ変わった。
変人技術者たちには、約束通り莫大なボーナスを支払い、彼らは「また面白い仕事があったら呼んでくれ」と言って去っていった。
さあ、これで憂いはなくなった。
あとは、あの過保護なパパとの決着をつけるだけだ。
***
**【本日の営業報告】**
**文責:クラウス**
* **売上:** 0ゴールド
* **開発費:** 50億ゴールド(人件費、材料費、実験用金貨含む)
* **完成品:** 黄金の盾
* **運用コスト:** プライスレス(市民の財布次第)
**【クラウスの一言メモ】**
このシステム、平時は「観光名所」として稼働させ、観光客に小銭を投げ込ませて維持費を賄うのが良いでしょう。
「投げ銭で世界を救う」。美しいキャッチコピーです。
(第二十三話 完)




