第九話:妹からの請求書(ラブレター)と、伝説の武器屋
次の街へ向かう馬車の中で、私は一通の手紙を読んでいた。
故郷に残してきた、最愛の妹シルヴィアからの手紙だ。
『親愛なるお姉様へ。
お元気ですか? 私は今日も熱が出て、ベッドから起き上がれません。
窓の外の小鳥たちが、自由に空を飛んでいるのが羨ましいです。
でも、お姉様が頑張っていると思うと、私も勇気が湧いてきます。
いつか病気が治ったら、お姉様と一緒に野原を駆け回りたいです』
「……うっ、ううっ……!」
私はハンカチで目頭を押さえた。
なんて健気なの、シルヴィア。
病弱な体で、こんなに美しい文字を綴るなんて。
「お嬢様。追伸がございます」
御者台からクラウスが声をかけてくる。
私は涙を拭いて、手紙の裏面を見た。
『追伸:
最近、新しい主治医の先生が来ました。
先生に診てもらうには、特別診療費が必要です。
つきましては、今月の仕送りを三割増しでお願いします♡
あと、季節のフルーツ(高級品)も送ってください。ビタミンが必要なので』
「……」
私は手紙を丁寧に畳んだ。
三割増し。
今の私たちの懐事情を考えると、致命的な金額だ。
「……クラウス。次の街のターゲットは?」
「『伝説の武器屋』があるそうです。店主は偏屈なドワーフで、金持ち相手に法外な値段で武器を売りつけているとか」
「採用。そのドワーフから、妹の治療費(とフルーツ代)を絞り出すわよ」
私は拳を握りしめた。
待っててね、シルヴィア。お姉ちゃんが、イケメン医者の診療費も、高級フルーツも、全部送ってあげるから!
***
鉱山都市ガルド。
鉄と煤煙の匂いが立ち込めるこの街の一角に、その店はあった。
『頑固親父の武器屋』。
看板にはそう書いてあるが、店構えは要塞のように堅牢だ。
そして、その店のショーウィンドウに、一人の男が張り付いていた。
白銀の鎧を着た、聖騎士レオナルドだ。
「はあ……はあ……美しい……」
彼はウィンドウの中にある一本の剣を見つめ、荒い息を吐いている。
まるで恋人を見るような、熱っぽい視線だ。
「あら、レオナルド。何してるの?」
「お、お嬢様! 見てください、あれを!」
彼が指差したのは、黒光りする大剣だった。
「『竜殺し(ドラゴンスレイヤー)』の模造刀……いや、この輝きは本物か!? 素晴らしい……この重心のバランス、刃の紋様……芸術だ!」
「へえ。いくらなの?」
「非売品だそうです。店主が『この剣に見合う戦士にしか売らん』と」
レオナルドは悔しそうに拳を叩きつけた。
「私なら! 私ならあの剣を使いこなせるのに! なぜ売ってくれないんだ!」
「金がないからでしょ」
「うっ……」
私はニヤリと笑った。
カモだ。
いや、正確には「カモを釣るための餌」だ。
「ねえ、レオナルド。あの剣、欲しい?」
「ほ、欲しいです! 魂を売ってでも!」
「じゃあ、協力しなさい。私が交渉して、あの剣を手に入れてあげる」
「本当ですか!?」
「ええ。その代わり……」
私は彼の耳元で、悪魔の計画を囁いた。
「店主のドワーフを『攻略』するのよ。あんたのその『装備愛』と、私の『商才』でね」
カランコロン、とドアベルが鳴る。
私たちは店に入った。
カウンターの奥には、髭もじゃのドワーフが腕組みをして座っている。
「いらっしゃい。冷やかしなら帰んな」
「あら、ご挨拶ね。今日は『商談』に来たのよ」
私はカウンターに、一枚の紙を叩きつけた。
それは、妹シルヴィアからの請求書……ではなく、クラウスが偽造した『王都騎士団・公式装備発注書(偽)』だ。
「この騎士様に、最高の剣を見繕ってちょうだい。予算は……無制限よ」
ドワーフの目が、ギラリと光った。
勝負開始だ。
この偏屈親父の財布の紐を緩め、妹への仕送りを確保する。
それが、今日の私のミッションだ。
***
**【本日の営業報告】**
**文責:クラウス**
* **売上:** 0ゴールド
* **経費:** 偽造発注書作成費(紙代のみ)
* **獲得案件:** 伝説の武器屋・価格交渉案件
* **妹様への送金:** 未達(至急対応が必要)
**【クラウスの一言メモ】**
シルヴィア様の手紙、回を追うごとに要求金額が上がっております。
このままでは、お嬢様が破産するか、シルヴィア様が国を買うか、どちらかになりそうです。
(第九話 完)




