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新約・精霊眼の少女外伝~蒼玉の愛~  作者: みつまめ つぼみ
第5章:蒼玉の愛

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105.神との邂逅(1)

 お母様も部屋にやって来て、私の右目を確認していた。


 その口から、深いため息が出る。


「間違いなく、精霊眼ね」


 私はお母様を見上げて告げる。


「お母様と、同じ目になってしまったのでしょうか?」


「そういうことになるわね」


 お母様の左目も、色こそ違うけど『精霊眼』というらしい。


 宝石そのものの輝きをした、赤い瞳だ。


 お母様が私を見る微笑みは、なぜか弱々しいものだった。


「とにかく、まだもう少し寝ていなさい」


 と言って立ち上がり、部屋から出て行った。



 部屋に残された私は、改めて手鏡を覗き込んでいた。


 ――自慢の外見に、異物が混じった感覚。


 お母様も、こんな感じだったのかな。


 精霊眼は目を引く。そしてとても異質だ。


 この感情がまるで読み取れない瞳を、すぐに受け入れるのは難しいように思えた。


 手鏡をサイドテーブルに置いて、ため息をつく。


 三等級の魔力に加えて、外見すらハンデ付きか。


 まともなお嫁の貰い手、見つかるかな。


 私は肩を落として、途方に暮れていた。


 お母様とお父様は恋愛結婚だ。


 学生時代はモテていたとも聞く。


 まったく見つからない、ということはないはずだ。


 だけどそれは、『お母様の人間性』という前提があってこそだと思う。


 今でも多くの人から慕われるお母様と、同じだけの魅力なんて私にはない。


 私にも同じように相手が見つかるのか、それはまだわからなかった。


 私はベッドに身を放り出し、どさりと後ろに倒れ込んだ。


 こういう時は……やっぱり寝逃げよね。


 私は早々に意識を手放した。





****


 次に私が目覚めると、部屋にお昼の日差しが差し込んでいた。


 時計は二時前を指している。


 どうやら、かなりぐっすりと眠れたらしい。



 私はベッドサイドのハンドベルを鳴らし、サブリナを呼んだ。


 すぐにサブリナが姿を現し、私に告げる。


「お呼びでしょうか、お嬢様」


「お母様は書斎にいらっしゃるの?」


「はい、そのように伺っております」


 私はベッドから降りながら告げる。


「下に降りますわ。着替えたいの、手伝って頂戴」



 着替え終わった私は、サブリナを従えてお母様の書斎に向かった。


 扉は閉まっていて、ノックをすると中から返事があった。


 そのまま扉を開け、中に歩を進める。


「お母様、お聞きしたいことがあります」


 明るい笑顔でお母様が応える。


「丁度いいところに来たわ。

 伝えておきたいことがあるの」


 ソファに座るように促され、お母様の正面の席に腰を下ろす。


 お母様が告げる。


「ウルリケ、人払いを」


「かしこまりました、奥様」


 お母様付きの侍女ウルリケが、他の従者やサブリナと共に部屋から出て、扉を閉めた。


 なんで人払いをするんだろう?


 私が小首をかしげる中、室内には私とお母様だけになった。



 私が先に尋ねる。


「伝えたいこととは、いったいなんでしょうか」


 お母様がニコリと微笑んで応える。


「あなたには、神様に会ってもらいます」


 ……はい?


 私はおずおずとお母様に応える。


「あの、お母様? もう一度お願いします。

 少し耳がおかしいみたいで」


 お母様はゆっくりと、噛み砕くように言い直す。


「あなたには豊穣の神に在ってもらう、と言ったのよ」


 お母様、いつの間にか怪しい宗教に手を染めてしまったのかしら……。


 私はしばらく呆然としていたけど、すぐにお母様の説得を試みる。


「お母様、お気を確かにお持ちください。

 そのような神の名前は、聞いたことがありません。

 なにより『神に会う』など、荒唐無稽すぎます」


 お母様の笑みが、苦笑いに変わった。


「会えばわかるわ」


 そう言って、懐から一枚の葉っぱを取り出し、テーブルの上に置いた。


「これはあなたのための『(しるべ)』よ。

 大切に持っていて」


 私はテーブルの上から青々とした葉っぱを拾い上げ、じっと眺めた。


 これはトネリコの葉、かな。


 お母様が私に告げる。


「それを半分に()いて、片方をテーブルの上に置いて」


 私は戸惑いながらも、言われた通りに葉っぱを二つに()いた。


 そして片方をテーブルの上に置く。


 残りは私の右手の中にある。


「これでいいですか?」


 お母様は笑顔でうなずいた。


「ええ、いいわ。

 最後に私の手を握って、目をつぶって頂戴」


 そう言って、私に手を差し伸べてきた。


 ――いよいよ怪しい宗教の匂いが立ち込めてきた気がする。


 お母様、どうしてしまったの?


 だけど母親の命令だ。


 貴族令嬢は、両親の言葉に逆らってはいけない。


 私は言われた通り、左手でお母様の手を握り、目をつぶった。


 次の瞬間、ソファの感触がお尻の下から消えていた。


 私たちは、盛大にお尻を地面に打ち付けていた。


「痛っ! ――え?! ここ、どこ?!」


 辺りは真っ暗で、遠くからちゃぷちゃぷという水音が聞こえる。


 こんな場所、私は来たことがない。


 少なくとも屋敷の中に、こんな場所はない。


 お母様が恥ずかしそうに告げる。


「椅子に座って移動すると、こうなるのね。

 初めて知ったわ」


 軽やかな男性の笑い声が辺りに響いた。


「ハハハ! ヒルデガルトはドジだな!

 次からは、きちんと立って移動してくるといい」


 そちらに振り向くと、長い金髪を身にまとった、背の高い青年が近づいてくるところだった。


 その男性が差し出してくれた手を取り、私たちは立ち上がった。


 お母様は「そうするわ」と、バツが悪そうに告げた。


 私は男性にお礼を告げる。


「ありがとうございます」


「いや、大したことないよ。マリオン」


 あれ? 私、名乗ってないよね?


 私はお母様に振り向いて尋ねる。


「お知合いですか?」


 お母様は微笑んでうなずいた。


「ええ、そうよ。

 彼が『豊穣の神』、つまり神様なの」





****


 お母様は私の手を引き、男性と一緒に近くの洋館に移動した。


 中に入ると応接室に通され、指示されるままに私はソファに腰を下ろした。


 向かいの席に座った男性を、私はまじまじと観察した。


 この人が神様、ねぇ……。


 人間離れした美貌は男性的だけど、美しさの塊だった。


 どこを取っても美しい人だ。


 だけど服装はとてもラフで、まるで平民が休日に着るようなもの。


 でも髪の毛は透き通った柔らかい黄金のようだった。


 さっき聞いた笑い声も、惚れ惚れするくらいの美声だ。


 その存在が眩しすぎて、まるで男性が発光しているような錯覚さえ覚えた。


 ……『まるで』? いや、この人、実際にうっすら光ってないか?


 見つめれば見つめるほど、体全体が光っているように感じた。


 次第に、男性から強い魔力の波動を感じ始めた。


 それはまるで、真夏の太陽のような力強さ。


 燃え盛る力強い波動だ。


 その体の輝きと感じる魔力が、どんどん強まっていく。


 遂には右目を開けていられないほど、男性は眩く輝く光の塊に見えていた。


 まさに、太陽を見たかのように。


 その魔力はとっても重厚で濃密だ。


 その魔力に『押しつぶされるんじゃないか』って思うほど。


 なんて圧力なんだろう。この人はいったい、何者なの?


 『右目』を開けていられない――あれ? 『左目は』眩しくないぞ?


 混乱する私に、さっきから黙って私を見つめていた男性が告げる。


「眩しい物を見る時のように、目の感度を下げるんだ。

 ゆっくり、慣らしながら目を開けてごらん」


 私は言われた通り、ゆっくりと右目を開けていく。


 とっても眩しいけど、なんとか右目を半分だけ開けることができた。


 男性が再び告げる。


「上出来だ。そう、その調子でいい。

 慣れてくれば、それを瞬時にできるようになる。

 ヒルデガルトのようにね」


 お母様を見ると、私と同じようにしていた。


 左目が眩しい物を見る時のように、やや細められている。


「お母様、この神様とかいう人、とっても眩しいんですけど。

 神様なら眩しくないよう、お願いしてください」


 男性から軽やかな笑い声が上がった。


「ハハハ! すまない!

 これでも精一杯、力を抑えているんだ。

 これ以上は、私にも抑えられない」


 私は男性に振り向いて尋ねる。


「……もし全く力を抑えなかったら、どうなるんですか?」


「そうだね、目の前に居る君たちは、とっくに蒸発して消えてしまっていただろうね」


 なにそれこわい。


 お母様は黙って男性を見つめていた。


 男性は楽しそうに、私を見つめて居る。


 そして、二人が会話をする様子がない。


 ――どうしろっていうの?!


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