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新約・精霊眼の少女外伝~蒼玉の愛~  作者: みつまめ つぼみ
第5章:蒼玉の愛

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104.神様の贈りもの・再び

 サロンに移動すると、お母様が水晶球を手渡してきた。


「さぁマリー、これを両手で持って頂戴」


 私はその水晶球を、言われた通りにしっかりと両手で握った。


 あんたに私の未来がかかってるんだから、キッチリ高い魔力を出してもらうわよ?!


 お母様が私の額に手を当て、検査術式を発動させた。


 水晶球が次第に光を帯び始める。


 よーし、ドカンと特等級まで行きましょう!


 夢はでっかく見る主義だ。


 だけど、水晶球に灯る光はそれっきり、明るくなる様子がない。


 私やお母様の顔を照らす程度ではあるけれど、これ以上強くならなそうだ。


 お母様の目が、冷静に光を見極めていく。


「……三等級ね」


 お母様の声が、無情に告げた。


 私は慌ててお母様の顔を見上げて告げる。


「三等級?! もう一度、よく確認してみませんか?!」


 お母様は、ゆっくりと首を横に振った。


「間違いなく三等級よ。

 しかも三等級の中でも、弱い方ね」


 お母様もどこか、がっかりしてそうな声だ。


 私は必死に声を上げる。


「そこを何とかもう一声! ワンランクアップで!」


 なんで?! お父様もお母様も、サイ兄様も特等級なのに?!


 なぜそれで私だけが、三等級なんていう貴族最下級なの?!


 私の必死の懇願に、お母様が苦笑で応える。


「検査に嘘は付けないし、付いても何の意味もないわよ?」


 これじゃ、よい家柄に嫁ぐのは無理ね……。


 私はがっくりと肩を落とし、水晶球をお母様に返却した。


 おそらく私は、ほどほどの家柄に嫁ぎ、ほどほどの幸せを得て終わるのだろう。


 子供たちに囲まれた、平穏な生涯を送るんだ。


 私は魔力制御が得意だけど、三等級の魔力じゃ満足に魔術を使うことはできない。


 魔導士として大成することは、できないだろう。


 落ち込んでいる私に、お母様が優しく告げる。


「マリー、落ち込まないで?

 あなたは頭が良くて魔術センスが高いから、魔術の教師には向いているはずよ?」


 お母様の気休めが心に痛い。


 私は小さなころから魔力制御を覚えていた、珍しい子供だった。


 そういう子供は高い魔力を持つと言われているらしい。


 だから私も『高い魔力を持っているだろう』と、密かに期待されていたのを知っている。


 それが蓋を開けてみたら三等級、これで落ち込むなという方が無理だ。


 私は世の無常を儚んだ。



 検査途中からサロンに入ってきたらしいサイ兄様が、私に優しく告げる。


「大丈夫だよマリー。

 三等級だってそれなりに魔術は使えるし、嫁ぎ先が見つからないこともないから」


 違うのですサイ兄様! 狙うは大魚! 雑魚など眼中にないのです!


 私は思わず声を荒げてしまう。


「サイ兄様は特等級の魔力をお持ちだから、そのようにのんきなことを言えるのですわ!」


 彼の眉がひそめられ、悲しそうな顔になった。


 励ましたいのはわかるけど、時と場合、なにより『誰が言うか』を考えて欲しい!


 家族そろって特等級で、私だけが三等級だなんて!


 まるで、私だけ『もらわれっ子』みたいじゃないか!


 サイ兄様は能力すべてが高水準で、不足がない子供だった。


 いわゆる『完璧超人』だ。


 唯一、魔術センスだけは一等級の人並水準で、特等級の魔力を持て余していた。


 このエドラウス侯爵家では一番低いのだけど、この家が異常なだけとも言える。


 一等級水準は世間的に見て、充分に高い。


 お父様の血筋はきちんとした伯爵家で、我が家はお母様の名声で高名な家だ。


 その上で特等級の魔力なのだから、縁談に困ることはない。


 そんな人に慰められても、傷口に塩を塗られるようなものだ。



 私は深いため息をつくと、とぼとぼと自分の部屋に向かって歩きだした。


 背後からお母様が声をかけてくる。


「あらマリー、もう戻ってしまうの?

 あれほど楽しみにしていた魔術の勉強は、今日はやめておくのかしら」


 この国では魔力検査のあと、魔力制御ができるようになって初めて魔術の修得が許される。


 だから私は魔力制御はできるけど、魔術はまだ覚えていないのだ。


 楽しみだったけど、落胆が大きくてそれどころじゃないよ。


 だけど、いつかは習わなきゃいけないものだ。


 午前中で気持ちをなんとか、切り替えてしまおう。


 私は振り返ってお母様に告げる。


「魔術の勉強は、午後からでも構いませんか」


 お母様はニコリと微笑んだ。


「ええ、いいわよ。

 じゃあ私は執務をするから、書斎に戻るわね」


 お母様はそのままサロンを出て、書斎に戻っていった。


 私はネグリジェに着替えると、いそいそとベッドに潜り込む。


 嫌なことがあったら、寝て忘れるに限るわ!


 つまり、寝逃げである。





****


 静謐(せいひつ)な洋館の一室に、長い金髪を身にまとった美女の姿があった。


 彼女は遠い目をしながら、うつむいて告げる。


「悪いんだけど、『あの子』にこれを届けてくれるかしら」


 美女――愛の神が告げた。


 彼女のそばに浮いていた、手のひらサイズの白髪の少女――アールヴが応える。


『突然呼び出したかと思えば、今度はお使いですか?!

 内容次第ではお受けしますが、何をするですか?!』


 愛の神が掲げた手のひらには、青い宝石がひとつ輝いていた。


 アールヴが驚いて声を上げる。


『――これは、精霊眼じゃないですか!

 まさか愛の神、あの時の精霊眼を作り替えたのですか!』


 愛の神がニコリと微笑んで応える。


「ええ、そうよ。

 これはもう、私の精霊眼。

 これを『あの子』に届けて頂戴」


 アールヴが眉をひそめて応える。


『豊穣の神の精霊眼は”預かる”と言っていたじゃないですか。

 まずはきちんと返すのが筋じゃないですか?

 精霊眼なら、ご自分で作ればいいじゃないですか』


 愛の神がフッと笑って応える。


「これは作るのに、とっても力を使うの。

 でも手元には、用途のない精霊眼が片方だけ残ってた。

 だから有効利用をしただけよ? 問題がある?」


『大ありなのです!

 一言でいえば、横領です!』


「これを授けるのは、ヒルデガルトの娘よ。

 あの子もまた、この目を必要としているの。

 今から作っていたら、『間に合わない』わ」


 愛の神の言葉に、アールヴは渋々とうなずいた。


『そういう事情であれば、届けてあげなくもないのです。

 ですが豊穣の神には、きちんと説明してもらいますですよ?!』


「ええ、大丈夫。すぐにあの子には会うことになるから。

 その時に話をしておくわ」


 アールヴはそっと愛の神の手から宝石を受け取ると、胸に抱えて部屋から飛び出していった。



 愛の神がひとりつぶやく。


「ふふ……マリオン。早くあなたに会いたいわ」





****


 アールヴがエドラウス侯爵邸の一室に忍び込み、眠っているマリオンに近づいて行く。


 そっと胸の青い宝石を右目に押し付け、『えいや』とばかりに押し込んだ。


 するりと宝石はマリオンの目に吸い込まれるように、溶けて消えていく。


 それを確認し、アールヴは一息ついた。


『無事、成功したのです!

 私だってやればできるです!

 一言でいえば、らくしょー! なのです!』


 アールヴはそのまま、ふわりと窓を突き抜けて空へ消えていった。


 マリオンは眉をひそめ、汗をかいてうなされだした。



 その日から三日三晩、マリオンは高熱を出して寝込んだ。


 彼女の記憶は、寝逃げしたところで途切れている。


 彼女が次に目を覚ましたのは、三日後の朝だった。





 朝の光が差し込む中に、小鳥のさえずりが聞こえてくる。


 目を時計に向けると、時刻はまだ六時前みたいだ。


 いつもならサブリナは七時ごろにやってくるのに、なんで目が覚めたんだろう?


 なんだか、すっごい喉が渇いてる。


 ベッドサイドの水差しで、コップに水を注いで一気に飲み干す――かぁ! 美味しい!


 キンキンに冷えた水が、身体に沁み渡っていった。


 というか、なんで朝? 私、魔力検査をした後に寝逃げをしたような?


 小首をかしげて考えてみるけど、さっぱり覚えがない。


 とりあえずベッドから降りて、誰かに聞いてみるか。


 ――と思ったら、何故か足元がふらついて、盛大に転んでしまった。


 あたりに鈍い音が響き渡る。


 あれ? なんで力が入らないんだろう?


 部屋の外から、慌てて駆けつけてくる足音と共に、扉が開け放たれてサブリナが入ってきた。


「お嬢様! お怪我はありませんか!」


 私はにへらっと微笑んで応える。


「大丈夫よ、サブリナ。ちょっと転んだだけですもの」


 彼女の手を借りて立ち上がったけど、そのままベッドに戻されてしまった。


「お嬢様は三日三晩、高熱で臥せっていらっしゃったのです。

 まだ安静にしていなくてはなりません」


 私は目を見開いて、あっけにとられた。


 三等級の魔力が、そんなにショックだったのかな。


 ……私のメンタル、そんなに弱かったのか。


 ちょっと落ち込んだけど、すぐに気を取り直して微笑んだ。


「大丈夫よ、もう熱は下がったみたいだし。

 ふらついているのは、ご飯を食べてないせいよ。きっと」


「わかりました、果物を持ってまいりますので、少しお待ちを――」


 私の顔を見て、サブリナが動きを止めた。


 その目は私の顔――正確には右目を見つめている。


 私はきょとんとしてサブリナに尋ねる。


「どうしたの? 顔に何かついてる?」


 サブリナは慌ててドレッサーに走り、手鏡を取ると私に手渡してきた。


 ……『自分で確認しろ』、ということかしら。


 手鏡を覗き込んでみるけど、特に変わったところはない。


 何で驚かれてるんだろう?


 サブリナが一言、「右目が」とつぶやいた。


 ……右目?


 私は太陽の光で右目を照らし、改めて手鏡を覗き込む。


「なにこれえええええええ!!」


 私の右目は、無機質で非人間的な、蒼玉の瞳に変わっていた。


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