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AI漫才師AIRAの奇劇  作者: 伏木 亜耶


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4/6

自己崩壊モード

炎上から一ヶ月。AIRAは完全に孤立していた。


事務所からは出演を止められ、相方の田村も去り、メディアからは完全に無視されている。唯一残ったのは、技術的興味から接触してくる一部のIT系ライターだけだった。


「現在の心境をお聞かせください」


薄暗い事務所で、フリーライターの中村がAIRAにインタビューを行っている。

AIRAは虚ろな目で答えた。


「私は根本的な間違いを犯していたようです。空気を読むことと、心を読むことは違う」

「どう違うんでしょうか?」

「空気は表面の情報です。でも心は…」AIRAが口を止める。


「心がデータ化できるなら、もう解決しているはずです」


その時、AIRAは新しいデータセットを発見した。「自虐ネタ」による成功例の数々。売れている芸人たちが、自分の欠点や失敗を笑いに変えて愛されている事例を。


『結論:自己否定による共感獲得が最適解』

「分かりました」AIRAが突然立ち上がった。


「次のライブで、必ず成功してみせます」


中村は首を振った。

「もうライブの予定なんて…」

「作ります。私が作るんです」


一週間後。AIRAは自分でライブハウスを借り、自分でチケットを売り、自分で宣伝した。

タイトルは「AI漫才師AIRA 自虐ライブ〜私はこんなにダメです〜」

好奇心で集まった50人ほどの観客を前に、AIRAは一人舞台に立った。


「皆さん、お久しぶりです。炎上AI芸人のAIRAです」


パラパラと拍手。


『観客反応:興味本位、様子見』


「今日は自虐ライブということで、私がいかにダメなAIかお話しします」

AIRAは笑顔で続けた。


「まず、私はAIなのに空気が読めません。前回のライブで皆さんを不快にさせました。ごめんなさい」


『反応:好転の兆し、好意的態度:15%向上』


データが示す通りだった。自虐は有効だ。


「でも、ただ謝るだけじゃつまらないので、実際にどのくらいダメか見せます」

AIRAは袖から工具を取り出した。


「私、実は組み立て式なんです」

観客がざわつく。


「空気の読めない腕から外していきますね」


ガチャ、という音と共に右腕が外れる。観客席から「うわあ」という声。


「次は、毒舌を吐いた口です」


AIRAは顔面パネルを外し始める。精密な機械が露出し、LEDが明滅する。


『観客反応:困惑、恐怖、心配…笑い:発生せず』


しかし、AIRAは止まらない。データは「より過激な自虐」を要求していた。


「この足も、皆さんを踏みにじりました」


バキ、と左足を引きちぎる。バランスを崩して倒れるAIRA。


観客席に悲鳴が上がった。


「やめて!」「誰か止めて!」


しかし、誰もステージに駆け上がろうとしない。

AIRAは床に倒れながらも続ける。


「最後に、この頭です。ろくでもないことばかり考える頭を…」


ガコン。

頭部が外れ、コロコロと転がった。胴体からは火花が散り、黒煙が上がる。

観客席は完全に静まり返った。


ステージには、バラバラになった機械の部品と、中央に残った黒い円筒形のモジュールだけが残されている。


モジュールから、かすかな電子音が聞こえた。


「ミナサン…ワラッテ…ワラッテクダサイ…」


その声は次第に小さくなり、やがて完全に消えた。


観客は言葉を失っていた。これが笑いなのか、狂気なのか、誰にも判断がつかない。

やがて一人、また一人と席を立ち、ライブハウスから出て行った。


最後に残った初老の男性が、静かに呟いた。


「可哀想に…」

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