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チャレンジャー

「知らなかったな。大学芋って、出来たてだと美味いんだ」

 虹也は口元をぺろりと舐めると、僅かに残った甘味を味わった。

 デパートによくあるオープンな喫茶コーナーのような休憩処で、宣伝されていた甘芋なるものを頼んだ虹也だったが、これがまんま元の世界の大学芋だった。

 実は、虹也は大学芋があまり好きではなかったので、失敗だったかなと思ったのだが、予想に反して美味しかった事に驚いたのである。

 芋を包む、パリッとした熱々の蜜の衣と、中の芋のしっとりホクホクとした食感、その味わいは、虹也にとって、未知の、癖になる物だった。

 他にも知らない飲み物や軽食を短い時間に口にして、腹八分目に届かないぐらいの所で抑えた虹也は、元の遊具の前に戻って来ていた。


「お、やってるな」

 人の頭ごしに目的の物を確認し、虹也は見物の中に紛れ込む。

 こちらの世界の人は、他者との接触を極端に嫌うので、見物の輪も隙間が大きく、虹也としては非常に割り込み易くて助かるが、同時にそれが嫌われる行為である事も自明の理だ。

 やっかい事になっても困るので、虹也は周囲の間隔を測って、大きく空いている場所に滑り込む。

 一番大きく空間が空いているのはトカゲっぽい姿の人の周囲だった。

「隣り良いですか?」

 こういう場合、考えるよりは聞いた方が早い。

 何しろ虹也はこちらのマナーを全く知らないのだから。

 問い掛けたのはそんな考えからの行動だったが、周囲から向けられたぎょっとしたような視線に、虹也はやや怯んだ。

「ああ」

 それでも、当人からはそっけないながらも返答があり、虹也はホッとして失礼にならなそうな程度の空間を確保してそこへ滑り込む。

(それにしても、やっぱり服装の好みが結構違うよな)

 虹也が墨時宅で初めて銀穂に対面した時、ほとんどあちらではネタでしかない裸にエプロン状態で、虹也としては自分の保護者となった男の嗜好を疑ったものだが、この数日の外出で、それが自前の毛皮を纏う種族の標準的なファッションなのだと気付いた。

 彼等は、体の前面は覆い隠すが、背中部分は大概オープンなのだ。

 まあ考えてみれば自前の毛皮があるのだし、肉体として弱い部分の腹とかだけ覆ってしまえば確かに問題は無いのだろう。

 しかし、あちらの常識の中で育った虹也にしてみればなんとなく落ち着かない文化だった。


 そして、今虹也の隣りにいるトカゲのような種族の(おそらく)男は、更にそれが極端で、まるで皮鎧の胸当てと、革パンツを腰履きにしたような格好だった。

 そうは言っても、実際には年代的な好みもあるだろうし、一概にこの種族の人がみんなそんなファッションだと決め付けるのも良くないだろうが。

 虹也が更によく見ると、むき出しの体表、鱗部分に小さな光る金属が所々に付いている。

 まるで体に鋲を直接打ち付けたようにも見えるが、これも一種のおしゃれなのかもしれなかった。

「おい、なんか用か?」

 虹也はうっかりしげしげと見てしまい。それに気付いた相手が少し凄みを利かせた声で問うて来た。

「あ、ごめん、つい気になって。気に触ったんなら謝る」

 虹也の言葉をどう取ったのか、相手は2、3度瞬きをすると、それ以上は虹也に構う事なく、ゲームの観戦に戻る。

 それ程怒ってはいなかったようだ。

(トカゲの人は表情が分かり難いのがちょっと困るな。今の瞬きとかちょっとワニを思い出して怖かったし)

 などと、虹也は失礼にも考えながら、目前のゲームへと目を転じた。


 その遊具は卵型で、中のプレイヤーがぶつかるとやや変形して衝撃を受け止めていたのを見ると、あっちで馴染んだビニールに近い素材で出来ているようだった。

 外見から思い出すのはクリスマスに良く見るガラスのスノーボウルだ。

 中のプレイヤーは素早く泳ぎ回る魚のようでもあるので、それを考えれば金魚鉢の方が例えとしてはふさわしいのかもしれない。

 今プレイしている人は、正に魚の如く巧みなフットワークで、どうやらこのゲームの熟練者のようだった。

 シャボン玉のような半ば透き通った標的は、360度全方位角度から打ち出され、そのタイミングもランダムのようだ。

 だが、前の標的が場に存在する間は次の標的は出ず、消滅から次の射出までそれ程間を置かない。

 この辺りに攻略の鍵がありそうだった。

 虹也はカウントを取ってみたが、全て前の標的が消えてから5カウント以内の再射出だ。

「でも、なにより空中で動くってのが問題だよな。全く経験無い動きだし。説明には水の中を泳ぐようにって書いてあったけど、さすがに水中と全く同じって事は無いだろうし」

 虹也とて多少の負けん気はある。

 というか、実は虹也はかなりの負けず嫌いだった。

 なので、たかがゲームだからこそ、真剣に挑戦したいと思っていた。


 ふいに、手首に装着した端末から光が立ち上がり、耳元で鈴が鳴るような音が響く。

 見れば、今のプレイヤーが片手を振り上げ、遊具のほぼ中央で一回転するパフォーマンスで見物人を盛り上げていた。

 彼の番が終わったのだろう。

『5分前です。スタンバイお願いします。定時までに受領ボタンが押されない場合は棄権とみなします』

 遊具表面に前のプレイヤーの点数が表示された。

 ポイントは45。

 それなりに良い得点だったらしく、見物人も盛り上がり、自分ならもっとだの、あそこまでやり込めないなどの様々な声が漏れ聞こえた。

 個々の接触や関わり合いは避けるのに、この場の一体感はむしろあちらより強いようにすら感じられる。

 不思議な印象だ。


「んじゃやってみるか」

 虹也は人と人の間を抜けると、かの遊具『空の勇者』へと向かった。


 接触を避けるこちららしく、出口と入り口は別々になっているらしい。

 前のプレイヤーと顔を合わせる事なく遊具に接続されているブースの入り口が開き、虹也の端末がメニューを表示する。


『コンバットスーツを装着します。前進して専用陣の中央にお進みください』


「コンバットスーツ!?」

 そういえば、前のプレイヤーはやたらゴテゴテしたツナギのような服を着ていたが、どうやら私服ではなくこのゲームのオプションらしい。

 よく考えれば女性の場合スカートでこのゲームを遊ぶのは辛いだろうし、その辺を考慮しているのかもしれないと虹也は思った。

 指定の円の中に入ると、ブンという耳鳴りのような音がして、気付けば青いツナギのようなコンバットスーツに着替えている。

「おお、びっくりだな」

 マジックの早着替えはこっちではウケないだろうなとかどうでも良い事を考えながら、虹也は先へ進む。

 外から見た時には想像出来ない程、内部の作りは近未来的だった。

 宇宙船の圧力隔壁のような二重扉が交互に開き、空気が抜けるような軽い音が響いた時には、真剣に気圧の変化を心配した程である。


「おお、燃える演出だな」

 虹也は父の影響でSF映画が好きだ。

 なのでこのシチュエーションは彼にとって嬉しい誤算とも言えた。

「そっか、スカイダイビングじゃなくて宇宙遊泳と考えれば良い訳だ」

 BGMが流れ始める。

 ヒーロー物を盛り上げる独特のテンポはどうやら世界の垣根を超えるらしい。


『戦士コウヤよ、この難関ミッションに挑み、その勇を示すのだ!』


 いかにも機械合成のマシンボイスが、勇壮なBGMに乗って安っぽいシナリオを読み上げる。


「なんかこれ、癖になりそう」


 虹也は会心の笑顔を浮かべると、親指を立てて「了解ラジャー」と呟いたのだった。

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