やってみなければ分からない事だらけ
「で、結局行ってみるのか?お前の今の立場は仮にでも保護されるべき臣民だし、この要請はあくまでも要望であって強制力は一切無い。断る事も出来るんだぞ?」
墨時の口調はいつになく優しげで、どこか迷いが感じられた。
「でも飛び込まなければ分からない事だってあるからね。おっさんもさ、こうやって改まって話しをするって事は俺が行くって思っててなんか準備しようとしてるんだろ?」
「こいつめ」
ち、とわざとらしく舌を鳴らしてみせると、墨時はニヤリと不敵に笑った。
「行く行かないはともかくとして、まずは十三年前の事件の背景というか、お前の置かれてる立場ってやつを把握しておく必要があるだろ?本当は自分で思い出した方が良いんだろうが、分からないままむやみに行動すれば危険だし、お前だって知らないままじゃ判断に迷う場合もあるだろうしな、とりあえずそう多くはないかもしれんが、俺の知る限りの情報を渡しておくぞ」
「分かった」
虹也は深く頷いた。
「まず事の起こった氏族の立場を説明する。その氏族は『読み手』の一族と呼ばれている。この国の二柱の片方の一族でもある」
「二柱?」
「ああ、玉帝と明鏡のふた柱がこの国の支柱なんだ。で、この明鏡というのが読み手の長を示す」
「ええっと、よく分からないんだけど、普通柱とかって神様を数える時に使うと思うんだけど、こっちでもそうなのかな?」
「ああ、そういうのもあるな。だがもうひとつの意味合いがこの場合は本意かな?この国の魔術的支柱であるという事だ」
「魔術的支柱?」
「そうだ。まぁいっぺんに何もかもはキツイだろうから順を追って説明するぞ?」
墨時はそこで一息吐くと、文机の上にある作り付けの棚から本を一冊引き出した。
その表紙には史科と美しい飾り文字で書かれていて、歳月と、決してそれのみではない扱いの悪さによっての傷みでかなりくたびれていた。
おそらく古書店でも買い取りを断られるレベルだろう。
「あー、これはおれが初等生だった頃に使っていた教科書なんだが」
「駄目、却下」
虹也は決然とした口調で断言した。
「いきなりなにがだ!?」
「意外性がない。却下」
「お前な!意外性とかどうでも良いだろうが」
「今はこうだけど昔は違って優等生だったんだよ的なものが欲しいのに」
「知らんわ!ってかお前俺をどう思ってるんだ?」
「それで、教科書がどうしたんだ?」
「……お前は全く」
ぼやきながら墨時は教科書を開き、ページを繰って確認する。
途中でその手を止めて、開いた部分を虹也に示してみせた。
「うちの国は余所の国からは龍骨国またはただ龍国と呼ばれているが、この国の人間は自分の国を龍護の国、自らを龍護の民と呼ぶ。それは建国神話のせいだ」
墨時の示すページには影絵のような絵柄で綴られた絵物語が描かれていた。
「その昔、天地世界を砕かんと闇より暗き星振り注ぐ。人は皆、終わりを嘆き愛する者と手を取り合った。しかして天に古き龍ありて、その身もて闇を退く」
読み上げられたページがぺらりと繰られる。
「力尽き墜ちし龍は内海に沈み、新たな大地を生まん。だがその屍狙いし者また後を絶たず、救われし我らそを守りてその大地を封ぜん」
絵物語はそこで一応の終着となった。
最後の図柄は横たわる龍を中心に、左右に立つ男女だ。
「それが建国神話?」
虹也はその物語を目で辿りながら、これを父が聞いたら喜びそうだなと思った。
父は主に民具や玩具などを元に人の生活の歴史を研究していたが、民話や神話にも興味を持っていた。
虹也自身、冒険者クラブでは自分達で測量した地域地図を作成した時に、それに併せて地元の昔話を収集して添付したぐらいには興味がある。
長い年月を語り継がれる話には、その土地の“色”が乗るものだ。
建国神話ともなれば更にそれが顕著となる。
いや、むしろ敢えて色付けされていると考えるべきだろう。
一つには王の正当性、一つには貴族の権利、そして国としての在り方。
建国神話という物にはそれらを満たす為の物が必ず付属されていると考えても良い。
「この術を施し維持しているのが帝であり、それを助けているのが鏡って訳だ」
「えっと、それって、この神話が事実を伝えているって話なのかな?」
疑問を感じた虹也は、墨時の説明にやや被せるように聞いた。
当の墨時は、虚を突かれたように虹也の顔を見る。
「いや、いくらなんでもまんまそうだとは思っちゃいないが、完全に違うって訳でも無いと思うぞ。実際今でも我が国じゃ三千尺を越える掘削は固く禁じられているしな」
「そうなんだ」
虹也は自分がこの世界の常識について詳しくない事は自覚しているので、神話の真偽についてはひとまず置いておく事にした。
今問題なのは話に出て来た明鏡という物についてだ。
玉帝、明鏡とくれば日本人としての虹也にはなんとなく頭に浮かぶ物がある。
いわゆる三種の神器というものだ。後は剣があれば完璧だろう。
二つの世界が歴史的にも深い関わりを持っていた事は調べて分かっているので、おそらく何か意味があるのだろうが、今はそれは余分な話ではある。
好奇心は刺激されるが、とにかく目前の問題が先だ。
今の話を纏めると、虹也の元々の身元はこの国のツートップの片方の一族だと告げられたに等しい。いや、等しいではなく、告げられたのだろう。
虹也自身の心情的な問題はともかくとしてそれはそういう事なのだ。
「だけどさ、俺の記憶にある限りそれらしい暮らしはしてなかった気がするんだ。確かに家は少し大きめだったような感じはするけどかすかな記憶の中では姉様……っと、じゃなくて、姉と俺はほとんど二人切りで暮らしていたようだったし、偶然同じ時期に火事があっただけで、それは全然別の話なんじゃないか?」
実際国中でその日は火事が一件だけという方がおかしい話だ。
しかし虹也の反論に墨時は笑った。
「お前の気持ちは分からなくは無い。俺だって突然お前は氏族のお偉いさんだとか言われたら否定するしな。だがな、実はまだ根拠があるんだ、困った事に」
墨時の言葉に虹也は疲れたように笑った。
「あのさ、おっさん、情報を小出しにするの、止めようぜ。それとも俺を振り回して面白がってる?」
「いや、そういうつもりじゃないんだが、すまなかったな」
墨時はバツが悪そうに頭を掻くと、続けて説明した。
「そのだな、お前の発見された場所なんだが、実はその事件の跡地なんだ。今じゃ封鎖域になっている。な」
言われて、虹也はあの満月の夜の事を思い出した。
月の光によって出来た黒々とした影、木々のざわめく音に絡め取られるような不安を感じた事が今更のように蘇る。
十三年前あの場所に自分が暮らしていた等とは虹也としては俄には信じられなかった。
ただの広場と虹也が判断した程、あそこには何も無かったのである。
あるのは不自然に明るい夜に浮かび上がるくっきりとした影だけだった。
虹也にすれば、それもどうにも実感の湧かない根拠であったが、確かにその場所がそうだと言われれば、無関係と言い張るのも却っておかしいだろう。
「あ、そうだ、それで思い出したけど、あそこの地名を教えといてくれよ。あの時の警官さん、じゃなかった、ええと警羅の人?に、お礼言いに行く時に住所分からないと困るし」
墨時は虹也の言葉に噴き出すと「こんな時に緊張感の無い奴だな」と後で地名を記したメモを渡す約束をしたのだった。
「根拠が有り過ぎるのは分かったけどさ、具体的にはとにかく相手に会うしかないよね」
結局の所、虹也はそう結論付けた。
国がどうこうという話は取り敢えず無視するとして、過去にまつわる物事を何もかも見ずに済ます訳にはいかないのだと虹也自身も理解はしている。
「まあお前の身元については一応頭に入っていれば良いさ。ここで問題になるのは、氏族関係のお屋敷なんかには必ず結界が張ってあるって事だ。これがあると普通の通信手段は使えない」
墨時の言葉は虹也には今一ピンと来なかった。
いわゆるバリアーみたいな物かな?と思いはするのだが、アニメや漫画とかで知識として知ってはいても、現実にそれがどう作用するのかなど考えた事もないからである。
「ふ~んそうなんだ。確かにいざって時は不安だな」
なのであまり熱の篭らないおざなりな返答になった。
しかし、墨時は構わずに説明を続ける。
「そこでだ。お前ちょっと元符を預けてみ?」
「ん?」
よく分からないながらも、虹也は素直に自分のカードを手から剥がすと墨時に渡す。
「どうすんの?」
興味と困惑のない混ぜになった虹也の視線の先で、墨時はポケットから一枚別のカードを取り出すと、それを左の手のひらに置いた。
なぜ手の平かと言えば、手の甲には例の捜査官として装備している術紋印が有るので、その場所を避けたのだろう。さすがに虹也にもその辺は理解出来るようになった。
見る内に、たちまち手のひらに吸い込まれるように張り付いて消えたカードは、知ってはいてもやはり幻想的な光景で、虹也の感覚では手品じみた何かを見ているようだ。
そして、ふわりと、携帯の待受画面と同じようなものらしい繊細な模様が宙空に浮かぶ。
そこにあるのは、虹也の持つカードと同じ模様だ。おそらく初期設定から弄ってないのだろう。
墨時がその待受画像に指を滑らせると、そこから湧き上がるように別の模様が表れた。
丸い円の中に細かい図柄と意匠化された文字のような物が見える。
それは、今まで既にいくつか術紋という物を見てきた虹也の目には酷く雑で無骨な物に見えた。
「ん、と、ここを同調してっと、……コウ、ここを上に上げてこっちの記述式を誘導してくれ、内部操作は本人波形じゃないと受け付けないからな」
墨時が行おうとしているのはどうもパソコンで言うところのシステムの書き換えなのではないかと推測した虹也は、その操作を実行する前に説明を求める事にした。
「何をしようとしてる訳?」
「別に難しい事じゃない。緊急連絡が出来るようにちょいと項目を追加するだけだ」
「緊急連絡?でもその結界とかがある所だと通信無理なんだろ?それってあんまり意味無いんじゃ?」
「だから、結界内から発信可能な仕組みなんだよ。と言っても一方通行だが、無いよりはマシだろ」
墨時の言葉に虹也はしばし考えた。
通信を妨害するという事は、結界というバリアーのような物はなんらかの手段で空間を遮断する技術であるのだろう。
だから電波(?)がそこを通過出来ず通信系が死ぬ。
しかし、墨時に利用出来るような漏れがあるというのなら、それはセキュリティとして役に立つのだろうか?という疑問が出て来る。
何しろ墨時はどう見ても頭脳派には見えないし、そんな相手に突破されるのは安全性とか信頼という部分で駄目だろうと虹也は思うのだ。
そもそも偉いさんのセキュリティを勝手に破る(?)のは、法の番人としてはいかがなものか。
「ちょっと確認するけどさ、それってヤバい方法じゃないよな?」
「ヤバいってなんだ?まあ大体分かるが」
「分かるんだ?」
「そりゃ雰囲気で分かるだろ。違法じゃないか?って心配なんだろ」
「まあはっきりと言ってしまえばそういう話だ」
虹也のその問いに、墨時は時々見せる、どこかワルぶったいたずら小僧のような笑みを浮かべた。
「ん―?何の事だか?」
あからさますぎるぐらいにあからさまにしらばっくれる。
虹也はふうと溜め息を吐いた。
いくらあからさまでも墨時が認めなければ虹也に合法違法の判断が出来るはずもない。
これは、おそらく墨時は、もしバレたとしても知らぬ存ぜぬで通すつもりなのだと理解したのだ。
「良いのかよ。おっさん一応法を守る立場なんだろ?」
「法?なにいってんだコウ?」
墨時の返事に、虹也は一瞬、この国では法という呼び方じゃなかったのか?と考えたが、続く言葉に思考がフリーズした。
「俺が守るのは人だよ」
(うわあ)
よくも恥ずかしげもなく、と言う言葉が虹也の脳裏を巡ったが、それはしかし、これまでの僅かな間に示した墨時という男にあまりにもぴたりと当て嵌まる言葉でもある。
この世界のどんな異形な見掛けの“人”よりも、墨時という男はある意味絶対の稀少種なのではないか?と虹也は疑惑を抱いたのだった。
話し合いが終わって、二人が寝室に引っ込んだ後、虹也は心配してくれていた誠士に連絡をする事にした。
虹也の元符と呼ばれる国民証兼携帯には何か怪しげな機能を追加されたようなのだが、普通に使うのに支障は無いようで、取り立てて操作に違和感は無い。
「そっか、それで身元を知ってるかもしれないという相手とは結局会う事にしたんだ?」
「ああ、取り敢えず保護者のおっさん……じゃなかった、捜査官が全面的にバックアップしてくれるらしいし」
「バックアップ?」
「あ、ああ、ええっと、何かあったら助けてくれるって事」
「なるほど。それなら安心だな。んでいつになるんだ?」
「今度の新月だそうだよ」
「新月か、意味深だな」
虹也は誠士のその言葉に首を傾げた。
「意味深?」
「あー虹也、もしや月と魔気の関係とか分かって無い?」
「月と魔気の関係というと?」
問い返しながら、一方で虹也はそういえばと思い出していた。
彼が最初に出会った警羅の人がなにやらそんな話しをしていたような気がしたのだ。
「月の光ってのはほら太陽の光を反射してるだろ?」
「ああうん」
「それって要するに異なる物同士の接触だよな」
「そうだな」
いまいち分からない様子の虹也に、それでも誠士は根気良く説明を続けた。
「異なる存在が接触するとそこに魔気が生まれる。つまり月の光ってのは魔気の塊でもあるんだ。そういう訳で、満月にはあらゆる魔に関わるモノが活性化するのさ」
「そういえば満月の夜に出歩くなら護符が必要だって言われたよ」
「そそ、今は市街地とかは守護の仕掛けが色々施してあるから昔程じゃないらしいけどさ、今でも満月には実際に暗鬼に捕り殺されたり、満月のせいで本能が暴走した人食いの種族に襲われたり、魔力の活性化した獣に食われたりする事故が耐えないからな」
その話しのほとんどは虹也には到底理解出来ない事例だったが、征士の言いたいのは、死に直面する危険があるという事であるのは理解できた。
そうやって考えれば、虹也が向こうの世界からこっちに渡ったあの時に、よくも死ななかったものだと我が事ながら逆に感心するぐらいだ。
「分からないなりに満月がかなり危険っぽいのは理解した」
「ったく、お前の住んでたとこはよっぽど厳重に結界張ってたんだな。もしかしたら内部では魔術自体が発現しない規模なんじゃないか?……ん?ああ、だから魔気技術関係を全然知らないんだよな。そうか。そっから考えると、虹也が育ったのって排魔主義の集落かなんかだったのかもしれないな」
「排魔主義ってどういう人達なんだ?」
「ほら、俺ら仲間族って種族的に魔法使えないだろ?」
「ええっと、稀に使える人が生まれるだけなんだよね。今の氏族っていうのがそういう人の特質を保持して受け継いだ一族で」
「ああ、だから仲間族には魔法や魔術は必要ない。更にはもっと過激に、害悪そのものである。って主義の人達もいるって話を聞いた事があるのさ。まあ尤も魔気がなきゃその人達だってやっぱり生きていかれないんだから、全てを否定するってのは無理があるんじゃないかとは思うんだけどな。とと、でもまあ、特殊な考え方も飲み込むのが俺の目指す場所だし、こういう批判じみた言い方は良くないよな。理解する努力はしないとな」
「何もかもを理解しようとするのはさ、人には無理なんじゃないか?例え理解出来ない異質なものでもそれを否定せずに尊重すれば良いだけなんじゃないかと俺は思うんだ。……って、俺なんか全然知らない事ばっかりのくせに、偉そうに言って悪い」
「いやいや、虹也の言う通りだよ。血の繋がった妹だって理解出来ないんだから、ましてや他人を理解しようとするのは傲慢かもしれないよな。うん、虹也はやっぱ良い事言うぜ」
まるで長年の友人のようなセリフを吐かれて、虹也はどこか困惑したようなあははという軽い笑い声を上げた。
そして、ふと、全く違う内容だが、以前後輩と似たような言葉を交わした事があったのを思い出す。
『先輩、俺さ、福祉介護の仕事しようと思うんだけどさ』
『え?お前が?エロゲマスターとかはっちゃけてたのに、……そうか、人って成長するんだな。俺は今、猛烈に感動している』
『先輩……いや、良いんです、なんとでも言ってください。それにエロゲは正義ですからね!そもそもは先輩が連れてってくれた老人介護施設がきっかけなんですよ!』
『ああ、お年寄りに土地に伝わるむかし話を聞きに行くぞツアーか』
『そうです。あの時、俺感じたんです。俺の一生の仕事はこれだ!って。それで親父に話したら、お前にそんな地道な仕事が出来る訳が無いだろう、仕事を軽く考えるな!って怒るんですよ、信じられますか?普通そこは褒めるべきところだと思いません?』
『そりゃあ親父さんはお前を生まれた時から見てる訳だしなあ』
『ちょ、やめてくださいよ、先輩までにそう言われたらホント、自信が無くなってしまいますよ?』
『あはは、冗談だよ。お前って本当は結構真面目で優しいし、根気があるじゃないか、俺は案外向いてると思うな』
『そうでしょう!さすが先輩は格が違った!』
『お調子者な所は減点だが』
『おうふ、って真面目な話、実は俺も不安が無い訳じゃないんです。介護って人の弱い部分を支える仕事じゃないですか?俺ってほらこの調子だし、本当に大丈夫なのかな?って』
『そうか、真剣なんだな。凄いじゃないか』
『凄いですか?』
『誰だって失敗もすれば間違いもするだろ?だけどそれをちゃんと受け止めて何かをやり遂げようとするなら、どんな形であろうと道は開けるものなんだって、これはうちの父さんの受け売りだけどね』
『おお、先輩のお父さんカッコイイですよね!渋いロマンスグレーで』
『なあ、お前、実はお年寄りフェチ?……うちの家族の危険が危ないからもううちに出入りすんな』
『ぎゃあああ!なんて事を!違いますよ!俺は若くて可愛い巨乳ちゃんが大好きなんですって!』
『そんな恥ずかしい事を大声で叫ぶな、教育的指導を実行するぞ?』
『やめて!そんな、目覚めちゃったらどうするんですか!』
『キモイわ!ゴミ集積所にでも捨てて来るかな』
『捨てないでください!俺、先輩だけが頼りなんですから』
『更にキモさが倍増しだ……』
『見捨てないでぇええええ』
未来への漠然とした不安のみを抱えて、だけどのんびりと生きていたあの頃。
とても遠い場所に来たと思っていた虹也だったが、この世界でも人は同じように自分の理想の未来を追い掛けて生きている。
虹也は、自分が根っこの部分ではこの世界を拒絶しているのを感じていた。
だが、こうやって出来ていく人の繋がりという物は、徐々に隔意を切り崩していく。
それが良い事なのか、悪い事なのか、今の虹也に分かろうはずもなかった。




