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話し合いはお茶を飲みながら

「で、結局どうなったんだ?説明無しに外に連れて来られるとなんか怖いんですけど」

 捜査部の建物を後にしながら虹也は墨時に聞いた。というより文句を付けた。

 彼等捜査員達の内々の話し合いは虹也の感覚で30分ぐらいで終わり、直後、説明待ちをしている所を墨時の「そんじゃ行くか」の一言で連れ出されたのである。

 詳しくは無くても良いからせめて説明を聞きたいと思うのは、当事者としてはおかしな事ではあるまい。

「んーそうだな、当面の予定としてはお前の身元を調べる事なんだがこれはとりあえずはうちでやるとしてだ、まずは保護者としてはお前自身のこれからの事を相談したいと思う」

「あーうん」

 本人すら考えてなかった先の事を考えてくれてありがとうと言うべきかもしれないが、結局は生返事を返して虹也は頷いた。

「それで、あんな堅苦しい所で話すのもなんだから茶店にでも行こうかと思ってる」

「了解」

 流れを理解して虹也は了承した。

 調書は取ってメディカルチェックは受けたのだから、後は事件としてはプロの捜査機関の仕事で、今の墨時は虹也の保護者として話をするつもりなのだろう。

 虹也としては検査の結果というか、術の影響云々の話を聞きたい気もするが、やはりそれなりに守秘義務という物が存在するのだろうからせっついても仕方が無いかもしれないし、話の流れの中で説明があるかもしれないので、今の所は保留しておく事にした。

「仕事、ほっといて出て来て良かったの?」

「捜査官としての俺の今の仕事はお前の護衛だ。問題ない」

「一石二鳥って事だね」

「ん?どういう意味だ?」

「一個の石を投げて鳥を二羽落とすような事って意味」

「ああはいはい、魚の友釣りみたいな事だな」

 何か違う気もするが、言葉の言い回しについてまで議論するのは面倒なので虹也は曖昧に流した。普通に会話が成立する分、こういう細かい事で引っ掛かるのはなんとなく精神的な疲労を伴う。

「お、そこそこ、その店が甘味が美味いんだ」

 墨時が数分程度歩いた先で、並んだ店の内の1軒を示した。

 甘味かよ!という内心の突っ込みをグッとこらえて、虹也は示された店を見る。

 どうにも店構えからして雰囲気がポップだ。

 嫌な予感がひしひしとこみ上げるのを堪えて、虹也はいそいそと入っていく墨時に続いた。

 店内は明るい色調で可愛らしいインテリアが飾られていて、ようするにバリバリに明らかに女性向けの店である。

(甘味だもんな)

 今は平日の午前中なのかお客は主婦っぽい人が数人でかなり空いていた。

(あ、そういえばこの世界の学校制度とかどうなってるんだろう?)

 落ち着いて来ると、この世界の知らない事、知りたい事が浮かんで来るが、分からない事が過ぎてどこから手を付けて良いか混乱してしまう。

「白玉膳を頼む、コウは何が良いんだ?」

 そんな事を考えていた虹也が声に気付けば、墨時はさっさと自分の注文を済ませていた。

「なに一人で勝手に頼んでんだよ!普通先に聞くもんじゃないか?俺に」

 文句をタラタラ言いながら壁に掛かってる品書きを見る。どうやら席毎のメニューは無いようだった。

「お決まりになりましたらお呼び頂ければ直ぐにまいりますから、慌てなくても大丈夫ですよ」

 ちょっと綺麗なウェイトレスさんに気を使われてしまい、日本人の性として更に焦った虹也は、とりあえず飲み物だけでもと目を動かす。

(ええと、白茶?緑茶、紅茶、黒茶?……緑茶と紅茶は分かるとして白茶と黒茶ってなんだ?白湯と黒豆茶とかか?)

 僅かな逡巡の後、

「黒茶をお願いします」

 好奇心に負けてそう言っていた。

「はい、承りました」

 お辞儀の見本のような見事なお辞儀を見せて、ウェイトレス(?)の女性は店の奥へと下がる。

(気持ち良いぐらい丁寧だな)

 姿勢の良い動きに少しばかり母を思い出したのもあって、虹也は彼女の受け答えに感動した。

「黒茶を頼むとか、ほんとお前外苑部贔屓だよな」

 墨時がなにやら虹也には良く分からない事でツッコミを入れて来る。

「う~ん、あのさ」

「うん?」

「その外苑部ってなんの事?外国?」

 この際はっきり聞いておこうと、虹也は彼に確認する事にした。

「は?」

 墨時は何冗談言ってるんだ?という目で虹也を見たが、直ぐに何かに気付いたような顔になる。

「あー、覚えてないのか?それも」

「知・ら・な・い・ん・だ」

 虹也のなぜか偉そうな主張に、思わずといった風に噴き出すと、墨時は少し考えるように上を向いた。

「そうだなー。んと、世界的に内奥、狭間、外苑という区分けがあるんだが、これは気穴からの位置関係を表している」

「気穴って?」

 その問いに墨時はあーとかうーとか唸り出す。

「ごめん、俺が悪かったよ。おっさんの知識の無さを舐めてた。自分で調べるよ」

 虹也がわざとらしく溜め息を吐きつつそう言うと、墨時の上まぶたがピクピクと動いた。

 どうやら怒るのを我慢しているらしい。だが、なんとか踏みとどまると、更に説明を続けた。

「とにかく、外苑部の連中は暴力的で危険なんだ。それだけ覚えてりゃあ良い」

(それって、民族的偏見とかじゃないのかな?)

 虹也は胸中で呟いたが、何か確固たる理屈が存在する可能性もあるので、とりあえずそれ以上は突っ込まなかった。自分で調べれば良いのだ。

「そういえばさ、図書館ってある?」

「としょかん?」

 また言葉の壁かと、ちょっと疲れながらも、こればっかりは後々必要なので虹也は説明を試みた。

「本をある程度自由に閲覧出来る施設みたいな?」

「ああ、図書処(ずしょどころ)ね。あるけど俺は場所を知らん」

「うん、おっさんが知ってるとは元から期待してなかったけど、あまりにも思った通りだから逆にびっくりだ」

 平坦な声で言う虹也にジロリと目を走らせて、墨時はぼやく。

「どうせね」

 その微妙な雰囲気の所へ注文品が運ばれて来た。

「失礼致します」

 女性の丁寧で綺麗な声がそのくすんだ空気を払ってくれる。綺麗なお姉さんは偉大だ。

 墨時の頼んだ白玉膳は、おかしな言い方だが本当にお膳で、外側が黒塗り、内が朱塗りの落ち着いた物だった。

 しかし、中の陶器の碗やカップは微妙にポップで、ちょっとしたアンマッチの妙を醸し出している。

 一方で、虹也の前に置かれたカップがこれまた渋い造りの物で、どっかの居酒屋で出てくるような陶器のビール杯のようだった。

(なんか面白い店だな)

 虹也は、思わず心のお気に入りに登録してしまう。

 ウェイトレスさんが美人だからというのが主な理由ではないんだぞ?と、誰が見る訳でも無いのに心のメモ帳に但し書きをしてしまった虹也だった。

 改めて、虹也が自分の前にあるカップに注意を向けると、それから馴染みのある香りがふわりと広がる。

(なるほど黒茶っていうのはコーヒーか)

 そうと分かれば砂糖やミルクが欲しいところだった。虹也はコーヒーはストレート派ではなく、ある程度砂糖とミルクを必要とする極一般的な嗜好の主である。

 しかし、テーブルにはそれらしき物は見当たらなかった。

「おっさん、ちょっと聞きたいんだけど。黒茶に砂糖入れたりはしないもの?」

「坊やがいきがるからそういう事になるんだ」

「何が?」

 言葉にトゲを込めて睨んだ虹也を鼻で笑って、墨時は決め付けるように言った。

「苦くて飲めないんだろ?」

(さっきの意趣返しか!大人げねぇな)

 虹也はムッと墨時を睨むと、カップを掴み口を付ける。

 コーヒーは考えたより飲みにくくなかった。どうやらいわゆるアメリカンコーヒーのように薄めに淹れているらしく苦くて頭が痛くなるというような物ではないようだ。

 しかし、やはりストレートで飲む物ではないと虹也は思った。

「無理しなくても良いぞ」

 今度は少し心配そうに聞いてくる墨時に、ふ、と笑ってみせると、素早く手を動かす。

 相手の膳の上で魅力的で綺麗な白を主張していた白玉団子を1個、瞬く間に口に放り込んだのだ。

「おい!俺の団子になにすんだ!?」

「やっぱり甘みが欲しいんで貰った」

「先に言え!」

「考えるより先に手が出たから」

「それってこういう時の話なのか?喧嘩とかの言い訳なんじゃないか?」

「おっさん煩い、店の迷惑だろ?」

「お前という奴は」

 ワナワナと震えながらも、墨時はそれっきり口を噤んで、自分の膳を引き寄せて警戒しながら食べ始める。

(食い意地はってるなぁ)

 虹也は自分の事は棚に上げて冷めた半眼でその様子を見た。

 口の中の白玉はもちもちとして柔らかく、彼が住んでいた地域の近くに午前中で売り切れる白玉団子の店があったが、そこの味と勝るとも劣らない感じだ。

 掛かっているソースは黒蜜ではなく、ゴマときなこを足して淡い味の蜂蜜を混ぜたような味わいで、馴染みのない味ではあったが、それなりに美味しい。

「それで、話なんだが」

「うん」

 場を仕切りなおして、墨時が改まった声で言ってきた。

「お前は今、俺が保護者という事でとりあえずこの国の人間としての立場を保っているんだが、お前自身に国民証が無い状態だ」

(国民証か、戸籍みたいなものかな?)

「うん、なんとなく分かる」

「それで、このままだと難民保護施設に入ってもらわないといけなくなる。もちろん難民保護施設に問題がある訳じゃないんだが、ここに入ると自由が利かなくなってしまう。要するに外に出るのにやたら面倒くさい手続きを必要とする許可を取らなきゃならん。だが、それだからこそ安全という面では一番だろう」

「それが選択の一つって訳だね」

「ああ、それでだ、俺から提案したいのは、俺が身元引受人として仮の国民証を取得するという方法だ」

「仮の国民証?」

「この国が今他民族受け入れを推進しているのは聞いただろ?」

「うん」

「それで、ある程度身元に保証がある場合は国民としての受け入れが容易になっているんだ。この仮の国民証を入手すると半年間は国民と同じ権利を有する事が出来る。ただ、その期間中に何らかの法規違反をやらかすと本手続きが5年は出来なくなってしまうが、何事も無ければ半年後には正式にこの国の民として認定される。本当は、少し手間を掛ければ仮認定期間無しに直接国民として認定出来る仕組みがある事はあるんだが、急いで国民証が必要だろうし、実際の身元が判明した場合に二重登録になってしまうと面倒なんで、俺が知ってる中ではこの方法が一番無難じゃないかと思う。それで、お前の意見を聞きたいんだが」

 虹也は墨時がかなり真剣に自分の足場を固めようとしてくれている事に少し驚くと共に納得した。

 彼の言動にはぶれがない。墨時にとってこういう風に誰かの為に手間を掛けるのは当たり前の事なのだろう。

「いくつか聞きたいんだけど、その国民証の取得を急ぐのはなんで?難民施設に入るって言っても、事件性の確認が終わるまではこのままおっさんの保護を受けてる犯罪被害者としての立場で留まれたりしない訳?他に何か不味い事があるの?」

「確かに事件性の確認の為の保護って事にすればある程度の猶予はある。取得を急ぐ一番の問題は行動の自由だな。このままの状態だとお前は一人では何も出来ない。さっき言った図書処だって利用するのに国民証が必要だし、色々な買い物に使うカードを発行するにも国民証が必要だ。そうなると色々面倒だろ?当然俺の行動も制限されちまうしな」

「おっさんと俺の行動の自由って事だね。だけどおっさんは俺の護衛任務も兼ねてるんだよね?その場合俺が個人で行動出来るようにする意味があるの?」

「街中には犯罪に対する抑止紋があるし、国や地方領管理の施設内部には更に強固な警備設備がある。それに俺自身もお前に守護印を持たせるつもりだ。実際問題俺の近くに居るより街中の施設にいる方が安全なぐらいだ」

 虹也はその言葉に紛れている本音を嗅ぎ取って、思わずイラっとした。

 結局、墨時の言っているのは銀穂に対する心配と同じ類いのものなのだ。彼自身が災厄をもたらすかもしれないと遠まわしに言っているのである。

 しかし、虹也は気持ちを切り替えた。墨時側の認識はともあれ、彼が独自に動きたいのも墨時の捜査の邪魔になりそうなのも確かだからだ。

 そうなれば、この提案には基本的には利点しかない。

「分かった、その仮登録とやらを頼む。そいでさ、ちょっと確認しときたいんだけど、さっきの内藤さん?の調べてた結果って俺自身には言えない事なの?」

「いや、そっちもこれから話す」

 どうやらその話も元から用意していたようで、墨時に慌てている様子は無かった。

 虹也は自分で振った話ながら、それを確認するのに僅かながら心構えを必要とするのを感じた。

「ちょい待ち」

「ん?」

 話の腰を折るような虹也の「待った」に墨時が不思議そうな顔を見せる。

「その前に、……お姉さんすいません!」

 虹也はウェイトレスさんを呼んだ。

「あの栗と甘芋の淡雪仕立てってのお願いします」

「ちょ、おい、それ高いだろ」

「俺、こっちの金銭感覚が無いから分からないなぁ」

「くっ、お前……」

「あの、どういたしましょうか?」

「ほら、お姉さんが困ってるじゃないか、細かい男は嫌われるぞ」

 クスッとウェイトレスのお姉さんが笑った。どうやらウケが取れたらしい。

「良いです、それお願いします」

 どこか諦めた様子でお姉さんに告げ、墨時は虹也の追加注文を受け入れた。

「それでだ!」

 何か壮絶な笑みを浮かべて墨時は話題を戻した。

「おう」

 さすがに我が儘が過ぎたかも?と、やや心配しながら、虹也は神妙に応じる。

「検査の結果、確かに術の影響は認められた」

 その言葉に、突然虹也の顔付きが厳しさを帯びた。

 虹也は彼なりに考えていた事がある。

 唐突な世界の移動、突然出現した過去の記憶。そして専門家らしき者達の言う『意識の操作』。

 もしかすると、何者かが自分を誰かに仕立て上げようとしているのではないか?と、ぼんやりと考え出したのだ。

 氏族と呼ばれる自身の外見(リングと呼ばれる目の光)とか、よく考えれば色々と穴の多い推測だが、少なくとも虹也自身はその方が遥かに気が楽なのである。

 ただ犯人を恨めば良いのだから。


「だが、それが行われたのは十数年前らしい」

 しかし、墨時の続く言葉にその愚かな希望は失せた。

(まあ、悪足掻きだって事は分かってたんだけどさ)

「十数年前か……あのさ、実は話して置きたい事があるんだけど」

「ん?心当たりがあるとかか?」

「ああ、うん、ちょっと」

 ふと近付く人の気配に虹也は口を噤んだ。

 見るとウェイトレスさんが追加オーダーを運んで来ていた。

「失礼致します」

 相変わらずの綺麗なお辞儀と共に、虹也の前に紺の陶皿に盛られた和風デザートが置かれる。

 彼女は流れるような動きで皿を置いた返す手で、中身の減った虹也のカップを取って、片手に持っていたポットから黒茶(コーヒー)を継ぎ足してくれた。

(ここってもしかしてフリードリンクかな?おっさんのはポット付きだから無いとか?)

 フリードリンクと言えば学生時代に馴染んだファミレスを思い出す。

 実際、今の一場面だけを切り取れば、十分に当たり前に有り得る彼の世界の風景だ。

 昨日からの様々な出来事を忘れ去る事が出来れば、何も変わらない日常の一時ひとときにすら思えてしまう。

 虹也は頭を一つ振ると、目前の綺麗な食べ物の一角を崩して口へと運んだ。

 それは栗と芋のペーストで作られたらしい繊細なつぼみと花に、白いふわふわの雪に見立てた何かが掛かった物で、既に食べ物と言うより室内インテリアのような出来映えである。

「うまっ!!」

 一口で、思わず声に出してしまうぐらいそれは美味しかった。

 雪に見立てた白い何かは、彼の知っている淡雪では無いようで、生クリームとも違って透明感があり、ふわっとした柔らかさがある。ほんのりアルコールが入っているようで、種類は分からないが高級な酒の香りがした。

 芋と栗のペーストもひと手間掛けているらしく元の風味を生かしてなおかつ甘過ぎず香りのみが口に残る。

「おい、ひと口食わせろ!」

「はっ!?子供か、あんた」

「お前さっき俺の白玉1個食ったろうが!」

「おっさん、被保護者といえば実の子も同然じゃないか。そんな横暴な親じゃ将来我が子に嫌われるぞ」

「どんな理屈だ、それは!お前どんだけケチなんだよ」

「美味い物食うのに争いごととか、寒い時代と思わないかね?」

「なに意味の分からん理屈こねて……あ、」

「ご馳走さまでした」

 虹也は皿に残った分もヘラに似た竹のスプーンで奇麗にさらうと手を合わせた。

「こんな美味しい物を作れるなんて人って素晴らしいね」

「コウ、手前覚えてろよ」

「おっさん、人間小さいな」

「ニンゲンってなんだ、どうせ悪口だろうけどな」

(人間って言い方もしないのか、でも人は通じるんだよな)

「人間と言うのは俺の育った地方の言葉で胃袋の事だ」

 ぬけぬけと言ってコーヒーを啜った。

「くっ、なんか分からんが事件に鍛えられた俺の勘が嘘だと言っている。そもそも意味が通じないだろ!?」

「おお、流石は捜査官、凄い勘だ」

「感情を込めずに称賛するのは止めろ。ったくふてぶてしいと言うか逞しいと言うか、到底自分の居場所を見失った被害者には見えないぞ」

「ふてぶてしくてスイマセンね」

 胸を反らし気味に言って見せる虹也に、ふと墨時は真顔になる。

「まあいいさ、安心しとけ。絶対俺がお前の在るべき場所へ帰してやるからさ」

 グッと、虹也は言葉に詰まった。

(虚勢も張らせてくれないとか馬鹿すぎ)

 虹也にはどうしても叶えたい望みが一つだけあった。

 父が身罷って急激に体調を崩した母を手助けするため高校を中退した、言わば社会のレールから脱線した自分を、ずっと影から表から手助けしてくれた友人や後輩達、あの馬鹿な連中にたった一言で良いから「ありがとう」と言いたい。

 たったそれだけの望みが世界の運命と引き換えになるなんて、どんな不公平な取引なんだろうと、そう思う。

(どんだけインフレなんだよ、価値観崩壊どころじゃないだろ?有り得ないレベルだろ。いっそ、……いっそ誰かを恨めれば良かったのに)

「おっさんはさ、ハイクラスな馬鹿だよな」

「お前、今わざと外語使ったな。なんてかわいくない野郎だ」

「生憎俺、可愛さで勝負してないからね」

「ナリだけでかい子供だしな」

「あー、なんか凄く高いもんをもう一個食いたくなったかも」

「止めろ!そんなに金使ったらギンに殴られる!勘弁してくれ」

 まだ笑える自分に安心しながらも、虹也は自分の行くべき所をまだ定める事が出来ないでいたのだった。


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