第六話 世界が救われることを願って
『......久しいな』
ノルヴァと最初に出会ったのは、10万回繰り返した時だった。
「うん、前会ったのは確か、350万回目くらいのときだったかな」
『ところで、今は何回目だ......?』
「ちょっと、またボケたの?399万9999回目だよ」
僕らが平和な世界を強く願ったため、刻の神がそれに応えたそうだ。
ループは、そこから始まった。
『ああ、そうであったな。ということは、
――「時が満ちた」』
2つの声が重なり、ノルヴァは目を細めた。
『くくっ、貴様、まだ覚えておったか』
口元に手を当てて、くくっと笑う。
「あいにく、ノルヴァみたいにボケてないからね」
『......貴様、次会った時は覚悟しておれよ』
笑顔ではあったが、その声には怒りが籠っていた。
『......だが、ここまでよく頑張ったな。遅くなって済まない』
「何言ってるの、謝るのは僕の方だよ。
こんなに何回も失敗して......」
『――何を言う。妾も共犯ではないか、原罪のな』
原罪、それは刻の神との契約。
ループを始めたことだ。
「......うん、それもそうだね」
「それで、時が満ちたって、どういうこと?」
100万回繰り返して、挫けそうになった時に聞いた、
『時が満ちれば、好機が訪れる』という言葉。
その意味がずっと気になっていた。
『ああ、それはな、闇を倒す好機が回って来たのだ』
「え!?それって、どんな......」
『妾に、闇を倒すための力が溜まった、ということだ』
目の前がぱっと明るくなって、心臓の鼓動が早くなる。
「400万回目に、闇を倒せるって言うこと......!?」
『――だが、代償は大きい』
心を弾ませた僕に、ノルヴァは冷たく言った。
『これは、契約だ。この力を貴様らに託すには、それ相応の代償を支払わなければならない。
何かは、わかっているようだがな』
最初の契約では、僕の魂を支払った。肉体以外に支払えるものは、
「僕の、記憶......?」
『ああ、そうだ。貴様らの記憶を頂くつもりだ』
それは、繰り返してきた世界の記憶を完全に捨てることだ。
でも、それは、足りないものを補える唯一の方法。
『だが、その代わりに、貴様らは純粋さを取り戻す』
『幾度も繰り返したおかげで、貴様らには、闇に対する固定観念が深く根付いておるであろう』
僕らに足りないもの。
それは、純粋さだった。
『それは、貴様らの勝利を大きく妨げるのだ』
「......」
僕は俯いた。
すると、ノルヴァはくるりと振り返り、僕と向き合った。
『どうだ、悪い提案ではないだろう?』
「うん、僕の記憶をあげる」
『いいのか、真に?』
ノルヴァは確認を取るように聞いた。
「うん、いいよ」
声が震えた気がしたが、そんなのどうでもよかった。
突然ノルヴァが僕の腕を強く掴んだ。
『そんな決め方で良いのか?この契約をすれば、貴様は永遠に...!!』
「っいいんだよ!これで......っ!」
言葉を発すると同時に顔を上げた。
しりすぼみになった言葉を紛らわすように、ノルヴァを睨みつける。
目の前が歪んでよく見えなかったが、ノルヴァは驚いているようだった。
「......それがっ、僕の身勝手で苦しんだルナに、
僕がっ、唯一、償える方法、だから......っ!」
もう、彼が苦しまなくていいように。
僕が始めたことだから、僕が終わらせないといけない。
『っ、承知した、貴様のことはよく知っておる。
1度決めたことは、絶対に覆さないこともな』
込めていた力を緩め、微笑んだ。
「......ありがとう、ノルヴァ」
『礼などいらん。これこそが、妾の望んでいたことでもあるからな』
そして、僕らはゆっくりと歩き始めた。
スポットライトの消えた舞台は暗く、闇が澄んでいた。
『......酷いな。幸せを願った者の末路が、
こんなものだとは』
声が小さく、何を言っているのか聞き取れなかった。
「何か言った?」
『何も無い』
僕の先を歩くノルヴァの背中は、どこか寂しそうだった。
『こやつもこやつなりに、貴様を救おうとしたのかもしれぬな』
ノルヴァは、しゃがみ、床に倒れたルナを見て言った。
『では、始めようか。最初で最後の生を』
そう言って、落ちていた銃を、僕に差し出した。
ノルヴァはどこか不安そうな表情をした。
「大丈夫だよ。もう死ぬことには、慣れてるから」
『妾は、いつか貴様らの魂が、
冥界へ迎え入れられることを願っておる』
相槌だけを打って、引き金を引いた。
過去に、世界が救われることを願って。




