第四話 399万9999回目に
「明日で、終わりだな」
ルナが、ぽつりとつぶやいた。
返事をしようとしたけれど、かすれて声が出なかった。
「これで、何回目だっけ?」
「399万9999回目」
僕は俯いてそう言うことしか出来なかった。
何をしても、闇に勝てなかった。その記憶が蘇る。
「ははっ、もうそんなに......!」
ルナは強く拳を握った。手から血が滲む。
「なんで、何が......足りないんだろう......っ!」
恐る恐る彼の顔を見ると、
目から、涙を零していた。
ルナの初めて見る涙。
彼も僕と同じように、
いや、それ以上に苦しんでいるんだ。
話したいことがまだあったはずなのに、それ以上言葉が出なかった。
夜が明けると、空は不思議なほど澄み渡っていた。
僕らは、他の誰もいない舞台の中央に立っていた。
枯れた世界樹を眺めながら。
ここが、すべての終わりであり、始まりの場所──「スペシャルコンサート」。
【これより、スペシャルコンサートを開始します!】
透明な声が、会場の隅々まで響き渡る。
観客席は闇の人間たちで埋め尽くされているが、誰ひとりとして声を発しない。
沈黙が、どこまでも重く、神聖だった。
「リリ」
ルナが僕の手を握る。
その手は、もう震えていなかった。
「......最後まで、君と歌えてよかった」
「......うん!」
たった一言が、胸の奥に深く突き刺さる。
それでも僕は、笑顔で返事をした。
そして、音が鳴る。
一音目は、まるで空から降る雫のように優しく、
それは光となって僕らの周囲に広がっていった。
その光の中で、僕らは歌い始めた。
『Love takes root in barren soil』
枯れた大地に、愛が根を下ろす
同時に歌い始めた僕らは、お互いに声を確かめ合うように、見つめあった。
スポットライトが2人だけを照らしている。
『Soothing little birds sing their tender song.』
癒しの小鳥が愛しくさえずる
顔を合わせて、息を揃える。
『After the wailing, the creature forgot to breathe』
泣き叫んだ後に、生き物は息を忘れた
僕らは何度も、沢山の生き物が息絶える姿を見てきた。
それでも慣れることなんてなかった。
そしてこれからも。
『Living forever, it scatters seeds of despair』
永遠を生き、絶望の種を撒く
繰り返す限り、僕らの命は永遠だった。
『I waited for dawn at the edge of night, but tomorrow never came』
夜明けの果てで明日を待った、でも明日は来ない
いくつもの光の粒が、僕らの周りをくるくると回る。
思わず僕らは笑顔なった。
この時間が、ずっと続いて欲しいと思うくらい。
『Sleep within a gentle song may no nightmares come』
優しい歌の中でお眠り、悪夢を見ないように
ルナの声が突然聞こえなくなり、少し驚いたが歌い続けた。
彼は優しく笑う。でも、何か決意したような顔。
どうしたんだろう?
『Wrapped in tender light......』
優しい光に包まれて......
その時、突然警告音が鳴り響いた。
ルナのチョーカーからだった。
「え......?」
そして、目の前が真っ赤になった。そう思った瞬間、彼の体が傾くのが見えた。