196 大切な髪飾り
どうぞよろしくお願いします。
結婚式の朝、フレイと兄さんが来た。
兄さんは急いで朝食をかきこむと、よそ行きの服に着替え、馬車で出かけて行く。
私達も朝食を済ませ、お父様とフレイはドラゴン達の食事を用意しに行き、お父さんとお母さんと私で新居に持って行く物を確認して、お父さんがまず運び始めた。
そこへクインとアメリと祖母が来た。
「ペスカ! 会いたかった!」
クインが抱きついてきて、アメリが無言で背中にくっついてきた。
「ふふふ、ふたりとも大きくなったね!」
私はふたりにお土産の髪飾りを渡した。
「わああ、かわいい!!」とアメリ。
「好きな色! 素敵!」とクイン。
祖母が椅子に座り、そんなふたりを目を細めて喜んで眺めている。
私は祖母からもらった髪飾りを手に声を掛けた。
「おばあちゃん、これ、今までありがとう。お返しします」
「ペスカ……、もういらないのかい?」
「昨日、お母さんに聞いたの。
この髪飾り、おじいちゃんにもらった大切な物なんでしょ。
もう大丈夫。私も……、私自身の大切な髪飾りができたの。
だから、これはおばあちゃんにお返しするね」
「ペスカ、どれ、見せておくれ」
私はフレイに返してもらった七宝の髪飾りをつけた髪をしゃがんで見せた。
「ふふ、かわいい髪飾りだこと。
それをくれたのはどんな男の子なんだろうね。
私はその子に会えるかしら。楽しみにしているよ」
私は微笑んだ。
そして、おばあちゃんのまとめ髪に髪飾りをつけてあげる。
昨夜、母といろいろな話をした。
父と母の馴れ初めとか、祖母と祖父の話。
父方の祖父母の話など……、私に繋がる人達の話。
そして、自然に、私も今、好きな人がいることを話してしまっていた。
「お互いに好き合っているんじゃないかと思えることはあるの。
でも、お付き合いとか、結婚ということは、学校を卒業してからと思っている」
「そうね、それでいいと思うわ。
急ぐことはないから。
幸せになるのよ。あなたは大きな力を持って生まれてきたとわかって……。
その力が、あなたが自由に生きることを邪魔するかもしれないって、心配に思ったこともあるの。
でも、母親として願うのは、あなたの幸せ……。祈っているわ」
「うん、ありがとう。
私もレミ村のリオ家に生まれて、本当に良かったよ。
お父さんもお母さんも、兄さんもクインもアメリもおばあちゃんもみんな大好きだもん!」
「ありがとう、ペスカ」
そんなことがあり、朝一で私はフレイに会うなり『七宝の髪飾りを返せ! 今日、身に付けるから』と迫ったのだ。
私がおばあちゃんに髪飾りを見せたりしているのを少し離れて見ていたフレイ。
なんか見られてるなーとは思いましたよ。
でも、声は聞こえてないと思う。
私が祖母から離れて、兄の新居へ行くための準備に戻るとフレイは近づいてきた。
「朝、いきなり髪飾りを返せというからなんだと思ったら……。
そういうことだったんだ。
あの、返してた髪飾り、初めてみんなで出かけた時にしてた奴だよな」
よく覚えていらっしゃること……。
「うん、でも、大人っぽいというか、子どもの私には似合わなかったし、他の子の物とやっぱり比べちゃってさ。
大事に持っているだけになってた。
フレイがすぐの誕生日にこれくれたしね。
昨夜、母に聞いたの。
あれ、おじいちゃんがおばあちゃんに贈った大切な物なんだって。
だから、私にはもう自分の大切な髪飾りがあるからって、返したの」
フレイがうれしそうな顔をする。
「それってつまり、俺のあげた髪飾りが……」
「そうだね。今の私にはこれがあるからって話した。
そういえば、兄さんと何か話した?」
「何って?」
「いや、別に、ないならいいんだけど」
「あー、女性の口説き方? とか教えてくれた」
「なに!?」
兄さん!?
「ペスカのこともいっぱい教えてもらった。
3歳の時に転んで牛のうんこに突っ込んだとか、5歳の時に木に登って降りられなくなったこと、6歳の時にライオネルとスノウと山へ行って行方不明になった話。
8歳の時にスノウに意地悪した男の子に背後から見事な飛び膝蹴りをかまして地面にぶっ倒した話とか……」
読んで下さり、ありがとうございます。