130 記憶を繋ぐ
どうぞよろしくお願いします。
キャロラインさんがエレイン嬢を見て言った。
「エレイン様が私の髪に刺さっていたペスカの髪飾りを扇子で跳ね上げたんです!」
「あなたの態度が悪かったから!!」
エレイン嬢も言い返す。
アリエスさんが覚悟を決めたように進み出た。
「ペスカはキャロラインに真珠の装飾品を貸していないんです。
ハウアー男爵は王都に屋敷をお持ちではありません。
私達を信用して下さって、ペスカの物は我が家で管理させて頂いていて……。
今日、次女のキャロラインが勝手に持ち出してしまったんです……」
◇ ◇ ◇
お父様が迎えに来てくれた。
「ペスカ! 大丈夫か!」
お父様を見たらまた涙が溢れてきた。
「ごめんなさい、お父様。お母様の大切な髪飾り……」
私が休んでいた客間のテーブルの上には宝飾品を乗せる布張りのトレイが置かれ、首飾りとイヤリングと髪飾りが置かれている。
ヨシュアのネックレス(ブレスレット)とモリソン夫人のイヤリングももう外してその上に置いてある。
客間に一緒にいてくれたマリアがお父様に説明してくれる。
キャロラインさんが先に家を出て、私達が仕度をしている時に真珠の装飾品がなくなっていることに気づいたこと。
キャロラインさんが持ち出してしまったのだろうと王城に来ると、真珠を身に付けたキャロラインさんがいて、王妃殿下にラファイエト辺境伯爵家の縁者と思われてしまったこと。
私が事を荒立てないようにキャロラインさんに『貸した』と言って、王妃殿下に注意されて……。
「それでも、ペスカは我慢してくれたんです。
その後、キャロラインが伯爵令嬢のエレイン様とちょっとトラブってしまって。
エレイン様がキャロラインの髪を、髪飾りを怒りに任せて扇子で下から跳ね上げるように……。
ペスカは走って落ちる前にキャッチしたんですけど、すでに傷がついてしまっていて……。
本当に申し訳ありませんっ!
ペスカは我が家を、キャロラインを守るために、ずっと我慢して、我慢してくれていたのに……。
私達もそれに甘えてしまい、家に帰るまで、事を荒立てないようにと……」
私はしょんぼりと言った。
「ううん、私もいけないの。 私が我慢すればいいって。
ずっと心配だったくせに、大丈夫だって言い続けて。
それに私が身に付けていても、壊れたり傷つくことはある。
そうなんだけど……、わかっているんだけど、泣いちゃって、よけいひどい事態になっちゃった……。ごめんなさい……」
お父様は髪飾りを見て頷いた。
「大丈夫だ。これくらいならこの真珠を一粒入れ替えるだけで済むだろう」
「でも、でも、今まで大切に繋いできたお母様やその前の人達に申し訳なくて……」
「……まったく最初からのオリジナルと言うわけではないんだよ。
その代、その代でいろいろ手を加えられてきたものだとも聞いている。
シエナも子どもの頃、祖母に見せてもらっている時に落として壊してしまい大泣きしたそうだ。
そういう再生の記憶も継いでいるものなのだよ。きっと」
お父様の言葉は優しくて、私は、また静かに涙が零れた。
読んで下さり、ありがとうございます。