私の人生と長い夢 (1)
大学に入って少し経った頃、原因不明の病気にかかり、二年ほど目が覚めなかったという。
しかし、確かに「生きていた」ため、見捨てられはしなかった。
目覚めた時には、厄介者扱いだけど。
22歳の新人会社員。まだ社会には適応できていない。
小さい会社だからなのか、人手不足なのか、大体毎日が残業で帰りが遅くなる。
「はぁ...明日は早く帰りたいなぁ...」
時計すらも見たくない。
いや、見れなかったのだろうか。
信号は緑色をしているのに、横を振り向くと、なぜか真っ白な光を放つ鉄の塊が私に向かってきているのだから。
***
夢の中での私は、どこかの国の公爵令嬢だった。名前は、セシリア・イラリー。歳は幼く、6歳程度。
冷静で何事にも動じない少女。いつも手に持っているのは何冊かの参考書だ。
彼女はこの歳で、魔法を使いこなせるまでになっていたので、第一王子の婚約者候補から正式な婚約者に決まり、将来を期待されていた。しかも、王子にもかなり気に入られている。
『ねーえ、リアー!なんの本よんでるのー?』
あの時の私は、付いてくる第一王子が鬱陶しくて、素っ気ない態度をとってたっけ。
『...魔法発生原理の推測。』
『へ、へー...もちろん意味はわかるよ!ただ、〝げんり〟が...ちょっとわからないだけで!』
『それを意味が分からないって言うのよ』
『リアものしりー!』
両親は私の意思を尊重してくれる人たちだけど、それはあくまで〝家族〟だからだ。
彼が赤の他人である私を褒める意味が分からなかった。
私は公爵令嬢で、彼はこの国の王子。これくらいの年齢の婚約者なら、最低限な会話でいいはずなのに。
『なんで、話しかけるの。』
気になって訊いたことがある。
答えない彼を見て、訂正しようとしたけど、彼は答えた。
『...やっぱり、__『リアがだいすきだから!!』
満面の笑みで。
それに少し胸が高鳴ったのはきっと、新しい人の感情を知れたという知識向上の喜びだ。
...そう思い込まないと、意識しているポーカーフェイスが呆気なく崩れてしまうから。
随分前には、弟も生まれている。
2歳違いの姉弟だ。私と同じ、濃いめである水色の瞳をもっている。髪色や瞳の色は父譲りだ。
自分の容姿といったら、彼が頭の中をちらつく。
『ねえ、ねえ、リア!僕たちのかみ色とか目の色って似てると思わないっ?』
『それ、外で言ってないよね?...ここだけの話しにしてね。』
あらぬ誤解を生むに決まってる。
『?うん!』
ていうか...
『...全然似てないわ。』
『え!?...リアにはそう見えるんだ...』
私達の容姿は12色で答えると同じ色になるが、かすかな...いやかなり色の特徴が違う。
『...あなたの瞳や髪色のほうが、ずっと澄んでいてきれいよ。』
『...!...えへへ、ありがとぉ、...』
...〝きれい〟だけ受け取ったわね。
『きれい...きれいかぁ...ふふっ』
そんなふにゃっとした笑顔を見ると、将来この国を支えていけるか心配になる。
...まあ、私がいるから大丈夫だけど。
そう、信じていたのに。