昂ぶる心
部屋の扉が閉まった瞬間、吉野は深く息を吸い込んだ。そして、ゆっくり吐き出す。心臓が痛いほど高鳴っているのを感じた。
(やばい、やばい……)
自分の膝が小刻みに震えているのに気づき、思わず手で押さえた。落ち着け、と自分に言い聞かせるが、無理だった。
だって、これは、間違いなく、人生で初めての経験になる。
(このあと……どうなるんだ……?)
有紗は綺麗だった。スタイルもいい。肩を寄せ合って隣に座る姿を想像してしまう。いや、それどころか。
(やっぱり、最初はキスだよな……)
唇の感触なんて知らない。どうやるのかもよく分からない。だが、流れにしたがっていけば……。もっとすごいことになる……。
喉がカラカラに渇く。手のひらにもじんわり汗がにじんでいた。
(ちょ、ちょっと待てよ。俺、本当に大丈夫なのか……?)
まともに女の子と話したこともないのに、こんなふうに初めての夜を迎えてしまっていいのか?
いや、でも、これはチャンスなんじゃないのか?
だって、わざわざコンドームを取りに行くなんて……。つまり、やる気満々ってことだろ?
(これって、確定……だよな?)
また心臓がバクンと跳ねる。嬉しさと不安と緊張がないまぜになり、頭の中がぐるぐるする。
ソファの上で落ち着かないまま、無意識に指先を組んだり、ほどいたりする。足を組み直し、またすぐに戻す。
(早く戻ってこないかな……。いや、でも戻ってきたら俺、本当にどうすれば……)
時計を見る。ほんの数分しか経っていないのに、やけに長く感じる。
扉の向こうの廊下で足音が聞こえたような気がして、吉野は一瞬、息を止めた。