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取扱説明書

作者: mizuhey

特殊な商品を売る営業マンの俺は新築中のビルを覗き込んだ。


♪ 宇宙色便器(神宝聖営業日誌)



 営業マンの神宝聖は今日も新築中のビルを覗き込んでは設備が入っていない事を確認する。

人間が生きていく上で必ず必要とされる商品を売る事はプライドをも高めていた。荒工事が終わって資材が散らかる事務所では監督が作業工程表を睨み、コーキング屋が硬化剤を忘れた壁面に苦い顔をしていた。

聖は営業スマイルを浮かべドアをノックすると監督に会釈した。

黒い鞄を開け現場監督に原色の色鮮やかなパンフレットを見せた。

その商品は決して店では買えない厳選された製品である。

……この便器をオーナーに勧めて貰えませんか?!

試したいのなら直ぐに取寄せます。

その便器は尻を置くとマッサージ機能が付いており便秘の人間でも快便を約束する優れものであった。

尻揉み機能が付いている便器ねと?監督はパンフレットを凝視する。

カラーは何色あるんだと問われ、俺は基本色12.バリエーションで金銀木目豹柄がある旨を伝えた。


あと…此れはこの色を勧めて良いものか迷った!

あとなんだね…と未だ若い監督は尋ねた。

聖は徐ろに特注で宇宙色があると勿体無いぶり話した。

宇宙色!会話に飛びついてきた感触を感じた!


監督は好奇心を赤羅様に見せる。

 実は貴社の様な営業品目は神の助けだ!

このビルのオーナーはこだわる方で既成の商品では中々満足してくれない。

壁に隠れてしまう部材は何とか納得して貰ったが、設備にうるさくてね…!

浴槽等は古代檜の200年物じゃ無くては駄目だと言われてね、国有林を横流しおっと…こんな事を初対面の人間に!

いや…君があまりにもセールスの仕方が上手いから、ついつい心を開いてしまった。

便器にも注文が多くてね…、

有田の陶工に焼かせろと言うんだ、其れも来週迄に7つも!

人間国宝の先生に便器を焼いてくれなんて頼めるかって言うんだ!?

聖は商魂を発揮した。

オーナーとのアポイントを取ったのは翌日である。

100キロ超えであろう巨漢のオーナーはカタログの便器を興味津々と眺めていた。

大学生の息子は紫便器にスゲェ〜を連発した。

狐顔した妻は鏡面仕上げの便器にトイレの内装と併せて満足した。

彼女のトイレは全面鏡面張りで仕上がっていたからだ。

オーナーは早速取付けさせると座り心地を確かめたいと願った。

マッサージ機能とヘルシー機能が彼の眼を惹いた。

宇宙色のパンフレットを穴が空くほど見つめ、オーナーは其の日迄糞を我慢するかと下品な言葉を金歯の隙間から漏らした。


 竣工も終わりビルは内外共に完全にオーナーに引渡された。

聖が会社から取り寄せた便器は当初の予定より少なく家族用の3箇所だけである。


 オーナーは徐ろにズボンを降ろすと

宇宙色の便器に尻を乗せた。

肛門を軽く刺激するマッサージ効果が現れ悦楽のポーズを取ると大腸に溜まっていた便が便器にうず高く溜まる。

際限が無い程にで続ける糞にオーナーは戸惑った。

尻に接触する瞬間、消えてしまえと彼は叫ぶ。

まるでブラックホールに飲み込まれるように便器から便が消滅した。

……此れは私の栄養が総て便器に吸われてしまう様だな。

だが何と心地良い身体から不浄な物が無くなる様だ。

せせらぎが聴こえ彼の汚れた肛門を洗浄する。

そして風が吹き用便の後を乾かす。

 翌朝、聖の会社にオーナーから感激の電話が入った。

身も心も軽く宇宙色便器を使用してから体重が減り始めたと言うのだ。

青春時代に若返った様だと歓喜していた。

 ヘルシー機能を押してしまいましたね?!

聖は取扱説明書を良く読む様に告げた。

だがオーナーは1日目の効果に欲を出していた。

毎日便器に座る時間を決めておけば良かったのに、彼はある日泥酔したまま便器に座って眠ってしまった。

ヘルシー機能は押し続けたままであった。

朝、妻が食事の支度を整え亭主を呼びに行くと、便器の中に溜まる濁った液体が眼に留まった。

彼女は亭主が流し忘れたのだろうと思いペダルを踏んだが、その不浄な液体こそ亭主であったのだ!


 大学生の息子が明け方遊び疲れて帰宅すると自室に設置されたトイレを観察した。

紫の毒々しい色彩がサイケデリックに輝きを放つ。

便器には管が1つも取り付けられていない。

注意して点検するが何処にも汚水管と直結する管が見受けられない。

底の方を見ると焼却炉の様な物が見えた。

この便器は最新式で便を乾燥させる方式だと解った。

彼は早速用便をし試してみたくなった。

ペダルを押す瞬間に尻を乗せたままであったのがいけなかったのか?!

彼も取扱説明書を良く読まなかった。

臀部から燃え上がる衝撃が走ると肉と骨が一瞬の裡に焼かれた。

声を上げる間もなくすっぽりと便器の奥へ彼は墜落していった。


 妻は帰宅した筈の息子も就眠して居た筈の亭主も忽然と消えてしまったので不思議に思った。

亭主は朝一番の愛情交流を欠かした事が無い程の性豪であるし、息子は朝になると小遣いをねだりに来るからだ。

妻は亭主に作った朝食を食べるとトイレに向かった。

鏡の間と名付けられた専用空間は彼女を待ち構えていた。



取扱説明書……………Fin…


神宝聖は営業グラフが二段階延びた!

後1つで火星旅行が待っていた。




配色の綺麗なトイレは宇宙へと飛び立つ幻想を導いてくれる。

だが、危険な要素も多々在るので注意が必要である。

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