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第2話 登校中のドタバタ喧嘩劇場

 その後、乃愛を痴漢から守り抜く? ことができた俺はホッと安堵しつつ校門をくぐる。ちなみに並んで登校すると目立つため、改札口でいつも別れている。


 乃愛は友達と合流し、一緒に登校。俺は孤高の一匹狼を貫き、離れた場所で乃愛の背中を見守りながら後に続いて歩いている。うん、こうして聞くと何かストーカーっぽいけど目的地が一緒なんだし、仕方ないよね?


 謎の罪悪感を抱えつつ、視線を逸らして無人のだだっ広いグラウンドを眺めながら歩いていくと。

 

「莉緒さん、おはようございます!! 鞄お持ちしますね!」


 そのとき背後から中性的な男子の声が聞こえ俺は辟易した様子で答える。


「いらないし、さん付けするなって言ってるだろすぐる


 俺に声をかけてきたのは一見どこの美少女だと見間違うほどの中性的な顔立ちに肩まで伸ばした髪が特徴的な相葉卓あいばすぐるという人物だ。入学早々にいきなり舎弟宣言をされて以降、ほぼ毎日このような対応をされている。正直周りの目が痛すぎるから勘弁してほしい。


「で、でも……莉緒さんの鞄をお持ちしないとボクの存在価値が……」


「うわぁぁ! 分かったからこんなとこで泣くな! 持っていい。俺の鞄持っていいから!!」


「わぁい! ありがとうございます!」


 何で鞄を渡すだけでこんなに嬉しそうにしてるんだコイツは。


「おい、見たかよ。あの一年、あんないたいけな女の子に鞄持たせてやがるぜ」

「しっ、お前アイツのこと知らねぇのかよ! 地元じゃ負けなしの最強の不良だって話だぜ」

「マジで? 見た感じそんな強そうに見えねぇけどな」

「つかあの女子なんで男子の制服着てるんだ?」


 通りがかる先輩同級生からの視線をチラチラと感じ、ひそひそと話し声が聞こえてくる。入学してから日が浅いとはいえ、早くも俺の評判にヒビが。

 

 こうなるから嫌だったんだよ! でも鞄を渡さなかったら渡さなかったで泣かれるしどのみち詰んでないか、俺。


「よぉ、一年坊主。てめえ入学早々調子乗ってんじゃねーぞ」


「あん?」


 そのとき、火の付いてない煙草を咥えながら複数人の先輩が俺に近づいてくる。


「ヒィッ」


 卓はその迫力に圧され涙目で俺の背中に隠れる。


「てめぇ、常盤東中の神崎莉緒だな? 昨日は武ちゃんが世話になったみてーだなコラ!」


「たけちゃんって誰だよ」


 マジで身に覚えがなかったので聞き返すと。


「ふざけんな! 昨日てめえにボコられたせいで武ちゃん膝が擦りむいちまったんだぞ! この落とし前どう付けるつもりだ、あん!」


 ボコられて膝擦りむくってなんだよ。それって俺関係なしに転んだだけじゃね?


「いちいち絡んできた奴のことなんざ覚えてねっつの。冤罪だ、冤罪」


 そう高校に入学したはいいものの偏差値が低すぎるのもあってかこの学校には不良(バカ)が多い。遠巻きに乃愛とその友人がこちらを見ており、どうしよう!? と慌てている。


「ふざけんなゴラぁ!」

「てめぇ、何様のつもりだ!」

「ちょっと喧嘩が強いだけで調子に乗ってんじゃねーぞ!」


 俺の言葉に周囲の先輩たちから野次が飛ぶ。


「り、莉緒さん……」


「卓、危ねーから先に教室行ってろ」


「で、でも」


「安心しろ、こんな奴らに負けはしねーよ」


「ヤバい超格好いい(ボソッ)」


「ん? 何か言ったか?」


「な、何でもないっす! 莉緒さん、ボクは大丈夫ですから気にせずやっちゃってください!」


「お、おう」


 卓は俺の鞄を大事そうに両手で抱えながら、トテトテと可愛げな足取りで離れ、野次馬の中に紛れていく。


「おぉぉい! 何無視してんだ一年坊主が!!」


 火の付いてない煙草を咥えていたパンチパーマの先輩がしびれを切らしたのか怒鳴り散らしてくる。そんな先輩に対して、俺はずっと脳裏に過っていた疑問をぶつける。


「つか何で火ついてないのに煙草咥えてんの?」


「あん? てめぇ、煙草に火つけたら未成年喫煙になっちまうだろうが!!」


「変なとこでマジメだな!」


 俺は思わずツッコミを入れると、火のついてない煙草をプッと吐き出し、パンチパーマの先輩が殴りかかってきた。


「てめえ明らかにそれがやりてぇから煙草咥えてたんだろ!」


 喧嘩前に煙草をプッと吐き出すの格好いいもんな、ちょっと分かるよ。


「うるせぇ! 死ねやーーー!!」


 パンチパーマの先輩は図星を付かれたのか顔を赤くして俺に殴りかかるが、その拳を掌で受け止めると同時にこちらに引き寄せる。


「うおっ」


 パンチパーマの先輩はバランスを崩し倒れると俺はその背中に跨がり腕を掴むと思いっきりひねり上げた。


「いだっ、いだだだだだだだだ」


「ほらほら、どしたー? ギブアップすんなら離してやってもいいが?」


「ふ、ふざけんな、誰が…っていだい!」


 何とか逃れようとするが俺に跨がられているのもあり上手く動けないパンチパーマの先輩。どうやらこいつが集団の中で一番強いらしく他の先輩たちはどう動けばいいか分かっていない様子だ。


「お、お前ら! 何ボーっと突っ立って見てんだ、早く助けろ!」


 パンチパーマの先輩の言葉でハッとなった先輩たちが雄叫びを上げ一斉に襲いかかってくる。だが――


「助っ人参上じゃー!!!」


「「「「ぎゃーーー!!!」」」」


 突如現れた乱入者に先輩たちは軒並み吹き飛ばされ倒れる。


「な、何だ!?」


 パンチパーマの先輩は仲間の悲鳴が聞こえ驚きの声を上げる。


「神崎ーー!! 勝負だーーー!!!」


 だがその乱入者は先輩たちを薙ぎ倒したかと思うと次は俺目掛けて突っ込んでくる。


「はぁぁ~、毎度毎度鬱陶しいんじゃゴラぁ!!!」


「へ? ちょ、おいぃぃぃ!!」


 朝から三連続で絡まれた俺の苛立ちは最高潮に達し、パンチパーマの先輩の襟首を掴み上げ、そのまま乱入者目掛けて投げ飛ばした。


「何のこれしきーーー!!!」


「ふぎゃあーーーーー!!!」


 乱入者の男子生徒は飛んでくるパンチパーマの先輩をお姫様抱っこの要領でキャッチしてそのまま俺に投げ返してきた。


堂島どうじま! てめぇこら、投げ返してくんなや!!」


「ぐべらっ」


 俺は向かってくるパンチパーマの先輩を蹴り上げ堂島繁雄どうじましげおという同級生にリリース。


「むむ、やるな神崎。だが俺は負けん!!」


 堂島も火がついたのか飛んでくるパンチパーマの先輩をジャンプして蹴り上げようとするが。


「あるぇ!?」


 盛大にスカし、パンチパーマの先輩が堂島の体にぶつかりそのまま吹き飛ばされた。


「さーて、行くか。卓」


「は、はい! ヤバいやっぱ莉緒さん強すぎ超格好いい(ボソッ)」


 俺は手をパンパン払うと用は済んだとばかりに、唖然とする野次馬たちを無視して卓とともに教室に向かった。


 その後駆けつけた教師は、またかよぉー! と、頭を抱えていたのは言うまでもない。

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