4、正しい連休の過ごし方 <Side 愛良>(中編)
次の日は朝早く大阪へ移動して、あたしがすごく楽しみにしていたテーマパークに向かった。
あたしはすっごくいっぱい寝たから元気だけど、なんだか和馬お兄ちゃんと宗次お兄さんはちょっと眠そうで。
里奈お姉さんもそんなふたりをずっと心配してる。
「ちょっと。ふたりとも、そんな状態で大丈夫なの?」
「大丈夫、全然心配いらない」
目が半分眠った状態のままで、宗次お兄さんが受答える。和馬お兄ちゃんも大きなあくびをしながらうなずいた。
なんでふたりともそんなに眠いんだろ?寝るのが遅かったのかなぁ?
「和馬お兄ちゃん、眠いの?平気?今日、一緒にテーマパークで遊べるよね?」
「・・・そうだな、午前中は4人で遊ぼうな」
「午前中は?・・・じゃぁ、午後は?」
「午後は、俺と宗次だけで別行動で遊ぶから」
「え~!!なんで?!」
「お子様と一緒だと、絶叫の乗り物に乗りまくれないからだよ」
ショックを受けるあたしに、お兄ちゃんは意地悪い子供みたいに、にやってあたしに笑いかけた。
せっかく4人でテーマパークに来たのに、また今日も別行動になるの?!
4、正しい連休の過ごし方◎ <Side 愛良>(中編)
「なんで午後は別行動なの?!今日は夜までここにいるんだよね?!」
あまりにもひどい和馬お兄ちゃんの言い分に、あたしは同意を求めて里奈お姉さんを見た。
お姉さんはいつだってあたしの気持ちを汲んでくれるし。
きっと和馬お兄ちゃんを叱ってくれる。
・・・そう思ったのに。
「和馬もまだまだ子供ってことね。愛良ちゃん、今日はずっと一緒に遊びましょう?」
「え、でも、里奈お姉さんだって、宗次お兄さんと一緒に遊びたい・・・でしょ?」
「昨日ずっと一緒にいたからもういいわ。今日は愛良ちゃんと一緒にいたいの」
「・・・里奈、なんかすっげぇ、傷つくんだけど、その言い草・・・」
なんとか4人で一緒にいたくて、里奈お姉さんも宗次お兄さんと一緒にいたいよね、と確認すれば、予想とは違う答えが返ってきて。
あたし以上に、宗次お兄さんのほうが傷ついてたけど。
なんか、変。
「なんで、4人で一緒に遊べないの?」
「だから、午前中は一緒に遊ぶって言ってるじゃないか、愛良?」
「でも、午後から夜までは別行動なんでしょ?」
「いいじゃないか。男同士、女同士で乗りたいものが違うかもしれないだろ?」
「う~・・・・・・!!」
和馬お兄ちゃん、昨日はあんなに優しかったのに、今日はなぜか絶対別行動することを譲らない。
そんなに乗りたいアトラクションがあるのかなぁ。ほんとに子供だなぁ、和馬お兄ちゃんは。
「・・・じゃぁ、約束して。閉園の花火は4人で一緒に見よう?」
「それって何時だっけ?」
「夜の8時半」
「8時半か・・・」
ちらっと和馬お兄ちゃんが宗次お兄さんを窺う。宗次お兄さんが小さくうなずくと、和馬お兄ちゃんはあたしに笑いかけてきた。
「わかった、花火は4人で見よう」
「ほんとに?絶対だよ?」
「わかった、わかった」
お兄ちゃんは苦笑してあたしの頭をぐちゃぐちゃって撫でた。
も~せっかくセットした髪型がぐちゃぐちゃになっちゃった!!
その後は、和馬お兄ちゃんが言った通り、午前中は4人でテーマパークの中を遊んだ。色々な映像のアトラクションを見たりしているうちに、すぐに昼食の時間になっちゃった。
「じゃぁ、午後は別行動な」
朝の眠い表情がウソみたいに、宗次お兄さんがそわそわしながらあたしと里奈お姉さんに言う。恋人である里奈お姉さんもあっさりとそれにうなずいた。
「気をつけてね。連絡は、絶やさないでよ?」
同じテーマパーク内にいるのに、何に気をつけるのか、お姉さんは心配そうにしながら、宗次お兄さんに念押しした。
「わかってるって。ほら、和馬、行くぞ」
「あ、あぁ」
宗次お兄さんと違って、まだ眠そうな和馬お兄ちゃんは宗次お兄さんに引かれるようにしてその場を去ってしまった。
仕方なく、あたしは次はどこに行こうかな、とテーマパークのガイドブックを広げながら、里奈お姉さんに何気なく尋ねてみた。
「あたし、里奈お姉さんが宗次お兄さんと別行動することを許したから、ふたりが喧嘩したのかと思った」
「私と宗次が?やだわ、愛良ちゃんってば。喧嘩はしてないわよ?」
「うん、さっき、お姉さんが宗次お兄さんのことをすごく心配してるときにそうじゃないなってわかった」
「あ、そう?」
「でもなんで、そんなに心配なのに、ふたりで別行動にしちゃったの?4人で一緒に遊べばよくない?」
「そうねぇ・・・・・・」
あたしはごく普通の質問をしたと思うのに、なぜか里奈お姉さんは困ったような表情を浮かべて苦笑をもらした。
「でも、女同士のほうが、ショッピングも時間かけてできるし、楽しいわよ。さ、愛良ちゃん、次はどこに行く?」
答えらしい答えをもらえないまま、あたしは里奈お姉さんに促されるまま、興味のあるアトラクションを列挙していった。
ゴールデンウィークだから混んでいたけど、あたしは乗りたいと思っていたものを最低限乗れたのですごく満足だった。
並んだり乗ったり、買い物したりとしているうちに、あっという間に時間が過ぎてて、気づけば時計は6時を指していた。
「・・・6時、か・・・」
腕時計を見つめながら、里奈お姉さんが緊張した様子でつぶやいた。
そして、鞄からちょっと変わった形のイヤホンを取り出して片耳につけた。
あたしとお姉さんは今、パーク内のレストランで早めの夕飯を食べている。
7時に始まるパレードを見るためには、今のうちに食べておく必要があるからだ。
今6時で、パレードは7時。
・・・あれ?そういえば、なにか忘れている気がする・・・。
ここで遊ぶことが楽しみすぎて、そういえば、なにかを用意しておかなきゃって東京にいるときに思ったのに・・・。
「あ~!!!!!」
思い出した!!どうしよう、大失敗だわ!!
「ど、どうしたの、愛良ちゃん?!」
里奈お姉さんがびっくりした顔であたしに尋ねてくる。あたしは、今にも泣き出しそうな思いで、お姉さんに訴えた。
「今日、夜叉の予告日だってこと、忘れてた・・・」
「えっと・・・今日だったんだっけ?」
「そうなの!!今日なの!!神戸で<天使の宝剣>っていう短剣を盗むって予告状が届いたらしいの。あ~・・・だから、録画をしておこうと思ったのに・・・」
たしか、予告の時間は6時半。
失敗だ・・・。夜叉の活躍を見忘れるなんて、弟子立候補者として失格だわ・・・。
あんまりにも残念な顔をしていたせいか、里奈お姉さんがこっそりとあたしに提案してきた。
「私の携帯でなら、テレビが見れるわよ?パレードが始まるのを待ちながら、見る?」
その瞬間、あたしには里奈お姉さんが天使に見えた!!!
「見る!!!」
もちろん、それは即答した。
6時半より少し前にレストランを出て、あたしと里奈お姉さんはパレードが見やすい場所をなんとか探して腰を落ち着けた。
今頃和馬お兄ちゃんと宗次お兄さんは、アトラクションばかり乗って楽しんでいるんだろうな。
パレードだってきれいなのに。
ちゃんとふたりとも花火の時間を忘れないでいてくれているといいけど。
「あら、もう中継が始まってるのね」
携帯をテレビにつなげてくれたお姉さんが驚いてた。
予告時間から10分前。そりゃ、テレビはもう報道を開始するよ。
あたしはお姉さんと一緒に携帯の小さな画面に映し出された中継画面を一緒に見た。
お姉さんも夜叉は泥棒だって否定的だったのに、画面を見る表情はなぜかすごく真剣。あたしももちろん、真剣に画面を見つめる。
パレードが6時半からじゃなくてよかった。
「・・・<ビール>、すごい人だかりみたいね」
パレード待ちの人たちの喧騒でよく聞こえないけれど、お姉さんがすごく小さな声でそんなことを言っているのが聞こえた。でも、顔は画面を見たままだから、あたしに話しかけたわけじゃないことはわかる。
ビールでも飲みたいのかな?
「・・・そうよ、正解。さすがね。・・・準備は平気?」
またお姉さんがなにかをしゃべってる。携帯はテレビの画面をうつしたままなのに誰と話しているんだろう?
お姉さんはあたしが聞こえているとは思っていないみたいで、テレビ画面を見つめたまま口だけを動かしている。
「・・・そう。じゃぁ、気をつけて。しっかりサポートしてね、<ビール>」
またビールだって。お姉さんがそんなに酒豪だとは思わなかったなぁ。
不思議に思っているうちに、夜叉の予告時間になった。
映像は夜叉の獲物である<天使の宝剣>を映し出したまま。アナウンサーの興奮気味の声だけがそこから聞こえる。
夜叉の中継をみているのはあたしたちだけじゃなくて、こうして今パレードを待っているほとんどの人が、あたしと里奈お姉さんのように携帯画面で中継を見ていた。
<天使の宝剣>は、厳重な檻に囲まれていて、どう見ても簡単に盗みだすことができない。
その檻のまわりにも警察の人たちが護衛しているし。
夜叉はどうやってあれを盗むのかな。
あたしは、パレード待ちをしていることもすっかり忘れて、怪盗夜叉の中継にしっかり目を奪われていた。
はい、今回も別行動の4人。
里奈&愛良コンビは相性がよさそうですよね(笑)
たしかに、「ビール」を連呼されたら、愛良じゃなくなって、不思議に思いますねぇ…(笑)
次回は夜叉の後半戦と、見れるのか、花火?!なところまでです!!
愛良サイドは前後編で終わらせるつもりが、この夜叉後半戦が長引いてしまって、あえなく前中後編になってしまいました・・・(汗)