22、衝撃的な転換 <Side 愛良>
受験、受験、受験。
ノイローゼになりそうなくらい、その二文字をよく見聞きした、年末年始。
受験まであと少ししかないとはいえ、毎日毎日勉強ばっかでつまんない!!
怪盗夜叉も活躍しているみたいなのに、毎日塾があるからテレビも見れない・・・・・・。
不貞腐れそうな毎日の中で、和馬お兄ちゃんたちにとって人生の一大イベントがあることをあたしは思い出した!!
和馬お兄ちゃんたちの大事なイベント・・・・・・それは、成人式!!
22、衝撃的な転換Σ <Side 愛良>
「里奈お姉さん、綺麗~!!」
「ありがとう、愛良ちゃん」
「あら、プリンシアはいつもかわいいわよ」
「やっぱり日本人は着物が似合うね!!目の保養になるな~」
「・・・・・・愛良、ロゼ、ジョン」
「「「ん?」」」
「なんっでおまえたちがここにいる?!」
「「「そろそろ成人式が終わったと思ったからお迎えに」」」
「・・・・・・目立つから帰ってくれ・・・・・・」
成人の日当日。
和馬お兄ちゃんたちが出席する成人式の会場に、あたしとロゼ、ジョンも和馬お兄ちゃんには内緒でこっそりと向かった。
振り袖姿の女の人がいっぱいいる中で里奈お姉さんを見つけて、駆け寄ってみたら、当たり前だけど和馬お兄ちゃんがいた。
「だって~里奈お姉さんの振り袖姿を見たかったんだもん~」
「わざわざ見に来てくれたのね?ありがとう」
振り袖姿の里奈お姉さんがにっこりと笑ってくれる。里奈お姉さんはいつも綺麗だけど、今日は一段と綺麗!!
淡いピンクと白の振り袖が似合ってる~!!
和馬お兄ちゃんたち男性陣は、黒のスーツ姿。
それでも、みんなのスーツ姿なんて見たことなかったから、なんかすごくぴしっとして見えて、大人に見える・・・・・・!!
「愛良、里奈だけじゃなくて俺たちに言うことは?」
唯一スーツ姿でもなかった宗次お兄さんがニヤニヤしながらあたしに話しかけてきた。スーツ姿ではない宗次お兄さんは、白い羽織と袴を着ていたりする。
「う~ん・・・・・・宗次お兄さんは、芸人さんみたい?」
「あ、愛良~・・・」
「あはは、うそうそ!!里奈お姉さんと並ぶと結婚式みたいだよ!!」
「そうだろう、そうだろう!!」
あたしの発言に一喜一憂する宗次お兄さんを眺めながら、里奈お姉さんは苦笑を浮かべている。
「・・・あれ?ジョンはどこ行った?」
和馬お兄ちゃんがキョロキョロしながらそう言い始めて、あたしもジョンがいなくなっているのに気づいた。すると、ロゼが面倒臭そうにある方向を指差した。
「ピエロならあそこよ。置いていってもいいんじゃないかしら?」
ロゼが指差す方向を見ると・・・・・・なるほど、ジョンがいた。
振り袖姿の女性陣に囲まれて。
「あ、ジョンのやつ、なんであんな羨ましいことに!!」
「・・・・・・どうやら即席のマジックショーをしているみたいだね」
宗次お兄さんが羨ましそうに見つめていると、実お兄さんが呆れたように言い添える。
たしかに、実お兄さんが言うように、ジョンは簡単なマジックを披露しながら、振り袖姿の女性陣を集めている。もちろん、ジョンのすごいマジックに惹き付けられるのは女性だけじゃないから、徐々に彼を囲む輪が大きくなっていく。
「・・・ジョンは置いていくか」
和馬お兄ちゃんが肩をすくめて、本当にスタスタと歩き始めちゃった。
・・・それにしても、スーツ姿の和馬お兄ちゃん、かっこいいなぁ・・・・・・!!
「あ、瀬戸くん、須藤くん!!」
みんなでジョンを置いて帰ろうとしたそのとき、別方向から知らない女性の声が飛んできた。声がした方向に目を向ければ、そこには赤い振り袖を着た、はきはきと元気そうな女性がいた。
「やっぱり、瀬戸くんと須藤くんね?!覚えてる?中3の時同じクラスだった・・・」
「山内だろ?!覚えてる、覚えてる!!」
「綺麗になったね~、山内さん」
赤い振り袖のお姉さんと、和馬お兄ちゃんと実お兄さんが楽しそうにおしゃべりしてる。
なんか、色々思出話とか、お友達のこととか。
・・・なんだか、おもしろくない。
「和馬たちと私たちは中学が違うから、あの子は私たちも知らないわ」
里奈お姉さんがあたしをなぐさめるように、にっこりと笑いながらそう言ってくれる。
「ま、しばらくおしゃべりに付き合って待っててやるか」
宗次お兄さんが、まだギャラリーに囲まれながらマジックを披露しているジョンに目をやってから、そう言った。
・・・・・・確かに、ジョンもまだ一緒に帰れそうにないから、しばらく待っててもいいよね。
「・・・そういえば、聞いたよ、瀬戸くん、ご両親のこと・・・」
「え、あぁ、まぁ、ね」
「急なことで大変だったでしょ?瀬戸くん、兄弟もいないからひとりきりでしょ?」
赤い振り袖のお姉さんの突然の話題転換に、和馬お兄ちゃんは戸惑いながらも笑ってそれに答えてる。
・・・・・・それにしても、無神経~!!
こんなデリケートな話、いきなりこんなとこで話すなんて、なんって無神経な人なの!!
「・・・随分と無神経に切り込んでくるなぁ、あの彼女」
あたしの心を読んだかのように呟いた宗次お兄さんの言葉に、あたしはうんうん、と何度も頷く。すると、里奈お姉さんが苦笑しながら宗次お兄さんに答えた。
「仕方ないんじゃないかしら?所詮、彼女にとっては他人事。ご両親を失ったばかりの和馬の憔悴した様子を見ていないんだもの、テレビのニュースと大差ないんだわ」
・・・そんなものなのかなぁ。でも、やっぱり、例えばパパとママが死んじゃったらって考えると、あたしは悲しくて胸が締め付けられる。
こんな思いを、和馬お兄ちゃんは実際にしたのに、あんな無神経なことを言えるの?!
納得がいかない顔で里奈お姉さんを見上げれば、ちょうど里奈お姉さんもあたしを見ていたようで目があった。
物言いたげなあたしの様子を察したのか、里奈お姉さんはあたしの頭をゆっくりと撫でて笑った。
「でも、今は和馬のそばに愛良ちゃんがいるから、和馬はああして笑っていられるのね」
「・・・え、え?」
「愛良ちゃんと暮らし始めるまでの和馬は、ご両親のことを触れられるのをとても嫌がっていたのよ。私たち相手でも」
「・・・そうなの?」
「だからね、和馬が、事情を知らない人間にご両親のことを言われても、ああやって笑っていられるのは、それだけ心にゆとりができたのだと思うの。そのゆとりはね、いつも和馬のそばにいて笑ってくれる、愛良ちゃんのお陰なのよ」
「さっすが、和馬の恋人だな、愛良!!」
里奈お姉さんと宗次お兄さんの言葉に、あたしはうれしくてドキドキしてしまう。
「ほんとに?!じゃぁ、あたしの愛が和馬お兄ちゃんに<ゆとり>をあげられてるのかな?」
「本当よ。だから、これからも和馬をよろしくね、愛良ちゃん」
「うん!!」
ニコニコと上機嫌になったあたしは、さらに和馬お兄ちゃんたちの会話に耳を傾けていたら・・・・・・驚きの事実を知った。
「そういえば、須藤くんって医大に通ってるんでしょ?すごいなぁ、いつかは医者になるの?」
それは、普通の問い掛け。だからそれに対する実お兄さんの平然とした解答に、一瞬耳を疑った。
「あぁ、いや、医大はね、退学したんだ。今年、和馬たちと同じ大学を受験するつもりだよ」
・・・・・・え?
聞き間違えかと思って、里奈お姉さんを見上げる。
すると、里奈お姉さんも口に手を当てて目を見開いてる。その隣にいる宗次お兄さんも、驚いた顔してる。
聞き間違えじゃ・・・・・・ない?
医大をやめたって・・・実お兄さん、大学やめちゃったの?!
それで、今年和馬お兄ちゃんと同じ大学を受験するって・・・・・・大学受験ってすぐじゃない?!
いったいなにがどうなっているのかわからなくなってきたあたしが、和馬お兄ちゃんに視線を送れば、和馬お兄ちゃんも驚いた様子で実お兄さんを凝視してる。
「み、実、いったい・・・」
「え~?!須藤くん、医大を辞めちゃったの?!なんだ~てっきり須藤くんは医者になるんだと思ってたよ~。成績よかったし」
和馬お兄ちゃんの言葉を遮って、赤い振り袖のお姉さんが叫ぶ。それに対して、実お兄さんが微苦笑を返した。
「・・・医者になりたくて、医大に行ったわけじゃないから、いいんだよ」
「え?じゃぁなんで・・・」
「久しぶりに会えてよかったよ、山内さん。友人たちを待たせてるから、またね。さ、行こう、和馬」
「実・・・・・・」
実お兄さんが呆然としている和馬お兄ちゃんを引っ張って、あたしたちのところにやってくる。でも、里奈お姉さんも宗次お兄さんも、和馬お兄ちゃんたちと同じように呆然としている。
・・・・・・ただ、なぜかロゼだけが薄く笑ってそれを見守っていたけど・・・。
「み、実お兄さん、さっきのって・・・」
「お~わりぃな、待たせたか~?いやぁ、麗しきレディたちにサービスしすぎてしまったぁ・・・って、なに、この空気?」
何の事情も知らないジョンが上機嫌であたしたちのもとに戻ってきて、この微妙な空気に戸惑う。
・・・・・・いや、あたしもどうしたらいいか、戸惑ってるけど。
「・・・愛良」
「は、はい!!」
「そろそろ塾の時間だろ?行ってこい」
あたしのことを見ることなく、和馬お兄ちゃんが冷ややかに言う。それは、暗にあたしをこの場から追い払おうとしているのは見え見えだった。
・・・塾の開始時間にやばいのも、本当だったけど。
「・・・でも・・・」
「プリンシア、行きましょう?私がプリンシアの塾まで送っていくわ」
ロゼにまで促されてしまって、あたしは和馬お兄ちゃんたちをその場に残して塾に向かうしかなかった。
実お兄さんのことはすっごくすっごく気になるけど、でも、今のあたしには塾の勉強も大事。だから、あたしはロゼと一緒に塾に向かった。
塾を終えて家に戻ると、そこには和馬お兄ちゃんの姿はなくて。
あの場に残っていたジョンがリビングにいたから、あたしはジョンに尋ねてみた。
「ジョン、和馬お兄ちゃんは?あのあと、ってどうなったの?」
「ん~?あ~あの後な。なんか、もめてたけどなぁ」
「もめてたって・・・。それで、和馬お兄ちゃんは今どこに?」
「ナイトは、大学の友達と飲み会に行ったわよ、プリンシア。今夜は帰りが遅くなるみたい」
「ロゼ・・・」
「でもわかんねぇなぁ。ジュニアもドクターも、好きなように生きてるだけだろうに」
「ジョン、それって・・・・・・」
「オレからは言えないな。ジュニアの許可が得られたら、教えてやるぜ?」
意地悪なジョンの笑みに、あたしはむっとしながら睨み返す。
だけど、ジョンもロゼも、その日はそれ以上何も教えてくれなかった。
それから1ヶ月間は、すごく変な1ヶ月だった。
実お兄さんはいつも通りこの家に来たのに、宗次お兄さんたちと一緒にいつものように和馬お兄ちゃんの部屋に行くことはなかった。
ただ、ずっとリビングであたしの勉強を見てくれたり、実お兄さんも受験勉強をしたりしていた。
この1ヶ月、ずっと。
あたしが知る限り、実お兄さんが和馬お兄ちゃんの部屋に入ることはなくて、リビングでみんなが出てくるのを待ってた。
なんか、和馬お兄ちゃんたちが実お兄さんを仲間はずれにしているみたいで、やだな・・・・・・。みんなで仲良く過ごしたいのに・・・・・・。
「愛良ちゃんにまで嫌な思いをさせてごめんね?」
ある日、勉強を見てくれていた実お兄さんがそう言い出した。
「僕の我儘でみんなを振り回してしまって、申し訳ないな、とは思ってるんだけど・・・」
「う、ううん、平気!!大丈夫、きっと受験が終わったら、元通りだよ!!ね?」
「・・・そうだね」
そう言って返してくれた実お兄さんは、すごく寂しそうな笑顔をしていた。
うん、でもきっと、受験が終われば、何かよくなる気がする。
よくならなくちゃ、だめだよ!!
あたしは、この微妙な空気をあえて無視することにして、受験勉強に専念した。
そして、とうとう迎えた受験日当日。
この中学校に受かりたくてがんばったし、受かりたい!!
そんな思いが強すぎたのか、ガチガチに緊張していたあたしに、朝からジョンは簡単なマジックを見せてくれて、ロゼはおいしい朝のデザートを用意してくれた。
そして、和馬お兄ちゃんは。
「あんまり肩に力を入れすぎるなよ。愛良ががんばってたのは知ってるんだから、自信持っていけ」
頭をそっと優しく撫でてくれてから、ぽん、と背中を叩かれる。
不思議。
そうして背中を押してくれると、なんだか自信が沸いてくる。
ロゼもジョンもあたしを玄関まで見送ってくれた。
もちろん、朝が苦手な和馬お兄ちゃんも。
和馬お兄ちゃんに叩かれた背中に温かみを感じながら、あたしはいざ、決戦の場に向かった。
不思議と、昨日から朝起きたときまでの、ガチガチな緊張はなくなっていて、ほどよい緊張感があたしの中に満たされていた。
あたしのために、朝から励ましてくれたみんなに感謝しながら、あたしは全力で受験にぶつかることができた。
そして、念願の合格通知書を、しずちゃんと一緒にもらうことができたのだった!!
話の展開が早くなる1~2月(笑)
でも、別にこのシリーズは愛良の受験がメインじゃないので、1~2月はあっさりと進めることに決めてました。
ただ、どうしてもこの成人式のやりとりはやりたくて!!
やっと夏の勉強合宿からの伏線がここまでやってきました!!!
実が医学生ではなくなること。
これはこのシリーズの今後にはものすご~~~~く大事なことだったりするのです!!
実は色々考えて苦労が多い子なんです、とあちこちで紫月が言っているのもこんなことがあったりするからなんですね~。
いつか、実主体の番外編書きたいけど・・・・・・書きたいもの多すぎて、本編進まないとまずいですよね・・・。
それにしても、ジョンが加わることによって、宗次がふたりになったかのように、重い展開まで軽い、軽い(笑)