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あたしの恋人  作者: 紫月 飛闇
Season1 始まりと出会い
6/86

3、ふたりきりの夜<Side 愛良>



和馬お兄ちゃんと「同棲」生活を始めてから1週間。


あたしはちょっと、不満がある。


里奈お姉さんから、和馬お兄ちゃんは放っておくと「不摂生な生活」をするって聞いたから、ちゃんと毎日お夕飯をつくっていたのに。


なのに。



和馬お兄ちゃんってば、この1週間、毎日毎晩、「バイト」とか「飲み会」とかで、全然ご飯食べてくれない!!


いい加減、あたしだって怒るわよ?!






3、ふたりきりの夜☆彡   <Side 愛良>






「お兄ちゃん、今夜はどこで夕飯食べるの?」


朝、あたしはお兄ちゃんの部屋で半分怒った声でそう尋ねた。


・・・だって、お兄ちゃん、まだ寝てるんだもん。


夕飯一緒に食べれないんだから、朝ごはんくらい一緒に食べてくれてもいいじゃない!!!


「ねぇ、和馬お兄ちゃん!!起きてよ!!今夜は夕飯、どうするの?!」




そんなことを尋ねていると、ほんとに奥さんみたい~って発想が浮かぶけど、すぐに現実に引き戻される。


もぞもぞとベッドの中を動きながら、お兄ちゃんが答えてきた。


「・・・うるさいぞ、愛良~・・・。俺はおまえと違って寝るのが遅かったんだからもう少し寝かせろ~・・・」


「そんなこと言っても、学校に遅れちゃうでしょ?!」


「今日は午後からの授業だよ・・・」


大学ってずるい。朝から学校行かなくていいの?!


そのまままた布団を被って寝ようとした和馬お兄ちゃんの上に、あたしは思い切って馬乗りした。



「お、重い・・・」


すぐにお兄ちゃんから抗議の呻きがあがった。失礼ね!!


「ねぇ、夕飯は?!」


「適当に食うから俺を気にしなくていいっていつも言ってるだろ・・・・・・」


寝ぼけながらそう言う和馬お兄ちゃんは、そのままあたしが馬乗りしているにも関わらず寝ようとしてる。


信じられない。


「一緒に・・・食べたいのに・・・」



なんか、悲しくなってきた。


毎日毎日お夕飯作って、待ってるのに。


お兄ちゃんのために、がんばってつくってるのに。


なんで、わかってくれないの。



気付けば、あたしは涙を流してた。こんなことで、泣きたくなんか、ないのに。



「・・・愛良?」

寝てたはずのお兄ちゃんがあたしの様子がおかしいのに気付いて、顔をこっちに向けてきた。



やだ、泣き顔なんて見られたくない。


咄嗟に腕を顔の前で交差させて、顔を隠す。でもお兄ちゃんが上体を起こしてあたしの腕をほどいちゃう。


あたしが馬乗りしてたのなんか、全然意味ない力で、お兄ちゃんは体を起こす。


・・・意外に、お兄ちゃんはたくましい。




「なんで泣いてるんだよ?」


「・・・だって・・・」


じっとお兄ちゃんに見つめられて。あたしは、意地を張るのをやめた。


「・・・お兄ちゃんのために、毎晩ご飯つくってるのに・・・・・・お兄ちゃん、一緒に食べて、くれない、だもん」


最後はしゃっくりと交えちゃってうまく言えなかったけど、お兄ちゃんには伝わったみたい。


一瞬びっくりしたように眼を瞬いてたけど、すぐにお兄ちゃんは優しく頭をなでてくれた。




「・・・わかった。じゃぁ、今夜はちゃんと夕方には帰るから、ご飯、一緒に食べような」


「ほんと?」


「あぁ、ほんとだ」


「バイト、とか、飲み会、とか、ない?」


「あ、あぁ・・・」


じっとあたしが睨むようにお兄ちゃんを問い詰めれば、お兄ちゃんは顔を引き攣らせながらうなずいた。




一緒に夕飯を食べれる。


そう思ったら、あたしは急に機嫌が良くなった。



「じゃぁ、がんばってご飯、つくるね!!お兄ちゃん、なにがいい?」


「・・・なんでもいいよ」


「ん~、じゃぁ、お兄ちゃんの嫌いなものってなに?」



上機嫌なあたしに告げられた、和馬お兄ちゃんの「嫌いな食べ物リスト」の多さに、一瞬あたしは絶句させられた。






「今日はずっとご機嫌ね、愛良ちゃん?」


学校の帰り道、しずちゃんにそう言われた。


「そう?そう見える?」


「どう見てもそう見えるわよ?気持ち悪いくらいにやにやしてる」


「え~だって~・・・・・・」


そう言ってる最中でもついつい顔はにやけてしまう。



だって今夜は一緒に和馬お兄ちゃんとご飯を食べれるし。

ってことは、ふたりきりの夜ってことだし。




「このままあたしがお兄ちゃんの奥さんになっても、しずちゃんはずっとあたしの親友だからね!!」


「・・・また、どうでもいい想像してるのね・・・」


あたしの親友の誓いに、なぜかしずちゃんは呆れた様子でそんな風に返してきた。


なんで、あたしがお兄ちゃんと結婚することを想像してたのがわかったんだろ?





夕飯をなににするか考えて、結局あたしはオムライスを作ることにした。


なぜなら、ケチャップであたしの和馬お兄ちゃんへの気持ちを伝えられるから。



お兄ちゃんが帰宅するのは7時。


あたしはその時間に合わせて完成するように、せっせと夕飯作りに勤しんだ。



「・・・ただいま」



7時ちょっと前に、玄関から声が聞こえた。


和馬お兄ちゃんだ!!


「おかえりなさ~い!!」


「あ、あぁ・・・ただいま」



思い起こせばこの1週間、すれ違ってばかりで、あたしはお兄ちゃんに「おかえりなさい」って言ったことがなかったんだった!!


そのせいか、お兄ちゃんがちょっと照れた様子で返事をしてきた。

なんかかわい~!!





「へぇ、おいしそうにできてるな」


お兄ちゃんが、『あたしの』オムライスを見ながらそう言う。


「お兄ちゃんの分はこっちだよ」


あたしはケチャップで「LOVE KAZUMA」と書いたオムライスを差し出してにっこりと言った。


「あ、あぁ・・・やっぱ俺のはこっちか・・・。うまそうだな、うん、うまそうなんだけどな・・・」


顔をひきつらせながら、お兄ちゃんはぶつぶつ何か言いながらそのお皿を受け取った。


愛情が足りなかったのかしら?


もっとハートマークとかいっぱい描けばよかったかなぁ。





一緒に夕飯を食べている間、お兄ちゃんはひたすらあたしの話を色々聞いてくれた。


あたしもうれしくて、学校であったこととか、塾の勉強が難しいこととか、色々とたくさん話した。


好きなこと、苦手なこと、いっぱい知ってほしくて、食べるよりも忙しく喋った。


お兄ちゃんも、いつもはそっけないのに、その日は優しく相槌うちながら話を聞いてくれた。




自然と、しゃべり続けるあたしのほうが食べ終わるのが遅くなってしまう。


「あ、ごめんね、お兄ちゃん。あたしも急いで食べるから・・・・・・」


「いいっていいって。ゆっくり食べろ。どうも、俺は食べるのが速いみたいだし」


「やっぱり食事はひとりよりもふたりのほうが楽しいね。ひとりで食事することが多いから、たまにパパやママと食べる時も、こうしておしゃべりばっかりしちゃってご飯が遅くなっちゃうの」


えへへ、と笑いながら食べていると、和馬お兄ちゃんは少しさびしそうにあたしに笑いかけてきた。


「愛良は、ひとりで食事することが多かったのか?」


「うん。パパもママも取材とか仕事の関係でよくいなかったから」


「・・・・・・愛良の両親は、何の仕事してるんだ?」



不思議そうにお兄ちゃんがあたしに尋ねてきた。


あ、そっか。まだお兄ちゃんにパパたちの職業、言ってなかったっけ。



「画家だよ。それも、夫婦ふたりでひとりの画家」


「両親ふたりで協力して仕事してるのか?」


「うん、そう」


「そっか・・・・・・」


あたしが無邪気にうなずくと、なぜかお兄ちゃんは懐かしそうに笑った。


なんでか、あたしはちょっと気になってつい聞いてしまった。




「お兄ちゃんのパパとママも、一緒に仕事してたの?」


「・・・・・・え?」


「なんか、懐かしそうな顔をしてたから、そうかなって・・・・・・」


「・・・そうだな。父さんと母さんも、一緒に同じ仕事、してたかな・・・」


今度は寂しそうにお兄ちゃんは笑う。


「何の、仕事だったの?」


「そうだなぁ・・・・・・ふたりが死ぬまで俺が知る限りでは、大学の工学科の助教授と看護士だったな」


「・・・一緒に仕事してなくない?」


「そうだな」


くすくすくす、とお兄ちゃんは意地悪く笑う。


なんなの?!お兄ちゃん、嘘ついたの?!




むぅっとあたしがむくれていると、お兄ちゃんはまだくすくす笑いながら、一枚のパンフレットをあたしに差し出した。


「まぁ、そうむくれるなって。G・Wにいいとこ連れて行ってやるから」


「え?!」


ゴールデンウィークまであと少し。


お兄ちゃんから思いもかけないうれしい話を聞いて、あたしの機嫌は急上昇してしまう。



お兄ちゃんがくれたパンフレットは、大阪にあるテーマパークのものだった。



「ここに連れて行ってくれるの?!」


「まずは京都で観光して、そのあと大阪に移動してそのテーマパークにでも行くかって話になってる」


「・・・話になってる?」


「里奈と宗次も一緒だよ」


「あ、なるほど」



お兄ちゃんとふたりきりじゃないのはちょっと残念だけど、里奈お姉さんのことも好きだし、あたしは全然構わない。


それに、おいてけぼりにするんじゃなくて、一緒に連れて行ってくれるのがすっごくうれしい!!




「でも、別にあたしは大阪だけでいいのに」


「・・・里奈たちが、京都に行きたがってるんだよ」


なぜか遠い目でそう言うお兄ちゃん。どうしたんだろ?




「そっか。じゃぁ、京都にも大阪にも行けるなんて楽しみ!!」


「実は行けないみたいだけどな」


「え、そうなの?!」


「医学生は色々大変なんだよなぁ」


ざまぁみろ、という言葉が口から出そうなくらい、今度は意地悪な表情を浮かべたお兄ちゃん。


どうもお兄ちゃんはあの3人の友達の話になると、表情がころころ変わる。




「このテーマパーク、行ってみたかったんだよね~!!」


「ちゃんと里奈たちの言うことも聞くんだぞ、特別に連れて行ってやるんだからな」


「は~い」


あたしはうきうきとお兄ちゃんに手渡されたパンフレットを握り締めて元気よく返事をした。


今から連休が待ち遠しい。



今夜は最高の夜になった!!





そんなわけで、別に隠していたわけでもなかった、愛良の暴走両親の職業がやっと明るみになりました(笑)

ふたりでひとりの雅号で画家をやるっていうのもありかなぁと。

で、前回からの和馬くんの受難(笑)を引きずり、とうとう愛良は旅行に連れて行ってもらえることになりましたね。

でも、なんで京都だけじゃなく、大阪のテーマパークまで行くことになったのかは…次回の和馬サイドでわかります(笑)

ご飯を一緒に食べたい、と泣く愛良がいじらしくてかわいいな、と書いていて気に入ったシーンでした(笑)

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