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あたしの恋人  作者: 紫月 飛闇
Season1 始まりと出会い
51/86

13、小さな依頼人 <Side 和馬>(中編)




愛良が強引に巻き込んでくれたおかげで、俺は雪野ちゃんから改めて怪盗夜叉への依頼内容を聞くことができた。


どうやら、雪野ちゃんの叔父さんってのは、ちょっとやばいことに関わってるかもしれない。加えて、今回の獲物である宝石箱はその叔父さんの手元にはないということだ。


・・・ってことは、まずは叔父さんの周辺を洗わないとだめってことか・・・・・・。宗次がそれに気づいていればいいけど。


そしてもうひとつ知ったことがある。


今回、雪野ちゃんがあの厳戒態勢の美術館に侵入することができたのは、どうやらノワールが関わっているらしいということ。


愛良が怪盗夜叉に会ったときのように、ノワールのやつが彼女を誘導したらしい。


だけど、なぜだ?


なぜ、ノワールは怪盗夜叉とこの少女を出会わせた・・・・・・?


もしや、依頼内容を知っていた?!


だとしても、なぜノワールが雪野ちゃんの手助けをしたのかはわからない。



一流スナイパー・ノワール。


・・・奴の狙いは、一体なんなんだ・・・・・・?









13、小さな依頼人▲    <Side 和馬>(中編)











その夜、宗次たちは予定通り俺の家に集まり、部屋で作戦会議を開くことになった。


とりあえず俺は、昼間知った情報を全員に話した。雪野ちゃんの言う宝石箱が彼女の叔父の手元にはないのだと報告すると、実は難しそうな顔をつくり、里奈は眉を寄せ、宗次はというと、あっさりと頷いた。


「あぁ、知ってるよ。あの子の叔父さん、やばいのに目をつけられてるみたいだぜ」


さすが情報収集係。すでに情報はつかんでいたのか。


俺の部屋でムシャムシャとお菓子を食べながら、宗次はさらに説明してきた。



「三成 昭彦。2年前にリストラされて、プーになってるうちにギャンブルにはまる。で、悪い連中に目をつけられちゃったわけだ」


「金銭問題か?」


「医者一家の実のとこには小銭のような金額で、な」


「・・・へぇ。それはかわいそうに。僕には理解ができないくらい少額の借金で苦しんでるってことだもんなぁ?宗次は僕にそう言ってほしいんだよなぁ?」


「ス、スイマセンデシタ・・・・・・」


実に絶対零度の笑みを向けられて、宗次は固まりながら平に謝る。


・・・まったく、結局怖じ気づくならからかわなけりゃいいのに。



「それで?その金銭問題をチャラにするために宝石箱を盗んだのか?」


「そーゆーこと」


呆れながら俺が尋ねれば、宗次は迷いなく即答してくる。


昨日の今日でこの情報量。やっぱりすごいよな・・・。でも、ノワールはこれを全部一人でやってるってことだよな・・・・・・。


「そんなに価値のある宝石箱なのか?」


実が尋ねれば、宗次は首を横に振ってから眉を寄せた。


「いや、宝石箱はたいしたことはない。ただ、あの子のおじいさんってのが、ちょっとしたジュエリーコレクターだったみたいで、中身はわりと価値があるみたいなんだよな」


「ふぅん。浮かばれないよなぁ、そのおじーさんも」


「で?その宝石箱の場所はつかんでるのか?」


さっそく作戦を練ろうとしているのか、真剣な表情で実は宗次に尋ねる。すると、珍しく宗次が難しい顔をしてため息をついた。


「宗次?まだ居所はわからないの?」


里奈が優しく彼に問いかけても、彼はその厳しい表情を変えることなく首を横に振った。



「・・・どこにあるかは・・・なんとなくはわかってる。その昭彦氏を脅してる連中のとこだとは思うけど・・・・・・」


「なんかやばいのか?ちょっとくらいの暴力団とかなら、<組織>の奴らとやりあうくらいの準備をしていけば・・・」


「たしかに、直接昭彦氏を脅してる奴らは下っ端も下っ端だから、なんとかなるかもしれないけどなぁ・・・・・・」


俺の返答にも煮えきらない様子で宗次は頷く。そんな反応をされると、俺たちは余計気になって互いに顔を見合わせた。


「いったい、どんな連中なんだ?」


「じつは・・・・・・香港マフィアだったりして・・・」



しばし沈黙。


香港マフィア?


どっかのドラマじゃあるまいし?


マフィアって・・・・・・あのマフィア?!




「・・・マジ?」


「・・・マジ」


その場にいる全員がひきつった笑いをする。もはや、笑うしかないだろ。


「とんでもないもんが相手だなぁ・・・」


「でも、そのマフィアのボスを相手にするんじゃなくて、下っ端を相手にすればいいだけだろ?だったら・・・」


「ところがかずくん、ひとつ問題があったりして」


なんとかなるだろ、と腹をくくった俺に、申し訳なさそうに宗次が指を一本立てる。



「・・・問題・・・?」


「今、香港マフィアはそのボスのことでごちゃごちゃと内輪揉めしてたりして」


「はぁ?!」


「最近ボスが世代交代したらしいんだ。だけど、これがまた出来の悪いボスで、もうひとりの候補を担ぎ上げる一派と、今のボスを支持する一派とで喧嘩中・・・みたいな・・・」


喧嘩とかいうレベルじゃないだろ・・・。


おどける宗次に、俺はため息しか出ない。


でも、それが本当ならうなずけるところもある。こんな無関係な日本人である昭彦氏を巻き込み、宝石箱の略奪行為など、いくら下っ端の仕業とはいえマフィアがやるようなことじゃない。


だが、上層部の監視が反れている今なら、<イタズラ>も許されるってわけか。



「なんか・・・面倒なことになりそうだな・・・」


「だよな・・・」


思わず出た正直な感想に、宗次も同調してくる。統率者であるボスの任命でもめてる香港マフィア。その最中に俺たちは飛び込まないといけないわけ・・・・・・か・・・。


「宗次、香港マフィアの動向と、その下っ端たちのアジトをちゃんと掴んでこれるか?」


至って冷静に実が宗次に尋ねる。言われて彼も、すぐに仕事の顔になった。


<ビール>としての顔に。


「誰に言ってるんだよ?」


「じゃぁ任せた。決行は土曜で変更なし。今回は<シリーズ>とも無関係だからマスコミにも知らせずに行うよ?いいね?」


実が全員の顔を見ながら確認してくる。どんな事態になっても冷静な状況判断。実のその落ち着いた態度に、俺たちもいつもの調子を取り戻す。


「OK。きっちりと受けた<依頼>はこなしましょう」


俺もまた、仕事の口調で応じてからふと、思い出した。



「・・・あ」


「どうした、和馬?」


「そういえば、愛良が雪野ちゃんの家に待機するらしいんだ」


「・・・夜叉に会うためか?」


「・・・あぁ」


「愛されてるね~怪盗夜叉」


軽く笑う宗次の横で、里奈が心配そうに俺に尋ねてくる。


「和馬、愛良ちゃんの<依頼>も受けるのよね?」


「あぁ。愛良の探し物は<失われた誕生石>シリーズのひとつ、<エーゲ海のエメラルド>だからな。早く詳しい話を聞かないと・・・」


「それで、その依頼を終えたら、愛良ちゃんは海外にいるご両親のところに行っちゃうのよね・・・。寂しいわね」


「そっかぁ、愛良がこの家にいるのも当たり前になってたしなぁ」



里奈と宗次が好き勝手なことを言って寂しがる。俺はわざとらしいほど大きなため息をついてふたりに言った。


「俺は早く愛良を両親のもとに送りたいね。あいつがいると毎日が騒がしいし、<仕事>もやりづらいし。何かにつけて怪盗夜叉を追いかけてくるからヒヤヒヤするよ。愛良がいなくなれば、ロゼだっていなくなるだろうし」


「それでも、この家に温もりが戻ったことを喜んでいるのは、和馬だろう?またひとりきりになって、平気か?」


「なにを言って・・・」


実の真剣な表情に、俺はおどけることも誤魔化すこともできずにうろたえる。


ふと、一瞬だけ想像してみる。


愛良もロゼもいない、家。


大学や<仕事>から帰って、出迎えてくれる笑顔。何気ない会話。明るく灯されている部屋。


それがなくなり、再び真っ暗な家に帰宅する日々に戻る・・・・・・。



「・・・馬鹿馬鹿しい。俺はひとりで暮らす方が気楽だよ」


吐き捨てるようにそう言うと、俺はすっと立ち上がる。実たちがどんな顔をしているかなんて見たくなかった。


「土曜に決行。それだけわかっていれば、今日はもう十分だろ?」


まるで会話を打ち切るかのように、俺はそう言い放った。







それから数日後、宗次がさらに情報を集めてくれて、宝石箱を奪ったやつらの居所は掴めた。


ただ、最悪のタイミングだということも同時にわかった。


というのも・・・。


「まさか、来日してるとか、最悪じゃねぇ?」


宗次がその場に崩れるようにして嘆きながら報告してきた内容に、実は顎に手を当ててじっと何かを考え、俺はその報告に絶句した。


「それって・・・間違えない情報か?」


「残念ながらな。どうやら先週から来日してたようだな。宝石箱はその貢ぎ物ってとこか?」


「ご機嫌伺いのお品が強奪品って・・・」


「ま、それが裏世界だな」


呆れる俺に、宗次はさらりと返してくる。


そう、これはもう裏世界。俺たちはとっくにそちらに浸かり始めてる。


「どうする?実」


「香港マフィアのボスが、先週から来日している・・・ということは」


ふぅ、とひとつため息を吐いてから、彼は俺たちが直視したくなかった現実を口にした。


「すでにその献上品がそのボスのところにある可能性はあるな」


「・・・だよな」


宗次が掴んできた最悪の情報。それは、香港マフィアのボスが先週から来日しているというものだった。だからこそ、下っ端たちが持っていたはずの宝石箱は、すでに香港マフィアのボスの手元にある可能性がある。


「・・・香港マフィアのボスは今どこに?」


「横浜の某ホテル」


さらっと宗次は答えるが、これは重大極秘事項だったに違いない。ボスの世代交代にむけて内輪揉めしている今は特に。


「・・・じゃぁ、私、そこに潜入するわ」


「里奈?!」


「大丈夫、ホテルの従業員になりすますだけ。辺りの情報つかみたいでしょ?」


「そりゃそうだけど・・・」


俺も実も渋い顔。宗次だけは真剣な表情で里奈を見返した。


「わかった、準備は俺が用意しておく。だけど、気を付けろよ、里奈」


「宗次・・・・・・?」


「香港マフィアの今のボスは女好きだからな。ふらふらっと呼ばれて捕まるなよ?」


「・・・宗次じゃあるまいし」


「あ、俺、結構本気で心配してるのに!!傷つくなぁ~」


「はいはい、ありがと」


むくれる宗次を軽く流して、里奈はにっこりと俺たちに笑った。


「大丈夫、いつもの潜入と変わらないわ。無理も無茶もしないから」


「・・・気を付けろよ、里奈」


「わかってる」


渋々了承した俺と実には、それしかかける言葉がなかった。だがふと、俺は思い付いた。


「あ、じゃぁ、俺はこっちを当たってみる」


宗次が用意してくれた資料のひとつをとって、ひらひらとかざすと、いよいよ実の顔色が変貌した。


「和馬、本気か?!」


「ここになかったら、当日ホテルに直行できるだろ?こっちにあったら、もうけものだし」


「だけど・・・」


「もちろん、実にサポートしてもらうさ。宗次は里奈のサポートにあたりたいだろ?」


「和馬、私はサポートいらないから・・・・・・」


次々と話を進めていく俺に、宗次たちは戸惑いを隠せない様子。俺は努めて明るく3人に言った。


「大丈夫だって。下っ端連中くらいだったら、睡眠薬と小道具でなんとかなるだろ。要は宝石箱のありかだけわかればいいんだから」



俺が思いついたように言いだしたこと。


それは、宗次が用意した情報資料のひとつの中にあった、昭彦氏を脅したマフィアの下っ端連中のアジトの場所に突撃するというものだった。


もともとはこの連中がターゲットである宝石箱を奪ったんだから、もしかしたらまだそこにある可能性だってなくはない。


・・・・・・ものすごく少ない可能性だけど。


「でも、おまえがそこに突撃するときは俺もサポートする」


宗次が頑として言うから、俺は眉根を寄せて言い返した。


「里奈の方が危険だろ?ボスがいるとこに潜入するんだから」


「でも、実戦があるなら・・・・・・」


「いつもと違って、情報網を必要とするわけじゃないさ。むしろ怪我したときの実がいるほうがいいだろ?」


にやっと笑えば、実は苦笑を返したが、宗次はまだ納得しない様子だった。そして、里奈も。


「私だってひとりでやれるわ?戦うわけじゃないし、危険だと思ったら回避するもの。別に宗次がいなくても平気よ?」


「・・・なんだよ、和馬も里奈も俺がいらないわけ?」


宗次が拗ねたようにつぶやく。俺は肩をすくめただけで、何も言えなかった。



本音を言えば、宗次のサポートがあれば心強い。


宗次の情報網や、発明する小道具は必需品だ。だけど、今回は突撃になるから前準備をすることもないし、なによりも、裏からのサポートを必要とするのは里奈の方だ。


里奈が潜り込もうとしているそこは、香港マフィアのボスが滞在するだけでなく、その護衛となる人物たちだっているはずだ。咄嗟に里奈をサポートできるのは、やはりその道の情報を持っている宗次だ。



・・・本当は、里奈をこんな危険な目にあわせたくなどない。だけど、俺ひとりで得られる情報には限りがある。


これだけの裏情報をつかんでくれた宗次。それをさらに絞り込もうとする里奈。ふたりがいなかったら、怪盗夜叉はとっくに廃業しているに違いない。


もちろん、実の適切で専門的な治療がなければ、とっくに<組織>に俺は殺されているだろうけど。



怪盗夜叉は、4人で成り立っている。だけど、俺は3人に頼ることなく、もっと自立して歩きたいとも思ってしまう。


それは、裏世界で大物として名を轟かせているノワールと同居を始めたせいもあるかもしれない。積み上げてきたものが桁違いに異なるとはいえ、4人でやっと得る情報以上のものを必ず持っているノワール。


あの余裕に、俺は焦りを覚えなくもない。




「和馬?」


思考に沈んでいた俺を、里奈が心配そうに覗き込んできた。俺の心配なんかしてる場合じゃないだろうに。


「・・・俺は大丈夫。宗次が集めてくれたこの情報で、明日の夜、突撃する。宗次、おまえの情報力をフルにして里奈を助けてやってくれ」


「・・・わかった。だけど和馬、おまえも無茶するなよ?」


不服そうにしながらも宗次は頷き、俺に釘を刺してきた。それには俺も慎重に頷き答えた。


「・・・わかってる。本番は土曜日だしな」


本番前に無茶して獲物を狙えないなんてあまりにもまぬけだ。


「希望的観測としては、まだ獲物が下っ端たちのとこにあることだよな~」


宗次のぼやきは俺たち全員の切実な願いだ。だけど、その可能性は非常に低いことも


わかってたりする。だから、全員あえて何も言わなかった。


そうして、その日の作戦会議はそのまま若干重い空気を残したまま終わった。





そして、俺は宣言通りに次の日の夜に<怪盗夜叉>として、都内にある香港マフィアのアジトのひとつの前にいた。


インカムの向こうで待機しているのは<ブラック>ひとり。


『夜叉、そろそろ<ビール>の言っていた時間だ』


「・・・了解」


作戦は至って簡単。


ある時間になると手薄になるこのアジトに潜入し、必要な人間以外は眠らせて情報を引き出す。<ブラック>の言う時間というのは、アジトが手薄になるその時間の合図だ。


下っ端連中が屯するアジトだからこそのまぬけな盲点な気がするけど。


俺は、怪盗夜叉の唯一の武器でもあるダーツの矢を用意しながら、そこに侵入した。



とうとうマフィアまで出てきて物騒になってきました、夜叉サイド(笑)

ノワールが出てきた段階ですでに物騒ですかね(笑)

なぜわざわざ香港マフィアなのか。それも、いずれきっと、意味をもつ……はず…?(え)

それにしても、今回はまったくもって愛良との絡みがなかったですね。

あ、前回からないですね(汗)

夜叉としての和馬に比重を置くと、愛良となかなか絡めなくて難しいです・・・。

それでも、こちらでも和馬の「さみしい」に少しだけ触れてたりします。

展開がちょっと複雑なせいもあって、もしかしたら後編が長くなるかもです・・・(汗)

できれば同じ配分でいけたら、とは思ってますが(汗)(汗)


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