表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
あたしの恋人  作者: 紫月 飛闇
Season1 始まりと出会い
43/86

12、はっぴぃ・ばーすでー   <Side 和馬>(前編)





自分にとって重要性の低いものは、記憶から忘れがちになる。


集中すれば、それなりの記憶力を誇れるが、極端なまでの取捨選択をする俺の記憶力は、時々最大の欠点になることがある。


・・・たぶん、今回もその例に洩れない。





七月だっていうのに、遅く梅雨入りした今年は、梅雨明けも遅いようで雨が止む日が少ない。


七月の頭から展覧が始まった、ある王国時代の王冠もまた、<シリーズ>のひとつだと確信できているのに、天候が悪いせいでなかなか怪盗として行動にうつせないでいた。



別に雨が降っていても止むを得なかったら行動をおこすが、やっぱりなるべくならリスクの少ない晴れの日の方がいい。


そんなことをぼやいていると、その<シリーズ>の展覧最終日の天気予報が晴れだと知り、俺たちは即座にその日を怪盗夜叉の予告日に決定したのだ。





7月13日。


その日が愛良の誕生日で、しかもパーティーの約束をしていたことなんて、すっかり忘れて。






12、はっぴぃ・ばーすでーvv   <Side 和馬>(前編)








「はぁ?!誕生日パーティー?!」


予告日の二日前、俺と愛良、ロゼがくつろいでいるときに、その事実を思い出すことになった。


怪盗夜叉の予告日であるその日に、愛良のバースデー・パーティーなるものをやるという事実。




急にバイトが入ったってことにして逃げようとしたら、


「ナイトはそんな薄情なことはしないわ」


と、なぜかロゼに追い込まれた。




ロゼの奴・・・俺がその日、怪盗夜叉として予告状を出しているのを知っていて楽しんでいるに決まってる・・・。


「・・・おまえこそ、<仕事>はいいのかよ?」


ロゼの正体は、闇世界でその名を轟かせる一流スナイパー、ノワールである。


そして、怪盗夜叉と敵対する、ある組織からの依頼で怪盗夜叉の抹殺をノワールは依頼されている。


だから、怪盗夜叉が<仕事>のときは、ノワールもまた<仕事>のはずなのだが・・・。


「大丈夫よ。その日の仕事はキャンセルだから」


ず、ずるい・・・。


勝手に<仕事>キャンセルするなよな~・・・。


「だから、ナイトも何も予定はないわよね?」


「和馬お兄ちゃん、約束したもんね?!」


ロゼと愛良のふたりにじりじりと迫られて・・・どうして抵抗できる?


「・・・はいはい。パーティーでもなんでも開いてください・・・」








そしてその日の夜、さっそく宗次に電話すると、盛大に叱られた。


『ばっっっかじゃねぇの、和馬?』


「そんなに力一杯言われなくてもわかってるよ」


『いいや、わかってないな。どうすんだよ、明後日。予告状は出しちまったし、テレビでも報道されてるだろ?』


「だよなぁ・・・。ちょっと抜け出して帰ってくる、とか?」


『・・・ノワールがそれを許すか?』


「・・・そもそも愛良がうるさいだろうな」


俺と怪盗夜叉の生中継を一緒に見たい、と騒いでるくらいだし。




・・・怪盗夜叉が俺なのに、そんなことできるもんか・・・。




俺が電話越しにため息をつくと、宗次もため息を返してきた。


『・・・どうすんだ?』


「・・・さぁな・・・。我らの参謀長官の知恵を借りるしかないだろうな・・・」


『せいぜいこってりしぼられるんだな』


けらけらと笑う宗次に、俺は拗ねたように言い返した。


「・・・わかってるよ!!」


その後、実にも電話をかけると、予想通りひたすら叱られ、小言を言われた挙げ句、明日までに対策を練るという一言を最後に一方的に切られてしまった。


「やばいな~・・・・・・もしや、ピンチか?」


怪盗夜叉が予告状を出した美術館は、ここから電車で30分ほど離れたところだ。


いつもなら近い、近いと思うのだが、今回に限れば、短時間で行って帰ってくるには遠い。


「実の作戦待ちしかないな・・・」



まったく、ロゼのやつ、覚えてろよ。


俺はロゼに勝手に八つ当りしてむすっとしていた。








「・・・作戦変更の件だけど」


次の日、俺の部屋に集まると早々に、実は口を開いた。


「要するに、愛良ちゃんは、和馬が怪盗夜叉の中継中に隣で一緒にテレビを見ていればいいんだよな?」


「あぁ」


で、それが一番の難関でもあるはず。



「愛良ちゃんを説得して、次の日の土曜にパーティーをするんじゃだめかしら?」


里奈が心配そうに提案する。すでに里奈たちも、愛良のバースデー・パーティーに招かれていて、引きつった笑みを浮かべながらも承諾はしている。


「ノワールがこの件に一枚噛んでるんだぜ?おもしろがって、絶対金曜にやりたがるだろ」


「そのノワールはいいの?<仕事>は?」


宗次が忌々しそうに告げれば、里奈は首を傾げて俺に尋ねてきた。




怪盗夜叉と手を組み、組織を潰す機会をうかがっているノワールだが、一方で、組織からの依頼は遂行するつもりか、ただの粋狂なのか、怪盗夜叉を今だに狙い続けていることは、すでに里奈たちも知っている。




「すでに自主キャンセルらしいぜ」


ノワールは日本にいる間、様々な仕事を抱え持っているらしい。けれど、その夜はなにもないというのだから、すべての仕事をキャンセルしたんだろう・・・。



「それで、僕は考えたんだけど」


頭を抱える俺と宗次に、実は淡々と告げた。


衝撃的な作戦を。






「里奈に、和馬に変装してもらってここに残ってもらう」








「・・・へ?」


だいぶ間をあけて、俺と宗次が同時に聞き返す。肝心の里奈は、なんだか楽しそうに顔を輝かせてる。


「それしか方法はないだろ?里奈を和馬に変装させて、愛良ちゃんと一緒にテレビを見てもらうしかないな」


「そ、そんなの、ノワールはすぐに気付くぞ?!」


いくらこの家にいる間はロゼとして、一般人でいろ、とルールを決めたところで、洗練された勘や能力はノワールのままだ。すぐに里奈の変装に気付くだろう。


・・・ま、愛良たちは里奈の完璧な変装に気付くことはないだろうけど。



「わかってるさ。そういう心配もあるから、僕が里奈と一緒にここに残るよ」


「え~?俺だって里奈のそばで変装をからかいたいのに!!」


里奈の恋人でもある宗次が不満をもらす。なんだかんだ言っても、心配なのだろう。


「宗次が残ったら、ノワールに一緒にからかわれるだけだろ?それに、里奈に和馬を演じてもらう間、愛良ちゃんにとってこの家からいなくなるのは<里奈>だろ?里奈と僕ででかけさせるつもりか?」


「う・・・」


実の指摘に、宗次は反論できずに口をつぐむ。




「いいわ、その作戦、私は乗る」


「里奈?!」


「和馬は怪盗夜叉としての<仕事>があるでしょ?だったらこれしかないわよ」


「だけど・・・」


「大丈夫!!愛良ちゃんには悪いけど、うまく誤魔化しておくから!!」


俺は愛良よりもノワールの反応の方が不安で、里奈の明るい返事にも煮え切らない反応しか返せない。


「それじゃぁ和馬、他にいい方法があるのか?」


実が鋭く尋ねてくる。その視線は、明らかに俺を責めてる。




・・・わかってる。わかってるさ。


そもそも俺が愛良の誕生日パーティーっつ~もんを忘れてたのがいけないんだけど。




「だいたい、なんで明日パーティーなんだよ。次の日の土曜にやればいいだろ、土曜に。くそぉ、ロゼめ・・・」


ぶつぶつとロゼへの悪態をつきはじめた俺に、実はため息をひとつついてから、宗次を見て言った。


「今回はそんなわけで別行動をとるから、僕は怪盗夜叉に指示は出せない。一応、当初考えていた経路はこれだ」


実が宗次に一枚の紙を手渡す。宗次はそれをざっと眺めると、にやり、と笑って俺と実を交互に見た。



「でも、今回俺と和馬だけで<仕事>するんだから、オリジナルの作戦でいいよな?」


「・・・宗次?」


「試してみたいヤツがあるんだよな~」


「頼むからあまり派手にやるなよ・・・」


ぐったりした様子で、実が宗次に忠告したが、あえてかどうか、宗次はそれに返事をしなかった。


・・・正直なやつ。



とりあえず、里奈は時間がきたら俺に化けて愛良のそばに、俺は怪盗夜叉となって<シリーズ>を奪いに行くことになった。


それぞれ実と宗次をサポートにつけて。









そして、運命の7月13日。


・・・13日の金曜だな、なんて不吉なことを思いながら起き上がれば、愛良が上機嫌で登校するところだった。


「あ!和馬お兄ちゃん、今日はずっと家にいるの?」


「・・・いや、でかけるけど?」


盗みに行く美術館に最後の仕掛けをするために。



「じゃぁ、今夜のパーティーまでには帰ってきてね!!いってきます~!!」


言うだけ言うと、愛良は慌ただしく出ていった。俺はそれを見送ってからリビングに向かうと、すでにそこにいた先客がじつに楽しそうにこちらに振り返った。


「あら、おはよう、ナイト。今日は久しぶりにいい天気ね」


「・・・そうだな」


ずっと降り続いていた雨が嘘のように、今日の天気はすごくいい。だけど、俺はそれどころじゃない。


・・・いや、天気も大事だけど。



「今夜はずっとプリンシアのそばにいるのよね?」


「おまえにはそれが可能に思えるか?」


「可能か不可能か、ではなく、約束は約束よ。プリンシアを悲しませるようなことは許さないわ」


「・・・なぁ、前から不思議だったんだけど」


頑ななロゼの口調を受け流しながら、俺は尋ねてみる。


「なんでそこまで愛良に執着してんだ?プリンシア・・・<姫>ってどういうことだ?」


「さぁ?今日はそのプリンシアの大切な日。そんな日にそんな詮索するべきではないわ」


「・・・だったら、愛良が気付くまでは、おまえは何に気付いても動くな、言うな」



里奈が俺の変装をしてここに残ることに、ロゼは必ず気付く。


だが、愛良さえ気付かなければ、この場をしのぐことはできるのだ。





突然そんなことを言いだした俺の意図がさすがにわからず、ロゼが困ったように首を傾げてくる。


「ナイト?言っている意味がよく・・・」


「今はわからなくていいから、返事しろ。いいな?」


「・・・つまり、プリンシアの意志を尊重すればいいのね?」


「ま、そう思ってもらってもいいかな」


半分ヤケクソな感じで頷き、ロゼから当初の問い掛けの答えをもらおうとじっと待った。


「OK、わかったわ。そのおもしろそうな企画にのりましょう」


「おもしろくもなんともないけどな・・・」


あっさりとロゼが同意したことに驚きつつも、俺はため息とともにぼやいた。とりあえず、目下の心配事は減ってよかったけど。


「じゃぁ、俺はでかけるから」


「パーティーの準備?」


「・・・さぁね」


「いってらっしゃい」


確かに、でかけるのは大学じゃなくて、今夜の仕事のためだけど。


今回は幸か不幸か、ノワールの出動はないようだし、宗次と一緒に最後の準備をすればなんとかなるだろう。


なるべく前向きに考えるようにして、俺は宗次との待ち合わせ場所に向かう。





今回の作戦は、実が指揮からはずれたことにより、俺と宗次で<遊ぶ>ことになってる。


はりきった宗次が、いくつもの閃光弾をつくってきて、うまく美術館内に仕込むことに成功した。


夕方までになんとか作業を終えた俺たちは、実と里奈と合流して帰宅した。


すでにリビングはロゼによってパーティの飾り付けも完了し、お得意のデザート作成も順調のようだった。


・・・きつ~く止めた、料理の作成はありがたいことに諦めてくれたようだし。





愛良もすでに帰宅し、静子ちゃんと待っていたようで、にこにこと笑顔で出迎えてくる。


「おかえり~和馬お兄ちゃん!!遅い~」


「これでも早く片付けてきたんだよ・・・」


「はい、愛良ちゃん。僕達からのプレゼント」


背後で、実が愛良に小包みを渡しているのを見て、思わず俺は目を剥く。


「・・・和馬。まさか、愛良ちゃんへのプレゼントないなんて言わないわよ・・・ね?」


ロゼの様子を見にキッチンへ消えたはずの里奈が、いつのまにか戻ってきて俺に冷たい声で尋ねてくる。


「し、仕方ないだろ?!だって、プレゼントより<仕事>をどうするかで頭がいっぱいで、今日だって・・・」


「愛良ちゃんには和馬だってお世話になってるんだから、ちゃんとあとからでも用意しなさい」


ぺちん、と俺の額を叩くと、里奈は再びキッチンに向かっていった。


俺は宗次たちについていくように、リビングに足を向けた。








その後しばらくは愛良のバースデー・パーティーを楽しく過ごしていたが、怪盗夜叉の予告時間がせまってくると、俺と宗次、そして里奈が打ち合せ通り、こっそりとリビングから抜け出し、俺の部屋に集まった。


リビングを抜け出すときにロゼと目が合ったが、俺はあえてそれを無視することにした。


今はただ、愛良の目を誤魔化せればいいのだから。




「・・・とりあえず、ここまでは予定どおりだな」


里奈が俺の部屋で着替えている間、俺と宗次は父さんの部屋でほっと一息ついていた。やがて、控えめなノックひとつと共に、<瀬戸 和馬>である俺に変装した里奈が部屋に入ってきた。





「・・・っ!!」


言葉が、出ない。






「どうなのか、感想が欲しいんだけど?」


楽しそうな<俺の声>が、<俺>に問い掛けてくる。


「り・・・里奈・・・なのか・・・?」


目の前の<俺>に、俺はやっとそれだけ尋ねると、<俺>がにやりと笑った。


「その反応ってことは満足な出来ってことかな」


「お、おう・・・」


ぼんやりと答えてから、俺ははっとあることに気が付いた。目の前にいる<俺>に変装しているのが里奈なら、おかしなことがある。




「里奈、おまえ、その背はいったい・・・?」


里奈の背丈は俺よりも低い。そのはずなのに、今目の前にいる変装した里奈は、俺とまったく同じ背丈なのだ。


「それは企業秘密で」


ウィンクひとつで里奈の声でそう返されると・・・奇妙な光景である。


<俺>が<里奈>の声でウィンクして笑ってくる。



「こりゃ傑作だな!!そっくりだよ、里奈!!」


弾かれたように突然笑い始めたのは宗次。げらげらと笑い続けてる。


「宗次。笑ってる場合じゃないだろ。時間がないんだ、準備しろって」


呆れたように、里奈が完璧に俺に成り切って注意する。そのせいか、宗次もぴたりと笑いを引っ込めて、小さく頷き、俺に尋ねてきた。


「そうだな、そろそろ時間だし・・・行くか?」


「あぁ、行こう。あとは頼んだぞ、里奈」


「任せな。完璧な和馬を演じてやるから」


まるで鏡に話し掛けているような不思議な感覚だが、里奈の完璧な変装に安心感すら覚えた。


一応、ロゼにも釘をさしたし、愛良なら気付かないに違いない。




俺は怪盗夜叉になるために、里奈を身代わりにして家を出た。


里奈と買い出しに行く、という構図をつくるために、宗次が今回のアシスタント。



仕事前のいつもの高揚感を抱きながら、俺と宗次は目的の場所に向かった。




さて、愛良と和馬が一緒に怪盗夜叉の生中継を見ることができた裏側の話(笑)

里奈の特技、変装をフルに使っての作戦となりました。だから、実はずっとピリピリしながらロゼと会話してたんですね~。

確信犯で和馬を追いつめるロゼが、楽しそうで楽しそうで(笑)

さて、後編は久しぶりに夜叉の犯行裏側です。同時に、ノワール編が終わり、修行編に続く序章になりそうです(汗)

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ