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あたしの恋人  作者: 紫月 飛闇
Season1 始まりと出会い
35/86

10、姫と騎士と薔薇と <Side 和馬>




目覚まし代わりのインターホンに出てみれば、そこには見知らぬ美人な外人がいて。


「“あら、昨晩言ったじゃない?君が望むものをあげようってね。私と言う情報源が手に入ってうれしいでしょう、怪盗夜叉?”」


突然フランス語でそう言われた。


あいつ独特の、混濁とした殺気と冷涼な気配。


一見すれば絶対別人だと思うほど、モデルのように美しい金髪美女は、一瞬にして気配を変えた。



世界屈指のスナイパー、ノワールの気配に。



お、男じゃなかったのか・・・?!いや、この目の前の姿が変装なのか?!


でも、胸・・・・・・あるなぁ・・・。


そういえば、そもそも背が高いっていうだけで、ノワールが男だなんて、勝手に決め付けてただけで確かめたわけでもない。


黒髪だって鬘の可能性のほうが高いし。


・・・なにより、俺のことを怪盗夜叉と呼びかけた。


・・・・・・・・・でも、このギャップ、詐欺じゃないか・・・??






10、姫と騎士と薔薇とψ    <Side 和馬>






「・・・ちょっとこっちに来い」


俺は強引にノワールの腕を引いた。すると、抵抗もなく奴は俺にされるがままについてくる。


俺は部屋の中にノワールを押し込むと、そのまま部屋の扉を閉めた。


「・・・どういうつもりだ?」


「あら、なぜそんなに驚くのかしら?それとも、私のこと、男だと思ってた?」


くすりと笑う金髪のノワールが憎らしい。俺はなんとか冷静になろうと努めながら、言葉を探した。



「そんなことじゃない。なんでここに来たんだ?」


「だから言ったじゃない。情報をあげるって」


「それがこうして俺の家を訪ねることだっていうのか?」


「それ以上の情報がある?ね、私もここで暮らさせて」


「・・・・・・・・・は?」



相手の言葉を脳内で理解するのに、時間がかかった。


今、目の前の人間はなんと言った?



「・・・暮らす?ここで?」


「そう。私は自分が気が済むまでここにいることにするわ。それまであなたががんばって情報を引き出せばいいじゃない?おまけで、鍛錬をしてあげてもいいわよ?」


「じ、冗談じゃない!!自分を殺そうとしている奴を、なんで・・・・・・」


「じゃぁ、私が怪盗夜叉について得た情報を、<組織>に流してもいい?」


それまでくすくすと笑っていた表情が一変して、目の前の女は突然冷涼な気配を纏う。闇夜に獲物を狙う、スナイパーの顔で。




「まだ、<組織>に怪盗夜叉の情報は流していない。自らで得た情報を独占するのもわたしのプライドだからね、夜叉。それを君に分けてあげようというのだから、ゲームの勝者に優しいわたしをもっと受け入れるべきだよ?」




その口調も気配も、昨夜のノワールそのもので。


まぎれもなく、目の前の金髪美人が、世界屈指の殺し屋なのだと悟る。




「・・・・・・俺が、受け入れなければ、情報を流すと?・・・いったい、どこまで知ってる?」


「さて。<月の女神>と怪盗夜叉の関係は掴んでいるつもりだよ。もともと<月の女神>はこちらでも有名だったからね」


相変わらず、ノワールは気配を緩めずに俺に向き合う。俺の気配と態度も、次第に夜の姿のものになっていく。



「それで?<お月さま>とわたしの関係。わたしの正体。それだけでは、わたしを捕えることなどできませんよ。わたしひとりがここを出ていけばいいだけの話ですからね」


「そうだね。怪盗夜叉、それが君一人のことならば」



さらっと言われた言葉に、俺は背筋が凍る。


仮面もない俺は、ポーカーフェイスを保つこともできなくて。そんな俺の表情に、ノワールは可笑しそうに笑った。



「10個目の質問だよ、怪盗夜叉。・・・怪盗夜叉、<君たち>は何人でやっている?」




思わず、奥歯を噛みしめる。


まさか、そこまで漏れているなんて。まだ<組織>には知られていなくても、もっと厳重に秘密裏にしなければ、知られる可能性もあるということ。




「サービスしてあげるよ、夜叉。わたしをここで生活させてくれたら、君たちの情報の甘さを教えてあげてもいい。もっと自分たちを保身する方法を得ることもできるよ」


「・・・・・・なぜ、そこまでわたしに構うのですか?」


「気に入ったから、という理由だけでは満足しない?」


「できませんね」




視線と視線がぶつかる。


どちらも闇に住まう、堕ちた者同士の視線。けれど、そこにどっぷりと浸かった、本物の闇の覇者の視線は、それだけで俺の神経を抉る。




「たいしたもんだね。わたしの視線を受けて、逸らさずにいるなんて」


「・・・それはどうも」


「仲間を呼んでおいで、夜叉。そうしたら、わたしの望みを話してあげよう。それが君たちにとって利となるか不利となるか、<怪盗夜叉>で考えればいい」



ノワールは、この家に中にいるのが愛良だけではないこともわかってる。当たり前だが、おそらく気配で察知してるのだろう。


現場に出るわけじゃない宗次たちはただの一般人でしかない。気配を消す、なんてことだってしない。ノワールが察知できるのも当然だ。


「・・・わかりました」


俺は観念して、宗次たちを呼び寄せることにした。









「うわぁお、美人な外人!!」


部屋に入っての宗次の第一声が、それだった。


そして、彼を迎え入れたノワールの表情も、先ほどとは違い、柔らかで愛らしい表情に変わっている。


たしかに、何も知らず見れば、綺麗な金髪美人の外人だ。


ノワールは宗次ににっこりと笑いかけて言った。


「初めまして、橋田 宗次くん」


「え、あれ?俺のこと知ってるんですか?和馬から聞いた、とか?」


宗次が驚いて俺の方を見るが、俺は黙って首を横に振る。その後ろに控えている実や里奈は不安げな表情になる。



「怪盗夜叉の使うダーツの矢の発明は、あなたの作品ね。情報収集もあなたがってところかしら、トリック?」



ノワールの言葉に、宗次の表情が凍りつく。そして俺に無言で視線を送る。けれど、俺はあえて宗次には視線を合わさずに、ノワールに問いかけた。


「なぜ、宗次の発明だと?」


「消去法よ」


くすっといたずらに笑って、ノワールは実と里奈にも視線を送った。




「須藤 実くん。あなたは医学生ね。そして、怪盗夜叉のドクターでもあり、そのよく回る頭で作戦の計画者でもあるのかしら?染みついた薬品の臭いと、昨日あれだけの傷を負ったにも関わらず動き回れる夜叉の様子を見ても、適切な処置がされたことは間違いないわね」


「なっ・・・・・・!!」


ノワールの指摘に、実は言葉を失う。そして次に、視線は里奈にうつる。




「あなたもなにかを発明するってタイプには見えないわね、天野 里奈さん。そう、あなたは予告状を送りつけ、外部からの情報を変装することによって得るのが役目。女狐ってところかしら?」


「・・・・・・余計なお世話よ」


「あら、褒めているのよ?今までの功績から言って、見抜かれたことはないのでしょう?私もそれなりに変装をこなすけど、あなたもいいものを持っていそうだもの」



不服そうな里奈に微笑んでから、ノワールは再度宗次を見た。



「ね?そうやって消去していくと、このメンバーで発明家であり、コンピューターによる情報収集を行えるのは、彼だけ。それに、彼の張ってる情報網も、尋常でないほど広く深いことは、私も認めるわ」


「知って・・・・・・るのか、俺がなにをしてるか・・・・・・」


「ちょっとだけ、いじらせてもらっただけよ」


驚愕する宗次に、ノワールは愛らしくウィンクする。でも、この状況ではその動作も愛らしいというよりは、恐ろしさすら感じる。



「・・・和馬、彼女は何者なんだ・・・?」


とうとう実が俺にそう問いかけてきた。俺は、ため息をひとつついてから、答えた。




「ノワールだよ」


「ノワール?!」



3人が同時に叫ぶ。


「ノワールって・・・・・・あの、ノワール・・・?」


「怪盗夜叉をつけ狙ってる、酔狂なスナイパーのノワールだよ」


「あら、随分な言い草ね、ナイト。もともと怪盗夜叉を狙ったのは、<組織>に依頼されたからなのに」


頬を膨らませるノワールに、俺は眉を寄せて問い返した。


「ナイト?」


「The knight of night。あなたにぴったりじゃない?」


「・・・・・・で?<組織>に依頼されたってのに、なんで怪盗夜叉を殺さずに野放しにしてる?」


「それが、私がここで暮らしたい理由」




ひと指し指をたてて、ノワールは俺たちを見まわしながら言った。


「もともと<組織>の依頼を受けてわざわざ来日したのは、<失われた誕生石>シリーズを狙っている怪盗夜叉が邪魔だったから好都合だったっていうのもあるわ」


段々と、気配を再び闇のそれに変えていく。心なしか、部屋の体感温度が冷えていく気がする。



「けれど、怪盗夜叉を調べていくうちに、<月の女神>との関係、そしてなにより、<レーザー>を持っていることがわかった。・・・<シリーズ>を解読できる<レーザー>は、結局いまのところ、世界でひとつ、君たちが持つそれだけだから」


「・・・だけど、ノワール。あんたは知ってたよな?<プリンセス・ローズ>のシリーズ・ナンバーを」


宗次がなんとかひるまずにノワールに問いかける。すると、彼女は肩をすくめてなんてことのないように言った。



「知ってて当然。<失われた誕生石>のシリーズ・リストを持っているからね」


「<シリーズ>のリスト?!」



俺を含め、宗次たちが一斉に声をあげた。


<失われた誕生石>のシリーズ・リスト。そんなものが存在するのか?!



「ま、<シリーズ>の詳しい情報は、君たちががんばってわたしから引き出すのだね。がんばりに応じて、少しずつ教えてあげよう。ね?そのためにも一緒に暮らしていた方がいいでしょう?」


「全然理由になってないと思うが?」


俺は冷静にノワールに言い返す。


「だいたい、<組織>に依頼されて怪盗夜叉を殺しに来たんだろ?それがなんで、一緒に暮らすことになるんだ?」



他人事のように言うけど、結局はノワールは俺を殺すためにここにいるはず。なのに、いつまでもこいつの口から出てくるのは、一緒に暮らしたい、というわけのわからない要求。




「共同戦線を張りたいから、だと言ったら?」


「・・・共同戦線?」


「君たちは<失われた誕生石>を集めてどうしたい?」


質問の矛先を突然変えたノワールに戸惑いながら、俺は代表して答えた。


「・・・・・・<シリーズ>がなにを導くのか俺たちは知らない。だけど、<組織>の連中よりも先に謎を明かして、さっさとぶっ壊してやりたいだけだ」


「なるほど、<シリーズ>の行きつく先を知らないで、そんな無謀なことをしていたのか」


くすくすとノワールは笑いだす。


どうせ、何も知らないで<シリーズ>を集めてるさ。だから、情報がほしいんじゃないか。



「でも、ぶっ壊したいという意見はわたしも同じだ。けれど、<組織>の連中は<あれ>を得て利用しようとしている。<あれ>さえ手に入れば、世界を手に入れることも不可能ではないから」


「・・・<あれ>?」


「<彼>の最大にして最凶の、実験結果・・・とでも言っておこうか」



最大にして最凶・・・?いったいどんな・・・・・・?



「わたしは<あれ>を<組織>の連中に渡すつもりはない。だから、共同戦線をはろうじゃないか?」


「・・・<組織>に<シリーズ>を渡さないために?でも、おまえは<組織>に雇われているのだろう?」


「そう。だから、わたしを手元に置いておくのが得策だと思うよ、ナイト」


にやり、とノワールは意地悪く笑う。




「大事な仲間や、かわいいプリンシアを危険に晒したくはないだろう?たとえわたしを雇ったとしても、<組織>が怪盗夜叉になにもしないとは限らない。逆に、わたしが<組織>の情報を君たちに流すかもしれないし?」


「・・・ノワールが<組織>を裏切ったと知った暁には、とんでもないことにもなりそうだしな」


どこまでノワールの言葉を信じていいのかわからない。



けれど、本当はもう、心は決まっていた。


どこまでが嘘で、どこまでが真実かはわからない。


だけど、今まで手に届くこともできなかった<情報>を所有する存在が、目の前にいる。


そして、うまくすればそれを引き出すこともできるかもしれない位置を向こうから望んでいる。


俺は自分の意志を無言で伝えるようにして、宗次たちを見まわした。


どうやら、彼らも考えていることは同じようだった。




「・・・ここで暮らすにしても、条件がある」


「なにかな?」


「愛良を巻き込むな。・・・今回みたいに」


「あぁ、今回はプリンシアには悪いことをしたね。もちろんだよ、ナイト。プリンシアには危険が及ばないように、わたしも君と共に彼女を守ることにしよう」


「・・・それと。この家にいるときはその口調と気配を完全に消しさること」


「了解」



言われた途端、ノワールはにっこりと先ほどの愛らしい表情に変わっている。気配も元通りだ。


・・・まるで、二重人格のようだ・・・・・・。





「それで?条件は成立?」


「・・・・・・あぁ・・・・・・」


すぅっと、俺は息を吸い込み、はっきりと言った。


「共同戦線を張ろうじゃないか」



そして、こいつの口から必ず情報を掴んでやる!





・・・とは言ったものの、俺はリビングに向かいながらすでに後悔し始めていた。


相手は世界屈指のスナイパー。


共同戦線を張ることによって命の危険はないにせよ、情報をうまく引き出せるかどうかは・・・・・・。




「焦るなよ、和馬」


実がそっと俺のそばによってきて言う。


「とりあえず、ノワールに狙われることはなくなったんだから、情報を得ることに焦りすぎるな」


「・・・わかってる」


「くそぉ、俺ももっと上達してやる!!」


悔しそうに宣言しているのは宗次。


あっさりとノワールに情報を掴まれたのがよほど悔しかったらしい。



利用できるものは利用する。


ノワールがその姿勢なら、こっちもその姿勢でいるほうが利害が一致するってものだろう。




「・・・あ~腹減った・・・」


俺は冷蔵庫あさりながらぼやく。


なんだか、朝からひどく疲れることばっかりだった。リビングでは愛良とノワールがなにやらうれしそうにきゃっきゃと話しこんでる。



そういえば、ノワールはなんだってあんなに愛良にご執心なんだか。


プリンシア・・・・・・姫、なんて呼んでまで。




「ねぇ、じゃぁ、あたしはお姉さんのこと、なんて呼べばいい?」


ひとしきり話しこんでから、愛良がノワールにそう尋ねているのが聞こえた。


まさかノワールと呼ばせるわけにもいかないだろうから、奴がどう答えるのか、俺も興味津津に耳を傾けた。





「そうね、ロゼと呼んで頂戴」



ノワールのこの一言に、俺は思わず口に含んでいた牛乳を吹き出しそうになった。



実はその意味を悟ったらしく、複雑な笑みを浮かべている。


宗次と里奈は、言語に秀でているわけでもないから、なぜ俺と実がそんな態度をとるのは不思議そうにしている。





もちろん、ロゼというのは偽名だろう。


闇に位置する者が、あっさりと本名を名乗るとは思えないし。


・・・それにしても・・・・・・。


「悪趣味・・・・・・」


思わず俺はつぶやく。




ロゼ。


ドイツ語で、<薔薇>のこと。


<黒薔薇>であるノワールが、<薔薇>を名乗るなんて、悪趣味この上ない。




この強かなスナイパーから、俺はどれだけ情報を得ることができるのか、


前途多難な共同戦線と、これから始まる同居生活に、俺は眩暈を起こしそうになった。




ノワールの登場により、愛良の浮かれ具合と、和馬のシリアス具合がどんどん開きが出てくるような気がしてます(笑)

当初から、戦闘態勢のノワールのことを愛良も和馬も「彼」と呼んでいたのは、本当に男だと思っていたから。

でもじつは、女性だったんですよ~なオチ。「彼」なんてはっきりと表現することに迷いましたが、ふたりともそう思ってたんだからいいじゃん、ってことで、ここにきて逆転。

ノワールは「彼女」になりました(笑)

<失われた誕生石>の謎は解明するのかと思いきや、全然進まず(笑)ちらほらと出しているヒントを拾い上げてください(笑)

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