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あたしの恋人  作者: 紫月 飛闇
Season1 始まりと出会い
32/86

9、再会の薔薇に愛をこめて <Side 和馬>(中編)





ノワールから贈られた花束に挟まっていた小さなカード。


そこに書かれた見知らぬ番号。


この電話番号は罠かもしれない。


それでも、俺はすぐにその番号にかけることにした。



ノワールに連れ去られたかもしれない愛良を取り戻すためなら、どんな罠にでもかかってやる。




長い長い呼び出し音。


『・・・もしもし?』


「もしもし」


やっとでた相手に、俺は慎重に言葉を返す。するとすぐに、反応が返ってきた。


『和馬お兄ちゃん?!』


「愛良か?!」



このメモに書かれた番号は、愛良の携帯番号だったのか?!


・・・ってことは、ノワールは愛良を連れ去る前から、愛良の携帯番号を知ってたってわけか・・・・・・。どんな情報網なんだか・・・・・・。



『はじめましてかな、瀬戸 和馬くん?』


突然、笑いを含んだ声で、携帯の向こうから愛良ではない声が聞こえてきた。



「・・・・・・ノワール・・・!!」


思わず、憎しみを露わに俺はそう応えていた。







9、再会の薔薇に愛をこめて★    <Side 和馬>(中編)








「なぜ、愛良を連れ去ったんだ?!関係のない人間は巻き込むなって忠告したよな?!」


『“おやおや、それでは、君が怪盗夜叉だと認めるのだね、瀬戸 和馬くん?”』


俺が日本語で怒鳴れば、ノワールはくすくす笑いながら、ドイツ語で返してきた。


いつしかの仕返しなのか、愛良に聞かれないためなのか。


「“・・・今さらだろ?どうせそっちは、初めて会う前からこっちのこと知ってたようだし”」


俺もつられるようにしてドイツ語で返す。医学部でドイツ語を学んでいる実も、会話は理解できているようだ。



『“素直なのはいいことだ。お姫様も早く救出しなくちゃいけないしね”』


「“愛良はどこだ?!無事なんだろうな?!”」


『“先ほどの声を聞いただろう?お姫様はじつに元気だよ。・・・・・・まぁ、それも、君がちゃんとゲームに勝つまでの間だけど”』


「“愛良を俺たちのゲームに巻き込むな!!”」


『“それは聞き入れられない申し出だね。だって、わたしはこのお姫様をとても気に入ってしまったのだから”』



耳に障っていらいらするほど、ノワールはくすくすと笑っている。


俺は焦りがあるせいで、ノワールのペースにもっていかれていることが自覚できても自制することができない。



「“・・・で?ゲームはどうすればいいんだ?”」


『“やる気になってくれたかい?そうだろうね、お姫様が人質になってるんだしね”』


「“いいからさっさと言えよ”」


ドイツ語での会話でも、実も俺の会話は理解できているから、はらはらした様子で見守っている。ゲームの話題になったと気付き、なにやらメモを持ってきた。


なんでもいいから愛良の居場所のヒントを聞き出せってことだろうか。



『“制限時間は、日付が変わるまで。お姫様の居場所は、<ヘカテが眠る、再生を待つ終焉の場所>で”』


「“・・・は?”」


『“大丈夫、ヘカテは君のことを見守っているからね、瀬戸 和馬くん。怪盗夜叉と再会できるのを楽しみにしているよ”』


「“・・・・・・・・・姫君に傷をつけたら許しませんからね、ノワール”」



最後に俺は、怪盗夜叉としてノワールに忠告してから、電話を切った。たぶん、ほぼ同時にノワールも電話を切っただろう。


「・・・なにかわかったのか、和馬?」


実が心配そうに俺を見てくる。俺は実からメモを受け取って、先ほどノワールに言われたヒントを書き出した。




<ヘカテが眠る、再生を待つ終焉の場所>



「・・・これが愛良ちゃんの居場所のヒント?」


「みたいだ。・・・一応、愛良も今のところは元気そうだったけどな。・・・タイムリミットは日付が変わるまで。それまでにこの暗号みたいなヒントを解かないと・・・・・・」


「とりあえず、<ルーン>に戻ろう」


実に促され、俺はメモを握り締めて頷いた。






喫茶<ルーン>で、俺たち4人は1枚のメモを見つめてじっと考え込んでいた。


「いったいなにを指してるのかしら、これ・・・?」


「なにせ統一性のないヒントだからな・・・・・・」


里奈が首をひねり、実も嘆息する。


宗次はなにやら持ち歩き用のパソコンを持ちだしてなにやら調べ物をしている。


「なにかわかりそうか、宗次?」


「う~ん、どっから崩していけばいいやらって感じだよな・・・・・・」


「この<ヘカテ>っていうのは、月の女神ヘカテのことよね?」


里奈がメモの冒頭部分を指さして確認するように問いかける。


「月の女神?それってアルテミスじゃないのか?」


月の女神といえば、アルテミス。


俺はそれくらいしか浮かばない。


「そう。世間一般的にはアルテミスが月の女神として代表格になってるけど、<月の女神>って意外にたくさんいるのよ?」


さすが女の子、というべきか、里奈があっさりと説明してくる。宗次がその横で月の女神について調べたサイトを見せてくれる。



へぇ、月の女神ってだけで、ほんとに色々いる。


ルーナ。


ディアナ。


セレーネ。


エウリュノメ。


そして、里奈が指摘してきた、ヘカテ。



「ふぅん・・・・・・。ま、<月>に翻弄されてる俺たちのことだから、ヘカテは月の女神であってるかもな・・・・・・。・・・・・・でも、だからなんなんだ・・・・・・?」


「あぁ、そうか・・・もしかしたら・・・・・・」


同じサイトを眺めていながら、俺は首を傾げ、隣の実はなにかを思いついたのか、目を見開いた。



「なにかわかったのか、実?」


「西だよ、西。月の女神ヘカテは、西を指しているんだと思わないか?」


「西?」



宗次もサイトを再度読み返してから、実の言葉に俺と同じように首を傾げた。里奈も実の言っている意味がわからずに肩をすくめた。



「ほら、ここ読んでみろよ」


実の指さす位置を、3人で覗き見る。



『月は、満月、半月、三日月、と形を変えるので、女神は三相あるとされていた。


少女、婦人、老婆の3つの相を女神はもっているとした。


少女の相は、ディアナ。


婦人の相は、セレーネ。


そして、老婆の相は、ヘカテ。』



「ディアナ、セレーネ、ヘカテの3人の女神が、それぞれの三相を指す。これを、人の成長にとらえて、少女、婦人、老婆とするなら、これを方角とすることもできるだろ?」


「人の成長が方角に?」


「・・・・・・そうか、月の出る方角と、沈む方角・・・・・・!!」


実の解説に、宗次が疑問を口にすると同時に、俺は実の言いたいことがわかった。



「月の出始めを少女。月が真上に来れば、婦人。そして、月が沈みゆくのが老婆ってわけだな?」


「さすが、怪盗紳士くん」


俺の答えに、実はからかうように手を叩いてくる。・・・・・・なんっかむかつくな・・・。



「なるほど、それで西ってわけだな。・・・・・・で?どこを拠点に西として、なにを探せばいいんだ?」


パソコンを取り戻した宗次が再びパチパチと操作して、ここ周辺の地図を出してくる。


「<再生を待つ終焉の場所>っていうのを探すのよね・・・・・・。でも矛盾してるわよね、再生するのに、終焉って・・・・・・」


「再生するために、終わらせる場所・・・・・・?・・・あ!!!」


俺ははっと思い浮かび、思わず宗次につかみかかった。



「な、なにするんだよ、和馬?!」


「宗次、建築現場だ!!これから取り壊し予定の建築現場だよ!!」


「・・・なるほど、新しい建物、<再生を待つ>、<終焉>、取り壊し予定の建物ってわけか」


にやっと宗次も笑い返してきて、ここ周辺の取り壊し予定の建築物をピックアップして・・・・・・いって、崩れた。


「ちょ・・・・・・多すぎだぜ、これは・・・・・・」


画面の地図の上で、赤丸があちこちに増えている。これがたぶん、取り壊し予定の建築物なんだろうな。




「じゃぁ、和馬の家から西方向で、該当するものあるか?」


実が横で冷静に絞らせる。


「俺の家から?」


「だって、ノワールは和馬の家から愛良ちゃんをさらって行ったんだろ?だったら、拠点は和馬の家だろ?」


「・・・・・・実、それでもこの量だぞ?」


作業を終えた宗次の指さす画面には、先ほどよりは量が減ったとはいえ、絞り切れていない赤丸の建物たち。



「もっと絞らないとだめか・・・」


「・・・・・・ノワールは、俺と会いたいのかな・・・」


俺はふと、疑問を口にする。


「は?そうにきまってるだろ?だから、わざわざゲームなんて仕掛けてきたんだろ?」


「そりゃそうだけど・・・・・・。・・・いや、待てよ?」



なにかがひっかかる。


頭の中で、なにかがひっかかってくる。


俺はじっと、パソコンの画面に浮かんでいる地図とにらめっこしながら、頭のなかで色々なものを整理する。




俺の家を拠点に西方向にある建物。


俺、つまり瀬戸 和馬の家。


だけど、ノワールの関心は、<瀬戸 和馬>じゃない。


ノワールが会いたい相手は、<俺>じゃない。



<怪盗夜叉>だ。


あいつは言った、「怪盗夜叉と再会できるのを楽しみにしている」と。




「・・・宗次、この前の立体駐車場、どこだ?」


「へ?」


「いいから、どこだよ?!」


「えっと・・・・・・ここだ」


俺にせかされるがまま、宗次は作業をすぐに終える。


そこは、青丸でぽっかりと浮かんでいる。



この青丸は、ノワールと怪盗夜叉が出会った場所。


<リトル・スター>を盗んだ後、逃走経路のひとつとしていた、立体駐車場。



「宗次。ここから西方向と、俺の家からの西方向でぶつかる場所に、赤丸があるか?」


「・・・・・・ちょっと待て」


俺の意図することがわかったのか、緊張した面持ちで宗次はすぐに作業を開始する。実も里奈も、俺と同様にその作業を見守っている。


「・・・・・・これだ」



宗次の示した画面には、たったひとつだけ、赤丸の建物があった。







深夜0時ちょうど。


俺は、取り壊し予定の雑居ビルの屋上に降り立った。


そこはかつて、空中庭園なるものをやっていたらしく、手入れを放棄された草花があちこちに無造作に生えている。


その庭園を眺めるために設置されたのであろう小部屋も、屋上のあちこちに設置されている。


怪盗夜叉は、その身に纏う漆黒のマントを風に翻しながら、相手の登場を待った。


確信があった。


必ずここに、奴がいる、と。



「ようこそ、怪盗夜叉」


予想通り、小部屋のひとつから、奴が姿を現した。


混濁した殺気を隠そうともしないで、姿を現した、世界屈指のスナイパー、ノワール。


「お姫様をいただきに上がりましたよ」


俺は背中に冷や汗を流しながらも、毅然とした態度で腕を差し出す。


愛良をこちらに戻せ、という意味をこめて。


なのにノワールは、こちらの予想とは異なることを告げた。


「約束の時間ぴったり。さすがだね、夜叉。だけど残念ながら、<プリンセス・ローズ>は、今は手元にはない」


「・・・・・・<プリンセス・ローズ>・・・?」


言われている意味がさっぱりわからない。


愛良のことを言っているにしても、プリンセス・ローズというのは・・・・・・。


困惑する俺の様子をおもしろがるようにして、ノワールは言葉を重ねてくる。


「お姫様を奪いにきたんだろう?紅く輝く、薔薇姫を」


「薔薇姫・・・・・・?いったい何の話を・・・?」


「シリーズNO.212。<プリンセス・ローズ>は君が探す<シリーズ>に違いないけれど、君は<シリーズ>以外にも探し物があるのかな?」


くっくっく、とノワールが喉を鳴らす。


俺はあまりの衝撃に声も出なかった。




「<シリーズ>をあなたも持っていたのですね?」


しかも、正確なシリーズ・ナンバーまで把握してる。


こちらは全部でいくつのシリーズがあるかも知らないというのに。<解読>しなければ、シリーズ・ナンバーを知ることもできないというのに。


驚愕する俺の目の前で、ノワールはくすくすと笑いながら告げる。


「持っていない、とは言っていない。それに、ゲームの景品としてそれをくれてやろうというのだから、そんな怖い声をするものではないよ」


「・・・けれど、薔薇姫とは他の姫君をあなたは隠している。違いますか?」


「だとしたら?」


「奪わせていただきます」



とりあえず、まずは愛良を奪還しないといけない。


俺は両手の指の間にダーツを構え、それを一気に放つ。狙いはすべて、ノワール。


「同じ小細工は効かないよ」


煙幕のおまけつきのダーツの矢を、ノワールは正確に撃ち落とす。たちまち、屋上に視界を奪う煙幕が張り巡らされる。


「視界を奪えばわたしに勝てると?愚かなことだ、怪盗夜叉」


ノワールの殺気が鋭くなる。



これは、一か八かだ。


俺は煙幕の中、ノワールの殺気めがけて向かって行った――――――・・・。






紫月は頭が悪い癖に、ちょっと暗号めいたものまでつくってしまいました(汗)

月の女神の話については、前にどこでだか聞いたことがあったので覚えてたので採用。

愛良がノワールとケーキ食べてる間に、彼らは一生懸命暗号を解いていたなんて、なんて不公平でしょう(笑)

区切るところを間違えてしまって、次回は少し長くなりそうです(汗)


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