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あたしの恋人  作者: 紫月 飛闇
Season1 始まりと出会い
31/86

9、再会の薔薇に愛をこめて <Side 和馬>(前編)





愛良が玄関から持ってきたものを見て、俺は背筋が凍った。


それは、真っ黒な黒薔薇の花束。


黒薔薇をこのタイミングで送ってくるヤツなんてひとりしか浮かばない。


その花を自らの任務の予告状として使う、闇のスナイパー、ノワール。



怪盗夜叉として、一度は黒薔薇を受け取っているから、今更花束でこようとも、びびるようなこともない。



怪盗夜叉が、世界屈指の殺し屋であるノワールに命を狙われていることに変わりはないのだから。



俺が驚いたのは、そんなことではない。


黒薔薇の花束とか、そんなことはどうでもいい。


花束だろうと一輪だろうと、ノワールの挑戦は受けると決めているから。




だけど、この展開はあまりにも予想外だった。


いつだって、夜叉の仕事は慎重に慎重を重ねてきた。


だから、こんな事態になることはないようにしてきたのに。



<瀬戸 和馬>の自宅に、<怪盗夜叉>への黒薔薇が届く。



それはつまり、怪盗夜叉の正体が俺であることを、見抜いているのだと暗示しているに、他ならなかった。









9、再会の薔薇に愛をこめて★    <Side 和馬>(前編)









愛良が花瓶に飾った黒薔薇を見ながら、俺は悶々と考え続けた。


ノワールにこの場所を知られたということは、関係者は全員命が狙われるということだろうか。


邪魔者は消す。


あいつはいつだったか、そう言っていた。


すると、愛良も危ないということか。


・・・いや、それよりも前に、怪盗夜叉が俺一人ではないと、ノワールは知っているのだろうか。


宗次や実、里奈の自宅にもまた、黒薔薇が届けられているのだろうか。


考え出すといても立ってもいられなくなり、俺は自室に籠って、すぐに携帯を取り出した。



まずは、宗次に連絡を入れる。


数コールの呼び出しで、すぐに彼は電話に出た。


『和馬?どうしたんだ?』


「宗次・・・・・・今朝、なにか変なものとか届かなかったか?」


『はぁ?いきなりなんだよ?いや?なにも届いてないけど?』


「・・・そっか・・・・・・」


とりあえず、俺はほっと胸をなでおろす。


しかし、宗次はそんな俺の様子をすぐに見抜いたようだった。



『おまえのとこに、なにか変なものでも届いたのか?』


「いや、爆弾とかじゃないんだけどさ・・・・・・」


『おまえがそうやって歯切れ悪い時は大抵なにか隠してるんだよな。さっさと吐けよ』


「・・・・・・黒薔薇の花束が、玄関に届いた」



正直に伝えれば、長い長い沈黙。


もう電話は切れたのかと思うほど、宗次からの反応はなにもなかった。


たぶん、あまりの衝撃に言葉もなかったのだろうけど。




「・・・宗次・・・?」


『・・・・・・それって・・・・・・和馬の、家に、届いたのか?』


一語一語を強調させながら、彼は確認してくる。



「あぁ、俺の家に届いた」


『・・・・・・ってことは、ばれてんじゃん・・・・・・。<組織>のやつらにもか?!』


「さぁな・・・・・・。でも俺の勘だけど、ノワールだけが知ってるって気がするぜ。この花束はせいぜい<ゲーム>のお誘いってとこだろうし」


『ゲーム?』



おっと。


思わずすべらせたことに、俺は内心舌打ちする。


どうせばれたら大騒ぎになると思って、俺はまだ3人に、ノワールと交わした<ゲーム>の話をしていない。


・・・もともと<組織>に<黒薔薇>を捧げると言われていたのを黙っていたときだって、宗次が激昂したくらいだから、それがまさか、実際に命を賭けた<ゲーム>にのったとなれば、もちろん・・・・・・・・・。



『おい、こら、黙るなよ、和馬。ゲームってなんだ?またなにか危ないことでもするのか?』


「・・・いや、危ないってほど危なくはないと思うけど・・・・・・」


あはは、ととりあえず笑って誤魔化してみる。


でも全然電話の向こうの宗次は誤魔化されてはくれない。


『じゃぁどんなゲームか言えよ』


「たいしたもんじゃないって」


『言えって』


有無を言わせない口調。


・・・黙ってても仕方ないか。



とうとう俺は観念して、ノワールと交わした<ゲーム>の詳細を話すことを決意した。


でも、この電話では言えない。


「・・・わかった。じゃぁ、今から外で会わないか?」


『外で?おまえの家じゃなく?』


「俺の家はだめだ」


『・・・・・・わかったよ。じゃぁ、実たちも呼んでおく。喫茶<ルーン>でいいか?』


「わかった」



愛良をこの家にひとり残しておくのは不安が残る。


だけど、宗次たちを今、ここに呼ぶのも不安だった。今ここは、見張られている。


ならば、ターゲットである俺がここから離れれば、ノワールだって愛良をマークしたりしないだろう。



関係のない人間は巻き込むな。


そう忠告はしたのだから。



俺は愛良に外に出ることを禁じることを忠告してから家を出た。


てっきりブーイングのひとつでも出るかと思ったら、意外に愛良はあっさりと引き下がった。



そして俺は、駅前にある喫茶店<ルーン>に向かう。


その間も、ちりちりと不穏な視線を感じていた。それが故意かどうかはわからなかったが。


<ルーン>で待っていると、すぐに宗次が里奈と一緒にやってきた。


「・・・で、どういうことなんだ?」


席に着けば、実を待たずに宗次がいらいらと尋ねてくる。


「実がまだだろ?」


「またノワール絡みだろ?さっさと言えよ」


ノワールに関しての情報を多く抱えているのは宗次。


だからこそ、彼はノワールに関することになると、過敏なほど反応を返してくる。


「実にはあとで話しておくから早く・・・・・・」


「その必要はないよ。待たせたな」


せっつく宗次の後ろから、実が顔出す。


そして俺の隣に座ると、店員にブラックコーヒーを注文した。


ちなみに、ここではやはり、俺はアールグレイ、里奈はダージリン、そして宗次はビールはさすがに無理で、カプチーノを頼んでいる。


この喫茶<ルーン>は、俺たちの<始まりの場所>でもある。


かつて、ここで俺たちは結成することを決めたのだ。


怪盗夜叉を。


まさか、ここまで壮大で長い戦いになるとは、あのときの俺たちは考えもしていなかったのだが。




「ほら、和馬。自分の世界に浸ってないで、いったいなにがあったんだ?」


とうとう実までしびれを切らして尋ねてくる。


もちろん、宗次も里奈も真剣な瞳で俺を見てる。


俺は、ため息をひとつついてから、意を決して話をすることに決めた。


「・・・今朝、あるものがうちに届けられたんだ」


「あるもの?」


「・・・・・・黒薔薇の花束だ」


宗次にだけは話してあったが、実と里奈にはこの話はしていない。


ただし、ふたりは黒薔薇の持つ意味を知らないために、その重要性もわからず、首を傾げるだけだ。


「黒薔薇の花束?また悪趣味なものが届いたな?」


「でも、それがどうかしたの?」


「・・・・・・ノワールの<宣告>なんだよ」


首を傾げる実と里奈に、宗次が絞り出すような声で告げた。


「黒薔薇は、スナイパー、ノワールの<死の宣告>と言われてる。・・・・・・それが、<瀬戸和馬>の自宅に届いたんだ。・・・その意味、わかるよな?」


実も里奈も即座に顔色を変える。宗次が悔しそうに唇を噛んだ。


「夜叉の情報は流出しないようにこっちで管理し続けていたのになんで・・・・・・。闇の世界では、まだ夜叉の正体はどこにもばれてはいないはず・・・・・・」


「おそらく、ノワール独自が知った、とみてもいいんだろうな。あいつは、<月>を話題にしても、ちゃんと食いついてきた」


俺は冷静に、ノワールの分析を告げる。自分の正体がばれたかもしれない上に、殺すと宣告されているというのに冷静すぎるかもしれないけど。


「だけど、ノワールは<組織>に雇われて夜叉を殺しに来日したのでしょう?だったら、<組織>にこちらのことがばれてるかも・・・・・・」


「でも、それだったら、こちらサイドのデータにも夜叉のことが反映されてくるはずだ」


里奈が震える声で怯えるように言ったその横で、宗次が頭を抱えながら呻く。


宗次が管理し続ける闇サイトでは、ダークサイドに住まう者たちのデータ、情報が行きかっている。


無論、そのダークサイドの住人のひとりとして、夜叉もとりあげられている。



「おそらく、ノワールはまだ<組織>に俺の正体のことは報告してないだろうな」


「その根拠は?」


「・・・・・・俺と、いや、怪盗夜叉とノワールはある<ゲーム>を契約したからだ。あいつはプロだ。その誇りにかけて、ゲームに決着がつくまでは、<組織>に自分が知った情報を漏らすようなことはしないだろうな」


なにせ、プライドが恐ろしく高そうだし。



俺が淡々と告げれば、想像通り、宗次がすぐに食いついてきた。


「さっきも言ってたな?そのゲームってなんだ?俺たちは聞いてないぞ?」


確認するように宗次は里奈と実にも視線を送るが、ふたりとも首を横に振る。



・・・う~ん。隠せるなら、隠しておこうかと思ったんだよな・・・。


・・・・・・・・・絶対怒るし。



「・・・和馬~・・・・・・」


ジト目で3人が俺を睨んでくる。


たぶん、なんとなく、わかってるんだろうな、こいつら・・・・・・・・・。


「ははは。ご名答・・・」


何も言われてないけど、思わず乾いた笑いと共に、肯定してしまう。すると、即座に宗次が怒りだす。


「おまえ、本気でそんなことしたのか?!命を賭けるゲームをノワールとしたのか?!」


「・・・・・・和馬、言ったよな?命を粗末にするようなことはするなって」


実も冷ややかな視線を向けながら追撃してくる。里奈は俺を責めるようなことはしないが、かばうこともしない。心配そうに見守っているだけだ。


「だけど、ただのゲームだ。これに勝てれば、ノワールから情報を得ることができる」


「ノワールが全うなゲームをするわけないだろ?!」


「・・・・・・で、どんなゲームなんだ?」


怒る宗次を手で制して、実がため息交じりに俺の隣で尋ねてくる。


受けてしまった挑戦は取り消せない。だから、今更どうこう言っても仕方のないことを、実は伝えたいらしい。


「ノワールいわく、<お姫様救出大作戦>だそうだよ」


その命名はどうかと思うけど。


「<お姫様>?誰か無関係な人間を巻き添えにするつもりか?!」


「そういうもんじゃないってやつはいってたけど・・・・・・」


「愛良ちゃんは?!」



血相を変えて里奈が叫ぶ。


「里奈?」


「和馬、愛良ちゃんはどうしたの?!ノワールが狙っているのは愛良ちゃんじゃ・・・・・・」


「でも、愛良だって無関係な人間のひとりだ」


「だけど、夜叉が<瀬戸 和馬>だと知っているのなら、同居人である愛良ちゃんは無関係とはいえないわ。・・・・・・あなたをおびき出す、いい材料になる」


「・・・里奈の言い分には一理あるな」


実も苦い表情でうなずく。俺は真っ白になった思考で携帯を取り出した。


「・・・愛良には、家を出るなとは言ったんだ・・・きっとまだ、家にいるはず・・・・・・」



まさか。


愛良が狙われるなんてことはない。



頭の中でそう否定してみるが、同時によぎるものもある。


<リトル・スター>を盗んだあの夜。


初めて、ノワールに出会ったあの夜、あの場にも、愛良はいた。



・・・そうだ。


愛良は、俺がノワールと出会うよりも先に、ノワールに出会っていた。



ということは、ノワールは知っていたのか?


愛良が、怪盗夜叉の同居人であることを。



ぐるぐると回る思考回路のもとで、耳元では無情に呼び出し音だけが鳴り響いている。


愛良の携帯の番号を知らない俺は、自分の家の電話を鳴らすことしかできない。


それでも、愛良が家にいるのなら、出るはずだ。



だけど、どんなに待っても、電話は鳴り響いたままだ。




「・・・・・・和馬?」


「・・・出ない・・・・・・。・・・ちょっと、俺、家を見てくる」


「だったら俺たちも・・・・・・」


「来ちゃだめだ!!」


腰をあげようとする宗次たちを俺は怒鳴って止める。


「だめだ。・・・ノワールが見張ってるかもしれない。もしかしたら、あいつは夜叉が4人でやっていることを知らないかもしれないんだ。うかつに4人で行動はおこせない」


「・・・でも隣人である僕が一緒に行くなら不自然じゃないはずだ」


実だけが腰をあげて俺に続いて立ちあがる。


「宗次たちにはここで待っててもらおう。でも、僕は一緒に行く」


「だけど実・・・・・・」


「僕は昔からおまえの家に出入りしてるんだ。怪しくもなんともない。そうだろ?」


「だいたい、おまえひとりで行動させるなんてできるか。実だけでも連れて行け」


宗次が言い加えてくる。横で里奈もしきりに首を縦に振り続けている。



・・・なんだよ、俺ってそんなに信用ないわけ?


まぁ、勝手なことばっかりしてるのは、認めるけど。




「・・・わかったよ」


ため息交じりに、俺はとうとうそれを承諾した。





大急ぎで実と共に自宅に戻れば、そこに愛良の姿はどこにもなかった。


「・・・・・・愛良のやつ、家を出るなって言ったのに・・・・・・!!!」


髪をかきむしりながら、俺は祈るような気持ちになる。


足元が崩れていくような感覚。


まさか、愛良を巻き込むことになるなんて。


だから、愛良と同居することは反対だったんだ。こんな事態になるのが一番怖かったから・・・。



「愛良のやつ、いったいどこに・・・・・・」


リビングに立ち尽くしていると、家中を見て回っていた実もリビングに戻ってきた。


「あぁ、あれがその黒薔薇か」


愛良が花瓶に飾った黒薔薇の花束を実は見つけて近寄る。



俺は、焦る気持ちと裏腹に、ぼんやりとその光景を見ているだけ。


なぜか、体が動かなかった。




黒薔薇の花言葉は、<あなたは私のもの>。


ノワールとしては、黒薔薇を贈った者の命はすでに、自分のものだとでも言いたいのだろう。任務遂行率100%の一流スナイパーらしい、宣戦布告だ。




「・・・おい、和馬。こんなものがはさまってるぞ?」


実が花束に手をつっこんで、小さなカードを取り出した。薔薇に埋もれるようにしてはさまっていたためか、愛良は気付かなかったらしい。


「・・・なんだ?」


なにかの手掛かりかもしれないと思った俺は、二つ折りにされていたカードを開く。

そこには、見たこともない携帯の番号が書いてあるだけだった―――――――・・・・・・。




あれ?意外に展開がゆっくり・・・。ノワールが出てきてない・・・(泣)

愛良の保護者が和馬なら、和馬の保護者は実たち3人ですね(笑)

別に和馬は愛良を軽視して、ひとりで留守番をさせたわけじゃないんですよ。ただあの段階では、和馬の頭のなかでは、仲間の無事を確認したい思いのほうが強かったんですよ。

でも結局、言いつけ守れない愛良は出かけちゃうんですけどね~(笑)

さて、次回はノワールも登場しまっす!


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