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あたしの恋人  作者: 紫月 飛闇
Season1 始まりと出会い
30/86

9、再会の薔薇に愛をこめて <Side 愛良>(後編)




ひんやりとした感触が首を伝って、その重みと冷たさであたしは眼を覚ました。


「・・・あれ?」


「おはよう、かわいいお姫様」


あたしを強制的に寝かしつけた張本人が、にっこりとあたしに笑いかけてくる。


「・・・ここ、どこ?」


「秘密のお部屋」


くすっとお兄さんはあたしの疑問に笑いながら答える。


あたしはその態度にちょっとむっとしながら、自分の今の格好を見て驚いてしまった。



「な、なにこれ?!」



今あたしが着ているものは、さっきまで着ていた洋服ではなくて、まるで本当にお姫様のように着飾ったフリフリとしたドレスだったのだ。



「とてもよくお似合いだよ、お姫様」


「なんで、こんな格好・・・・・・」


「その首飾りを身につけるには、やっぱりそれなりの格好じゃないとね」


「え・・・・・・?」


言われて、あたしは初めて、自分の首に大きな大きな宝石の首飾りがかかっているのに気付いた。


目がさめる時に感じた重みと冷たさはこれだったんだ。




「その宝石の名は、<プリンセス・ローズ>。怪盗夜叉が狙っている宝石のひとつだよ」



<プリンセス・ローズ>


なるほど、だからあたしのことをお姫様って呼んでいたのね。









9、再会の薔薇に愛をこめて★   <Side 愛良>(後編)










「その首飾りについているルビー。それは特別なルビーでね、ダイアモンドよりも硬度のある特殊加工がされているんだ」


そっとあたしの首元にかかった首飾りを持ちあげて、彼はそんな説明をあたしにしてくれる。



「・・・で、なんであたしがここにいるの?」


「言ったでしょ?ゲームのために、だよ」


そして、お兄さんはカーテンを閉めたままの窓をコン、と叩く。


「この窓もまた、特殊でね。こちらから向こうを見ることはできるけど、窓の向こうからこちらを見ることはできない。だから、お姫様、ゲームの勝者がどちらになるか、とくとご覧あれ」


そしてお兄さんがさっとカーテンを引く。



「・・・あ・・・」


思わず、声が漏れる。


窓の外には、あの夜と同じ、漆黒の衣装を身に纏った、怪盗夜叉がいた。



「・・・なんで、夜叉が・・・・・・」


「わたしは夜叉とゲームをしているのでね」


「でも、でもあの電話は・・・・・・」


さっきまで、このお兄さんは和馬お兄ちゃんと電話をしてた。


なのに、今窓の向こうで立っているのは怪盗夜叉。



「さて、どうしてだろうね。そこでじっくりと考えていればいいよ」



そう言って、お兄さんはあたしを残して部屋から出て行ってしまった。


同時に、カチリ、と鍵の閉まる音がした。




あたしはもう一度窓の外の夜叉を見てから、ぐるりと部屋を見渡した。



狭くて暗い部屋。


ここにあるのは、あたしが今座ってる椅子だけ。


他には何もない。






「ようこそ、怪盗夜叉」


窓の外からお兄さんの声が聞こえて、あたしははっと窓にへばりつく。


窓なのに、それを開けるような隙間も装置もない。


ただただ、外を眺めることしかできない。


「お姫様をいただきに上がりましたよ」


すっと真っ直ぐに夜叉の腕がお兄さんに伸びる。


なにかを差し出すようにねだるような。



「約束の時間ぴったり。さすがだね、夜叉。だけど残念ながら、<プリンセス・ローズ>は、今は手元にはない」


「・・・・・・<プリンセス・ローズ>・・・?」


「お姫様を奪いにきたんだろう?紅く輝く、薔薇姫を」


「薔薇姫・・・・・・?いったい何の話を・・・?」


「シリーズNO.212。<プリンセス・ローズ>は君が探す<シリーズ>に違いないけれど、君は<シリーズ>以外にも探し物があるのかな?」


くっくっく、とお兄さんが喉を鳴らして笑う。


夜叉はびっくりしたようにお兄さんを見返してから、低く唸るような声で答えた。



「<シリーズ>をあなたも持っていたのですね?」


「持っていない、とは言っていない。それに、ゲームの景品としてそれをくれてやろうというのだから、そんな怖い顔をするものではないよ」


「・・・けれど、薔薇姫とは他の姫君をあなたは隠している。違いますか?」


「だとしたら?」


「奪わせていただきます」



さっと夜叉が態勢を変えて、なにかをお兄さんに投げつけた。


それもひとつではなく、無数の小さな矢。


あれは、あの夜に見た、ダーツの矢だ。



「同じ小細工は効かないよ」



対するお兄さんは銃を構えてそれを撃ち落とす。すると、撃ち落とされた全てのダーツの矢から煙幕が出て、視界をさえぎってしまう。



「視界を奪えばわたしに勝てると?愚かなことだ、怪盗夜叉」



もくもくと煙幕があがっているなかで、お兄さんの声だけが聞こえる。


夜叉がどうしているのかもわからない。


その中で、銃声が突然鳴り響いた。


1発。2発。




どうしよう、夜叉が撃たれちゃう。


煙幕で様子がまったくわからないのが、むしろ苛立たしい。


夜叉がほしいらしいその宝石は、あたしが今、持ってるのに。


だから、それを持って、早く逃げればいいのに。



まだ銃声が続く。


3発。4発。



あたしは、怖くて怖くて、思わず耳をふさいでいた。耳をふさぐ手も、ガクガクと震えている。


やがて、煙が晴れていく。


クリアになっていく視界に、黒い塊がふたつ見えた。




ひとつは黒ずくめの拳銃を構えたままのお兄さん。


そしてもうひとつは、同じように全身を闇に染めた怪盗夜叉。


でも、いつの間にか夜叉の仮面は剥ぎ落されていた。今彼の顔を覆っているのは、黒いアイマスク。



それでも、ふたりとも煙幕が張る前と同じ立ち位置にいる。


煙幕で見えない間、ふたりとも動かなかったの?でも、銃声はあちこちから聞こえてきたけど・・・・・・。



すると、その夜叉の体がぐらり、と傾いた。



「夜叉!!」


あたしの叫び声は聞こえない。わかってるけど、叫ばずにはいられない。


「お見事。すべて避けて掠った程度かな?」


お兄さんが拍手をすると、あたしには聞こえない声で、夜叉がなにかを言った。


「おやおや、怪盗紳士を謳ってる夜叉がそんな言葉を使うものではないよ」


夜叉が何を言ったのかわからなかったけど、お兄さんが楽しそうにくすくすと意地悪く笑う。




「じゃぁ、こうしよう。わたしが10この質問をする。答えてもらえなかったら銃1発。そして、わたしの質問が終わるまで、そうして立っていられたら、君の姫君は渡すとしよう」


「なにを・・・・・・」


「よく見て御覧、夜叉」



お兄さんが銃口をあたしに向ける。


窓の向こうにいる、あたしに。


向こうからこっちは見えないんじゃないの?!




「あの窓の向こうに、<プリンセス・ローズ>を身に付けた姫君がいるよ。ここで君がわたしの条件を飲まなければ、わたしはこのまま引き金を引こうかな」


「・・・・・・・・・卑怯な・・・!!」


そうだそうだ!!卑怯だぞ!!


あたしを人質にして、夜叉を追いこむなんてずるい!!!


夜叉、そんな条件飲んじゃ駄目!!あたしは自力でがんばって逃げるから!!




「・・・わかりました、受けましょう」


「そうでなくてはね。<月>も応援してくれているようではないか」



夜叉の背には、まるで彼を守るように輝く満月。



だめ。


そんなわけのわからない条件を、飲んじゃ駄目!!



「では、1つめ。怪盗はいつから活動してるのな?」


「・・・・・・ノーコメントです」


バンっ。



夜叉の答えと同時に放たれる銃弾。


咄嗟に避けたみたいだけど、夜叉の右足を掠める。



「ひどいですね、答えたではありませんか」


「ノーコメントは答えたとは言わないよ。・・・じゃぁ2つめ。<シリーズ>の存在はどこで知った?」


「<お月さま>がこの怪盗めに教えてくださいましたよ」


バンっ。



夜叉の回答全てを待たずに放たれる銃撃。


右足を負傷した夜叉は思うように体が動かなかったのか、さっきよりも深く銃弾を掠めてしまう。


彼の足元に、血だまりができあがっていく。


でも、夜叉は絶対に膝をつかずに、しっかりと立っている。



ちらり、と夜叉がこっちを向いた気がした。


夜叉はあたしがどこでどんな顔で見ているか知らないはずなのに、その口元は少し笑っていて。


小さく、口が開いた。


それは、読唇術っていうのがわからないあたしでもわかった。




『大丈夫』





あちこちから血を流している夜叉が、あたしを安心させるために言ってくれているのがわかる。


あたしは、自分の中で、ふつふつとなにかが沸き起こるのを感じた。


このまま、囚われのお姫様でなんか、いてあげないんだから!!


その間にも、お兄さんと夜叉のやり取りが続いて、銃声と夜叉の傷が増えていく。


あたしはそばに置いたままの椅子を持ちあげた。


「・・・・・・えい!!!」


持ちあげた椅子をガラス窓に向かって投げつける。


でも、その窓はびくともせずに、椅子は跳ね返ってくる。


一度がだめなら、何度でも。


今度は椅子の足を掴んで、あたしは窓にむかって椅子をガンガンと叩きつける。


ヒビのひとつでもはいればいいのに、その窓はすごく頑丈で全然びくともしない。



しかも、絶望的なことに、何度目かに椅子を叩きつけた途端、椅子のほうが壊れてしまった。


木でできた椅子は、足がとれて、背もたれが崩れ、分裂してしまう。



「・・・そんな・・・・・・」



どうにかしてここから脱出しなきゃ。


もっと、もっと硬いものはないの?!椅子よりももっと頑丈で硬いもの・・・・・・。



「硬度が・・・あるって言ってたっけ・・・」



思いついたのは、今、首元にかかっている、その存在。


<プリンセス・ローズ>


ダイアモンドよりも硬度があるように加工されたルビー。


これなら、この窓も割れるかもしれない。



あたしはすぐにその重たい首飾りを取り外して、ぶんぶんと振り回す。


遠心力を使って、もっと強くガラスに叩きつけるつもりだったりする。



「あたしは、こんなの、いらないんだからー!!」


叫ぶと同時に、あたしはそれを窓に向かって投げつけた。


首飾りはぐるぐるとすごいスピードで回りながら、窓ガラスをけたたましい音を立てて打ち破った。



「やった!!」



突然窓ガラスが割れたことに、夜叉もお兄さんもびっくりしてこちらを見てる。


あたしは砕けた椅子の背もたれの部分を使って、残りの窓ガラスを砕きながら、自分ひとりが通れるくらいまで穴を広げる。



「・・・まさか、そんなことを・・・・・・」


「あの子は、こちらが想像もつかないことを色々してくれるんですよ」


夜叉がそんなことを言っているのが聞こえる。


会うのが2回目なのに、なんでそんなになんでも知ってるような口ぶりなのかしら?



「<プリンセス・ローズ>はいただきますね、ノワール」



夜叉が、あたしが投げつけた首飾りを拾い上げて、お兄さんに見せる。


あたしは、なんとか窓をくぐりぬけて、夜叉に飛びついた。



「夜叉!!」


「無事でなによりです、姫君」



そっと夜叉があたしの頬を撫でる。そこにちりりとした痛みがあったのは、たぶん、窓を抜け出すときに破片で頬を傷つけたのかも。


ぎゅっとあたしは夜叉にしがみつきながら、お兄さんを見る。


すると、お兄さんは楽しそうに笑っていた。



「これは完敗だね。今夜は諦めるとしよう」


「・・・・・・ゲームはわたしの勝ちですか?」


「そうだね、だから、近いうちに、君が望むものを差し出すとしようか、夜叉」


「わたしが望むもの・・・・・・?」


「おや?<シリーズ>の情報を知りたいのではなかったのかい?」


からかうようなお兄さんの口調に、ぴくり、と夜叉が反応する。彼にしがみついているあたしは、彼の小さな反応にもすぐに気付いてしまう。



「・・・素直にいただけるのですかね」


「さぁて、どうだろうね。ま、とりあえず今夜はここでわたしは引くとしよう」


「・・・・・・わたしを殺さずに?」


「楽しみはとっておくものだよ」



くすくすと笑いながら、お兄さんは背を向けて歩き始める。夜叉はその背中に追撃するようなことも、追いかけるようなこともしなかった。


「・・・夜叉、あのお兄さんに命を狙われているの?」


「・・・・・・それよりも、あなたは無事ですか?どこか痛いところはありませんか?」



あたしの質問には答えずに、夜叉はしきりにあたしの体を調べる。他に怪我がないか、骨が折れたりしてないか、勝手に関節を曲げたり触ったりしながら調べてくる。


「大丈夫、なんともないよ」


「それはよかった。では、あなたの家までお送りしましょう」


「・・・・・・あたしが今住んでいる家を、知ってるの?」


「わたしはなんでも知っていますからね」


にやり、と笑った夜叉をじぃっとあたしは見つめる。



「本当にそれが理由?」


心にずっと引っ掛かってる。


あのお兄さんは、和馬お兄ちゃんと話をしてた。


なのに、ここに助けに来てくれたのは、怪盗夜叉。


しかもその夜叉があたしをあの家に送るって言ってる。


和馬お兄ちゃんの家に。



「・・・どういう意味ですか?」


「あたしね、考えたの。もしかして、夜叉って・・・・・・」



そっと、夜叉だけに聞こえるように耳打ちする。


すると、彼は驚いたように目を見開いた後、ふっと息を吐いて苦笑した。



「まぁ、そのようなものですね」


「やっぱり!!だから和馬お兄ちゃんが電話に出てたのに、夜叉があたしを迎えにくるようになってたのね!!」



想像が当たって、あたしは得意げに胸を反らせる。


そんなあたしの様子に夜叉はもう一度苦笑すると、漆黒のマントであたしを包んだ。



「夜風はまだ冷えます。さぁ、帰りましょう」


「・・・うん」



夜叉のマントは血の匂いがした。


でも、温かくてほっとした。



ずっと囚われて緊張していた感覚から解放されて、あたしはやっと肩の力を抜くことができた。




夜叉のぬくもりが温かくて。


とても身近に感じられて。



安心しきったあたしは、気付いたら夜叉のマントにくるまれて、そのまま眠りについていた。




目が覚めたら、びっくりするような展開が待っているとは、そのときは知らずに。




はい、9話の愛良サイドは、締めくくりはすべて寝オチにしようと決めてました(笑)

愛良サイドにしては珍しく緊迫してた気がしますが、どうでしょうね?

前回ケーキ友達になったせいか、愛良はちょっとだけノワールにも強気です(笑)

あぁ、それにしても、ルビーを投げつけるなんて(汗)

無知って、無欲って怖い~!!

愛良サイドからすると、ノワール編はじつは10話までちょっとひっぱります。

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