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あたしの恋人  作者: 紫月 飛闇
Season1 始まりと出会い
3/86

2、ふたりの友達<Side 愛良>





「えぇ?!ほんとう?!」

週明けに学校へ行って一番に、親友のしずちゃんに和馬お兄ちゃんとの同棲の話をした。



新田 静子ちゃん。幼稚園の頃からずっと一緒のあたしの親友。


そのしずちゃんにその話をしたときの最初の反応が、これ。



「本当だよ。和馬お兄ちゃんと一緒に暮らすことになったの!!」


「でもおじさんやおばさんと離れて、さみしくない?」


「う~ん、でも今までもひとりでいること多かったし」


パパとママは「取材」やらなんやらで、結構家をあけることが多い。だから、さみしいって感じはないのかも。


やっぱり和馬お兄ちゃんと暮らせることの喜びのほうが大きいのは、愛の力かしら!



「お引っ越しは終わったの?」


「うん、土日で和馬お兄ちゃんが荷物を運んでくれたし」


もともとそんなに荷物もなかったから、あっさりと引っ越しは終わった。



和馬お兄ちゃんは二階の奥の部屋をあたしに割り当ててくれた。


ちなみに、お兄ちゃんの部屋は一階の奥。


これじゃぁ、夜這いするにも遠いじゃない、というあたしの文句は切り捨てられたけど。



「しずちゃんも遊びに来てね。和馬お兄ちゃんに紹介したいし!!」


「・・・そこって和馬さんの家なんだよね?勝手に愛良ちゃんが決めていいの?」


「大丈夫!!だって未来の旦那様だもん!!」


「・・・・・・和馬さんの苦労が目に見えるわね・・・」






2、ふたりの友達△    <Side 愛良>






一応、あたしは世に言う「受験生」っていうやつだから、学校の勉強はあまり苦労しない。


別にどこかの私立の中学校に行きたいってわけじゃないけど、頭が悪いと夜叉の弟子にしてもらえないと思うから。


男子がふざけて授業を妨害しまくるつまらない算数の授業を受けながら、あたしはノートに授業に関係のないらくがきを始める。


これから1か月の対策だ。


この1カ月で、和馬お兄ちゃんに「愛良と一緒に暮らしたい!」って思わせないと、本当に追い出されちゃうもん。


追い出されちゃったら、しずちゃんの家に御厄介になることになるかもだけど、でもそんなことは考えない。


絶対和馬お兄ちゃんの家に居座るもん。




「・・・やっぱり、身近な存在を紹介しておくといいかしら」


まずは周りから固めておくのもアリかも。


ちらっとしずちゃんを眺めて考えてみる。しずちゃんを和馬お兄ちゃんに紹介しようかな。


パパとママはすでに紹介済みだし。


「うん、そうしよっと」


あたしはるんるんとノートに今後の計画を練り始めた。




運動神経はまぁまぁいい方だと思う。


だって、運動神経よくなかったら、怪盗である夜叉の弟子にはなれないでしょ?


今日の体育の授業は跳び箱。


その順番を待っているときに、あたしはすぐにしずちゃんのところに話しかけに行った。


「しずちゃん、しずちゃん」


「ん?」


「今日さ、和馬お兄ちゃんに紹介するから、一緒に来て?」


「えぇ?!なんでいきなり?!」


「だって・・・・・・作戦なんだもん」


「作戦~?!」


しずちゃんに「1か月限定」の話をして、あたしの作戦の話もしてみた。すると、しずちゃんの表情がみるみる曇っていく。


「愛良ちゃん、それはちょっとどうかと思うんだけど・・・」


「なんで?」


「そもそも、和馬さんがほんとに愛良ちゃんを恋人にすると思う?」


「思うわ」


きっぱりと言い切ったあたしの態度に、しずちゃんがずっこける。


「・・・もういいや。もしも1ヶ月後に行き場所がなくなったら私の家においで」


「ありがとう。でも、きっとあたしはずっと和馬お兄ちゃんのところにいると思うから!!」


にっこりと自信満々に告げれば、しずちゃんは、ははは、と乾いた笑いをしただけだった。




しずちゃんは現実主義者だ。


だから、あたしが夜叉の弟子になるって言っている横で、「それは無理よ」ときっぱり言う。


でも、しずちゃんだって夜叉のファンなのに。それとこれは別っていつも言ってる。


まるで和馬お兄ちゃんみたい。


とりあえず、しずちゃんも了承してくれたから、今日の帰りは一緒に和馬お兄ちゃんの家に帰ることになった。




偶然にも、今夜は夜叉の予告日。和馬お兄ちゃんの家にあるでっかいテレビで、3人で夜叉の応援ができるってものだし!!



「・・・で、なんなんだよ」


「親友の新田 静子ちゃん。紹介しておこうかと思って」


「ご、ごめんなさい。迷惑だったら帰ります」


「あぁ、いいよ。あがっておいで。こっちもちょうど友達来てるけど」


いきなりあたしを問い詰めてきた和馬お兄ちゃんの態度にびっくりして帰ろうとしたしずちゃんを、お兄ちゃんは笑顔で家に招いた。


というか、あたしは今、聞き捨てならないことを聞いた。



「和馬お兄ちゃんの友達が来てるの?!会いたい、会いたい!!」


「ばーか!!会ってどうすんだよ」


「一緒に今夜の夜叉の中継を見るの!!」


でもその前に、和馬お兄ちゃんはあたしのものって釘をさしておくんだ!!



「あ~・・・夜叉・・・ね。今夜だっけか、予告日」


「そうよ?やだ~和馬お兄ちゃん。毎朝新聞読んでるのに、忘れてるの?!」


予告日の新聞の一面は、いつだって夜叉だ。ついでに、次の日の一面も夜叉だけど。


「ほっとけ。まぁ、リビングと愛良の部屋は好きなように使っていいから。他の部屋は入るなよ」


「はぁい。・・・ってあれ?一緒に夜叉の活躍見ないの?」


「俺は今夜バイトなの。留守番しっかりがんばれよ」


「え~!!!なんで~?!せっかく一緒に見れると思ったのに」


「残念でした」


いたずらっぽく笑って、和馬お兄ちゃんは奥の自室に向かってしまう。



あたしとしずちゃんは玄関にそのまま残された。


バイトかぁ。それならしょうがないのかなぁ。


「残念だったね、愛良ちゃん」


「うん。まぁしょうがないから、しずちゃんとふたりで夜叉を応援しようね」


「そうね」



しずちゃんも夜叉のファンだから、中継テレビは欠かさない。あたしは夜叉の立ち回りを研究して、弟子になったときのための勉強をしてるけど、しずちゃんはどうやら警察の動きを見ながら夜叉の逃走経路とかを考えるのが好きみたい。

将来は警察官になりたいって言ってるからそのせいかも。


リビングに荷物を置いて、しばらくテレビを見ながらふたりでおしゃべりしていると、和馬お兄ちゃんの部屋から何人かの声が聞こえてきた。




「それじゃぁかわいそうじゃない。私が作ってくるわ」


「余計なことしなくていいんだよ」


「和馬、育児放棄はだめだぜ」


「育児じゃない!!!」


「栄養のことを考えても、育ち盛りの子供の食事をないがしろにするのはいただけないな」


和馬お兄ちゃんの部屋の扉があいているのか、そんな会話がまる聞こえだ。


そして、突然リビングの扉が開いて、綺麗なお姉さんが登場した。


も、もしかして、和馬お兄ちゃんの恋人?!



「あら、どちらが愛良ちゃんかしら?」


「えっと・・・あたし、です」


リビングに現れた、綺麗なお姉さんに呼びかけられるようにして、あたしは手を挙げてお姉さんを見据えた。


「柳井 愛良です」


「こんにちは。私は天野 里奈。和馬とは高校時代からの友達よ」


「ともだち・・・です、か?」


「えぇ、そうよ?」


あたしが念を押すようにたしかめても、お姉さんは首をかしげただけで、「友達」だって言った。

恋人じゃないんだ!!よかった!!




「和馬が今夜いないから、代わりにお夕飯だけ私が作っていくわね」


「え、大丈夫ですよ!!それくらい、できます」


「あら、遠慮しないで。嫌いなものとか、ある?」


「・・・いいえ」


「よかったわ。和馬よりも作り甲斐がありそう。和馬ってば好き嫌い多いんだもん」


そんなことをぶつぶつ言いながら手なれた様子で冷蔵庫を開けて材料を眺めているお姉さんを見て、あたしはやっぱり不安になる。


このお姉さん、和馬お兄ちゃんに何度もご飯をつくってあげてるの!?


しかも、台所の勝手まで慣れてる!!


・・・やっぱり、恋人なのかなぁ・・・。




「・・・あの、お姉さんはよく和馬お兄ちゃんのご飯をつくるんですか?」


「え?そうねぇ、和馬はひとり暮らしだし、放っておくと不摂生な生活送るから」


「で、でも!!これからはあたしが一緒にいるし、食事もあたしがつくるから大丈夫ですよ!!」


必死にあたしは自分を売り込んでみる。だから、お姉さんはもうここに来なくてもいいのよって伝えるために。


それが正確に伝わったかわからないけど、お姉さんは驚いたようにあたしを見た後、くすっと笑った。


「そうね、小さな恋人さんが一緒に暮らしてくれるなら、私も安心だわ」


「一緒に暮らすっていっても1カ月だけだよ」


声がしたので振り向けば、リビングの扉のところに和馬お兄ちゃんが不機嫌そうに立ってた。



「愛良は料理ができるんだよ。だから放っておいてもいいんだって」


和馬お兄ちゃんの発言を聞くと、お姉さんはなぜかあたしの方を向いた。


「あら、本当にお料理ができるのね、愛良ちゃん。その歳で偉いわね」


「両親がよく家を留守にしたので、自然と・・・・・・」


「それでも偉いわ。愛良ちゃんよりもいい年した和馬ができないことを、ちゃんとできるんだもの」


「喧嘩売ってるのか、里奈・・・」


「あら、買ってくれるなら、宗次と喧嘩してね」


にっこりと、不敵な笑みをお姉さんは和馬お兄ちゃんに向けた。


そうじって誰??




「愛良ちゃん。ちゃんと言っておくと、私には橋田 宗次っていう恋人がいるから、安心してね。あなたの大事な和馬をとったりはしないわよ」



お姉さん、彼氏、いるんだ。


なんだ~!!じゃぁ、本当にいいひとなんだ!!



「はい!!安心しました!!」


「こらこらこらこら。里奈、勝手なことばっか喋ってないでこっちに戻れ」


「お夕飯ができたら戻るわよ。どのみち和馬もみんなも腹ごしらえはしなきゃだめでしょ」


まるでその場を取り仕切るお母さんのように、お姉さんはびしっと和馬お兄ちゃんに言うと、料理を始めた。


お兄ちゃんもそれ以上は何も言わずに黙って部屋に戻っちゃった。





あたしは里奈お姉さんが和馬お兄ちゃんの恋人でもなんでもないだってわかったらうれしくて、そのまましずちゃんと一緒に夕飯の用意のお手伝いをしていた。





「じゃぁ、私たちはこのまま帰るから、愛良ちゃん、静子ちゃん、お留守番しっかりね。あ、あと、これ、私の携帯の番号だからなにか困ったことがあったら電話してね」


「ありがとうございます。和馬お兄ちゃんの携帯の番号も知っているから、困ったらお兄ちゃんにかけますよ?」


「うん。それでももしも繋がらなかったら、私にかけてくれていいからね」


最後まで本当に面倒見よく、里奈お姉さんはあれこれとあたしたちに指示をしてくれた。


和馬お兄ちゃんなんか薄情にもお友達と一緒にさっさとでかけちゃったのに。






あたしとしずちゃんは、夜叉の予告時間まで、おとなしくご飯を食べたり、宿題をやったりしていた。


学校の宿題は本当に簡単。塾の宿題のほうがずっと難しい。


「あ、時間」


しずちゃんの声で、あたしはすぐさまテレビをつける。すでに中継は始まっていて、いまかいまかと報道陣も夜叉を待っている。


「あ~あたしも現場に行きたい~!!」


実際に現場で夜叉に会うことができなかったら、弟子にしてくださいって言うこともできない。


でも今夜の現場はあたしたちの家から少し離れたところにある美術館。こんな遅い時間に小学生が出歩いていい距離じゃない。


もっと大人だったら、現場にも行けるのに。


それか、もっと近くで夜叉が犯行をしてくれればいいのに。



予告時間ぴったりに、夜叉は現れて。


美術館の屋根に立つ彼の姿が月明かりを背によく見える。



漆黒の衣装に、漆黒のマント。


まるで<オペラ座の怪人>のような仮面をつけて、彼はテレビの前に登場した。わっと現場が盛り上がる。


彼は優雅に小さくお辞儀をすると、片手を空にかざした。月明かりが照らすその手には、予告された宝石が。


「なにぃ?!?!」


テレビの向こうで叫んでいるのは刑事さんたちだろうか。


中継するアナウンサーも、突然のことに興奮気味でレポートしてる。

もちろん、あたしたちもびっくりだ。




「え、予告時間ぴったりに盗んだの?!」


「すごい!!いつのまに盗んだんだろ?!」


「全然わからなかったね~」


「でも、宝石のあった展示室はテレビで中継されないから、どうやって盗んだかはわからないものね」


「そうだよね~テレビも展示室までうつせればいいのに」


「あとはどうやってこの場を逃げ切るか、ね」


しずちゃんが目を鋭くさせてテレビの向こうの夜叉を見る。


あたしは、夜叉が今夜もうまく仕事を終えて、さっさと逃げることを信じていたから、どう逃げ切るかなんて心配してない。


でもついつい真剣に見てしまったりして。




「こんばんは。今宵もお集まりいただき、ありがとうございます」



夜叉が、カメラに向かってそう言ってる。・・・と、思う。


実際、カメラは地上にあって、夜叉は美術館の屋根にいるから、本当にカメラに向かって言ってくれているかはわからないけど。


でも、ズームにしたカメラは、夜叉の視線をとらえていたから、きっと夜叉はテレビの向こうで見守っているあたしたちに話しかけてる。



「ご覧の通り、<レイニー・ブルー>はいただいていきますよ」



もう一度、カメラに向かって宝石を翳すと、夜叉はふわりとカメラから反対側の屋根から飛び降りた。


「追え!!追いかけろ!!」


刑事さんたちの喧騒がカメラにも届いてくる。中継もすぐに、夜叉の逃走を追うためにヘリのカメラに切り替わる。


上空から夜叉を捉えようとカメラがあちこちにぶれる。


しかし、夜叉の漆黒の衣装がカメラにおさまることなく、今夜の中継も終わってしまった。







「あいかわらず逃げ足が速いのね」


まったくといっていいほど、夜叉の逃走経路をつかめなかったしずちゃんがむっとした様子でつぶやいている。


今夜の犯行は盗みだす瞬間も見れなかったので、あたしもちょっと不満。


なんで今夜は展示室までカメラが行けなかったんだろ。


でも、今夜も怪盗夜叉の仕事は成功。


それだけは事実。


「で、あの盗んだ<レイニー・ブルー>は、また何日後かに戻ってくるのかな?」


「きっとそうだよ」


しずちゃんの疑問に、あたしはきっぱりとうなずく。


怪盗夜叉はやたらめったらに宝石や美術品を盗んでいるわけじゃない。


しかも、盗んだ物品は数日後にはちゃんと戻ってる。「持ち主」に。


だからこそ、あたしも夜叉の弟子にしてもらいたいのだ。





「またきっと、明日も学校で大騒ぎよね」

しずちゃんの言葉に、あたしも大きくうなずいた。





次の日の教室は、夜叉の犯行が行われたいつもの通り、男子たちが大騒ぎしていた。


あたしたち女子の憧れ以上に、男子たちの夜叉熱はあつくて、夜叉が現れた次の日は決まって夜叉の真似をする男子が騒いでいた。


今日も昨日の犯行の再現のように、机に飛び乗ったりあちこち飛び回ったりして、夜叉になりきっている男子が教室を乱している。


「まぁったく、子供なんだから」


あたしはそんな男子たちにあきれるしかできない。


あたしは<夜叉の真似>をしたいんじゃない。


夜叉のやっていることをしたい。


・・・それに。



「やっぱり同年代の男子はだめね。子供だわ。和馬お兄ちゃんが一番だわ!!」


愛の再確認もして。やっぱり和馬お兄ちゃんがあたしにふさわしい人なんだって実感。


今夜は不摂生な生活を送るという和馬お兄ちゃんのために、おいしい夕飯をつくらないとね。


あたしの頭の中は、すでに夕飯の献立でいっぱいになっていた。





そんなわけで、2話。

学校の話を書こうと思ったのに、気づけばすでに怪盗話に(笑)いいんですけどね、このシリーズのメインですし(笑)

でもまだまだ、愛良側ではなにもかもが抽象的ですね。

それでも、ひたすらに彼女の暴走は続く(笑)

でも、愛良には愛良の目的があるので、それが明かされるまでは、彼女もちょっとした秘密ちゃんですね☆

しずちゃんは愛良のツッコミどころです。しっかり者です。和馬の助けです(笑)

次回は和馬側の交友関係になります。こちらは長くなりそうなので、前後編にわけることになりそうです。

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