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あたしの恋人  作者: 紫月 飛闇
Season1 始まりと出会い
29/86

9、再会の薔薇に愛をこめて <Side 愛良>(中編)




頭がガンガン痛い。


なんだかすっきりしない。


まだなんとなく残っているけだるさと眠気と格闘しながら、あたしはうっすらと瞳を開けた。



そこはあたしの知らない部屋だった。


無機質な生活感の感じられない薄暗い部屋。きっと、この部屋の主も、冷たくて寂しい人なんだろうな、なんて思う。


「おや、お目覚めだね、お譲ちゃん」


いきなり真後ろから声が聞こえて、あたしはすぐに振りむいた。


今気付いたけど、あたしは別に縛られてたりしてない。


・・・ってことは、誘拐されたとかじゃないってこと?



でもそんな疑問もすぐに吹っ飛ぶ。


目の前の人物を見て。



だって、そこには、忘れもしない。


あの夜、あたしに銃口を向けた、黒髪長髪のお兄さんがいたのだから・・・・・・。







9、再会の薔薇に愛をこめて★    <Side 愛良>(中編)








「あ、あなた・・・・・・!!」


「お、覚えててくれた?そりゃ光栄だ」


部屋の中なのに、お兄さんはやっぱりサングラスをかけてる。


・・・しかもやっぱり、手には銃がある。


「あ、これ?大丈夫、まだ使ったりしないから」


あたしの視線に気づいたのか、お兄さんは銃を軽く振ってにこりと笑った。



「ゲームをしてるんだ。だからそれが終わるまでは、これも使わないよ」


「・・・ゲーム?」


「そう。君の大好きな怪盗夜叉と」



夜叉とゲーム?!


それがどんなゲームなのかさっぱりわからないけど、もっとわからないのは、なんで夜叉のゲームにあたしが関係あるのかってことだけど・・・・・・。



「・・・・・・なんで、あたしをここに、連れてきたの?」


情けないけど、やっぱり声が震える。


泣きそうな声で、訴えるようにあたしは尋ねる。


「ゲームの景品だから、かな」



お兄さんはくすっと笑う。


全然意味分かんない。


・・・っていうか、そもそもあたしはどうやってここまで来たんだろう。


それをぐるぐると考えていたら、あたしはふと、大事なことを思い出した。




「・・・あ!!あの外人さん!!」


「ん?」


「お兄さん、あの外人さんには何もしてない?!金髪の綺麗なお姉さん・・・・・・」


怯えながら、それでもちゃんと外人さんの無事を確かめたくてあたしは恐る恐る黒ずくめのお兄さんに尋ねる。


すると、お兄さんは一瞬口を開けて黙り込んでいたけど、すぐになにがおもしろかったのか、おなかを抱えて笑い始めた。


・・・あたしは全然この状況はおもしろおかしくもないから、笑えないんだけど。




「あはっは、はは、あ~おもしろかった。・・・大丈夫、あの外人は無事だよ。連れてきたのは君だけだよ、お譲ちゃん」


ひとしきり笑ってからお兄さんはそう言った。


とりあえず、あたしはほっとする。


・・・でも、あたしはこれからどうすればいいんだろ。


別に縛られていないってことは、このまま隙をみて逃げてもいいのかな・・・・・・。




「別に逃げてもいいけど、そしたらこれの餌食になるかもよ」




タイミングよくあたしの思考を読んだかのようにお兄さんはそう言って、片手に持ってた銃を振った。


あの夜のことを思い出して、あたしはぞっとしてすくむ。



「大丈夫、おとなしくしてくれていれば、なにもしないから」



お兄さんの怖いほど優しい言葉に、とりあえずあたしはうなずくしかできない。


そして、部屋をゆっくりと見渡していると、意識しなくても見慣れたものが目に入った。



「・・・薔薇・・・・・・」



本当に今日は薔薇に縁がある。でも、悪い縁な気がするけど。


あたしの視線の先には、黒い塊のように花瓶に無造作につっこまれた黒薔薇の花束があった。毒々しいまでの黒さに、恐怖よりも魅入られてしまう。


「おや、お譲ちゃんも黒薔薇気に入った?わたしのお気に入りの花。・・・黒薔薇の花言葉を知ってる?」


お兄さんの質問にあたしは首を横に振る。


花言葉なんて知らないなぁ。・・・あ、でも、たしか和馬お兄ちゃんの本棚に、宝石の本の他に花言葉の本も1冊見かけた気がする。



お兄さんは投げかけてきた質問の答えを言わずに、なぜか奥の部屋に引っ込んでしまう。


というかたぶん、あたしがいる部屋が、『奥の部屋』なんだと思うけど。


誰もいなくなった部屋で、あたしは再度、黒薔薇の花束を見る。


薔薇って色によって花言葉が違うって聞いたことがある。


でもそれがなにかは知らないけど。




お兄ちゃん、そろそろ帰ってきてるかなぁ。


あたしがいないこと、気付いてくれるかな。


あ、でも、気付いてもここには来てほしくないな。だって、危ないもん。





・・・でも、やっぱり助けに来てほしいかも・・・・・・。




コンマ一秒も満たずに、あたしはやっぱりお兄ちゃんに助けを求めてしまう。


だって、白馬の王子様を求めてしまうのは、お姫様の当然の心理だし。



「さて、お腹が空かない?お姫様」



また突然背後から声が聞こえてびっくりする。


なんていうか、このお兄さん、気配っていうのが全然ない。足音もせずに歩くから、全然気づけない。


「・・・あ、ごめん、驚かせた?」


くすくす笑いながら言ってるそれは、全然悪いとか思ってなさそう。


「・・・なんで、あたしのことそんな風に呼ぶの?」


「ん?」


「お姫様ってなんで呼ぶの?」


「あぁ、だって、そうでしょ?」


全然答えになってない答えを平然と言ってから、彼はあたしになにかを差し出してきた。


・・・それはびっくりするくらいの大量のケーキ。



「それに、わたしにとっても君はお姫様だしね?」


「それって・・・・・・」


「さぁさぁ。どれを食べたい?いくつ食べる?日本のケーキはなかなかおいしくて、ハマってしまったよ」


さっきまで拳銃持って怖い雰囲気を出していた人物とは同一人物とは思えないほど、お兄さんはうきうきした様子であたしにたくさんのケーキを紹介していく。


っていうか、これってすごく高いお店のケーキだ!!




「・・・お兄さん、ケーキ好きなの?」


「甘いものは大好きだよ」


にこにことお皿にケーキを盛り付けていく表情を見ていると、それは嘘じゃないことはわかる。


・・・それにしても、いったいいくつ食べるつもりなんだろう・・・・・・。



「お譲ちゃんはどれを食べる?」


「う~・・・ん・・・」


毒とか入ってたらどうしよう?



「大丈夫、毒はないよ。ほら」


さっと素早い動作で、ケーキを一口口の中に入れられてしまった。


口の中に広がる甘さとおいしさに、思わずあたしは味わって飲みこんでしまった。


・・・だって、ほんとにおいしいんだもん。



「ね?毒はないでしょ?せっかくだから一緒に食べよう」


さっさと大量にあったケーキを二人分にわけていく。


どうでもいいけど、あたし、そんなにたくさんケーキ食べないけどなぁ・・・・・・。



「・・・いくつ食べるの?」


大皿に盛られたケーキを見て、思わずあたしは言ってしまった。


・・・だって、少なくても10個は乗ってる気がする・・・。


「あれ?お譲ちゃんはそんなに食べない?」


「2つくらいかなぁ・・・・・・」


「ふぅん。小食。どれがいい?」



いやいや、小食とかじゃないと思うけど。


なんだか流されるまま、あたしは食べたいケーキを指さした。お兄さんはうれしそうにそれを小さなお皿に盛りなおして、残りのケーキは自分のところに引き寄せた。


・・・まだ食べるんだ・・・・・・・・・。




「ん、おいしい。ほら、早く食べちゃいな」


うれしそうにおいしそうに食べるお兄さんは、どこか中性的に見えた。少年っぽくてかわいいっていうのかな。


あたしはうながされるまま、思わず一緒にケーキを食べてしまった。





・・・考えてみれば、変な構図。


だって、ついこの間には、このお兄さんにあたしは殺されそうになったのに。



わけがわからないまま、流されてお兄さんと一緒にケーキを食べて。


おいしかったからいいけど。


いったいどれだけの時間が経ったのかわからなかったけど、そろそろあたしは帰りたくなってきた。



・・・でも一応、人質?みたいだから、帰りたいと言っても帰してくれないみたいだけど。




途方に暮れて、また視界に入った黒薔薇の花束を眺めていると、聞きなれた着メロが聞こえてきた。


あたしの携帯の着メロだ。



「おやおや、やっとご連絡」


お兄さんが本当に楽しそうに、ポケットからあたしの携帯を取り出した。誰からの着信か確かめてから、意地悪そうに笑いながらあたしに差し出してきた。



「まぁ、まずは君が出てみなよ」



かかってきたのは、和馬お兄ちゃんからの携帯。


あれ?おかしいな、あたしは和馬お兄ちゃんの携帯の番号を知ってるけど、和馬お兄ちゃんはあたしの携帯の番号を知らないはず・・・・・・。



「・・・もしもし?」


『・・・・・・もしもし・・・』


おそるおそる出てみれば、声を押し殺したかのような和馬お兄ちゃんの声。まだ相手の出方を窺ってるって感じ。


「・・・和馬お兄ちゃん?」


『愛良か?!無事なのか、いったいいまどこで・・・・・・』


弾かれるように答えてきた和馬お兄ちゃんの言葉は、あたしの耳元で途切れてしまう。


お兄さんに携帯を奪われたからだ。




お兄さんは、さっきまで一緒にケーキを食べていたような優しい雰囲気はなくなって、出会ったときみたいに、冷たくて怖い雰囲気になってる。


表情はずっと笑ったままなのに、それがむしろ怖い。



「はい、そこまで。さて、はじめましてかな、瀬戸 和馬くん」


くすっと笑ってお兄さんは言う。


なんで、お兄さんと和馬お兄ちゃんが電話でお話をするの?!



あたしが不思議そうに見上げているその中で、お兄さんだけは楽しそうにあたしの携帯でお兄ちゃんと話してる。


でもそれが悔しいことに、どうやら日本語じゃない言語で喋ってるみたいで、あたしにはわからない。


・・・そういえば、前にもこんな光景があった気がする。


いつだったっけ・・・。なんだか最近、色々な体験してるから記憶がぐちゃぐちゃ・・・。




「さて。話は終わったよ。おでかけしようか」


あたしが思い出そうとする前に、さっさと電話を切っちゃったお兄さんがにっこりとあたしに笑いかけた。


「・・・おでかけ?」


「そう。そろそろ時間だと思うし」


腕時計を見ながら、お兄さんがなにかのカウントをする。


3,2,1・・・・・・


「・・・あれ?」


なんか、世界が回る。


違う、視界が回ってる・・・・・・?


「うん、時間ぴったり。効いてきたみたいだね」


「どういう・・・こと・・・?」


呂律が回らない。


瞼が、重くなってく。思考が奪われていく。




「ごめんね、あのケーキ、睡眠薬入りだったりして」


くすっと笑いながら言うお兄さんだって、ケーキ食べたのに。


あたしがどのケーキを選ぶかわからないはずなのに。


「わたしはもう、薬の効きにくい体になっててね。おいしかったでしょ、ケーキ」



もう、限界。


あたしは今日2度目の強制的な眠りの世界に、素直に誘われることになった。



「あなたのようなお譲ちゃんとケーキを食べておしゃべりするのが夢だったんだ・・・」



なぜか、寂しそうに言うお兄さんの言葉を遠くで聞きながら・・・・・・。








あれれ、あんまり話が進んでない?!(笑)

愛良サイドはなるべくシリアスにするのは避けたいのですが、ノワール編はそうもいかないですね。

甘党ノワール、万歳♪たぶん、ノワールの日本での主食はケーキなんだと思います(笑)

でも、ケーキ以外でも、この方は甘いものはなんでも好きですよ(笑)


さて、次回で愛良サイドのノワール編は終わり、です~。



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