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あたしの恋人  作者: 紫月 飛闇
Season1 始まりと出会い
28/86

9、再会の薔薇に愛をこめて <Side 愛良>(前編)






土曜の朝、突然インターホンが鳴ったので、玄関を開けてみると、見かけないものが扉の前に置いてあることに気付いた。


しかも、周りには誰もいない。これを置いて、インターホンだけ鳴らして帰っちゃったのかな?


「・・・いたずら?・・・にしても、なんなの、これ?」


あたしは<それ>を抱えて、お兄ちゃんに見せに行こうとした。すると、リビングに着くよりも先に、お兄ちゃんが部屋から出てきた。


「誰か来たのか、愛良?」


「ううん。これが玄関に置いてあったの」


あたしは、玄関から抱きかかえてきた<それ>をお兄ちゃんに見せた。



すると、びっくりするくらいに、みるみるお兄ちゃんの顔が青ざめていくのがわかった。


表情も強張っていく。


「・・・お兄ちゃん?」


「それ、間違えなく俺の家の前にあったのか?」


「うん、そうだよ?」


「・・・・・・わかった」


視線をあたしが抱きかかえているものからはずすことなく、お兄ちゃんは低く呻くように答えた。


あたしはわけがわからないまま、自分の腕の中に抱え込んでいる花束を見つめた。





真っ黒な薔薇の大きな花束を。








9、再会の薔薇に愛をこめて★   <Side 愛良>(前編)








それからしばらくしても、お兄ちゃんはずっと黙り込んだままだった。


機嫌が悪いようには見えないけど、でも、落ち着かない様子で視線を泳がせたまま、そわそわしてる。


そして何度も何度も、あたしが花瓶に飾った黒い薔薇の花に視線を戻していた。




「あの薔薇の花束の贈り主、お兄ちゃんの知りあいなの?」


「・・・・・・なんで?」


「すごく気にしてるみたいだから・・・・・・。黒い薔薇って珍しいね?」


「そうだな・・・」



なんだか全然テンションが上がらないみたいで、抑揚のない口調で返答してくる。どうしたんだろう、具合でも悪いのかな。


「・・・愛良」


「なに?」


「今日は絶対、家を出るな」


「へ?なんで?」


「いいから、絶対出るな!!一歩もだ」


「でも、買い物とか・・・・・・」


「デリバリーでもなんでもいいから、週末は絶対家を出るなよ!!いいな?!」


突然すごい剣幕で、家を出るな命令をすると、お兄ちゃんはそのまま部屋に戻ってしまう。


なにがなんだかさっぱりわからないあたしは、お兄ちゃんの態度を急変させた黒薔薇の花束を見つめてしまう。


あの黒い薔薇がなんだっていうんだろう?





「・・・それにしても困ったなぁ・・・」


週末は買いだめをしたいのに。


・・・とか考えてるのは、主婦みたいだけど。


「なんで家を出るな、なんて突然言い出したんだろ」


最近物騒な事件でも起きたかなぁ?


とりあえず、お兄ちゃんの言うとおりにしようと思って、あたしも自分の部屋に戻った。



一応、あたしも受験生。


家でじっとしてるしかなかったら、ひたすら勉強するしかない。


今は6月。受験がある2月までは1年もない。





あたしには、夢がある。


和馬お兄ちゃんのお嫁さんになること。


怪盗夜叉の弟子になること。



それともう1つ。


これは、将来あたしがなりたいと思っている職業だったりする。


だから、勉強がんばらなくちゃって思うけど。


もちろん、怪盗夜叉の弟子になるためでもあるけどね。





「・・・そういえば」



怪盗夜叉の弟子、と思って思い浮かぶのはあの夜のこと。


あの夜、あたしは憧れの夜叉にとうとう会うことができた。そして、ずっとずっと言いたかった、「弟子にしてください」って言うことに成功した。



・・・でも、断られたけど。


そしたら、夜叉は<依頼>なら受けるって言ってくれた。


それって、あたしが取り戻したい<エーゲ海のエメラルド>を盗んできてくれるってことかな。



そりゃ、あたしなんかが実行するより夜叉がやってくれるほうがいい。


だから<依頼>を受けてくれるって言ってくれた夜叉の申し出はすごくうれしかった。



なのに、その話をする前に、なんだか怖い体験ばっかりすることになって、結局できなかった。


今思い出してもぞっとする、あの緊迫感。


こうして今、生きているのが不思議なくらい、あの夜は怖かった。



今も耳に残る、拳銃の発砲音。


ドラマとかでしか見たことなかったそれの威力を目の前で見た。


それを構える人間を目の前で見た。


そしてそれが取り巻く空気を初めて肌で感じた。



怖い、とかそんな簡単な言葉では表せないほどの恐怖。


なのに、あたしを庇ってくれていた夜叉は笑みすら浮かべてた。


・・・慣れてるのかな。





「・・・またいつ夜叉に会えるのかなぁ・・・・・・」


夜叉は時期が来れば窺います、とか言ってたけど、いつがその時期なんだろ。


だいたい、いつまた会えるかもわからないのに。



そんなあたしの思いも知らないで、夜叉は相変わらずマスコミを騒がせて活躍してる。


不思議なことに、一度会っただけなのに、会ったからこそ夜叉が少し身近に感じる。


だから、今まで以上に警察に追われる夜叉が心配になる。


だって、テレビにうつっていないところで、この前みたいに悪い奴らに狙われているかもしれないし。




もしも和馬お兄ちゃんがあんな危ない目にあってたら、それこそあたしはお兄ちゃんを家から一歩も出したくなくなると思うな。







「愛良、ちょっと出かけてくるけど、さっきも言ったけど今日は家を出るなよ」


しばらくして、和馬お兄ちゃんが怖い顔でそう言ってきた。


ずるーい。


あたしには家を出るなって言いながら、自分はでかけるんだー。


・・・って文句を言えなかったのは、お兄ちゃんの表情がすごく思いつめていたから。




「・・・うん。わかった。夕飯いる?」


「あぁ」


短く答えて、和馬お兄ちゃんは家を出てしまう。


・・・・・・いったいどうしたんだろ?


朝あの黒い薔薇の花束を見てから、お兄ちゃんの様子がおかしい。


「・・・もしかして、恋人からのプレゼント?!」


口に出してから、あたしはその可能性の衝撃にショックを受けた。


お兄ちゃんはすっごくかっこいいもん。


もしかしたらストーカーみたいな嫌なやつが、お兄ちゃんを狙ってるのかも。


強引にお兄ちゃんに言いよってくるなんて、なんて迷惑な奴なの?!


だからきっと、お兄ちゃんはあの花束を見て、様子がおかしくなったんだわ。




そう思い立ったあたしは、すぐさまあの黒い薔薇の花束を捨てようと手にかけた。


でもふと、思う。


贈り主が誰であっても、花には罪がないんだから、捨てたらもったいないかも。



思いなおしたあたしは、黒薔薇を捨てるのはあきらめて、そのまま台所に入る。


今夜はシチューでも作ろうかな。昨日の夜、テレビを見ててお兄ちゃんが食べたいって言ってたし。


それに、気持ちが落ち込んでいるときは温かい食べ物食べる方が、気分が浮上するしね。





「・・・あ。やばい」


冷蔵庫を開けて、あたしはおもわず声を漏らした。


牛乳がない。


だったら違うメニューにしてもいいんだけど、牛乳以外は材料がそろってるし。


せっかくシチューをつくろうってやる気になってるし。


「・・・コンビニくらいだったらでかけてもいいよねぇ・・・?」


和馬お兄ちゃんの家からコンビニまでは歩いて5分くらい。


それくらいの距離ならストーカーさんに悪いことされたりしないだろうし。


そもそも、ストーカーに狙われているのは和馬お兄ちゃんだし。




あたしは財布と携帯を片手に、そっと家を飛び出した。


・・・家出するわけじゃあるまいし、そんなにびくびくする必要もないかと思ったんだけど。


なんか、なんとなく。


それでもちょっとうきうきしながらコンビニに向かっていたら、突然声をかけられた。




「この間はありがとう」



頭上から降ってきた言葉に、あたしはびっくりして振り向いた。


すると、そこにはモデルのように綺麗な顔立ちで、眩しいほどの金髪を揺らした外人がいた。


・・・どっかで見たことあるかも・・・・・・テレビかなぁ・・・・・・。



「この間はありがとう、親切に教えてくれて」



どうみても顔立ちは外人なのに、口から出てくる言葉はまるで翻訳機でも使っているかのように流暢な日本語。あまりにも似合わない・・・・・・。


「・・・えっと・・・?」


「カフェ・ルーンを教えてくれたでしょう?」


「・・・・・・あぁ~!!!あの朝の変な外人さん?!」



そういえば、この絵本から飛び出してきたお姫様のような美人な外人さんに会ったことがあった。


登校前の朝、いきなり喫茶店<ルーン>の場所を尋ねてきた外人さん。


しかも、せっかく道案内をしてあげたのに、その反対方向を走って行ったというオチつき。



・・・でも、あのときちょっとだけ話した限りだとたしか・・・・・・。



「日本語、上手になったね?」


前に話しかけられたときは、すっごく片言の日本語だったのに。


今はまるで日本人みたいに流暢に日本語を使ってる。



「そうかしら?結構がんばって勉強したからね」



そう言って外人のお姉さんはにっこりと笑う。


外人さんのせいか、このお姉さんはすごく背が高い。もしかしたら和馬お兄ちゃんよりも背が高いかも。


それに見惚れてしまうほどの金髪とまるで快晴の空のような青い瞳。


じぃっと無遠慮に見つめるあたしを見つめ返す外人さんが、くすりと笑った。


そしてそっとあたしの頭を撫でる。



「・・・えっと・・・?」


「ねぇ、私の悩み、聞いてくれる?」


綺麗な眉を寄せて、外人さんはあたしに尋ねてくる。突然どうしたのだろう?



「なぁに?」


「私ね、日本にしばらくいなくてはいけないのに、なかなか宿が見つからないの。とても、困っているの」


「宿が見つからないの?!それは大変だよねぇ・・・・・・」


「そうなの、やっぱり日本は私たち外人には冷たいのね・・・」


外人さんはため息と共に悲しそうにつぶやく。



大変!!なんかよくわからないけど、日本が誤解されそうになってる?!


日本人みんながみんな、そんなに冷たいわけじゃないんだから!!




「そしたらさ、私が泊まってる家のお兄ちゃんに聞いてみてあげようか?お姉さんがしばらくの間泊まれるかどうか」


和馬お兄ちゃんの家は大きいし、まだ部屋余ってるし。


そう提案すると、外人さんはすごくうれしそうにうなずいた。


「それはとても助かるわ。そうなったら素敵ね」


うれしそうに笑う外人さんはかわいくもあり綺麗でもある。


うっかりあたしは見とれてしまっていたら、なぜか外人さんに笑われてしまった。




「優しいのね、プリンシアは」


「・・・え?」


突然ぎゅっと抱きしめられる。ふわり、と漂う薔薇の香り。


今日はやたらと薔薇と縁があるみたい。


「かわいい愛しいプリンシア。・・・・・・あなたと一緒にいられたいいのに・・・」


今にも消え入りそうな声で、外人さんは言う。


薔薇の香りがあたしの鼻孔を支配する。



なんか、頭が朦朧としてきたかも。


急激に襲いかかってきた眠気。


なんでだろ?


今日はいつも通り、たっぷり眠ったと思うけど。



思わず、あたしを抱きしめてる外人さんの肩に頭を乗せてしまう。


瞼が自分の意志に逆らって閉じようとしてる。



もう、眠くて眠くて、意識が・・・・・・・・・。




「ねぇ、プリンシア。あなたのもとに、私の薔薇は届いたかしら?」




遠くで、外人さんがそんなことを言っているのを聞いた気がした。







黒薔薇の花束ってちょっと不気味そうですよね・・・(汗)

っていうか、ほんとに愛良は和馬泣かせに言うこと聞きません(笑)自分から危険につっこんでいきますね(笑)

最後に出てきた金髪外人さんに覚えがない人は、ぜひ愛良サイドの7話前編を読み返してくださいね!!

なんであんなカタコトがあんな流暢になるんでしょ?(笑)

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