表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
あたしの恋人  作者: 紫月 飛闇
Season1 始まりと出会い
23/86

7、運命の出会い <Side 和馬>(後編)





漆黒の薔薇の進呈。


それは、ただの花のプレゼントとかではない。


裏世界においてその行為は、一流スナイパー・ノワールの<死の宣告>とも呼ばれていた。





ノワールは、必ずターゲットに漆黒の薔薇を添える。


それはすでに息のない死体に贈ることもあれば、まるで<予告>するかのように怯えるターゲットに送り届けることもあった。


贈られる形やタイミングはどうであれ、黒薔薇を受け取った者たちはみな、例外なく死に至った。


血の海に浮かぶ、黒の花弁。


世界で一、二を争うスナイパーに<ノワール(黒薔薇)>のコードネームがついたのは、仕方のないことだった。





そして、怪盗夜叉である俺は今、そのノワールに一輪の漆黒の薔薇を投げかけられた。







7、運命の出会い†     <Side 和馬>(後編)







「・・・<予告>ですか?」


俺はひょいっと一輪の黒薔薇を拾い上げて、それを揺らしながら相手に尋ねた。


「ま、ただの<ご挨拶>だと思ってくれてもいいさ。君のことが気に入ったからね」


なにかを含むような物言いで、ノワールはそう言う。


それを聞きながら、俺はじわじわと恐怖と同時に込み上げるなにかを感じていた。<仕事>前のような高揚感。


舌なめずりをして、相手を見据える。



「仮面よりアイマスクのほうが見栄えがいいよ、夜叉。君は素敵な顔立ちをしているみたいだからね」


「・・・ありがとうございます。ですが、わたしはとても恥ずかしがり屋なので、あの仮面でちょうどいいのですよ」


ノワールの戯言にも俺は付き合って応対する。


妙なことに、この立体駐車場には、本当に俺とノワールのふたりの気配しか感じられなかった。愛良とここを逃げだすまでは、<組織>のやつらの複数の気配も確かに感じられたのに。




「・・・あなたの仲間はどうされました?」


なかなか攻撃に転じてこないノワールに、俺はさらに質問を加えてみる。すると、まるでそれを待っていたかのように、ノワールは口元を引き上げて答えた。


「先ほども言ったでしょう?邪魔者は消したよ。すべて、ね」


言葉と同時に放たれた尋常ではない殺気に、俺はぞっとすくみあがった。言葉にならないほどの殺気を目の前にして、逃げ出さずにいるのが精いっぱいだ。




・・・そうか。この殺し屋が言う「消す」は、文字通りの意味だ。


存在そのものを「消した」のだ。


その命、まるごと。



「な・・・・・・ぜ・・・?」


「なぜ?それは、わたしのプライドですよ、怪盗さん。わたしに依頼しておきながら、陳腐な殺し屋がまるでわたしの補佐だといわんばかりにうろつかれても、うっとおしいだけ。わたしの獲物はわたしだけのもの。他のやつらに奪わせることなど、わたしのプライドが許さない」





殺し屋のプライドだと言いきった一流スナイパーの瞳は、すでに妖しく獲物である俺を捕えていた。


そして、狙った獲物は決して逃さないのが、このスナイパーの実力。


俺はどうにかしてこの場から立ち去る算段を巡らせていた。


ところが、俺がなにか行動をうつすよりも先に、ノワールが小さくため息をついた。




「残念。今夜はここまでだね、夜叉。また次の機会で遊ぶとしよう。今度は、おしゃべりではなく、ね」




その途端、やつは驚くほどの変わりようで気配を消し、その場を立ち去った。


俺はなにがなんだかわからない展開に取り残されて、馬鹿みたいにそこに突っ立っているだけだ。



「・・・夜叉」



突然呼ばれて、俺ははっと振りかえる。


てっきり一般人がそこにいるのだと思って催眠スプレーの用意までしたのだが、そこにいたのは顔なじみのふたりだった。




「<ビール>・・・<ダージリン>・・・・・・」


「あれが・・・・・・ノワールか・・・」


青ざめた顔で<ビール>が近づいてくる。俺は小さくうなずくことでそれに答えた。<ダージリン>も<ビール>にしがみついたまま、辺りを警戒しつつ歩み寄ってくる。


「大丈夫だよ、<ダージリン>。やつは今夜はもう帰るみたいなこと言って去って行った」


おそらく、ふたりの気配を察知してのことだろう。


けれど、同時に不思議に思う。






「邪魔者は消す」といったノワール。


なのに、<ビール>と<ダージリン>は殺すことなく、自分がその場を立ち去ることを選んだというのはどういうことなのだろうか。





「どんくさい俺でもわかるぞ、あの殺気。魔物だな、あれは」


「・・・でも、たしかになにかを知っている感じだった」


「だからって、ひとりで危険の中に身を投じるのは禁止だからな」


<ビール>が再度俺に念押ししてくる。


・・・はいはい、心得ておきますとも。





「そういえば、通信機を聞いてて驚いたんだけど、愛良ちゃんがいたの?!」


「そうなんだよ、あいつがここにいてさ」


<ダージリン>が用意してくれた着替えに着替えながら、俺は色々なことを改めて思い出していた。


「なんで愛良だけがここにいたんだ?野次馬で来たんだったらデパートの下にいるもんだろ?」


「俺もそれが疑問だったんだけど・・・・・・。でも、これは今思いついたひとつの仮定だけど」


宗次の疑問に、俺はふと、思いついた考えを口にした。


「ノワールと愛良は面識があるみたいだったんだ。・・・もしかしたら、ノワールのやつが夜叉に会いたがっていた愛良をここまで誘導したのだとしたら・・・・・・」


「まさか!!愛良ちゃんは知らない人についていくほどおバカさんじゃないわよ」


里奈が即座に否定してくる。





俺もそうは思うけど、あの思い込んだら一直線な性格からして、夜叉に会えるとなったらそういう道理はあいつの中で消えたんじゃないかと思って。


「・・・あ、あと、これ、もらった。ノワールに」


着替え終わって、俺は宗次に一輪の薔薇を手渡した。ノワールから投げられた、一輪の黒薔薇。


それを受け取って、宗次はしばらく固まっていた。


その意味をまだ知らない里奈は、不思議そうに首をかしげている。


「黒い薔薇なんて珍しいわね?」


「・・・・・・そうだな」


その意味を言うつもりはないのか、宗次はそれだけ言うと、その薔薇を乱暴にジャケットのポケットに押し込んだ。


「ちょっと宗次。せっかくの花をなんてこと・・・!!」


「いいんだよ。和馬が俺にくれたんだから」


「気色悪いこと言うなよ、宗次。まるで俺がおまえに渡したみたいに」


「あん?和馬の愛の告白だろ、これは?」



にやっと笑って言い返してくる宗次はいつもの宗次だ。


ノワールの存在を知って逆上していた彼ではない。





「・・・おまえにだけは絶対そんなことしないから安心しろよ」


「わかってるよ。いくら和馬に愛されちゃっても、俺は里奈一筋だからな~」


「はいはい、ごちそーさん」


「あら、和馬だって愛良ちゃん一筋よね」


「どこでなにをどう見たら、そうなるんだよ・・・・・・」





野次馬に紛れながら俺たちは俺の家に向かう。


とりあえず、あまりに色々なことがあって忘れそうだったが、今夜の獲物<リトル・スター>の解読もしないといけない。





ふざけ合いながら家路につくと、すでに俺の家で実が待機していた。


「実、愛良は?」


「興奮状態だったから、軽い睡眠薬を飲ませて今は眠ってるよ」


実と共に愛良の寝室に向かいながら説明を受ける。とりあえず愛良が無事にこの家に戻ってきていることにまずは安堵する。


「怪我とかしてたか?」


「いや、外傷は特になかった」


そっと部屋に入れば、ベッドですやすやと安らかに眠る愛良の姿があった。


俺は彼女の寝顔を覗き込み、このおてんば娘の頬を軽く撫でた。


「・・・まったく、心配かけやがって」


言葉とは裏腹に、ほっとした安堵の苦笑が出てくる。


起こすとまずいから、早急に俺と実は愛良の部屋から出た。すでに宗次と里奈は父さんの部屋で解読を始めている。






「・・・で?なにがあったんだ、いったい?」


「実、通信機聞いてたんだろ?」


階段を降りながら尋ねてくる実に、俺は意地悪く答える。実はむっとした様子でそれに答える。


「あぁ、聞いてたよ。噂のノワールが現れたんだろ?」


「それだけわかってれば充分。あとは対策を練るだけだろ?」


「対策って・・・・・・わかってるのか?あれは本物の殺し屋だ」


「今までだって本物だったろ?」


「桁が違う。獲物をひとりでとらえることをプライドだなんて言いきる、あれは、プロのスナイパーのプライドだ」





訴えるように俺の背中に言い続ける実に、俺は顔だけ彼に振り向いていたずらに笑った。


「もしもノワールに撃たれたら、おまえが治療してくれればいいよ。そうすれば、俺はまた夜叉になれるから」


「和馬・・・・・・」


「どうしても、集めたいんだ。<失われた誕生石>を。あれが、どこに導くのか。父さんと母さんのためにも」



父さんと母さんの名を出せば、実はそこからなにも言えなくなる。


実の母親もまた、実のように俺の両親を助けてくれていた。だからこそ、その想いはよくわかるのだろう。



「無茶は、許さないからな」


「宗次にも同じこと言われたよ」


「ついでに言えば、里奈だって同じ気持ちだよ」


「はいはい」


背中だけで俺はそれに答えた。


別に軽く考えているわけじゃない。でも、ノワールから情報を引き出すために、多少の危険が伴うのも仕方のないことだと腹をくくっているのも事実だ。


・・・うるさいから、言わないけど。





「宗次、解読できたか?」


「・・・・・・できたけど、えっらい結果がでたぞ?」


父さんの部屋で<リトル・スター>の解読をしていた宗次が引き攣った表情で俺の問いに答える。


「・・・どんな結果?」


「・・・・・・304-B-103-GX-86」


「・・・・・・・・・マジで・・・・・・?」


「マジ」


「たしかに、想像以上の数字が出たな」


頭を抱える俺の横で、実も途方に暮れたような表情でつぶやいた。


たしかに、途方に暮れるさ。


「304・・・・・・って・・・・・・」


もはや、嘆きだ。


宗次も小さくため息をついて首を横に振り、里奈は諦めたように苦笑していた。実は頭を抱えてしゃがみこんだ俺の背中を強く叩いた。




「しっかりしろよ。とりあえず、<シリーズ>が300以上はあることが判明したんだから!!」


「・・・・・・へいへい」


<失われた誕生石>にはある小細工がしてある。


ある機械をつかってそれを解読すると、その暗号が一度だけ読み取れるようになっている。


そして、その暗号のなかの最初の数字が、<シリーズ>のナンバーを指すものだというのが俺たちと、そして死んだ父さんの導いた見解だった。


今までは多くても100番台だけだったのだが、304ということは、少なくても<シリーズ>は304個は存在することになる。


・・・まったく、とんでもない結果だ。





「・・・ま、しょうがないな。それでもやるしかないもんな」


「そういうこと」


「せいぜい気を付けたまえ」


「まずは温かい飲み物でも用意してくるわ」


俺が気を取り直して背筋を正せば、宗次、実、里奈が苦笑しながらも賛同してくれる。



そう、ずっと彼らは俺と一緒に怪盗夜叉をしてくれている。


ひとりで演じるはずだった怪盗夜叉を一緒に演じてくれている。



仲間がいることの心強さを、俺は改めて認識していた。







冒頭のノワールと夜叉の会話は全部日本語です。・・・・いや、前回はフランス語で途中から会話してたので、あのふたり(汗)

後編は蛇足って感じですね。中編まででやりたいこと全部やった感じ(笑)

<シリーズ>の解読結果はどう表現するか迷いましたが、あんな感じで落ち着きました。

とはいえ、いったい全部でいくつあるんでしょうね、<シリーズ>(笑)

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ