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あたしの恋人  作者: 紫月 飛闇
Season1 始まりと出会い
22/86

7、運命の出会い <Side 和馬>(中編)




全身が、小刻みに震える。


とんでもない威圧感。


口元に浮かんでいる笑みすら、恐怖を抱かせる。



だけど、今の俺は怪盗夜叉。


相手に、そんな態度を見せるわけにはいかない。


それに今は愛良もいる。


敵う相手かわからないけど、なんとか愛良だけでも逃がさないと・・・・・・。



なんて考えていたら。



「お兄さん!!早く逃げて!!」


愛良がノワールに向かってそう叫んでいた。


・・・違うって。


逃げなきゃいけないのは、俺たちの方なんだって。






7、運命の出会い†   <Side 和馬>(中編)








「そうだね、忠告ありがとう、お譲ちゃん」


ノワールは意味ありげな笑みを浮かべて愛良にそう答えた。


愛良とノワールは面識があるのか?!


なんて考えている暇もない。


奴が銃を構えて放つよりも早く、俺は放心している愛良を抱えて転がった。すぐ横で銃弾が掠っていく。




愛良はなにが起こっているのか理解が追いついていない状態みたいだけど、そうゆっくりもしていられない。


俺はすぐさま上体を起こして、愛良を庇うようにしてノワールの前に立ちふさがった。


「・・・・・・この子を御存じなのですか?」


「先ほど、君に会いたいと言っていたからね」


ゆったりとした軽快な口調の中にある、殺意。


こんな混濁した気配、俺は今までの殺し屋の中でも感じたことがない。


これが一流のプロってやつか。



それでも、俺はひたりと相手を見据えて、尋ねる。


「あなたはわたしに用があるのではありませんか?」


「よくわかってるね」


手を軽く叩いて、ノワールはにこにこと笑いかけてくる。


サングラスをしていて目の表情はわからなくても、その口元だけでもにこにこ笑っているのはわかる。


この場の雰囲気に全くそぐわない、その笑い。


俺はそれに飲みこまれない様に、不敵に笑いながらノワールに話しかけた。


・・・ま、不敵に笑ったところで、仮面のせいで相手には見えてないけど。





「あなたの噂はかねがねお聞きしておりますよ、ノワール」


「これは光栄。わたしも君のことは知ってるよ、怪盗夜叉」


互いに、相手の名を呼んだ途端、抑えていた殺気を放った。


びりびりした空気。


その存在感だけで相手を殺すことができそうなほどの威圧感。


確実に、周りの空気の温度は冷えている。


仮面の下での呼吸が荒くなっていく。


それでも、俺はここから今、逃げるわけにはいかない。


目の前には、確実な<情報>がある。





「“あなたも、<シリーズ>を探しているのですか、ノワール?”」


俺は、わざとフランス語で相手に話しかけた。愛良に聞かれたくないというのもあったけど、相手の国籍を探るためでもある。


「“それは君が知る必要のないことだよ、夜叉。でも、ひとつ教えておいてあげるとすれば、君を殺すように依頼されたってことかな”」


ノワールはくすりと笑いながら同じくフランス語で返してくる。


「“なんなら、他の言語でも喋る?イタリア語?英語?ロシア語?ドイツ語、中国語、広東語、なんでも大抵は話せるけど、君はどうだい?”」


じつは、俺もたいていの言語は苦労しないで話せる。


母さんが言語に達者で、幼いころから週替わりで世界各国の言語で会話をさせられた。おかげで日常会話なら、どの国でも通じる。


・・・それもなんでそんなことさせられたのかは、いまだにわからないけど。





とにかく、俺も向こうも、言語に不自由しないということは、国籍の特定はできない、ということになる。


「“黒髪のフランス人なんて珍しいではありませんか?”」


俺は諦めてフランス語で続けて問いかけた。すると、ノワールは肩を軽く竦める。


「“日本で変装するには黒髪が一番いいんだよ。でも最近はそうでもないね。茶髪も増えてて、むしろ黒髪でいる方が目立つのかな”」


あっさり変装だとぬかしやがる。そして、もう一度俺に銃を向けてにやりと笑った。



「“わたしがノワールだってことは知っているんだね。なぜ、とは聞かない。でも、わたしのことを知っているのなら、当然、知っているね。わたしの仕事の遂行率を”」




・・・・・・知ってる。


ノワールに狙われて生き残ったターゲットなんて、いない。


それは、どこの情報源でも同じことを告げていた。


狙われたら最後、ターゲットの命はもはやないも同然。逃れることはできない。


この一流スナイパーが<黒薔薇>、つまりノワールというコードネームを持つのには理由がある。それは・・・・・・。





「“失礼ですがノワール?わたしはまだ、あなたから<予告>を受けていませんが?”」


「“・・・そういえば、そうだったね。では、今、君に渡そうか?”」


「“・・・・・・いいえ、遠慮しておきますよ”」


そう言い捨てて、俺はダーツの矢を放ち、愛良を抱え走った。


ノワールは正確な銃の腕でダーツの矢を打ち払ったが、<ビール>特性の煙幕兼眠り薬が入った粉末が飛び散った。


・・・これで今夜のノワールは眠ってくれると助かるけど。






あまり期待をしないまま、俺は愛良を抱えてこの場を逃げることにした。


とにかく愛良を安全なところに移動させないと、こっちも落ち着かない。


外へと飛び出しながら、俺は<ブラック>に通信を入れる。


「頼む、<ブラック>。車をBエリアに置いて、ちょっと来てほしいんだ」


『夜叉?どうしたんだ、いったい?Bエリアに車を置いてって・・・・・・』


「来ればわかるから。なんとかDエリアまで行くからそこで」


強引に言うだけ言って、俺は通信を切った。




こういう行動をうつすものは、<ビール>にやってもらうことが多いけど、今夜は仕方ない。


俺たちは作戦の中で、この近辺をA~Eエリアに区分けしていた。


その中で、ここから一番遠いBエリアに車を置いてきてもらって、Dエリアと決めたところに愛良を置いていく。


そこで<ブラック>に愛良を保護してもらうのが一番の良策に思えた。





地上に降り立つと、俺はDエリアに向かって狭い路地を走りだす。


その間にも銃弾が次々と撃ち込まれる。


・・・くそ、やっぱり眠り薬なんてあのスナイパーには無意味か。


それとも、<組織>の連中の仕業か?



せめて銃弾の角度だけでも確認しようと振り向いた途端、俺の頬を銃弾が掠めた。


同時に、怪盗夜叉の仮面が奪われる。


「・・・あ・・・」


愛良の声と、仮面が地面に落ちた軽い音だけが路地に響く。


「・・・大丈夫ですか、お譲さん」


「・・・・・・え、あ、はい・・・」




仮面が落ちてもなんでもないふりをして、俺は平然と愛良に話しかけた。


だけど、心の中ではほっと胸をなでおろしていた。


・・・よかった、暑苦しいけど、アイマスクしてて・・・・・・。




万一のために、ということで、いつも仮面の下にはアイマスクを着用していた。それが必要となった事態に陥ったことはなかったけど、今夜初めて、それが意味を成した。


無論、声色で正体がばれるなんてこともない。


変装の達人、ともいえる里奈から指導を受けて、俺は普段の声色とはまったく違う声色で夜叉を演じている。


だから、俺の肉声を聞いても、愛良は俺が俺だということに気付いた様子もない。


とにかく、こんなところでそんなにのんびりしてもいられない。


その間にもノワールの銃弾だか、<組織>の連中の銃弾だかが、飛び込んできている。





俺は、Dエリアと勝手に呼んでいる廃屋ビルの前までたどり着くと、ワイヤーを伸ばした。


愛良がぎゃぁぎゃぁ喚いているのも構わずにするするといつもの要領で昇って行く。


今更だけど、愛良の反応を見てて、やっぱりこの行為って怖いもんなのか、と認識したりして。





『夜叉、そろそろDエリアに着く』


「・・・了解」


<ブラック>からの報告と同時に、俺は愛良を廃屋ビルの中に隠し入れた。


ここならしばらくは奴らも見つけられないだろう。その間に、俺がもう一度立体駐車場に戻れば、追いかけても来ないはず。


ノワールも、<組織>の連中も、狙っているのは怪盗夜叉なのだから。




ぐずる愛良をその場に残し、俺はもう一度立体駐車場に戻るためにすぐにその場を立ち去った。


通信機越しに、<ブラック>が愛良を見つけるのを聞きながら、俺は戦場に足を踏み入れた。








「酔狂なことだね、怪盗さん。わざわざ殺されに戻ったのかい?」


流暢な日本語で話しかけられる。


振り向けば、ライフルを片手にこちらに向かってくる長身の男が一人。



「まさか。みすみすあなたに殺されようとは思ってませんよ」


俺もノワール同様、口元に笑みを浮かべながら軽快に日本語で答える。


「あなたとふたりでお話をしたかったので、観客には退場していただいただけです」


「ほぉ。わたしとふたりで?それは奇遇だね、わたしも同じ気持ちで、邪魔者には消えてもらったよ」





冷涼な気配を纏って、ノワールが近づいてくる。


邪魔者を消した、ということは<組織>の連中はいないということか。


「ずいぶんとユニークなダーツだったね。あれは君の発明?」


「夜叉の発明ですね」


「ふぅん」


俺の答えに満足したのか、あっさりと頷いてそれ以上は追及してこない。



「あのお譲ちゃんはとてもかわいいね。手元に置いておきたいくらいだ」


「あの子にはあの子の帰る家がありますからね。あなたの思い通りにはなりませんよ」


「へぇ?それで?あなたにも帰る家があるのかな、怪盗夜叉?」


「あなたと同じ、ですよ」




まるで言葉遊びのように、曖昧に答えてやり過ごそうとする。そんなどうでもいい会話を続けている間でさえ、ノワールからのびりびりとした殺気は止まない。


気を緩めれば膝が笑いだしそうだ。



「わたしと同じ?へぇ、そう、わたしと?」


くすくすと、ノワールは笑いだす。


「おもしろいね、夜叉。気に入ったよ」



そう言って、ノワールはなにかを俺に投げつけてきた。咄嗟に構えてそれを避けたが、それは俺の足元にふわりと落ちてきた。




「君に<予告>を与えよう。まずは、始めましての挨拶も兼ねて、ね」


ノワールが最後にもう一度、くすりと笑った。




俺の足元に落ちてきたのは、一輪の薔薇。


夜叉の衣装のごとく、斑のなく真っ黒な薔薇だった――――――――・・・・・・。





ノワールいっぱい登場!!・・・って、すごい紫月は執心してますね、ノワールに(笑)

早く出したいキャラが紫月の中ではもうひとりいます。たぶん、その人物が出るときも大騒ぎします(笑)

いつになるかわからないですけど(笑)

話的には・・・・・・<失われた誕生石>シリーズの核心に少しかすった程度でしょうか?

じつは和馬は運動神経がずば抜けてよろしいのですが、加えて言語も達者なんですね~。ご両親の思惑がうかがえます(笑)

さて、次回でこのノワール初登場編もおしまい。

愛良とのからみも中編で終わっちゃいましたね、そういえば・・・・・(笑)

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