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あたしの恋人  作者: 紫月 飛闇
Season1 始まりと出会い
21/86

7、運命の出会い <Side 和馬>(前編)




今夜の夜叉の作戦会議で集まった仲間たちに、俺はどう切り出すか迷っていた。


とはいえ、いつまでも黙っていれば、それはそれであとで怒られるだろうし。


「なぁ、ちょっと小耳にはさんでおいてほしいもんがあるんだけど」


とりあえず、俺は明るくなんでもないふりをして、そう切り出した。



「は?なんだ、突然?」


「今夜の作戦に関係あることか?」


今夜の逃走経路を確認していた宗次と実が顔を上げで俺を見る。


俺は軽く首を竦めてうなずいた。


「ま、関係あるといえばあるし、ないといえばないかも?」


「なんだよいったい。はっきりしないな」


「いや、なんつぅかさ、ずっと言いそびれてることがあってさ・・・・・・」


「ふぅん?」



実たち3人が改まって俺を見る。


・・・・・・いや、そう凝視されると、どう言ったもんか、迷うけど。



「ほら、前に神戸で<組織>のやつらとやりあったことあったろ?」


「G・Wのか?」


「そう。そこで、俺、やつらに言われたことがあったんだ」



あのときのやりとりから、気付けば1か月が経とうとしているから、本当に今更だけど。


でも、一応伝えておかないと。


俺が調べた限りでは、結構やばいことになりそうだから。




「あいつら、夜叉に<黒薔薇>を捧げるって言ったんだ」



俺のその一言で、俺以上に裏社会の情報に詳しい宗次の顔色が変わった。


たぶん、宗次はきっとすぐに気付いた。


俺が闇サイトをくぐりぬけて知った、<黒薔薇>の本当の意味を。








7、運命の出会い†   <Side 和馬>(前編)







「<黒薔薇>・・・・・・だって?あいつら、そう言ったのか?」


「あぁ」


「なに?宗次、薔薇がどうしたの?」


「薔薇じゃねぇよ!!<黒薔薇>だ!!こいつ、こんな大事なこと黙ってやがって!!」


珍しく里奈にさえ宗次は怒鳴り返す。


宗次の怒りももっともといえばもっとも。でも、俺も色々あって<黒薔薇>のことを調べられたのは最近だ。


・・・それでもすぐに言わなかったのは、やっぱり責められるべきだろうか。





「宗次、<黒薔薇>って何のことだ?」


実が冷静に聞けば、宗次も少しは怒りを鎮め、押し殺したような声でその説明をする。


「闇の連中の中で有名なコードネームだ。もっとも、それは正式なコードネームじゃない。本来のコードネームを日本語に訳されてるだけだ」


「日本語に訳して<黒薔薇>ってこと?じゃぁ、<ブラック・ローズ>とか?」


「ちがう」


里奈の疑問には、俺が答える。宗次がじろりと俺を睨みつけ、実は言葉の続きを待っている。


小さくため息をついてから、俺は言った。


「<ノワール>。それが、裏世界で有名な正式なコードネームだ」


「・・・なるほど。フランス語ってわけか。それで?それは何のコードネームなんだ?裏世界というからには、そういう存在なんだろうけど」


実が少し緊張した面持ちで尋ねる。俺がどう言おうか迷っていると、宗次がむすっとした表情で言った。


「殺し屋だ。それも、世界で一、二を争うほどの一流スナイパー。コードネームはフランス語だけど、性別、国籍、年齢もわかっちゃいない。ヨーロッパを中心にして活躍してるからフランス語でそう言われるようになったんだ」


「スナイパー・・・・・・?なんで、そんなすごい人が夜叉を・・・・・・?」


里奈の声が震えている。まぁ、当然だろうな。俺も最初は思考がぶっとんだし。


それでも、次の瞬間に沸き起こった感情は、興奮だった。




「それだけ<組織>の連中は<失われた誕生石>に固執してるってことだろ?それを集める夜叉を一流スナイパーに依頼して殺そうとするほど」


俺が舌舐めずりしながら言えば、実が呆れたように宙を仰ぎ、宗次がじろりと俺を睨みつけた。


「それで?和馬はどうするんだ?」


「どうするって・・・。このまま<夜叉>として今まで通り<仕事>をするだけだ」


「ノワールに出くわしたらどうする?」


「そうだな、迎え撃ってもいいな。やつがヨーロッパの裏世界に詳しいなら、こっちも聞きたいことはあるし、近づいてもいいかも・・・・・・」


「ふざけんな!!なに考えてるんだよ!!危険に決まってるだろ?!」


いきなり宗次はそう怒鳴り始めると、部屋の扉を開けて外に飛び出す。


これ以上は話に付き合ってられないとばかりに。





感情的に飛びだした宗次を里奈が追いかけ、俺と実も後に続く。


「ちょっと、宗次。今は怒っている場合じゃないでしょ?」


「じゃぁ、和馬の言い分をそのまま通すのか?!里奈も実もそれでいいのかよ?!」


「それは・・・・・・」


里奈が返答に困っているその先で、俺と実は愛良が帰宅したことに気付いた。


あいにく、感情的に怒鳴り続ける宗次はそれに気付いていない。


「これがどれだけ危険なことかわかってるのか?!あれに狙われたら最後、俺らは・・・・・・」


やばい!!愛良に聞かれる!!


「宗次、うしろ!!」


実が咄嗟にそう言ってくれたおかげで、宗次の言葉もそこで止まった。


愛良に続きを聞かれなかったのはよかったが、それだけじゃ怒りがおさまらなかった宗次はそのまま家を飛び出してしまった。


当然、そのフォローで里奈も続く。





俺と実は愛良をうまく誤魔化すと、再び部屋に戻った。


ため息をひとつついたあと、実が俺に静かに問いかけた。


「で?宗次の言っていたことは本当か?その世界屈指の一流スナイパーさんが、夜叉を狙っているって?」


「やつらが言う、<黒薔薇>っていうのがノワールならな。ま、それは、間違いないだろうけど」


くすくす、と笑う俺に、実は怪訝そうな表情を浮かべる。この緊迫した状況で笑う俺の神経がわからない、といった様子だ。


「別に、状況がすべて悪いわけじゃない。もしもノワールに近づくことができれば、<真実>に近づける。ヨーロッパの裏世界の情報は、ほしいだろ?」


俺の思考も、気配も、夜叉のそれに変わっていく。


<組織>のやつらが狙う<失われた誕生石>シリーズ。


それを集めた先になにがあるのか、じつは俺たちは知らない。


でも、やつらがこれだけ大掛かりにして集めようとするなら、それを邪魔してやりたい。


それが、俺がやつらにしてやる、最大の報復だ。


そのためには、情報がほしい。


多くの情報、特に、ヨーロッパの情報が。


なぜなら。



「<失われた誕生石>シリーズとフランスは深いかかわりがあるからな。たしかに、ノワールというスナイパーは、僕たちよりも多くのことを知っているかもしれないな」


実も賛同するように頷いたが、すぐに眉を寄せた。


「でも、僕も宗次同様、それは賛成できない。一流スナイパーということは、今まで以上に命の危険があるということだろ?そんなやつに近づく方がおかしい。とりあえず、今まで以上に危険を回避して逃げていく方法を練る方が先だろう?」


「逃げてばかりいたらいつまでも<真実>に近づけない。夜叉がそんな簡単に殺されるわけないだろ?」


「和馬!!」


にやりと笑う俺に、実が子供を叱りつけるように怒る。


「だめだ。無茶をするのは許さない。<失われた誕生石>については宗次も調べてくれているんだ。あまり危険なことばかりに足を踏み入れるな、和馬」


「・・・だけど・・・・・・」


「焦って命を粗末にするな。宗次のあの怒り方からして、これが尋常じゃない事態だってことくらいわかる。・・・頼むから、まずは逃げることを優先してくれ」




実にそんな風に懇願されて。


たしかに、宗次が怒ったのも無理はないと納得はしてる。


きっと里奈も、今頃心配しているに違いない。


・・・わかってる。


俺一人が焦っても仕方のないことは。


「・・・わかった・・・」


とりあえず、俺はそれだけ言った。そう言うしか、ないしな。






結局怒ったままの宗次と里奈とは連絡がとれないまま、夜叉の予告時間になった。


今回は、自宅から近場ということでだいたい逃走経路も確保できてるし、俺の得意なデパートでの盗みだから、たいした作戦もたててない。


だから、まぁ、<ビール>と<ダージリン>抜きでもなんとかやれることはやれるけど。




「問題は、<リトル・スター>の解読できるのが<ビール>だけなんだよな・・・」


<シリーズ>の解読方法は<ビール>しか知らない。


機嫌を損ねた彼が今夜それをやってくれるかどうかは確証がない。


『ま、一晩寝かせることになっても仕方ないな』


通信機の向こうから車で待機してる<ブラック>のため息混じりの返答。


・・・・・・ごもっとも。


考え込んでも仕方ない。


俺はデパートの照明を消して、夜叉の仕事をこなした。







難なく今夜の獲物、<リトル・スター>という名のダイヤモンドを手に入れ、俺はデパートの隣の立体駐車場に飛び移った。


もちろん、警察の目を欺くために、ダミーが展示場に残ってる。


あの暗闇じゃぁ、あれが人形だと気づくまでに時間がかかるだろう。


そして俺は、駐車場に飛び移って、言い知れない違和感を感じた。


どこからか、視線を感じる。


いつものような殺意とは違う、異質な視線。


<組織>のやつらか?!


それとも、<黒薔薇>か?!


俺はその視線のありかを探ろうと気配を追った。


だけど、それよりも先に予想外の声が聞こえた。ここにいるとは思っていなかった、子供の声。





「怪盗夜叉!!」


叫び声と共に現れた姿に、俺は仮面の下で目を見開いた。


愛良?!なんで、ここにいるんだ?!


「あたし、柳井 愛良って言います!!あの、あたし、夜叉の弟子になりたくて・・・・・・」


愛良がなにかを言っているが、俺はそれどころじゃなく、彼女の腕を引いて車の陰に隠れた。


いつ<組織>のやつらが襲いかかってくるかもわからないのに、いつまでもあんな目立ったところにいられない。




だいたい、なんで愛良がこんなところにいるんだ?!


たしかに今夜は俺たちが暮らす家のすぐそばでの犯行だから、野次馬に来ていたというのならわかる。


それならなぜ、野次馬たちがいる、デパートの下にいないんだ?!




「なぜ、ひとりでこんなこところにいる?!ここは危険なんだ。なぜ、下にいなかった?!」


「だっ・・・・・・って・・・」


「こんな時間に、君のような子供が出歩いていていいはずがない。君はここでなにをしているんだ?!」


思わず、怪盗夜叉としての紳士的な態度を忘れて、俺は愛良を責める。


それでも他人のフリを続けた俺をほめてほしいくらいだ。


「だって、夜叉に会いたかったんだもん!!あたし、夜叉の弟子になりたくて・・・・・・」


愛良のやつ、まだこんなこと言ってる・・・・・・。


でもせっかくの機会だ、きっぱりはっきり断ってやろう。


「わたしは弟子なんかとらない。あきらめなさい」


「やだ」





・・・ほんっとに、愛良は俺の言葉に素直に「はい」と言ったためしがない・・・・・・。



その後もあれこれ言って説得してみるものの、愛良の意志は頑として譲らない。


仕方ないから、俺は話を少し進めてみることになった。


つまり、弟子にはしないが、依頼なら受ける、と言ったのだ。


すると、愛良はそれならばすんなりと受け入れた。とにかく彼女が<エーゲ海のエメラルド>といわれる絵画をどうしても取り戻したいのはわかった。



あれの元の持ち主は愛良の両親じゃない。


なのに、なんで愛良はこうも一生懸命あの絵画を取り戻そうとしているのだろうか。



<エーゲ海のエメラルド>の話をしようとした矢先、いくつかの殺気が俺のまわりを取り巻いた。いつもの<組織>の連中の気配だ。


仕方ないから、俺は愛良を抱きかかえて走って逃げることにする。


飛び交う銃弾。


駐車している車が次々とその的になっていく。


・・・・・・あ~あ、かわいそうに。あれらの車の持ち主。



『夜叉どうした?<リトル・スター>にてこずったか?』


「それは終わったんだけど、どうも待ち伏せされてたみたいだな」



走りながら<ブラック>と通信するが、その会話は愛良には聞こえていない。それでも彼女でもこの異常事態には不審に思ったらしく、


「夜叉って悪いやつらに狙われてるの?!」


とわざわざ心配された。


ま、これくらいの攻防戦はいつものこと。


今日はこの前<ビール>に渡されたダーツの矢もあるから、応戦もできる。問題は愛良を安全な場所に置いておくことだ。


なんとかやつらの視界からはずれた場所を見つけると、俺は愛良をそこに座らせた。


「・・・大丈夫なの?」


「ここなら安全ですよ。わたしが奴らの気を引き付けますから、あなたはその隙に・・・・・・」


逃げてください。


愛良に夜叉としてそう言おうとして、俺は言葉を切った。





・・・・・・なんだ、この気配。


違う、気配とかじゃない。


殺気。


いや、それ以上。


殺気とか、そういうもんじゃない。


気配だけで、相手を殺しかねない、重圧。


そう、息苦しいまでのプレッシャー。


俺はゆっくりと振り向いた。


その異質な、異様な気配を放っている人物はすぐにわかった。




長身の黒づくめの男。


口元には笑みすら浮かんでいる。


そいつが、こちらに悠々とした足取りで向かってくる。




俺は、直感でわかった。


間違いない。間違えようがない。





・・・こいつが<黒薔薇>・・・・・・・・・。


世界屈指のスナイパー、ノワールだ―――――・・・・・・。







そんなわけで、ノワール裏話。

じつは、時間軸としては、すでに6月なんですよね(笑)だって冒頭でG・Wから1カ月経ったって和馬が言ってるし(笑)

前編として切るシーンが愛良編と違うので、うまく組み合わせていくのが楽しくもあり、大変でした(汗)

それでも会話はうまく愛良サイドと対になっていると思われますよ(汗)

さて、次回はノワールも交えて、まだ愛良も一緒です。

なんか7話は、すごくこのシリーズっぽい!!(笑)

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