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あたしの恋人  作者: 紫月 飛闇
Season1 始まりと出会い
20/86

7、運命の出会い <Side 愛良>(後編)








からん、と軽い音が路地に響く。


「・・・や、夜叉・・・?」


恐る恐る、あたしは彼に声をかけた。


まだ、からからと、それは地面で音をたてている。


怪盗夜叉の素顔を隠すための、仮面が。




銃弾によって仮面を剥ぎ取られた彼の頬には、一筋の傷ができあがり、そこから血が流れている。



「・・・大丈夫ですか、お譲さん」


仮面を奪われた夜叉は、先ほどと変わらない口調で、あたしにそう話しかけた。







7、運命の出会い†   <Side 愛良>(後編)








仮面がなくなっても、あたしは夜叉の素顔を見ることができなかった。


だって、夜叉ってば、アイマスクしてるんだもん。


見えるのは口元だけ。


素顔が見れなくて、ほっとしたようながっかりしたような、複雑な気分。


そんなあたしの心情を察してか、彼はくすりと笑った。




「あと少しだけ我慢してください。すぐに家までお送りしますから」


仮面越しではない夜叉の声は、なんだか新鮮だった。


でも、その声に、聞き覚えはなかった。


あたしの知っている人の中では、彼のような声色はいない。


低いような高いような、不思議な声色。


でもなんだか、聞き心地がよかった。


・・・というか。





「夜叉、あたしの家を知ってるの?」


「わたしはなんでも知ってますよ」


くすくすくす、と笑いながら彼は言い、そしてまたふわりとあたしを抱き上げた。




そうなんだよね。


夜叉はくすくすと楽しそうに笑ってるけど、状況は全然楽しくなんかない。


いったいどこにいるんだかわからないけど、銃弾が次々と飛んできているわけで。


それをうまく交わしながら、彼はあたしを抱えて走り続ける。




そして、ある廃ビルの前まで走り抜けると、今度はまたワイヤーを上に向かって彼は放った。


・・・まさかまさかまさかまさかまさか。


「無理無理無理無理無理無理無理!!!」


「無理じゃありませんよ、しっかりつかまっててください」


首を激しく横に振ったあたしを尻目に、夜叉はワイヤーを頼りにするすると宙に浮きあがって行く。もちろん、彼に抱きかかえられているあたしも同様。


どうしてあんなワイヤーだけを頼りにしてこんな宙ぶらりんな状態でいられるの?!




完全に硬直した体は、しっかりと夜叉をつかんだまま離さない。


そんなあたしの様子に、彼はもう一度くすりと笑ってから、廃ビルの中に入った。


そこは埃っぽくて寒くて暗い。


夜叉はあたしをそこに立たせると、すぐに飛び立とうとした。


「夜叉!!」


あたしは咄嗟に彼の黒いマントを掴んでしまった。


だって、まだ別れるわけにはいかない。




「わたしといつまでも一緒にいては危険です。あなたは頃合いを見て、お逃げなさい」


「でも、まだあたしの話を聞いてもらってない・・・・・・!!」


「時期が来れば、いずれ必ず窺いますから」


そう言って夜叉はそっと笑った。


仮面のない夜叉の表情は、たとえアイマスクをしていても、仮面のときよりも表情が見えやすい。


緊迫した今の状況がわからないわけじゃない。


あたしはしぶしぶ、彼のマントを掴んでいた手を離した。


すると、すぐに彼はその場から飛び去り、いなくなってしまう。




ばっと、もう一度身を乗り出して外を見渡したけど、もう、辺りには夜叉の姿はどこにも見えなかった。


「・・・夜叉・・・・・・」


彼と離れて、急にあたしは心細くなってきた。


だって、さっきまで銃で命を狙われていたんだもん。それが今、こうして薄気味悪いほど暗くて埃っぽい場所にひとりでいる。


夜だから真っ暗だし。


幽霊とか信じてないけど、でも、やっぱり、怖い。


「ど、どうしよう・・・・・・」


朝になって明るくなるまでここにいればいいかな?


でももしも、ここに悪い奴らが来ちゃったらどうしよう。


助けを呼ぼうにも、この辺りに人がいるのかもわからない。


あ、助けと言えば。




「携帯、携帯・・・・・・」


上着のポケットに入れっぱなしにしていた携帯をあたしは取り出した。


これでしずちゃんに連絡をとればいいんだ。


携帯をひらけば、そこにはしずちゃんからの着信がたくさんはいってた。


・・・ごめん、しずちゃん。


あたしはすぐにその履歴からしずちゃんの携帯に電話をした。




『もしもし、愛良ちゃん?』


「しずちゃん?!ごめんね、はぐれちゃって・・・・・・」


『今、愛良ちゃんはどこにいるの?ずっとデパートのあたりを探してたのに愛良ちゃん見つからないから・・・・・・』


「じつはあたしね・・・・・・」


言いかけて、あたしははっと言葉につまる。


果たして、あたしは言っていいのかな。


夜叉に会ったって。


彼が命を狙われているのかもしれないのに、そんな風にぺらぺらしゃべってもいいのかな。


『愛良ちゃん?』


急に黙り込んだあたしを心配して、しずちゃんが声をかけてくれる。


「ううん、なんでもない。じつはね、あたし、知らない人の後ろを追いかけてたら、全然知らない場所に辿りついちゃって・・・・・・」





半分本当で半分嘘の言い訳をあたしはした。


知らない人についていったのは本当。まさか、あの人が悪い奴のひとりだとは思いもしなかったけど。


全然知らない場所っていうのも本当。


あ、じゃぁ、あたし、嘘は言ってないじゃん。



『えぇ?!なにそれ。どうするの?!どこにいるの?!』


「それがわからないから困ってるんだよぉ・・・・・・・・・」


あたしも心細くて段々泣きたくなってきた。


すると、さっきまで怖いくらいに静かだったビルの中から、カツンカツンと足音が響いているのが聞こえてきた。


はっとあたしは思わず黙り込む。


『愛良ちゃん?』


「・・・・・・誰か、来る・・・」


緊張で、思わず携帯を持つ手に力がこもる。


どうしよう、さっきの悪い奴らかな。


足音は、確実にこちらに向かってきてる。


どうしよう、どうしよう。


迷っていても、あたしに逃げ場はない。


「・・・やだ・・・・・・」


『どうしたの?愛良ちゃん?』





あたしは電話の向こうのしずちゃんに助けを求める余裕すらなかった。


近づいてくる足音に恐怖しか抱けない。


・・・やだ、お願い、助けて、夜叉――――――――――――・・・・・・・・・!!!






「愛良ちゃん?!」


知ってる声と同時に、懐中電灯の明かりがあたしを照らした。


「・・・え?」


「愛良ちゃんだね?なんでここに・・・・・・?」


「・・・み、実・・・お兄さん・・・?」


実お兄さんが慌ててあたしのもとにかけつけてくれた。


あたしはもう、怖いのと安心したのと、色々な感情がぐちゃぐちゃになって、ただ必死にお兄さんにしがみついた。


「怖かった・・・・・・怖かったよ・・・・・・!!」


「愛良ちゃん・・・。大丈夫、もう、大丈夫だよ」


突然あたしにしがみつかれて驚いたはずなのに、実お兄さんはそのままあたしを安心させうるように、ぽんぽん、とあたしの背中を叩いた。



「愛良ちゃん、これを飲んで。落ち着くから」


実お兄さんが水筒を差し出してくれた。そこから注がれた暖かい飲み物に、あたしは素直に飲み干した。


それによって体が温まって、少し心が落ち着いた。


「ここを出ようね。家まで送るから」




実お兄さんがあたしを抱っこするみたいに抱き上げた。


夜叉とは違う抱き方。


今日は抱きあげられてばっかり。


実お兄さんに抱かれながらゆられていたら、急に眠くなってきた。


おかしいな、安心したからかな。


「もうこんな、危ないことしちゃだめだよ」


実お兄さんの声が、なんだかひどく遠くで聞こえた。









目が覚めたら、すでに部屋は明るくなるほど陽が昇っていた。


・・・あれ?今日って何曜日?


「水曜日じゃん!!学校!!」


あたしは慌てて起き上がって、リビングに向かった。


階段を降りながらふと、あたしは疑問に思う。


・・・いつのまに、この家に戻ってきたんだろう?


そういえば、昨日は実お兄さんに会った気がする。ということは、実お兄さんがここまで送ってくれたのかな。


そもそも、なんで実お兄さんはあそこにいたのかな?


あんな、人気のないビルの中に・・・・・・。







「愛良」


考え込んでいたあたしの背後から、和馬お兄ちゃんがあたしを呼ぶ声が聞こえた。


それがものすっごく不機嫌そうな声で。


「・・・和馬、お兄ちゃん・・・」


誤魔化すように、えへへ、とあたしは笑いながら振り向いたけど、そこには仁王立ちしてこわ~い顔したお兄ちゃんがいた。


「実から聞いたぞ?昨日愛良、どこにいたんだ?夜遅くに出歩いたのか?」


「ち、ちが、あそこにいたのは・・・・・・」


「夜、出歩いたんだな?子供ひとりで」


「ひ、ひとりじゃなくて・・・。最初は、しずちゃんと、しずちゃんのお兄ちゃんと一緒だったもん・・・・・・」


「なんでそんな時間にふらふらと」


「夜叉がこの町に来たから、夜叉に会いに」


そう言うと、お兄ちゃんは一瞬驚愕したように眼を見開いて、その後なにか怒鳴ろうと息を吸ったけど、すぐにそれはため息とともに吐き出された。


「・・・・・・いいか。この家にいたいなら、これだけは守れ。夜にはひとりで出歩くな。いいな?」


「・・・はい・・・」


・・・ってことは、ひとりじゃなかったら出歩いてもいいのかな?


「あと、夜叉のおっかけも禁止」


まるであたしの思考回路を読んだかのようなタイミングでお兄ちゃんが追撃してきた。




「えぇ?!なんでぇ?!」


「なんでもなにもあるか!!子供が夜遅くに出歩くなんて言語道断」


「でも、塾がある日は夜遅いじゃん!!」


「だから俺が迎えに行ってるだろ?俺がだめなら里奈たちが。だから、俺たちが一緒じゃないときは夜に外を出歩くの禁止」


「え~・・・・・・」


「夜の街は危険なんだぞ?!わかってるのか?!」


「そりゃわかってるけど・・・・・・」




昨日、まるで夢のように怖い思いはしたけど。


でもまだ、夜叉に会って話をしてない。



「これは決定事項だ。これを破ったらここを追い出すからな」


びしっとあたしを指さして和馬お兄ちゃんは念押しした。


それで部屋に戻ろうとしたお兄ちゃんは、なにかを思い出したかのように振り返ってあたしに言い加えた。



「あ、それと今日は学校休むって連絡しといたから。ゆっくり休めばいい」




・・・結局、お兄ちゃんは優しいんだなぁ・・・。


あたしは、昨夜のまるで夢のようだった、非現実的な出来事を思い出すかのように、煌々と明るい日差しを呼び込むリビングの窓を眺めていた。






愛良サイドはおしまいです。

意外といつも書くのが苦痛になりがちな愛良サイドですが(え)、今回はすごく楽しかったです♪♪

仮面が剥がれた夜叉だったけど、暑苦しいことに、その下にアイマスクなんぞしてたんですね~!!

てなわけで、まだまだ愛良は夜叉の正体には気づきません。

あんなに怖い思いしたのに、性懲りもなくまだ夜叉を追いかける気満々の愛良には頭が下がります・・・。

それを必死に止める和馬の努力にも合掌。

次回からはその和馬サイドです。また愛良側と会話が対になる部分が出てきます。

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