1、はじめの一歩<Side 和馬>
なにがどうなって、こうなったのかよくわからない。
わかるのは、今日は間違えなく人生最大の<厄日>だってことだけ。
昨日まで仲間と一緒に<仕事>して。
くたくたになってベッドにもぐりこんで寝て。
インターホンの音で目が覚めて、扉を開けたら、見知らぬ親子がそこに立っていた。
1、はじめの一歩♪ <Side 和馬>
「・・・どちらさまでしょうか?」
他に、俺が言うべきことがあるのなら教えてほしい。
目の前にはにこにこ笑顔の夫婦と、それに負けず劣らずにこにことした少女。
しかも、夫婦はでかいスーツケースをそれぞれ持っている。
このいかにも「これから海外旅行に行ってきます」な親子、俺は知らない。
だいたい、なんでこんな夕方に俺の家を訪れてきたのかも意味不明。
「あなたが、瀬戸 和馬さんね?」
母親らしき女性が俺に話しかけてくる。とりあえず、俺は素直にうなずいた。
「えぇ、まぁ・・・」
「まぁまぁ!!素敵な方ね!!さすが私の娘!!」
勝手にはしゃぎながら、女性は娘の頭をなでまわしている。なんで俺が返事しただけでそうなる?
「あの・・・・」
「わたしは柳井 愛良の父です。我儘で気のまわらない娘ですが、わたしたちにとってはかけがいのない宝なのです」
今度は男性がずずい、と俺の前に出てきて、勝手に熱弁してくる。
やない、あいら?
・・・の、父だっていうからには、あの少女が「柳井 愛良」というのか。
全然知らない名前である。
「・・・いったい・・・?」
「じつは私たち夫婦、仕事のためにしばらく海外に移住することになりましたの。ですが、愛良は日本を離れたくないというものですから・・・」
「それでね、和馬兄ちゃんの家でお世話になることにしたの!!よろしくおねがいしま~す!!」
「・・・は?」
母親と少女が一気になにかをまくしたてたが、俺の想像の範疇を超える発言だったため、俺は固まった。
「急に海外移住が決まって、いろいろと準備があったものですから、ご挨拶が遅れてしまってすいませんね。あ、この口座に愛良の必要生活費は振り込みますので」
父と名乗った男性が勝手に俺の手に通帳を握り締めてくる。
いやいやいやいや。ちょっと待て。
「あ、あの!!どなたかと勘違いされていませんか?俺、あなたがたを存じ上げませんが?」
「えぇ、そうですとも。初めてお会いしましたからね」
「でも、いつも娘からお話はうかがっているんですよ」
さらりと父は肯定し、母はうれしそうに付け加える。
俺は目の前が暗くなる気がしたが、ここで現実を放棄してはいけない。
なんとかして現状を把握しなければ。
「いや、でも、俺はこの子を知りませんし・・・」
「あら、御冗談を。愛良はいつも、あなたを『未来の旦那様』として色々と話してくれますよ?」
「へ?」
「娘を一人日本においていくのは不安ですけれど、あなたのようにしっかりとした方と一緒に暮らせるのなら、安心です。定期的にご連絡はいたしますので」
「こんな素敵なおうちに、こんな素敵な方なんて!!がんばってね、愛良ちゃん!!」
「うん!!」
「あ、ではそろそろ我々は飛行機の時間がありますので、これで」
「日本で使っていた家は、来週には引き払うことになってますので、それまでに荷物は運んでくださいね」
俺が一言も発することもできないまま、なぜか話は着々と進んでいき。
もはや、俺はこの意味不明な親子の言葉をひとつも拾えずにいた。
だれか、俺にちゃんと筋道立てて、説明してくれーーーーーー!!!!!!
「・・・和馬お兄ちゃん?」
気づくと、俺は頭を抱えたまま玄関に座り込んでいた。で、なぜか少女だけがそこにいる。
なんで、いるんだ?
しかも、少女はこうも言った。
「ふつつか者ですが、末長くよろしくお願いします」
なんだ、それ?
落ち着いて「愛良」という少女から話を聞いて、多少は話がわかってきた。
たしかに、俺は愛良を助けた。
が、そこまで熱愛されるほどのことじゃない。
ちょっとやんちゃな高校生を追っ払っただけだろ?
なんでこうなる?!
っていうか、なんで俺がストーキングなんてされたんだ?!
・・・しかも。
「あたしの夢は、夜叉の弟子になることなの!!」
耳を疑った。
小6の少女が、未来がいっぱいある少女が、なんだって夜叉の弟子なんぞになりたがる?!
あれは、まぎれもなく犯罪者。そのパフォーマンス故になぜかファンも多いが、犯罪者は犯罪者。
なんでそんなのの弟子になる必要がある?!
「絶対弟子にしてもらうんだもん!!!」
言い張る愛良の様子は、なんだかただのミーハーだけではない気がして。
でも、俺はそれ以上は追及しようとは思わなかった。
・・・というか、もっと他に追及すべきことはある。
「で、おまえの両親はいつまで海外にいるんだ?」
「さぁ?」
「・・・いつ、出発するんだ?」
「今夜」
「今夜ぁぁ?!」
「そうよ。だからさっき、荷物持ってたでしょ?」
そりゃそうだけど。
いや、ちょっと待て。
「おかしいだろ。見ず知らずの男に、愛娘を残していくなんて」
「あら、見ず知らずじゃないわよ。あたしの未来の旦那様だから」
きゃっ、なんて愛良は照れて話してるけど。
そーゆーことじゃ、ない。
「道徳的に、おかしいだろ、おまえの親」
「そうかもね~。お気楽ご気楽夫婦だから」
にっこり満面の笑みで肯定する娘。
もう、俺はどうしていいか、わからない。
でも、あの夫婦の勢いだと、ほんとに今頃空港に向かっていそうだし。
手渡された通帳の額もなんだか相当すごい金額で。
しかもさらに振り込むとか言ってたよな、あの父は。
冗談にしては、えらく手がこみすぎているし。
愛良もふざけた口調だけど、目は真剣だし。
このまま外へ放り出すほうが、おかしいか・・・?
っていうか、なんで俺がそんなこと考えなきゃいけないんだ・・・。
でもとりあえず。この子をなんとかしなきゃいけないから。
「1か月だ。1か月はここに置いておいてやる。だけど、それからはどこか厄介になれる、別の場所を探すんだ。いいな?」
たしかにこの家は俺一人が暮らすにはでかい家だ。
だけど、<秘密>も多い。
その<秘密>に、この少女まで巻き込むわけにはいかない。
だから、さっさと別の場所に引っ越してもらうしかなかった。
・・・どのみち、俺がこの子を引き取る義理はないわけだし。
あれだけ強引に押し掛けてきた割に、俺のその提案にはあっさりと愛良はうなずいた。
仕方ない。
1か月だけは覚悟を決めよう。
俺の<裏稼業>も1カ月だけなら隠せるだろう。
そう、俺のだれにも知られるわけにはいかない、<裏稼業>。
それは、怪盗夜叉の<仕事>だった。
和馬くん、受難の始まり(笑)
愛良の暴走は間違えなく両親譲りです。もう、どうしようもなく、両親は暴走してます。
両親の職業は、いずれ書くときが来ると思います。
両親に押され、愛良に振り回され、和馬くん、初回からぼろぼろです(笑)
それでもなんだかんだ愛良を引き取るあたり、責任感あるんですよね(笑)
でっかい家に一人暮らし・・・。うらやましい・・・。
紫月飛闇(http://sizukistory.web.fc2.com/)