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あたしの恋人  作者: 紫月 飛闇
Season1 始まりと出会い
19/86

7、運命の出会い <Side 愛良>(中編)




目の前には、漆黒のマントをはためかせて外を仰ぎ見ている怪盗の姿がある。



あたしのことは、車の陰に隠れて見えないのか、気付いていないみたい。


あたし自身も、あまりの突然のことに、すぐに理解ができなかった。



目の前の怪盗は、黒いマントを風になびかせながら、なにかを警戒するようにきょろきょろしている。


警察が追いかけてきている気配はない。だって、まだデパートでざわざわやっている声が聞こえるもん。


でも、目の前の黒づくめの男は、仮面越しでもわかるほど、なにかを警戒していた。



あたしは、興奮して震える体をなんとか立ちあがらせて、ひとつ深呼吸をしてから、大きな声で憧れの彼の名を読んだ。


「怪盗夜叉!!!」






7、運命の出会い†    <Side 愛良>(中編)







あたしが夜叉の名前を叫ぶと、彼はまっすぐにあたしの姿をとらえた。


憧れの夜叉が、あたしを見てる!!


「・・・なんで・・・・・・!!」



くぐもった声で、彼がそう尋ねる。


なんであたしみたいな子供がここにいるのかってことかな?


そのわりには、なんだかすごく驚いているような口調だけど。



「あたし、柳井 愛良って言います!!あの、あたし、夜叉の弟子になりたくて・・・・・・」




言葉の途中で、夜叉に腕を掴まれて駐車している車の陰に引きずり込まれてしまう。


それもすごく力強く乱暴に。



「なぜ、ひとりでこんなこところにいる?!ここは危険なんだ。なぜ、下にいなかった?!」


「だっ・・・・・・って・・・」


「こんな時間に、君のような子供が出歩いていていいはずがない。君はここでなにをしているんだ?!」



テレビとは違う、夜叉の口調。


紳士的で丁寧な口調ではなくて、乱暴で責めるような口調。


怒られているんだってあたしもすぐにわかった。



「だって、夜叉に会いたかったんだもん!!あたし、夜叉の弟子になりたくて・・・・・・」


「わたしは弟子なんかとらない。あきらめなさい」


すっぱりと彼はあたしの申し出を断ってくる。考えてもくれなかった。


でも、そんなの覚悟してたもん。




「いやだ!!あたしは夜叉の弟子になりたい!!どうしても、取り返したいものがあるんだもん」


「・・・・・・それはなに?」


「・・・・・・・・・弟子にしてくれないと、言わない」


あたしが頑固に言い返すと、仮面の中で夜叉がため息をついたのが聞こえた。


「これは子供の遊びではないのですよ、お譲さん。危険がいつも隣り合わせ。それにあなたもご存じでしょう?わたしは警察に追われる身。お譲さんまでそのような立場になりたいのですか?」


テレビで見るような紳士的な夜叉の口調。


まるで小さな子供に言い聞かせるみたいに彼は言う。


あたしは、そんなことには騙されないんだから。




「あたしには、夜叉みたいな能力がほしいの。どうしても、取り戻したい」


「それはもしかしたら、わたしが求めるものかもしれませんよ?そうしたら、わたしはあなたにそれをお渡しできないかもしれませんよ?」


「そ、それは・・・・・・」


そういえば考えてもみなかったけど、<エーゲ海のエメラルド>が怪盗夜叉の獲物になっちゃったらどうしよう。


夜叉に勝てるとも思えないし、でも、あれはパパとママの思い出のものだから、やっぱり取り返したいし・・・・・・。



「ち、ちょっと、だけなら貸してあげるけど、でもやっぱり、あれは取り戻したい・・・・・・」


夜叉はいつも盗んだものはそのあと持ち主に返してる。


だから、きっとたぶん、持ち主に返してくれると思うんだけど・・・。




「・・・わかりました。では、あなたの<依頼>ならば受けましょう。弟子をとることはしません。どうですか?」


依頼?夜叉に<エーゲ海のエメラルド>を盗んでくださいって依頼するってこと?


弟子になって自分で取り返すよりは、たしかに確実だとは思うけど・・・・・・。


「・・・いいの?」


遠慮がちに尋ねれば、彼は小さく首を縦に振った。


「仕方ありませんからね。こんな危険な真似ばかりされたら、わたしが困りますし」


首をすくめながら彼はそう言った。なんであたしが危険な目にあうのが、夜叉を困らせるのかな?


「では教えていただけますか、あなたがなにを取り戻したいのか」


夜叉が尋ねてくる。あたしが、それを答えようとする前に、急に彼が人差し指を口にあてて静かにするようにジェスチャーした。


警察でもきたのかと思ったあたしは、慌てて口をつぐんで静かにする。


じっと待機するのかと思われたけど、彼はあたしを抱きかかえるとそのまま走りだした。


「え、え?!」


「巻き込んで申し訳ありませんが、少々我慢してくださいね」


物陰に隠れながら、夜叉はあたしを抱きかかえたまま走る。あたしも彼の首にしっかりと腕をまわして、なにがなんだかわからないまま周りを見渡す。


すると突然、パンっと大きな音が鳴った。さっきまで隠れていた車のタイヤが突然破裂したのだ。


そのまま立て続けに、横並びの車のタイヤやら窓ガラスが破裂したり割れたりする。





この不自然な現象にいくらなんでもあたしだって気付く。


「夜叉、悪い奴らに狙われてるの?!」


警察だったら、きっと警告くらいしてくれるはず。こんな明らかに命を狙う発砲はしないはず。


そう、これは絶対に銃で狙われている。


夜叉が逃げるその経路を追うように、銃弾が追いかけてくる。


「一応、わたしも<悪い奴>なんですけどね」


なのに、夜叉はこんな状況でもくすっと仮面の下で笑ってる。


笑ってる場合ではないんじゃない?!?


あたしは銃で狙われていることにどきどきしながら、しっかりと彼にしがみついていた。


だって、まだ死にたくないもん。





「怖い思いをさせて申し訳ありません。必ずあなたを無事に帰しますからね」


夜叉が安心させるようにあたしの背を撫でてくれる。


・・・あれ、前にもこんな感触、味わった気がする・・・。


だけど、この緊迫した状況でそれを思い出せるほど、あたしも呑気な性格じゃない。





「だ、大丈夫?」


「・・・・・・とりあえず、ここならば」


ふぅっと息を吐いて、夜叉が駐車場の陰で腰を屈めてあたしを床に下ろす。


「どうか、ここでじっとしていてくださいね。<奴ら>をわたしがひきつけますから、その間に・・・・・・」




ぴたり、と彼の言葉が止まる。


あたしはなにが起こったのかわからなかったから、あたりを見渡した。


特になにか変化があるようには見えない。


でも緊張したように体を強張らせる夜叉を見返してから、あたしはもう一度駐車場を見渡し、その視界にある人物をとらえた。




黒髪の長身。


長い髪をひとつに束ねて、サングラスをかけているその人物が、ゆったりとした動作で隠れているあたしたちに向かって歩いてきていた。



あたしは、その人を知っていた。


だから、この危険な状況を教えてあげようと、夜叉の腕をすり抜けて姿を現して声をかけた。




「お兄さん、ここは危ないから、早く逃げて!!!」




あたしが声をかけた長身で長髪のお兄さんは、あたしをここまで案内してくれた、あたしにとっては親切な恩人だった。


怪盗夜叉に会いたいと言ったあたしを、この立体駐車場まで連れてきてくれたから、こうして彼に会うことができた。


お礼を言う前に姿を消してしまったからどこかに行ったのだと思っていたけど、こんなところをふらふらしてたら、またいつ銃で狙われてしまうかわからない。


「お兄さん!!早く逃げて!!」


「そうだね、忠告ありがとう、お譲ちゃん」


口元をにっこりと笑みの形にして、お兄さんはそう言った。


少しハスキーなその声は、彼を若く見させる。


そして彼は、腰に手を当て、その腕をあたしに突き出した。その手に持っているのは、拳銃。



「・・・え・・・?」



なにかを考えるより先に、誰かがあたしの体を引いた。


バンっという大きな音と共に、さっきまであたしがいたところの車の車体が銃撃でへこんでいる。


あたしを抱えて逃げ転んだ夜叉が、すぐに立ちあがってあたしを庇うようにして、長身のお兄さんの前にたちふさがった。





「・・・・・・この子を御存じなのですか?」


「先ほど、君に会いたいと言っていたからね」


夜叉の問いに、ゆったりとした口調でお兄さんが答える。その手には依然、銃が握られたまま。


あたしは全身ががくがくと震えて止まらなかった。





威圧感。


そういうものかもしれない。


息をするのも苦しいくらいだった。


恐怖。


その一言では言い表せないほど。


体中の震えが止まらない。


なのに、目の前であたしを守ってくれているはずの夜叉も怖くて、なんだか近づけない。



まるで、現実じゃないみたいで、でも、怖くて怖くて、泣きそうだった。






「あなたはわたしに用があるのではありませんか?」


「よくわかってるね」


ぴりぴりとした空気の中で、ふたりはゆったりとした口調で会話している。


それが一層、あたしは怖い。


「あなたの噂はかねがねお聞きしておりますよ、ノワール」


「これは光栄。わたしも君のことは知ってるよ、怪盗夜叉」


あたしが聞き取れた会話はここまでで、そのあとふたりは日本語ではない言語でしゃべり始めた。


でも、あたしにはそんなことはどうでもよくて、がくがくと震える体を、恐怖で凍りついた感情をどうすることもできなかった。




すると突然、ふたりの会話が止んだかと思ったら、夜叉があたしを抱きかかえて駆けだした。


しかも、走りざまにダーツの矢を放った。


それはあのお兄さんに撃ち落とされたけど、ぼん、という音と共に煙幕を張る。


その間に、夜叉が駆けだしながら、あたしに言う。


「ちょっとだけ、我慢してください」


「・・・え?」




なにを、と問い返す暇もなかった。


夜叉があたしを抱えたまま、外へ飛び降りたのだ。


急降下する体。遊園地とかの絶叫の乗り物とはわけがちがう。


これは本当に『落下』しているのだ。





あまりの恐怖に声もあげられないでいると、夜叉は慣れた様子で片腕からワイヤーを放つとそれをピンと張った。


すると、急降下する体がふわっと浮き上がり、そのままするすると降下していく。


デパートとは反対側の外側へ出たらしく、ビルとビルの合間らしいそこへ着地すると、息をつく暇もなく、彼はあたしを抱えたまま駆けだした。




「・・・頼む、<ブラック>。車をBエリアに置いて、ちょっと来てほしいんだ」


息を上げることなく走りながら、夜叉がそう言う。仲間に連絡してるのかな?


夜叉ってひとりで活躍しているんじゃなかったんだ!!


「来ればわかるから。なんとかDエリアまで行くから、そこで」




夜叉に抱きかかえられながら、あたしはぼんやりと考える。


夜叉ってもうおじさんみたいな人なのかと思っていたけど、あたしを抱える腕とか、会話したときの声とか、たぶん、もっともっと若い気がする。


すると突然、走る夜叉の横脇に銃弾が飛んできた。


この細いビルの狭間の道で、なんてことするの!!あたったら死んじゃうじゃない!!


・・・まぁ、殺すつもりなんだろうけど。




彼は咄嗟に構えながら振り向いたけど、あたりには誰もいない。


・・・誰もいないのに銃弾が飛んでくるって・・・どういうこと?


そう考えている間にも、足元やら横脇やら、銃弾が次々と飛んでくる。


「・・・くそっ・・・!!」


つぶやいて再び走りだそうとした夜叉の仮面に、銃弾が掠った。


「・・・あ・・・!!」





あたしは、思わず声をあげてしまった。


だって、掠った銃弾は、怪盗夜叉の素顔を隠すその仮面を、剥ぎ取ってしまったのだ。








愛良はやっと会いたかった夜叉に会えましたね。

夜叉に抱えられながら逃げる愛良。

この構図をどうしてもやりたかったので、叶ってうれしいです。

ついでに仮面が剥がれちゃいましたけど、どうするんでしょうね(笑)

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